偽伝・機動戦艦ナデシコ T・A(偽)となってしまった男の話   作:蒼猫 ささら

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第十話―――防衛

 時刻はやや戻る。

 

 サツキミドリ2号はレーダーに不審な反応を探知し――正確にはホシノ・ルリのハッキングの仕業によるものだが――警戒態勢へと移行した。

 コロニーの大多数の住民がシェルターへ避難し、少数がレーダー施設や各種ミサイルや砲台などの防衛設備へ残り、もしくは周辺宙域へ非IFS対応の宇宙戦闘機を駆って哨戒に出た。

 また木星蜥蜴が火星へ侵攻し、その2か月後に配属されたエステバリスのテストパイロット達もサツキミドリ2号の周りをグルリと回るように飛び、警戒任務に就いていた。

 

『ヒカルー……なんか見えるかぁ?』

『んーん、何にも……。イズミは? 索敵レンジは一番大きいんだし』

『怪しいものは何も見えないわ。ヒカルの方こそ、そっちのセンサーは周辺の走査を細かく出来るんでしょう?』

『さっきも言ったけど、エステちゃんのセンサには、何も変な物は引っ掛からないよぉ』

 

 エステバリスのパイロット達は愛機と共に空間を駆けながら言葉を交わす。

 その話す内容からも分かるようにパイロット……彼女達は警戒と共にサツキミドリ2号周囲の索敵を行っている。

 だが、その距離はサツキミドリ2号からそう遠く離れてはいない。エネルギー供給の問題から、コロニーより発せられる重力波エネルギーのラインから出るのを避けているのだ。

 最新の重力制御技術とディストーションフィールドを導入・搭載し、それらを駆動させる高出力ジェネレータを持ちながら、僅か全高6mクラスというコンパクトさを持って完成した人型機動兵器……エステバリスであるが、そのコンパクトさを実現する代償として自前の動力源は内蔵されていないのだ。

 一応、バッテリーがある為、全くないとも言えなくはないのだが……とにかく、そういった事情故、外部から供給されるエネルギーラインがこの機体の生命線だった。

 

 無論、そのデメリットを補うメリットもあるからこそ、エステバリスは作られたのだが。

 事実、重力制御技術の後押しを受けた小型・軽量かつ高出力を誇るエステバリスは、木星の無人兵器をも凌駕する優れた機動性・運動性を示し、サセボにおいて素人の乗った陸戦タイプが木星の無人兵器を相手に高い戦果を挙げ。数時間前には連合のデルフィニウムを歯牙に掛けない圧倒的な性能を見せた。

 

『んー? やっぱ見間違いか、誤作動じゃねえのか? こっちに蜥蜴どもが来たって話は聞いた事がねえし?』

 

 三機のエステバリスの内一機。赤い機体のパイロットが懐疑的に言う。その口調には荒々しさがある。女性らしい声に反して非常に男性的だ。

 

『そうかも知れないけど、でもネルガルの戦艦……ナデシコが来てるっていうよ。それに釣られてこっちに蜥蜴が来ていてもおかしくないんじゃない?』

 

 黄色い機体のパイロットは、十代半ばの少女っぽい愛らしい声でやや呑気な口調で言う。

 

『ヒカルの言うとおりね。サセボからナデシコが出航する時に蜥蜴の襲撃があったって聞いているわ。ならナデシコを狙ってここにも来ているかも知れない』

 

 薄い青……水色の機体のパイロットは、大人びた声色と口調で楽観的な見方は危険だと戒めるように告げる。

 彼女達3人は皆、宇宙軍のパイロット養成校からネルガルのスカウトを受けた人間だ。

 年齢は3人とも18歳。名前は前述の会話から上から順にスバル・リョーコ、アマノ・ヒカル、マキ・イズミという。

 

『……そうだな。油断は禁物か。だが……チッ、来るならとっとと来いっての! じれったい! ただコロニーの周りを飛ぶだけじゃ暇でつまらねぇ』

『それフラグだよ、そんなことを言っていたら本当に――』

『――来たみたいね。リョーコのお望みどおりに……』

 

