偽伝・機動戦艦ナデシコ T・A(偽)となってしまった男の話 作:蒼猫ささら
文章の確認を終えたので予定より少し早く投下。
サツキミドリを出て三週間が経過したある日。ナデシコの艦内は強い緊張感に包まれていた。
そう、この日。ルリちゃんが懸念していた木連の威力偵察部隊とぶつかるのである。
そして時間を遡るのだが、凡そ一週間前。
ブリッジクルー並びに戦闘要員他、各部署の責任者がブリーフィングルームへ集まる定例会議にてルリちゃんがその懸念を話題に出した。
遺跡に関する事はさすがに言えないのだがサツキミドリを狙った敵の目的。それを半ば達成できなかった事をまず説明した。
それから――
「――エステバリスについては、サツキミドリにおける戦闘で敵はある程度データを得たと思われますが、本艦……『機動戦艦ナデシコ』のデータは、敵は殆ど得られてません」
「……なるほど、であれば敵は仕掛けてくるな」
元軍人であるゴートさんはルリちゃんの言わんとする事を逸早く察する。
まあ、多分、ユリカ嬢とジュンにフクベ提督もそうだろう……黙ってはいたが。
「はい、改めてナデシコの戦闘データを得ようと威力偵察を図ると思われます」
「ふむ、ではホシノ。敵の規模はどれ程で、それはどのタイミングだと考えている?」
「規模に関してはあくまで威力偵察ですから小規模な戦隊クラス……最小で4、多くてもその倍の8隻くらいかと。仕掛けてくるタイミングは恐らく火星まであと半ばという位置でしょう。その戦闘の結果がどうであろうと、ナデシコが地球へ引き返すのも難しいタイミングで」
「そうだな。難なく無事に切り抜けても考え直す事は勿論、損傷を負い火星行きを諦めるにしても帰還が困難になるからな」
ルリちゃんが答え、ゴートさんと頷くのを二度繰り返す。
「なら、もっと後……火星までより近い位置で狙ってくる事も考えられないか?」
「ううん、それはないよジュンくん。ナデシコとの戦闘データを得ても分析し反映するまでに時間がいるから」
「ああ、そうか。そうだね、データを得てそこから対応シミュレーションを構築するなら出来るだけ時間が欲しい……か。敵にしてみれば」
「なるほどのう。そういう意味では確かに火星まであと半ばというのはボーダーラインとしては、悪くはないな」
連合軍大学の首席・次席コンビのユリカ嬢とジュンが互いに会話を交えると、提督が髭を撫でながら深く頷いた。
「では我々のやるべき事は一つだ。火星航路上で待ち受ける敵を警戒し備えること」
「はい、了解です提督。待ち受ける敵を突破し必ず火星へと辿り着きましょう!」
ユリカ嬢が提督にある種、表明すると敬礼をする。
それに続いてブリーフィングルームにいる全員が敬礼をした。
その後、幾つか状況を想定した対応と作戦の検討に俺達は入った。
◇
ブリッジには今までにない緊張感が漂っています。
サセボから出航する時とも、地球を離脱する時とも、サツキミドリの救援に向かう時とも違う本格的な実戦を前にして息苦しささえ覚える雰囲気がブリッジにあります。
恐らくブリッジだけではないでしょう。どこの部署も似たり寄ったりの空気の筈。
では、それが
前回では連日続いたよく分からないお葬式と艦長のお籠りのせいでまったく検討もシミュレーションも出来なかった。そのために私達は変に楽観的になってしまっていた。
根拠も薄い自信で、ナデシコの力を過信して。
今にして思うと本当、無謀で愚かとしか言いようが無いと思う。
なので、その反省を含めて私はブリーフィングにて連合軍が得ているデータを示し、推定評価を行った。
我が方……ナデシコの戦力と、敵方……無人兵器との。
その結果、ナデシコは敵兵器と比較しても強力な戦艦であると認識した一方、それでも単艦で敵群を圧倒できるものではないとクルー達は理解した。
