卯月は今日もまた自分の仮面を被る、そうして卯月は憂鬱な一日を過ごす。
「やったぁ! でたっぴょん! 卯月でっす! うーちゃんって呼ばれてまっす!」
私の声が誰もいない演習場に響く、今日もまた鏡に向かってかつての私の演技をする、この習慣を始めてからもう半年にもなる。
時の流れというのは早いものだ、最近は特にそう感じることが多い
毎朝の練習をしておかないと、ついつい素の私を出してしまいそうになる。
こんな私を見ればみんなは驚くだろう、それに睦月型のみんなに知られるとこの鎮守府の平穏が危ぶまれる、
そんな気がして誰にもこの私をさらけだすことが出来ないでいる。
私自身の気持ちや趣味嗜好などには変わりないのだが、前の喋り方や振る舞いはこの練習をしておかないと自然にふるまえない。
そんな風な考えを張り巡らせながら時間を過ごしていると、弥生姉さんが起きる時間になってしまった。
早く部屋に戻らないと不審に思われてしまう、急ぎ足で部屋に向かっていると長門さんの姿が見える。
「なっがとさ~ん、おはようぴょん今日もよろしくぴょん!」
「ああ、卯月かおはようお前は今日も元気だな…その手に持っているヘビはなんなんだ?」
「えへへ~弥生に寝起きドッキリするっぴょん」
「今日もいたずらか毎日大変だな、だがな後で辛くなるのは卯月なんだぞ?」
今日の長門さんは注意するだけか、怒らない長門さんはいい長門さんだ。
だがこれは私の本分なのだから誰に何を言われようとやめられない。
「もう慣れっこぴょんそれに弥生は怒らないからへーきだぴょん」
「そういうことを言っているんじゃないんだがな…まあいい私は少し用事があるじゃあな」
長門さんはため息を吐きながら立ち去ろうとする、おっといけない忘れるところだった。
「長門さんは司令官に会いに行くぴょん?」
「…いいや提督がらみではないさ、卯月こそ提督に何か用事なのか?」
…勘違いさせてしまったかな、司令官が絡むと長門さんは少し人が変わってしまうものね。
「ううん大丈夫だぴょん、司令官に会いに行かないんだったらそれでいいぴょん」
「そうかならいいんだ、すまないな卯月にこんなことを聞くなんて私も心配性になったものだ。」
まあ気持ちはわかるんだけどね、私も同じ立場ならそう思うだろうし、失礼な言い方になってしまうけど今の私には司令官は割とどうでもいいのよね。
☆
長門さんと話し込んでしまい部屋に戻るのが遅れた、そのせいで弥生姉さんにどこに行ってたのか問い詰められてしまった。
どうやら司令官の所に行っていたと思われているらしく、怒ってないなんて口ではそういっているけど機嫌が悪いのは明白だ。
食堂まで向かう間一言も口をきいてくれなかったのが何よりの証拠だろう、最近の弥生姉さんは前にもまして司令官が好きすぎる、
全く困ったものだこのままでは面倒だし、私が困る。何とか機嫌を直さなくてはいけない。
「ねえ~弥生ほんとうに司令官に会いにいってたわけじゃないぴょん」
「…別に怒ってないし…卯月が司令官と仲よくしてても弥生には関係ないし…」
「だーかーらー司令官と会ったりしてないってばー、あとで司令官に聞いてみたら分かるっぴょん」
「…卯月が弥生より早起きするなんて、司令官のこと以外では考えられないんだけど…」
「そんな日もあるぴょん、うーちゃんのことを何だと思ってるんだぴょん」
「大切な妹だけど…」
この姉はこんなことを言って恥ずかしくないのだろうか、あまりの不意打ちに私の頬が赤くなる
「えーと、それはありがとうだぴょん、うーちゃんも弥生のことは大事な姉だと思っているぴょん」