 イズミがそれに逸早く気付いた。コックピットのモニターに映る閃光に。

 

『あれって? 戦闘光!?』

『確か向こうには!』

『ええ……うちの戦闘機が哨戒に出ているわ』

 

 エステバリス3機は動きを止めて、機体頭部……カメラをコロニーから離れた宙域に向ける。

 そこには、無数の光の線が伸びて交差し、時折瞬間的に瞬く光球が見える。その見えた光に遅れて、

 

『ゴルファー隊が木星蜥蜴と接敵! 戦闘に突入した! 敵襲! 敵襲! 各部隊は戦闘態勢に移行しろ! 蜥蜴が攻めてきたぞぉ!』

 

 サツキミドリの管制オペレーターから、緊張と高揚と恐怖が混じった通信が聞こえた。

 

『……ッ、行くぞ! お前――』

 

 ――ら! とリョーコは光を見て言おうとしたが、

 

『ダメよ! 私たちはここから離れられない! エネルギーだけの事じゃない!』

『イズミの言う通りだよ! ここが私たちの持ち場なんだよリョーコ!』

 

 直ぐに残りの2人が諫めた。

 

『まだ敵が他にもいるかも知れないし、敵が多ければ直ぐ此処へ抜けてくる。私達はここから動けない。動けば防衛網に穴が開く』

『……くっ、だがよ! あそこには……!』

『分かってるけど、どうしようもないよぉ』

 

 冷静なイズミの声に悔しげに尚も食い下がるように言う。それにヒカルもまた若干辛そうな声でリョーコを諫めようとする。

 

『……』

 

 一瞬の沈黙が彼女達の間に降りる。リョーコの歯軋りだけが通信回路に聞こえた。

 見える戦闘の光の先には同じエステバリス乗りではないが、サツキミドリの戦闘機パイロット達がいる。

 この八か月間を共にコロニーで過ごした同僚達だ。エステバリスのテストにチェイサーとしてアグレッサーとして付き合ってくれた仲間。

 皆年上の男性だが、エステバリスの開発に置いて苦労と喜びを分かち合った気の合った友人とも言えた。

 その仲間の一部隊が、友人達が戦っている。だが――

 

『ぐぅ……こちらゴルファー隊! 被害甚大! 敵の数が大きい! 食い止めるのも、下がるのも――……くそっ! ここまでかっ! そっちに蜥蜴どもが行くぞぉ! ……スバル! コロニーの守りを頼むぞッ!! ――がぁ……ッ!?』

『ニシカワ! ニシカワ!? おい――』

 

 ノイズの混じった悲鳴と共にその通信は途絶えた。同時に戦闘光も一つの光球を最後に見えなくなった……。

 

『くそぉぉ!! よくもやりやがったなぁ!! 蜥蜴どもぉぉ!!!』

 

 リョーコの強い怒りの籠った叫びが通信回線に響いた。

 

 

 

 ナデシコから見て正反対の方向から、木星の無人兵器は地球でも見られるような物量を以ってサツキミドリ2号へと襲来した。

 エステバリスとそのパイロット達を含む、サツキミドリ2号の防衛部隊はこれに対処して戦闘に入り、ナデシコに急遽援軍を求めた。

 

 

 

 

「サ、サツキミドリ2号より入電! せ、戦闘部隊を30%喪失! 防衛設備15%が損壊! きゅ……救援を急ぐように求めています!」

「くっ! だけど機関の出力はもう最大だ。ユリカっ!」

 

 メグミさんが泣きそうな声で言い。アオイさんが艦長に指示を出すことを求めた。艦長はそれに頷く。

 

「うん! エステバリスを先行させます! 直ちに出撃して下さい!」

「了解! ヤマダ、テンカワ、出撃だ! ただちにサツキミドリ2号の救援に迎え! エネルギーラインは向こうで受け取れる! エネルギー残量は気にせず最速で向かうんだ、いいな!」