それに驚かなかったのは、私は勿論、アキトさんとフクベ提督ぐらい。……プロスさんとゴートさんは無表情を貫いて分かりませんでしたが。
そして、それを理解した為にナデシコには前回にはなかった緊張感が生まれた。
これが蛇となるかは……少なくとも私は良い傾向だと思う。
油断して痛い目を見る方が悲惨ですから。
「接敵まであと10万キロ。長距離レーダー並び各種センサーと光学解析の結果、敵数は
「……グラビティブラスト、チャージ開始。距離3万キロを切ったら減速を、敵との相対速度をプラス5から10秒までに。その後再加速、一気に最大まで」
「了解、グラビティブラストのチャージを始め。距離3万キロを切ると同時に減速。相対速度をプラス5から10秒までに。その後、最大戦速」
「はーい、了解よ艦長」
「エステバリス隊に連絡。全機、出撃準備」
「了解、エステバリス全機をカタパルトへ移動」
「はい、聞こえますかエステバリス隊、出撃です。カタパルトへ移動して下さい」
私の報告から始まり、艦長以下のブリッジクルーが応答を始める。
「命令の訂正補足。減速と同時にグラビティブラスト広域放射。直後、エステバリスを全機発進。作戦パターンAの2」
「了解、減速と同時にグラビティブラストを広域で発射! その後に直ぐにエステバリスの発進を! 作戦Aの2とパイロット達へ通達!」
「了解です」
「了解、通達します」
……やはりそれを選びますか艦長。私も同意見です。交戦を最低限に敵中突破。それが一番効率的で無駄がありません。
さて、ではその為のルートの予測・算出を行いますか……。
◇
「お前ら聞いたな。敵中突破だ! 先行し敵の天頂を取って適時迎撃だ! ただし余り戦闘に夢中になり過ぎるなよ。帰還に遅れるとナデシコに置いて行かれるから注意しろ!」
隊長役を担ったスバル嬢が檄を飛ばす。
それに俺達は了解と各々に返す。
「それと新装備の初投入だ。作動に注意しろ、おかしな状態があったら迷わず捨てとけ」
「そこは持ち帰れじゃないの?」
「何言ってんだよ、それに気を取れて命を落とす方が間抜けだ」
「そうね、新装備と言っても予備はあるし、データログはエステのコンピュータが拾うのだし。仮に鹵獲されてもあくまで現行技術からの延長の代物。惜しむ理由はないわね」
「イズミの言う通りだな。ちと勿体ねえが、命を賭ける以上はな」
うーん……と首を傾げるヒカル嬢にスバル嬢が笑い、イズミ嬢がスバル嬢の笑いに同意し、ガイが首肯した。
俺も頷く。
「うん、何より命が大事だもんな。まだ航海は始まったばかりなんだ。余分を気にして早々リタイアなんてゴメンだ」
そう皆に告げた直後、
「出撃だ! エステバリス全機を作戦通りにカタパルトから
「射出まであと30秒です。全機注意を!」
ゴートさんの命令が飛び、メグミ嬢の声がその命令に続く。
カタパルト内で俺はガイの青いカラーリングの機体の直ぐ後ろに付いていた。
もう片方のカタパルトでは、同様に三人娘の機体が連なっている筈だ。
それは地球側において従来のカタパルトではなく、ナデシコの重力波カタパルトの機構があるからこそ出来ること。
既存のものでは1機ずつしか発進できなかったカタパルトであるが、重力制御を利用したナデシコのカタパルトでは、そのレール内部で複数の機体を宙に浮かせて並べ、同時に加速させて射出する事が可能だ。
無論、並べた分、先頭にある機体ほど加速距離が縮まってしまうのだが……そこは今回は問題にならない。
ある意味、時間勝負であり、如何にエステを一機でも遅れずに同時展開出来るかが大事なのだ。
「――いくぞ、
一度深呼吸して自らに激を促す。そして、
――エステバリス隊! 発進!