ああ私まで何を言っているのだろう、反射的に返してしまった言葉に後悔する。
弥生姉さんまで黙り込んでしまったではないか、ああどうしよう何か話さなくては
「…ふふふそうよね、弥生たちが司令官のことでいがみ合っても仕方ないわ、ごめんね卯月…どうかしていたわ」
「そ、そうぴょん、やっとわかってくれたぴょん」
「…うん、この後司令官に会いに行くんだけど卯月も一緒に来る?」
弥生姉さんがこんなことを言うなんて本当に珍しい、すっかり機嫌は直ったみたいだ。
だけど弥生姉さんと司令官のもとにはいく気にはなれない
「うーちゃんは遠慮しておくぴょん」
そう言って弥生姉さんとは食堂で別れる、今日は朝から長門さんに会うし、弥生姉さんとも変な感じになってしまったこの後もやるべきことはたくさんあるというのにこの調子でやっていけるのだろうか。
☆
「睦月はまだ部屋に閉じこもったままぴょん?」
睦月姉さんと同室の如月姉さんに聞く、3日ほど前から睦月姉さんは部屋から出てこようとしないのだ。
「そうなのよ、睦月ちゃんったらどうしちゃったのかしら、何があったのか聞いても如月ちゃんには分からないとしか言ってくれないし…」
とても悲しそうな顔をしながら如月姉さんは語る、私は原因を知っているが時間がたてば解決すると思っていた。
しかし3日も部屋から出てこないとなると、まずいかもしれない何とかしなくては
「ここはうーちゃんに任せるぴょん!」
「うーん卯月ちゃんに任せて大丈夫かしら…卯月ちゃんを悪く言う訳じゃないけど、
睦月ちゃんとお話しできたのは長門さんぐらいしかいないのよ?本当に大丈夫?」
「だいじょーぶ、うーちゃんが来たって言ってみるぴょん」
「うーん、まあ聞いてみるわね」
そういって如月姉さんは部屋に入っていく、普段の行いからかあまり信用されてはいないようだ。
もうすこしいたずらする機会を減らすべきかななんて考えていると、如月姉さんが戻ってくる随分と早いお帰りだ。
「あのね、睦月ちゃんがすぐに会いたいって、卯月ちゃん何か事情を知ってるの?」
「それは言えないぴょん」
「まあそうよね、そんな簡単に教えてくれることじゃないわよね、それじゃあ睦月ちゃんのこと頼んだわね…」
頼まれましょうとも、このままで放置するわけにもいかないしね。
「睦月元気にしてるぴょん?」
「卯月ちゃん…ごめんね私迷惑かけちゃってるね…」
睦月ねえさんは随分とやつれてしまっている、無理もないか気持ちは痛いほどよくわかる。
「全然問題ないぴょん、むしろ睦月の貴重な姿を見れてラッキーだぴょん」
「あはは…卯月ちゃんは元気だね、私にはそんな元気出そうもないよ」
「長門さんとお話はしたぴょん?」
「うん…私なんだか長門さんのこと誤解してたかも、ずっと勘違いしてたんだね。」
「そういうのは長門さんに直接言ってあげるといいぴょんきっと喜ぶぴょん」
「うん、そうだといいなこれからはもっと長門さんと話せるといいな…」
やっと笑ってくれた、いつも明るい睦月姉さんの落ち込んでいる姿を見ると私の精神衛生上よろしくない、
だけどこれからもっと落ち込ませてしまうことになるだろう、だがいくら気が進まなくても話さなくてはならない。
「まだ心の整理が出来てないかもしれないけど、あの日のことは覚えてるぴょん?睦月の口からなにがあったかききたいぴょん」
「よく覚えてるよ、あの日はねいつも通り司令官に任務を与えられて帰ってきたの、そしたら皆が今日は司令官とどんな話をしたかとか、
一緒にご飯を食べてもらったとかを競い合うようにして話してたんだ。それで私は焦ったんだろうね、司令官に早く会いたくて仕方なくってなってね、