 

 艦長の指示にゴートさんが応える。それに―――

 

『了解! 秘密基地を狙う木星人どもを一掃してくるぜ! 任せろ!』

『了解! 最速で救援に向かいます!』

 

 ヤマダさんと、そしてアキトさんが応える。

 

「アキトさん、気を付け――」

「アキト! 頑張って。サツキミドリの人達を助けてあげてね!」

『ああ、行ってくる! サツキミドリの人達を助けてくる……!』

「……」

 

 私の言葉は艦長の大きな声に遮られ、アキトさんはそれに意気込んで応えた。

 ……気付くと私はコンソールに置く手を意味もなく強く押し付けていた。そんな事でIFSのリンクが強まる訳でもないのに……。

 

「重力波カタパルト問題なし、エステバリス発進します。進路オーケーです……」

「エステバリス発進! 目標サツキミドリ2号! 出撃!」

 

 私と艦長の声を受けてエスバリスがカタパルトから射出される。慣性の法則でナデシコの速力を乗せて放り出されるように。

 

「……アキトさん、気を付けて、無理はしないで下さい」

 

 正面のウィンドウに映るエステバリスの背中を見て、私は小さく呟き……祈った。無事を。

 

 

 

 

 戦闘の光は既に見えていた。その光はどんどん大きく、強く見えてくる。距離が縮まっているのだ。

 メグミ嬢の報告では、サツキミドリ2号は戦闘でかなり損害が出ているらしい。

 ……結局、多くの人が亡くなったという事だろうか? それでも原作よりはマシな状況なんだろうが、けどそれでも――

 

「――いや、それは傲慢な考えだ」

 

 過った考えを振り払う。

 そう…多くの人を救えたのだと マシな状況に変えられたのなら満足すべきだろう。神の視点めいた原作知識を持ち、未来の記憶や経験があったとしても、決して万能の神様になれる訳じゃないのだ。

 

「だから手の届く範囲で出来る事をやるしかなんだよな、俺は……ルリちゃんも」

 

 そう思い直してこれからの戦闘に備えて意識を集中させる。ここで少しでも巧くエステを動かし、上手に戦えば、それだけ多くの人の命を救える筈だから。

 

 

 

『よっしゃ! 行くぞアキト!!』

「ああ、バックスは任せてくれ!」

 

 見える戦闘光はもう間近、無数のバッタと戦闘機と、銃撃による火線と弧を描いて飛ぶミサイルなどが見える。

 

『さあ、来やがれ秘密基地を狙う木星人ども! このガイ様がお前らに引導を渡してやるぜッ!! 喰らえ!! ゲキガァンカッターッ!!!』

 

 バッタが有効射程に入り、ガイが空戦フレームの肩部から小型のミサイルを撃ち出す。俺もそれに続く。

 

「ロックオン! 行けぇ!」

 

 IFSを通じてトリガーを入力。噴煙が打ち出される。

 ガイと俺が撃ったミサイルは、まだこちらに気付いていなかったのか、戦闘機群に襲い掛かるバッタの不意を、側面を突くようにして叩き込まれて、無数の火球がバッタを呑み込んだ。

 

『今だ! ゲキガァンビームッ!!』

「当たれっ!」

 

 さらに直撃を逃れた奴も至近で生じた爆炎と衝撃に翻弄され、俺たち新手に仲間が落とされた事でAIの思考ルーチンが乱れたのか、或いは対応(パターン)の切り替えにラグが生じたのか、微かに動きは鈍り、その隙を逃さずに俺とガイは容赦なくライフルの銃撃を向けた。

 それでも回避機動を取ったバッタであったが、

 

「逃がすか!」

 

 背中にある二つの大型可変ノズルと六つのバーニアノズル、脚部のスラスターを駆使し、敵機の機動を追尾して見事に射線に絡め取れた。

 

「よし……行ける! 空戦フレームでも!!」

 

 銃撃に穿たれて、狙い撃つ先から次々と爆散するバッタを見て、思わず喝采の声を上げる。

 