メグミ嬢のそんな声を聞くと同時にカタパルトの狭い通路が後ろへと急速に流れた。ガイの機体を追い掛けるように――。
◇
距離3万kmを切ると同時にヤンマ2隻にカトンボ6隻で編成された敵小艦隊に向かってグラビティブラストが薙ぎ払われるように撃たれる。
これは撃破を狙ってのものではありません。牽制及び機雷対策と目眩ましです。
敵の遠距離砲撃が撃たれた場合は強力な重力波で反らし、設置の可能性がある機雷を排除し、直後に発進するエステバリスが敵センサーに捕捉されるのを誤魔化すためのもの。
アキトさん達は発進後、全てのエネルギーを切り、ソーラセイル展開して直ぐに慣性航行へ移りますから尚の事に最後の目眩ましは大事になる。
通常であれば、これでは推力がなく最大戦速に入るナデシコにエステバリスは置いて行かれることになりますが、此度はそうはなりません。
地球から火星へと向かい航行・加速していたナデシコのそれまでの推力を乗せて慣性に従って放り出されるのですから。
減速を開始して敵との相対速度に合わせに入っているナデシコは、むしろ逆にアキトさん達エステバリス隊に置いて行かれる事になります。
「作戦の第1段階は上手く行ったな」
ゴートさんが独り言を呟くように言う。
発進したエステバリスを追うような動きが敵に見られないからでしょう。
それに艦長は言葉で答えてはいませんが、チラッと後ろを見ると頷きを返しています。
結果的に先行することになったアキトさん達はレーダー等に捕捉される事なく敵に接近する。
この時代……いえ、百年ほど前からステルス技術が当たり前の物となった戦場。このナデシコもエステバリスもそれは例外ではなく、
質量がある以上は、重力探知に一応掛かりはしますが……範囲、方位ともに捕まえる事は最新のものでもなかなかに困難。他の物体や天体からの
それなら光学のほうがマシにというくらいに。
ただし、重力制御や相転移エンジンを少しでも動かしていれば別ですが。
ともかく、これでアキトさん達は先手と奇襲を打てます。
その為にも、
「グラビティブラスト再チャージします」
「うん、お願いルリちゃん。こちらに目を引くためにもそのまま連続で打ち続けます。ミナトさんもお願いします。メグちゃん、エステバリスを見失わないように注意して」
「はい、了解です」
「了解よ」
「りょ、了解」
私は首肯し、ミナトさんも砲手を兼任することから応じる。メグミさんは少し不安そうですが……小さく、私がフォローしますから、と言って安心させる。
尤も、見失ってアキトさん達をこちらの攻撃に巻き込んでしまっては困りますので私も内心はとても不安で、必死です。
レーダーと他のセンサーは、敵に集中して光学センサーは全力でエステバリスを追う。
……遠ざかるレッドパープルの機体を光学センサーを通してIFSで感じ取る。脳裏に映像としてハッキリ映るその機体に向けて、
必ず戻って来て下さいアキトさん……。
そう祈った。
◇
カタパルトから射出後に一度大きく上昇を掛ける。
ナデシコの大きな船体が後方下に映って小さくなって行く。
白亜の艦が減速を掛けたのだ。放り出された俺達は前へ一気に進む……既に推力は切っている。
遠くへ消えるナデシコを後方モニターで一瞥しメインの動力を落とし、続いてソーラセイルを展開。受ける太陽風で進路に微調整を掛ける。
ナデシコは、その間にもグラビティブラストを打ち続けているが、敵陣に機雷は無いのか前方に火球は生まれず、効果が出ているようには見えない。
敵もディストーションフィールドを持っているし、ヤンマが撃つグラビティブラストと相殺されている事もあり得るだろう。
パッシブセンサーだけでは今ひとつ状況は掴めない。
少し不安を覚える。頼りになるのは光学を始め、そのパッシブセンサーのみ。
まともに動く訳には行かず、フィールドも無く、宇宙の真空と自分の
身を隔てるのは大して厚くもない装甲。
ナデシコが減速を掛けたように今の速度で戦場に出ては、敵の攻撃どころか小さな破片一つ当たるだけで容易に大破し死に至る。
仮にフィールドがあってもそうだろう。その為、宇宙での戦闘では会敵までに一度、相対距離をなるべく合わせるのが必須となるのだが……。
「俺達は、そのセオリーを無視して先行……」
ただリスクを軽減する為に正面への進路は避けている。そのまま敵の天頂方向を取って――……