急いで司令官の部屋まで報告をしに行ったの、そして他愛もない話をしたりなんかしてね、このまま帰ったんじゃ今までと何も変わらないって思って
司令官に告白を…」
そのあたりまで話したところで睦月姉さんの顔色がとても悪くなる、無理もないか相当辛いんだろう。
「大丈夫だよ睦月無理に話さなくてもいいぴょん」
「ごめんね卯月ちゃん…私まだ信じられなくて…」
「気持ちはよく分かるから仕方ないぴょん、うーちゃんだって乗り越えられたんだから大丈夫ぴょん」
「そうかな…卯月ちゃんはすごいね…全然変わりなく見えるよ。」
このままじゃまずいかもしれない、仕方ない…睦月姉さんなら大丈夫か
「あのね、睦月姉さん私も結構無理してるんだよ、長門さんだってきっとそう、睦月姉さんだけが弱いわけじゃないの
だから一緒に乗り越えよう?私がついてるから大丈夫だよ。」
私が素の喋り方で話すと、睦月姉さんは一瞬驚いたような顔をする、そして私の方へ来て身体を抱きしめてきた。
「そっか…そうだよね、私は一人じゃないもんね、うん私頑張るよ一緒に乗り越えよう」
二人して抱き合いながら少し泣いてしまった、恥ずかしい、穴があったら入りたいとはこのことを言うのだろう。
「今日はありがとう卯月ちゃん、一人で色々と考えたいこともあるしもう大丈夫だよ。」
「それは良かったぴょん、じゃあうーちゃんは戻るっぴょん」
「うん、それと私と話すときは普通にしゃべってくれると嬉しいな」
そんなことを満面の笑みで言われる、そんな笑顔で言われると断れない、恥ずかしいものは恥ずかしいんだけどな。
「分かったわ、それじゃあね睦月また明日」
顔を合わせないようにして逃げるように部屋を出る、まあなんとかなって良かった、私の精神が少し犠牲になっただけで済むのなら安いものだ。
如月姉さんにも問題は解決したことを伝えて、自分の部屋に戻る、疲れた少しだけ眠ることにしよう。
☆
結局晩御飯の時間まで眠ってしまった、任務もないし別にいいのだが時間を無駄にしてしまった気がして少し憂鬱だ。
弥生姉さんと食堂でご飯だ、司令官と話をしたのだろう、とても上機嫌だ少しいたずらをしてやりたくなる。
弥生姉さんが目を離した隙にカレーに一味を振りかける、ちょっとしたストレス解消だ。
「間宮さんのカレーは今日もおいしいぴょん、ね?弥生?」
「うん…やっぱりカレーが一番ね」
よし何も気づいていない、駆逐艦には甘口のカレーが出されるので一味はとても効くだろう
「やってくれたね…怒ってなんかないよ、怒ってなんか…」
「うーちゃん知らないぴょーん」
ふふふ大成功だこの感覚素晴らしい、やはりいたずらはやめられそうにない。このままでは制裁を受けそうなので、席を立ち逃げる
「逃げてる時点で…自白したようなもの…」
そういいながら追いかけてくる弥生姉さん、ああこんな風に弥生姉さんと遊ぶのもいつぶりだろう
最近は司令官の所に行ってばかりで私には構ってはくれなかったからか、ついついはしゃいでしまう。
テーブルに回りをぐるぐると周り、追いかけまわされると、その時椅子にぶつかってしまう
やってしまった…そう思ったときにはもう遅く、大きな音を立てて椅子は倒れる。
「もう…何やってるの…卯月」
「ごめんだぴょんついはしゃいじゃったぴょん」
椅子を元に戻そうととすると、長門さんがこちらに近づいてく来た。
「何をしているんだ貴様らは、今は食事の時間だぞ静かに食べられんのか」
「やっちゃったぴょんごめんだぴょん」
軽く謝り椅子を元に戻そうとすると、私の頬に熱いものが走る
え?殴られた?長門さんに?