『……ナデシコからの救援か? 助かった。援護感謝する!』

 

 付近のバッタが片付くと、先程襲われていた戦闘機から通信が入った。ウィンドウが浮かんで30半ばぐらいの男性が映る。

 

『おう、おれさ―――』「はい! 機動戦艦ナデシコ所属のパイロット、テンカワアキトです。そちらの求めに応じて来援に駆けつけました!」

 

 咄嗟にガイの通信を遮った。

 ガイの事を知らない人間にはアクが強すぎるからだ。それもあって出撃前、密かにゴートさんから通信回線の優先使用権を渡されていた。

 ちなみにその際、「テンカワがパイロットになってくれて助かった、今更だが礼を言う」などとゴートさんには珍しく確かな感情を感じられる声で言われた。安堵と感謝が混じっていた。

 

「ですが、遅くなってすみません」

『いや、来てくれて助かった。それより他に回ってくれ、此処はもう大丈夫だ』

「……ですが、その機体のダメージでは……!」

『頼む!』

「! ……分かりました!」

 

 ヘルメットを被った頭を大きく下げる男性。強く必死さを感じさせる姿に頷くしかなかった。

 

『さっきも言ったが、大丈夫だ。流石にもう戦えないのは分かっている。俺達はコロニーに帰投するさ』

 

 男性は軽く笑いながら言う。だがその言葉の内容が無茶だと分かる。戻ると言ってもサツキミドリ周辺に見える戦闘光は広範だ。また敵と遭遇する可能性は高い……。

 ……こうして見ると分かる。原作ではデビルエステバリス一機のみで、無人機はそれに取り付いているバッタとコバッタぐらいだったのに……予想以上に多い。

 

 ルリちゃんは、無人兵器の目的はデータやサンプルの奪取だと言っていた。そして原作では、一瞬でサツキミドリが壊滅した事からそれ相応の戦力が投入されたのが分かる。

 つまりは、デビルエステバリス一機分を制御する無人兵器を残して、目的を達した無人兵器群の大部分は早々に引き上げたという事だ。近くに居たナデシコに目もくれずに。

 ただその場合、デビルエステバリス……サンプルとなる0G戦フレームが残ったのは謎となるが……いや、その少数を念を入れた調査の為に残したとも考えられるか。

 

『ともかく、俺達には構わなくていい。蜥蜴どもの殲滅が優先だ。片付けば安全になるんだ。――だから行ってくれ!』

「了解しました。お気をつけて」

『ああ、そちらもな。武運を祈る』

 

 敬礼する戦闘機のパイロット。俺もそれに見様見真似で答礼して、

 

「ガイ、行くぞ!」

『って、俺様の事を無視するんじゃねえよ!』

 

 ガイの抗議の声が聞こえるが、レーダーの反応を見ながらエステを移動させる事を優先した。

 

 

『ゲキガァン! フレアァァ!!』

 

 捉えた敵群にガイがフィールド出力を最大にして突っ込む。原作でもお馴染みのディストーションフィールドによる高速突撃戦法だ。

 バッタよりもずっと出力が大きい事もあって、ガイ機の突貫を受けたバッタは拉げて砕け、ミサイルを腹に抱えているだけに派手に爆発する。

 そして、突っ込んだガイによってバッタの編隊や隊列は乱れ、またはガイに引き付けられ――俺に無防備な姿を晒す。

 

「そこだぁ!!」

 

 その動きが乱れた所を、ガイをターゲットにしようとした隙を狙ってライフルを掃射する。

 既に三度目になるこの戦法。宇宙でのバッタの動きはもうほぼ完全に掴めたと思う。無駄弾を殆ど使う事なく俺はバッタを仕留める。

 

『もう一丁ぉぉ!! ゲキガァン! フレアァァ!! アンドォ!! ビィィーム!!』

 

 ガイが旋回してもう一度バッタの群れに突っ込む。それもライフルを撃ちながら。

 バッタは今度は俺の銃撃に翻弄されていた所を突かれた形となり、ライフル弾とフィールドの突撃を碌に躱せず、火球と化して細かなデブリ片となる。

 

「よし! 此処も片付いたな」

『ああ、この調子でどんどん行くぞ、アキト!』

 

 ここでもサツキミドリの防衛部隊を援護する事となり、お礼の言葉を聞き、最低限の返答をしながら俺とガイはサツキミドリ周辺域を巡る。

 

 そうして遊撃隊として動いて、更に二度ほど似た戦闘を繰り返した頃か?