……――ナデシコから飛び出して一分か、二分か。ピピッと電子音が耳に入った。同時に、
「おめえら出番だ! 行くぞーっ!!」
無線封鎖が解除されてスバル嬢の勢いづいた声が電子音に続いて聴覚に飛び込んでくる。
皆と共に「了解!」とそれに答え、先ずは減速を掛ける。
機体を一度仰向けに動かし、メインスラスターを最大に吹かせて速度を一気に落とす、そしてそこから更に180度後転。
するとモニターには敵郡のマーカーが浮かぶ。まるで上空から見下ろす感じだ。
少しまだ風景は早く流れていたが、重力制御を駆使した制動で直ぐにそのマーカーの動きを完全に正面に固定する。
「アキト!」
「ああ!」
相方の声が聞こえる。敵の……それもヤンマ級のほぼ直上、距離はまだ60km以上と遠く、慌てたように出てきた
「ロックオン! いけぇ!!」
両手両足に装着して抱えたミサイルを打ち出す。
両手には中・大型のミサイルをそれぞれ2と1発ずつ。両足から8発のマイクロミサイルが発射される。
ガイも同様に脚部に搭載している物を全弾16発を発射する。
ミサイルの軌跡が伸び――直後に幾つもの火球が前方に生まれる。
迫るバッタ郡にマイクロミサイルが当たり、中型と大型のミサイルは中型が二発迎撃されるも残りが何とかヤンマに当たってくれた。
フィールドに実体弾は比較的有効とは言え、バッタは何機か砕けるがまだ残り、ヤンマ級は当然のように健在。
だが、
「もらったぜ! 喰らえ特大のゲキガンビィィーム!!」
エステバリス改に乗ったガイが大型レールキャノンを構えてセンサーの解析データからモニターに表示されるフィールドの弱まった部分を狙い撃った。
その間、俺は残りの迫るバッタを迎え撃つ。ライフルから伸びる火線でバッタから放たれるミサイルと本体を撃ち落とす。
俺達の周囲に火球が生じるとほぼ同時により大きな火球が漆黒の宇宙を照らす。
「おいおい……マジでホシノの奴が言った通りかよ。フィールドジェネレーターを狙っただけで落ちやがった。フィールドが落ちるか弱まるなりしたら直ぐにダメ押しするつもりだったんだが……」
右手のレールキャノンをそのままに。左手にライフルを握って俺と同じくバッタの相手を始めたガイが呆れたようにボヤいた。ヤンマという大物を仕留めたというのにその声に喜色は無い。
俺も原作でそれらしい場面は見たが、いざ実際に目にすると正直驚きだ。
「無人艦だからダメコンは軽視の上、モジュール・ブロック構造上の脆さとエネルギー伝達回りも同様に被弾は余り考慮していないって話……予測だったけど」
「で、防御はフィールド任せってか。舐められたもんだぜ木星野郎ども!」
喜色どころか怒りを滲ませるガイ。
俺はそれに何となく苦笑する。原作やルリちゃんの話からもう少し詳しい事情を知っているからだ。
この脆さの原因は、俺が先程言った事もあるのだが、ルリ先生の補習授業……もといあの子の部屋で恒例になっている密談での補足的な説明によると元々戦闘目的の船でないからだとの事。
というのも、木連が使う無人機の殆どは古代の遺跡……木星プラントから造られたものなのだが、それ故に戦争を想定した物ではないのだそう。
『つまり、古代文明人達が扱う移送・輸送の他、救難、採掘など多々ある雑務を行う一般的な船だったのではないか……との話です、木連の人達の研究によれば。……それをブロック構造の利点を活かして改造・艤装を行い軍事兵器へと転用したという訳ですね』
なので耐久性や装甲なども高くなく、防御はガイの言ったように基本フィールド頼りらしい。そして、そこからノウハウと技術の蓄積を行って優人部隊が扱う純木連製の兵器の製造と建造を始めた。
また、この大戦の初期から中期に向けた脆さの欠陥は後期にはある程度は改修され、戦後には完全に解決されたとの事。
これは地球側の技術を鹵獲などに寄って吸収したお陰らしい……というのは表向きで、火星の後継者事件を経てクリムゾンの技術支援と交流の結果であると発覚している。
「ともかく、上手いこと厄介な大型艦は落とせた。ガイ、リョーコちゃん達と合流してもう一隻を――」
「――いや、必要なくなった。あっちも上手いことやったみたいだぜ」
ガイがそう言い終わる寸前、レーダーから大型の動力反応が消えて遠くに大きな火球が見えた。
「さすが三人娘……いや、奇襲の効果か?」
