【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0092話『改二に向けて……菊月の不安と悪夢』

 

 

 

 

 

瑞雲浴衣祭りが終わってから一日が経過した。

もう今後の瑞雲企画は当分は未定らしくうちの艦娘達も落ち着きを見せてきていた。

特に日向なんかは国規模で盛大に瑞雲祭りを楽しんだのか少しばかりだが満足そうに笑みを浮かべながらもいつもの決め台詞である

 

『まあ、そうなるな』

 

と、呟いているとかなんとか。

私も私で滅多に着ないであろう浴衣を着て楽しむことができたのでよかったと思っている。

 

《提督。仕事も通常業務に戻りつつあるみたいです》

「そうだな、榛名。これで少し停滞していた駆逐艦強化月間を再開できるな」

《そうですね。……今回の瑞雲浴衣祭りでは残念ながら睦月型の誰かに改二が来るのかは話されませんでしたが、きっと提督なら大丈夫ですよね》

「ああ。なんのために先月から頑張ってきたのかを思い出せばあまり苦ではなかったからな」

 

それで思い出す。

先月に発表された睦月型の改二の情報が出たと同時に改二艦以外は改にした後はほぼ今まで手付かずだった睦月型の子達の錬度上げを本格的に始めたのを。

うちの育成方針は普段はそんなに切り詰めていない。

せいぜい演習と遠征で間に合わせて後は備蓄がほとんどなためだからだ。

だけど深海棲艦が攻めてくるだろう来月に控えて備蓄をするのならまだいいのだけど、本格的にリランカ島で集中的に錬度上げを始めていたのだ。

そして気づいたらいつの間にか今現在錬度上げ中の菊月を除いて睦月型の面々は最低ラインの70まで錬度上げを完了していたのだ。

 

「きっと間に合わせるさ」

《その意気です提督》

 

榛名とそんな話をしながらも執務をしていると扉がノックされる。

誰だろうと思いながらも招き入れるとそこには菊月の姿があった。

 

「司令官……少しいいか?」

「どうした菊月? なにか不安な事でもあったのか……?」

 

どこか不安な表情を浮かべている菊月の表情を見て少し大事になりそうだなと思いながらも冷静に菊月に問いかける。

それに対して菊月は少し口ごもりながらも、

 

「司令官……。私は常日頃から不安に感じることがたまにあるんだ」

「またどうして……?」

「よく夢を見るんだ」

「どんな……?」

「皐月や文月、望月に三日月……私の姉妹たちが次々と轟沈するような、そんな悲しい夢を……」

 

菊月のそんな話を聞いて身構えておいて正解だったなと思う。

もし軽い気持ちで聞いていたらきっとうまく対応できないで菊月を傷つけてしまうかもしれないからだ。

 

「そして……最近で一番夢に出てくるのは……司令官、あなたが私達を庇って轟沈してしまうというものなんだ。

嫌なんだ……そんな夢を見たくないのにすぐに不安に駆られるとそんな悪夢を何度も見てしまう……。

こんな話は睦月達にはさすがに相談できない……それで私は……」

 

菊月がそこまで言ったところで私は彼女の事を抱きしめてあげる。

それで菊月は少し体を震わせたけどそのあとは動きが止まったままだった。

そしてそれを都合がいいと解釈するひどい私がいたけどこの際だから利用させてもらおう。

 

「大丈夫……。菊月が夢で見る事はきっと起こらないよ」

「そうだろうか……」

「ああ。私はもう君達を誰一人だって沈めないって決めているんだ。だからそんなに不安に駆られないでくれ。

確かに君達は過去に轟沈した事があるだろう。

菊月に関してはいまだに本体だった船の残骸は現地に残されたままで思う事はあると思う」

「………」

 

菊月は黙って私の話を聞いていてくれた。

だから精一杯私もその想いに答えないとな。

 

「だから……不安になるなとは言わない。だけどそんな悪夢に負けないくらい強い心をもって挑んでくれ。

君達は決して弱くない。昔の経験だって生きてくる。

後ろばかり見ないで前に進むことも考えて行ってくれ。それが菊月とともに沈んでいった多くの英霊たちへの手向けになるんだから……」

 

そこで菊月の目から涙が一滴零れる。

 

「そう、だったな……。私がこうしてここにいられるのは多くの人々の願いが具現化したからだったな。

私達艦娘はこの国を守るために再び生を受けて今まで戦ってきた。

それが、決してゲームのキャラクターで仮想の存在だったからって関係ない。

私は私だ……『睦月型駆逐艦九番艦 菊月』……それが私だ」

 

どうやら私が全部言い切る前に答えに辿り着いたようだな。

これでもうおそらくだけど菊月は悪夢を見ることは少なくなるだろうな。

 

「司令官……もう大丈夫だ。離してくれ」

「わかった」

 

それで私は抱きしめていたままだった菊月を離す。

そして真正面で菊月は私の顔を覗き込みながらも微小だけど笑みを浮かべて、

 

「司令官。私は、私達はあなたのことを信じている。だからこれからもずっと信じさせてくれ」

「ああ。わかった」

「そして……もしこの戦争が終わって艦娘としての役目を終えて離れ離れになるかもしれない事態になってもいつまでも一緒にいてくれ」

「わかった。大丈夫だよ。今は私も艦娘なんだから消える時は一緒さ。な、榛名?」

《はい。できれば提督にはずっと生きていてもらいたいですけど消える時は一緒に消えたいものです》

 

そう言って榛名も透明の姿のまま菊月の手に触れるように手を添えて、

 

《菊月さん。大丈夫ですよ。きっと提督は私達の事を守ってくれます。信じましょう》

「ああ。わかったよ榛名さん。もう迷わない……まだこれからも何度も悪夢は見るかもしれない。だけどその際は姉妹たちに相談してみる」

「そうか。きっと菊月なら大丈夫さ。私に相談で来たんだからきっと睦月達も相談すれば一緒に悩んで受け入れてくれるさ」

「ああ。きっと……」

 

それで菊月は自身の胸に手を添えて目をつぶって何度も息を吸って吐いてを繰り返した後に、

 

「相談に乗ってくれてありがとう、司令官。これからも私達睦月型をよろしく頼む」

「わかった。それでまだ誰が改二に来るかはわからないけどその時には思う存分活躍させてやるからな」

「うむ。きっと司令官のお役に立つさ……」

 

それで気分もスッキリしたのか菊月はもう一回お礼を言った後に執務室を出ていった。

そんな菊月を見送りながらも、

 

「やっぱり艦娘はそれぞれ大なり小なり不安を抱えているんだな……」

《はい。生き残ってしまった私が言うのもなんですけど沈んだ経験と記憶というものは拭いきれるものではありませんから》

「そうだな。そんな思いを二度と味合わせないように頑張っていくとしようか」

《はい! 期待していますね提督》

 

そんな、改めて覚悟を決めた一日だった。

 

 

 




今ちょうど菊月を育成中でしたのでお題にしてみました。
菊月のカッコカリボイスが今回の役に立ちました。
瑞雲浴衣祭りではなにかしら発表はなかったようですからTwitter情報を頼りに練度上げを続けていきます。



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