 

『こちらサツキミドリ管制! 聞こえるかナデシコのエステバリス!』

 

 コロニーから通信が入った。

 

『聞こえているぜ! 見ていたか! おれさ―――』「聞こえています。こちらナデシコ所属のパイロットです。何か……?」

 

 ガイが応えようとするがやはり俺は遮る。悪いとは思うがこの状況で向こうを困惑させる訳にはいかない。

 

『ああ、救援感謝する! お蔭でそちらのエリア一帯はもう大丈夫だ。裏に回ってくれ! やっぱりその方位からの数が多い! こちらのエステバリス隊と合流して対処に当たってくれ!』

「……了解しました!」

 

 要領を得ない言葉があったが了承した。

 確かにエステのレーダーを見るにこの周囲の敵機の反応は少ない。十機もいない。残りはサツキミドリの戦闘機でも対処できるように思えた。

 

「けど、ついでだ! ガイ行くぞ!」

『無視されている上に、アキトに命令されているばかりのような気がするが……まあ、いいだろう!! 秘密基地を守るのが最優先だ!』

 

 不満アリアリな返事をしながらもガイは頷く。

 レーダーにあったバッタの位置を通り掛かりとして、サツキミドリの裏側へと回る。

 

 

 

 

「テンカワさん達は順調に敵を排除しているようです」

「うむ、三度目の実戦だがやるな、テンカワ。……ヤマダもな、蜥蜴相手では初陣だというのによく対処している」

「さっすがアキト! 私の王子様!」

 

 泣きそうな顔だったメグミさんがホッとした顔を見せ。ゴートさんは心底感心した様子で褒めて、……艦長ははしゃぐ。その後ろ隣りでは副長のアオイさんが複雑そうな顔をしていた。

 

「ルリルリ……」

「はい、何ですかミナトさん?」

「大丈夫、もしかして何処か調子が悪いの?」

 

 突然、話しかけられて何故か心配された。……いえ、何となく分かる。多分アオイさんのような複雑で且つ不安そうな顔をしていたのだろう。

 

「大丈夫です」

「そう、何かあまり顔色が良くない気がするけど?」

「本当に大丈夫です。大きな戦闘を見て、多分緊張をしているだけだと思います」

 

 心配ありがとうございます、とも言って私は正面に向き直る。

 実際、アキトさんの事は確かに心配だ。……けど、順調に敵は片付いている。アキトさんの機体にも損傷はない。無事だ。戦い方もまったく危なげは無い。

 ヤマダさんもついていて、リョーコさん達とも合流するようだからきっと大丈夫。

 予想外に大きな戦闘になったけど、傷一つなく帰って来てくれる筈。

 

 私はとにかく無事を祈った。今はそれしかできないのだから。

 

 

 

 

 残ったバッタを片付け、サツキミドリをぐるりと回って裏に出ると、再び多くの戦闘の光を見る事になった。

 確かに敵の数は多く激戦らしい、小惑星を基にしたコロニーの表面には向こうでは見えなかった破壊の痕跡が見える。砲台かミサイル発射台か、それとも何かの施設だったのか無数の残骸がある。

 無論、宙域にも戦闘機の残骸や破片が漂っている。そっちは向こうでも見た。

 

「く……」

 

 一瞬、それに乗っていたであろうパイロットの事を考えそうになり、あっちで目撃したバッタの餌食となった瞬間も脳裏に過る。

 だが、堪える。恐怖と不安を悔しさと怒りへと、戦意へと変える。これ以上、そういった犠牲者を増やさない為に!