「全く反省していないようだな、事の発端は貴様のいたずらだろう卯月」
「長門さん…いくらなんでも殴るのはよくない…」
弥生姉さんが非難めいた目見ながらで長門さんに抗議してくれる
「せっかくの提督の休みに騒がしくするなと言っているんだ。
こんなつまらないことでも備品が破壊されれば提督は仕事をしなくてはいけないんだ、提督に負担をかけるなと言っている。」
これはまずい長門が司令官のことで怒っている、どうにかしなくては
「きょ、今日は司令官お休みじゃなかったはずぴょん、悪かったのはうーちゃんだけどぶつのはひどいぴょん」
「まだ反省していないようだな、嘘までついて、また痛い目を見ないと分からないか?」
「う、嘘なんかじゃないぴょん、そうだよね弥生?今日司令官は任務で出かけているはずぴょん」
弥生姉さんはさっき確かに司令官は任務で出かけていると言っていた、弥生姉さんは優しいしこちらを擁護してくれるはずだ。
「うん…確かにさっき出かけてくるって言ってたよ…」
「何?しかし提督は先ほどはそんなことは…」
少し頭を抱える長門さん、いけるか?このまま収まってくれればいいんだが
「ああ…そうか…そうだったなすまない卯月、私はまたやってしまったのか…どうも提督のことになると駄目だな…」
何とか収まってくれたか、あのまま怒られ続けたら大変なことになっていた、弥生姉さんが司令官と会っていてくれて助かった。
「こっちこそ悪かったぴょん、けどもう慣れたとはいえ怒るのは勘弁してほしいぴょん」
「…元々の原因は卯月なんだから反省すべき…」
「えーとまあその通りだぴょん、ごめんなさーい」
その後はやたらとこちらの頬の見つめながら心配する長門と一緒に食事をした、
食べ終わると入渠させようとまでしてきたのだから、大げさすぎるこんなことで入渠していたら体がいくらあっても足りなくなってしまう。
☆
「ねえ…卯月、卯月は司令官のこと好きじゃないの?」
後はもう寝るだけだというのに、弥生姉さんがとんでもないことを聞いてきた。
司令官を好きかどうか、そんなのはもちろん好きに決まっている、むしろこの鎮守府で司令官のことを好きじゃない子なんていないだろう。
そこになぜか何て理由は私にはない、ほかの子たちにはあるのかもしれないが私には特にないあえて理由をつけるのなら司令官が司令官だから好きなのだろう。
しかしなんで弥生姉さんは急にこんなことを聞いてきたんだろうか、いやな予感がする。
「ねえ…卯月もう寝ちゃった?」
答えあぐねていると不安そうな声で私に再度問いかけてくる、答えたほうがいいのだろうか、そして答えるにしても何と答えればいいのだろう
駄目だ眠気で頭が働かない、とりあえず放っておくことはできない。
「急にそんなこと聞かれたからびっくりしてたぴょん」
「よかった…まだ起きてたんだ…あのね…今日司令官と話していて思ったの、弥生はやっぱり司令官のことが好きなんだって
それでね…卯月はどうなのかなって…答えはわかるんだけどね…卯月の口から聞きたくて…」
いつになく饒舌になっている、緊張しているのだろうか、ここで嘘はつきたくない素直に思っていることを話すしかないか…
「司令官のことは好きだよ、そんなの当たり前ぴょん」
言ってしまった、しかし事実なのだから仕方がない後はどうとでもなればいい
「やっぱりそうだよね…うん…そしたらライバル…だね」
「だからと言って弥生と喧嘩するなんてことはしたくないぴょん」
「もちろん…弥生だって…そうだよ…提案があるんだ…明日一緒に司令官に告白…しない?」
なんてことを言うのだこのバカ姉は恋愛のこと頭がいっぱいなんじゃないだろうか、そんなことできるはずかがない、それにしたとしても面倒なことにしかならない。
「そんなに急ぐ必要はないはずぴょん」
「そんなこと…ないよ…もたもたしていたら他のだれかにとられちゃうに決まってる…それに弥生は一人でも告白はするつもりだよ…」
どうやら決意は固いらしいこうなったら私も覚悟を決めるしかないらしい、憂鬱だ…明日は必ず面倒なことになると断言できるのだから。
「分かったぴょんそんなに言うならついて行ってあげるぴょん」
「うん…よかった…それじゃあ…おやすみ」
こちらの気も知らずにさっさと寝てしまう弥生姉さん、本当に面倒なことになりそうだ。
明日のことは明日になったら考えよう今日はもう寝るしかない。
☆
眠りにつく数瞬の間、私は司令官のことを考える、あの人が鎮守府に現れなくなってもう半年になる、ここに戻ってくることはないのだろう。
あの人がいない憂鬱な一日をこれから何度繰り返すことになるんだろうか…。