【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0234話『悲しみの海峡夜棲姫』

 

 

 

私は先の戦いで沈んでいく扶桑姉さまに似た深海棲艦を見て、胸が締め付けられる思いになりました。

あれは……けっして扶桑姉さまではないはずなのに罪悪感が襲い掛かってくる。

今日は海峡夜棲姫を倒しに行く日なのに今になって怖気づいてしまっている……。なんて、情けない……。

そんな感じで沈んでいる中で誰かが部屋の扉をノックしてきた。

まだ、出撃前だというのにこんな時間に来る人は誰かしら……?

 

「誰……?」

『僕だよ、山城……』

「時雨……? どうしたの?」

『うん……ちょっと相談事。いいかな?』

「わかったわ……入っていいわよ」

『うん……』

 

そして時雨が私の部屋へと入ってくる。

だけど時雨の表情を見て思わず顔を顰めてしまった。

 

「どうしたの時雨。とても酷い表情をしているわよ……?」

「そうかな……? そう言う山城だって部屋の電気を消しているなんて、やっぱり昨日の戦いが響いているのかい?」

 

カチッと時雨が私の部屋の電気をつける。

今は私もあんまり顔は見られたくないものなんだけれどね。

 

「うん……やっぱり山城の顔もひどいじゃないか。ふふ……お互い様だね」

「なぁに? 愚痴を言いにでも来たわけ……?」

「そんな事はないよ……ただ、昨日に海峡夜棲姫が残した言葉が頭に残っていてどうしても寝れなくってね」

「あぁ……」

 

それで私は昨日の海峡夜棲姫の言葉を思い出す。

 

『マダ……サキニナンテ……ススマセナイ……。コノジゴクデ……コノジゴクノカイキョウガ……アナタタチノイキドマリナノ……ヨオオォッ!』

 

と、言っていたわね、たしか……。

 

「行き止まり、ね……なかなかに皮肉が聞いているじゃない……」

「そうだね……。まさしく僕たちに言っているセリフだね」

「そうね……でも」

「そうだね。僕たちは乗り越えるためにここまでやってきた。だから進まないといけないんだ……スリガオ海峡の先に……」

「その通りよ……だから弱音なんて言っていられないわ」

「ふふ……」

「なによ? 突然笑い出して……?」

「いや、さっきまで落ち込んでいた山城から僕を勇気づける言葉が出てくるのが不思議だなって思ってね」

「相変わらずあんたは生意気ね。少しは戦艦を敬いなさいよ」

 

そう言って時雨の頭を強引に撫で繰り回す。

 

「まったくひどいじゃないか……」

「口が悪い子にはお仕置きよ。でも、ありがとね時雨……」

「うん……?」

「あんたが来てくれたおかげで少しだけ吹っ切れる事が出来たわ。だから今日は頑張って海峡夜棲姫を倒しましょうね」

「そうだね。うん、僕も頑張るよ」

 

それで時雨と一緒に笑みを浮かべあっている時に、

 

『山城……そろそろ出撃の時間よ』

「わかったわ姉さま」

 

部屋の外から姉さまの声が聞こえてきたので返事をした後に、

 

「それじゃ行くわよ……時雨」

「うん。行こうか」

 

私達は気分もいい感じで出撃していった。

 

 

 

 

 

 

それから私達西村艦隊はまたきつい道中の敵を撃退していきながらもついに海峡夜棲姫と再度の戦いを挑むことになった。

 

「トオサナイッ…テ…イッテルノニ……。…………。シニタイ……ノォッ!」

 

そう叫ぶ海峡夜棲姫はやはりもう扶桑姉さまの姿をとっていた片割れがいなくなっていた。

それを少しだけ悲しく思いながらも、

 

「無理やりにでも通させてもらうわよ! 扶桑姉さま、それにみんな……いくわよ!! この旗艦山城に着いてきて!!」

「「「おう!」」」

 

戦闘が開始される。

 

「一式徹甲弾! てぇッ!!」

「僕も続くよ山城! はぁっ!!」

 

海峡夜棲姫の随伴艦を次々と落としていき、ついには海峡夜棲姫へと攻撃を当てられるようになって海峡夜棲姫は被弾して叫ぶ。

 

「クッ……マップタツニナリタイノォ!?」

 

そう言いながらも砲撃をしてくる。

真っ二つね……やっぱり私達の事をよく知っているようね。まるで自分の事のように……。

提督の言った通りにあの子はやはり私の負の側面なのかしらね……?

そんな今は気にしてはいられない事を考えながらもついには昼へと戦闘が移行する。

そして基地航空隊の活躍もあってかどんどんと被弾していく海峡夜棲姫。

被弾するたびに、

 

「ヤメテッテ……オネガイシテルノニィッ!」

 

何度も血を流しながらそう叫ぶ姿はまるで私を見ているようでやはり悲しくなってくる。

扶桑姉さまも失い孤軍奮闘しているように感じる私……それはとても悲しい事。

だけど、あの子とは違って私にはかけがえのない仲間がいる。

 

「みんな! 後少しよ! 踏ん張りなさい!!」

「山城も冷静にね……」

「はい、扶桑姉さま!」

 

昼になったからにはカットインを駆使しないと大打撃を与えられないから必然的に私と扶桑姉さまが攻撃の要になる。

それでも時雨達は諦めずに砲撃をやめないでいる。

 

「夜にくらべれば攻撃力はなくとも……それでも攻撃は通るんだから!」

「そうよ! みんなで乗り越えるのよ!」

「山雲! 一緒に行こう!」

「わかったわ~。いくわよー!」

 

駆逐艦のみんなが頑張っているんだから旗艦の私が頑張らないでどうするのよ。

 

「山城……制空権は僕に任してよ。決めてきて!」

「わかったわ最上。これで……最後よ!! てぇっ!!」

 

私に最後の砲撃が海峡夜棲姫へと吸い込まれていく。そして、

 

「アァァッ!!」

 

とどめをさせたのだろう、海峡夜棲姫は艤装のあちこちから火を吹かせながらもゆっくりと沈み始めていた。

終わったのね……。

そして最後に海峡夜棲姫は安らかな声で、

 

「ソウ……ソウカ……アナタタチハ、ソレデモ……コノサキニ……ススモウトイウノデスネ……。

ナラバ、アナタタチハ……進んで……この先に、待つモノは……」

 

最後の部分の声はどうしても私の声と被るものがあったわね。

やっぱりあの子は私だったのかしら……。

今はもう確認できないけどこれで道は開けたのね。

 

「……………」

 

だけど海峡夜棲姫が沈んだ先ではまたしても違う個体の深海棲艦がニヤリと笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

長い砲身から分かる通りに防空棲姫にも通じるものがある高射装置。

あれがこの海域の最後のボスになるのね……。

私達はもう燃料も弾薬も尽きそうだったために一度撤退するしかなかったけどその深海棲艦は攻撃はしてこなかったために追撃されない事を今は感謝した。

 

 

 




最後に防空埋護姫の登場で今回のお話は終わりです。
次回、最終決戦です。




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