 

「ガイ!!」

『ああ、アキト!! これ以上連中に好きにはさせないぜ! 行くぞ!!』

 

 頼れる相棒の名を思わず呼ぶと、それにガイは俺の意思を感じたのか強く応じた。俺もその声にガイの憤りを感じた。多分同じ思いがあるのだろう。

 

『ゲキガァン!! フレアァァ!!!』

 

 ガイが突っ込む。より気合が籠った声で、ライフルを撃ちながらフィールドを展開して。

 俺もまた……!

 

「うぉぉおおお!!」

 

 叫んでガイの後に続く。

 フォワードのガイが敵を翻弄して搔き乱す。そこをバックスの俺が突いて射撃を加えて撃墜ないし敵の乱れを拡大させ、そこをガイが更に突いて射撃と近接攻撃でバッタを落とす。

 

 やる事は変わらない。無人兵器だけにその思考ルーチンは読みやすい。先も思ったが敵の動きは殆ど掴めていた。

 パターン(うごき)さえ読めれば脅威じゃない。

 

 しかし、そんな脅威でもなさそうな無人機にこれまで連合が苦戦しているのは、やはり性能差が大きい為だ。

 ディストーションフィールドという厄介な防御力場もそうだが、それ以上に重力制御装置による圧倒的な機動性・運動性が、現行兵器では対処が困難な戦力差を生じさせている。

 その一方で、連合が戦えているのも無人機の思考ルーチンの解析が進んだお蔭である。レーザー、ビームが主体だった兵装を実体弾に切り替えた影響もある。

 ……ただやはり性能差を覆すまでには至らず、あくまで地球に侵攻を続ける木星兵器を食い止めるのがやっとなのだが。

 

「……だから、その為の新兵器(エステバリス)……か」

 

 木星の無人兵器と同じ……そう、同じ古代火星文明が持つ、高度な重力制御技術を始めとしたオーバーテクノロジーを導入した最新兵器が作られ、求められている。

 

 ――相転移エンジンを持つナデシコと同様に。

 

 ただ、ナデシコとエステバリスの建造や開発が始まった時期を思うに、それらが作られた目的は木星……木連の進攻に備える為や防衛の為ではなく――原作で白鳥 九十九が言っていた言葉…我々が火星に侵攻したのは、あなた方が木星を狙ったからです……が脳裏に過って、

 

「!?」

 

 警報が鳴る。ウィンドウが表示され、八時方向からミサイルが接近してくるのを知らせる。

 タイミング悪く、ガイの奴とは距離が離れていた。援護は期待できない。

 一応上手くやれてはいたが俺達は全く訓練をできていないのだ。こうして連携に穴が開く事は度々あった。

 明らかな練度不足。エステの性能もあって個人プレーで何とか出来ているのも、これに悪い意味で貢献していた。

 

「く!」

 

 旋回よりも前進を選ぶ、宇宙では空戦フレームは小回りが利かないからだ。接近するミサイルを振り切るように、推進炎を吹かして目の前に居るバッタからの銃撃を躱しながら、お返しにライフルで撃破する。進路を確保しつつ加速する。

 その上で脚部に内蔵されたチャフとフレアを撒く。……数秒後、後方で爆発の光を確認。それを確認して――

 

『うおおりゃぁぁーー!!』

 

 その雄たけびに一瞬、ガイかと思った。

 後方へ旋回機動を取り、ミサイルを撃って来たバッタに対峙しようとした直後に赤い機体がその無人機の群れに突っ込んでいた。更に――

 

『いっただきー!!』

『いただきマウス……駄目ね』

 

 黄色い機体と水色の機体が続いて、赤い機体がフィールドアタックで撹乱したバッタへ銃撃を浴びせて火の玉に変える。

 

「君達は……」

 

 覚えのある声、そのカラーリングで分かってはいた。けど、思わずそのエステバリスに尋ねるような口調を向けていた。

 

