【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0216話『第三次輸送船団の悪夢』

 

 

 

あたいは悪夢を今見ているんだろうな……。

まるで現実みたいに昔の光景が蘇ってくる……。

島風、長波姉……他にも何隻もの船が蹂躙されていくのを目の当たりにするというとっておきの悪夢。

そしてしばらくの間、あたいはうなされていたけど深夜に目を覚ます。

 

「うぇー……汗でびっしょりだ……」

 

まだ日もさしていない中、あたいはふとカレンダーへと目を向ける。

そこに記されていた今日の日付は、

 

「なぁるほど……どうりでこんな飛び切りの悪夢を見るもんだな」

 

あたいはそう言葉を出さずにはいられなかった。

そう、今日は戦争末期の第三次輸送船団があたいを残して全滅してしまった日だったんだ……。

 

 

 

 

 

 

……今日はなにやら最上さんがわざわざレイテ沖海戦に向けて気合を込めたのかあたいみたいにはちまきとか巻いて決戦仕様の恰好をし出し始めて西村艦隊の面々が賑わっているのをあたいはぼーっと椅子に後ろ向きで座りながら眺めていた。

そんな時にふと島風と長波姉の姿が遠くに見えた。

あたいはなんか今は二人に顔を合わせられる気分じゃなかったから少しの間食堂の脇の方で隠れていた。

そして二人の姿が消えたのを確認して少しの罪悪感と安堵を感じている時に、

 

「なぁにしょぼくれてんのよ、朝霜……?」

「足柄の姉ちゃん……」

 

足柄の姉ちゃんがあたいの頭に手を乗せてニシシと言う感じの笑みを浮かべていた。

あたいは少しの間相談に乗ってもらおうか悩んでいたけど先に足柄の姉ちゃんが言葉を繋いできていた。

 

「さっきまで朝霜ったら島風ちゃんと長波ちゃんの事を見ていたわよね? もしかして今日の事を気にしていたりするの……?」

「やっぱ足柄の姉ちゃんにはお見通しって感じか……」

「まぁね!」

 

どこか自慢げにご機嫌の笑みを浮かべていた足柄の姉ちゃんに毒気を抜かれたのかあたいも少しだけ気分が楽になった。

それで正直に話そうかなと思ったので口を開く。

 

「……今日の深夜さ。悪夢で目を覚ましたんだ……」

「………」

 

さっきまでのお気楽な感じの笑みがスッという感じで無くなって真剣な眼差しになった足柄の姉ちゃんに少しだけ感謝しながらも言葉を続ける。

 

「それがもう大参事でさ。300機以上の艦載機の群れがあたい達に襲い掛かってきてさ。輸送船の奴らは全滅するし、長波姉とかも砲撃を沈むまでやっていたけど最後には腹部に爆弾を受けて轟沈……島風に至っては直撃は免れはしたものの機銃の掃射を受けまくって全身穴だらけになって最後には松原参謀に『カエレ』って言われる始末だよ! まったく困っちゃうもんだよなー」

 

あたしはアハハと笑いを零しながら頭を掻いたんだけどそこで足柄の姉ちゃんがあたいの顔を胸に押し当てながら、

 

「朝霜……無理して笑っちゃダメよ? もう涙目じゃない……?」

「あ、れ……? なんで……」

 

あたいはいつの間にか涙を流していたみたいだ。

うわ……恥ずかしいじゃんか。でも、一度出てしまった涙を止める術をあたいは知らずにただただ涙が次から次へと溢れてきやがる。

 

「くそっ……止まれよ!」

「我慢しちゃダメよ? 過去の事は忘れられないけど吐き出す事くらいはできるんだから……」

「でもっ! これじゃ天下の礼号組のあたいじゃいられないじゃんよ!」

「いいのよ……朝霜が泣き止むまで付き合ってあげるから。それに……隠れているようだけど島風ちゃんに長波ちゃんもそこにいるでしょう? 出てきなさい」

「嘘だろ……?」

 

足柄の姉ちゃんの指摘を受けてそこで島風と長波姉の二人が少し目を腫らしながらも隠れていたところから出てきた。

 

「おうっ……朝霜、ゴメンね……今日はいの一番に会いに行けばよかったのに」

「そだなー……朝霜の胸の内を聞いてアタシ等ももらい泣きしちまったじゃないか……」

「お前ら、い、意地がわりーぞ! 聞いてたんなら最初からいろよ!」

「朝霜だって島風たちから隠れるようにしていたじゃん!」

「そうだぞ。だからお相子だ」

「うー……足柄の姉ちゃん、もしかして最初からこうなる事を見越していたんじゃないよな……?」

「さて、どうかしら……?」

 

不敵な笑みを浮かべる足柄の姉ちゃんに「やっぱり敵わないなぁ……」と改めて思い知らされることになった。

 

「朝霜。姉のあたしから言わせてもらうけど溜め込むのだけはよしてくれな? あたしだってあの時の悲劇は無念に感じるけど、それでも朝霜だけが生き残ってくれたのは艦娘になって後から知った身としては嬉しかったんだ。その後の活躍も聞いて胸が熱くなったのを覚えているもんさ」

「そうだよー。島風ももっともーっと走りたかったけど朝霜が代わりに走ってくれたんだから誇りにしてもいいんだよ?」

「長波姉、島風……」

 

それであたいはまた涙を流してしまう。

こんなのあたいらしくないと思ったけど長波姉と島風の二人があたいに抱きついてきて、

 

「大丈夫だ……もう今は一人じゃないんだから思いを共有していこうぜ?」

「そうだよ……だから前を向いて走っていこうよ朝霜」

「……そうだな。うん、ありがとな二人とも」

「おう!」

「うん!」

 

あたいは二人にお礼を言った後に改めて相談に乗ってくれた足柄の姉ちゃんに向かい合って、

 

「足柄の姉ちゃん、ありがとな。姉ちゃんのおかげでなんか気分が楽になったしこうして長波姉と島風とも話せたから」

「いいのよ。こういうのは大人の特権なんだから!」

「いよ! さすが飢えた狼! 言う事が違うねぇー!」

「長波ちゃん……あなた、アタシの事を馬鹿にしているでしょう?」

「そ、そんなことはないぞ。うん……」

「ホントかしらー……?」

 

足柄の姉ちゃんが長波姉にニヤリと言った感じの笑みを向けて長波姉はそれでたじたじになっているのを見てやっぱり歳の差を思い知った。

 

「朝霜ー? 今何か失礼な事を考えたでしょう……? 正直に話しなさい!」

「ぐぇっ! 後生だから許してくれよ!」

「あははー! 朝霜変な鳴き声を上げたね!」

「島風! お前も助けろよー!」

 

それからあたい達は少しの間悲しみも忘れて笑いあっていた。

そうだな。あたい達はこういうのがお似合いなんだよな。

昔の事も忘れられないけど今は今だからな。

 

 

 




今日は第三次輸送部隊が朝霜を残して全滅した日ですのでこの話を書かせてもらいました。
最上を主役にしたかったんですけど今回はチョイ役ですみませんでした!
どうしてもこれが書きたかったので。
書いていて足柄がとってもいいお姉さんでした。



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