『へ、人に名前を尋ねるならてめえからだ! ……って何時もなら言う所だが、聞いているぜ、テンカワって言うんだろ。俺の名前はスバルリョーコ』

『私はアマノヒカル』

『マキイズミ』

 

 ウィンドウが次々と開いてヘルメットを被った三人の女の子の顔が浮かぶ。

 

『見ての通り、ナデシコで世話になる予定のエステのパイロットだ』

「……ああ、俺は――」

『細かい挨拶は後だ。今は顔合わせで十分だろ。取り敢えずそれよりやるべき事は――』

 

 三人の内、緑に染めた髪を持った娘…リョーコ嬢は映像越しでも分かる程の鋭い視線で周囲に目を走らせる。

 

『あのクソ蜥蜴どもの掃除だ!!』

 

 険の籠った声だった。怖いぐらいに強い怒りを感じさせるほどの。

 

 

 パイロット三人娘は、彼女達でフォーメーションを組んで動く事になった。これまでの戦闘のように。

 俺とガイが加わっても連携に乱れが生じると考えての事だった。彼女達のその意見に俺は同意した。こちらはただでさえ、個人の技量―――特にガイは―――問題ないが、チームでの練度は圧倒的に不足しているのだ。

 

『アキト、すまねえ。前に出過ぎちまった』

「いや、仕方ない。俺が付いていけない所もあるし……」

 

 ガイが戻って来た。いや、俺が合流したとも言えるのかも知れない。

 銃撃とミサイルを躱し、撃ち落としてバッタに対処しながら話す。

 

『あれがOG戦フレームか。うーん、やっぱ俺は空戦フレームの方が好みだなぁ』

 

 戦いながら余所見とは流石に余裕がある。

 カメラを三人娘が飛び立った方へ向けてガイがぼやくように言う。随分距離がある筈だから映像を拡大して見ているのだろう。

 

「好みで戦えるもんじゃないだろ」

『そこは気合いだ! 気合い! 根性があればなんとかなる!』

 

 ぼやきに答えるとガイはそんな精神論を主張した。お前は旧日本軍か! と一瞬言いたくなった。いや……ゲキガンガーの影響なんだろうが。

 

 ともかく、ガイほどではないが、そんな話が出来る余裕もあるように、見える敵機の数は先程よりも多くなく、レーダーの反応は今も勢いよく減っている。

 五機のエステ……それもそのうち四機はプロスさんのお眼鏡に適う超一流の腕を持つパイロットなのだ。

 これによって形勢が傾いたらしい。もしくは俺達二機が加わって三人娘が動きやすくなったのか? 実質、二部隊という事で間接的な連携が出来ているのかも知れない。

 

 取り敢えず、リョーコ嬢が言った所の蜥蜴の掃除は完了しつつあった。

 

「……何とか無事にナデシコには帰れそう……、だけど……」

 

 戦闘の終わりが見えた為、不意に安堵の感情が浮かんでルリちゃんの顔が何となく頭の中に過った。やっぱりあの子は心配しているだろうかと。

 しかし、同時に、

 

『アキト! 頑張って。サツキミドリの人達を助けてあげてね!』

 

 ユリカ嬢の言葉が過る。

 バッタの残骸に混じって戦闘機の残骸が見えた。余裕がある所為で嫌でも目に付くようになった。

 さっきサツキミドリで見た、破壊の痕跡も思い出す。それでも――

 

「……助けられたんだよ、な」

 

 多くの人を。俺達は……。

 そう思うのに、そんな実感は全く持てなかった。

 

 

 




 シリアス続きです。そろそろギャグもやりたいですけど、もう一話か、二話はシリアスかも知れません。

 リョーコさん達はエステのテストで長くサツキミドリにいたと仮定したので、原作とは異なり、サツキミドリの被害にドライだった態度はしなさそうです。
 また一応、宇宙は危険という事でサツキミドリの防衛戦力はそれなりではないかと考えてそこそこ充実させました。



 リドリー様、三輪車様、244様、誤字報告等ありがとうございます。

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