「そうだろうな。いくら脆いからってこんな簡単に行くのはちょっとな……」
俺の言葉に、何時も自信満々な言いようをするガイにしては慎重な意見が出る。
いや、あっさり撃墜できた事で拍子抜けしたせいかも知れない。手応えがないと。
まあ、良い事だと思うのだが、
バッタの相手をしながらそんな事を話していると、
「おう、二人ともそっちも上手くいったようだな」
「楽勝楽勝♪」
「こうも上手くやれると逆に少し不安ね」
三人から連絡が入った。
ちなみに向こうの三人ではイズミ嬢が改型に乗り、レールキャノンを装備している。頭部センサーのレンジが一番あって狙撃技術も一番高いからだ。
一方こっちは言うまでもなくガイの技量の方が上で、頭部センサーは空戦の物を転用しているが光学センサーが結構、機能高めなのだ。
「で、どうする? 残りの敵艦も狙うか?」
「いや、今は不意をつけて優位に立っちゃあいるが数が数だ。無理は避けようぜ。高火力を持つ大型艦は落とせたんだ。あとはバッタを排除しながら牽制してナデシコが来るのを待つのが良いだろ」
「うーん、そうするか。小型艦も思ったより機動性が無さそうだし、火力的にもナデシコを落とせないだろうしな。せいぜい引っ掻き回してやるか!」
ガイとスバル嬢の会話。それに俺は異論はなく「ああ」と、ヒカル嬢は「うんうん」と頷いている。イズミ嬢はシリアスモードで「賛成」と静かに答える。
なのだが、
「アキト、せっかくだからお前の持つ新装備も試そうぜ」
というガイの提案で俺はカトンボに吶喊する事になる……って、オイ!
◇
「エステバリスβ隊、大型艦を撃沈」
私の報告を受けて艦橋に「おおっ」と声が上がる。そして程なくして、
「α隊も続けて大型艦を撃沈」
「……やった」
続けての報告に私の左に座るメグミさんが小さく歓声を上げた。
その声を他のクルーも聞いた訳ではないのでしょうが、艦橋を包んでいた重い緊張が少し和らいだ気がします。
直後、安堵していたメグミさんが声を上げる
「α1から連絡。一方通信です」
『こちらスバル、敵大型艦を二隻とも排除。これ以降は残敵の牽制に務める。何か指示があったら連絡をくれ』
リョーコさんから一方的な通信が入った。
艦長はそれに少し考える素振りを見せて、メグミさんの方へ顔を向ける。
「了解しました、無理はしないよう通達をお願いします」
「はい、了解です艦長」
メグミさんは直ぐに了承しリョーコさんへ通信を飛ばす。続けて私の方に艦長の視線が向く。
「ルリちゃん、ルートの算出は?」
「終わっています。データ送ります」
データを送り、艦長の指揮卓にウィンドウが浮かぶ。艦長は数秒ほどそれに目をやり……一つ大きく頷く。そして副長に目線を送って彼もウィンドウを確認して艦長に首肯する。その首肯に艦長は笑みを浮かべて、
「うん、ミナトさん。これでお願いします」
「………ふむふむ、オーケー行くわよ」
ミナトさんにデータを送って、確認したミナトさんもまた大きく頷いて操舵を取った。
ナデシコはいよいよ戦域に入ります。
とはいえ、恐らく何事もなく行くでしょう。ナデシコのフィールド出力であれば、カトンボのレーザーはもとよりリニア・カノンも余程受け続けない限りはダメージは入らない。機動性も優に上で足を止めなければ狙いを付けさせずに避けられる。
エステバリス隊の活躍も凄まじく……って、アキトさんが吶喊してカトンボを一隻撃沈してます。無理はしない筈では!?
◇
ガイの奴の提案で俺はサツキミドリが崩壊しなかった事から受領された新装備の一つを手にする。
“遊撃”の方で出てた代物だよな、と改めて思いつつバッタの攻撃に対処しながら作動させる。
握った部分……柄の先にある部分が2つに左右に割れて鍔となり――それはシミュレーションで見た通りエネルギー刃を形成する。初めて見た時は「ビームサーベルかよ!?」とガイとヒカル嬢と共に口から思わず零れていた。
ただしこれは某メガ粒子やらプラズマやら荷電粒子やらで刀身を形成するものではない。
それプラスにディストーション・フィールドで刀身を形成する。どちらかというと某ロボット大戦オリジナルに出ているロシュセイバーに近い。
収束させた荷電粒子を
遊撃のは記憶に薄いからハッキリ覚えていないが、海賊を自称していた奴が乗っていた機体に装備されていた筈だ。
それがこっちでも一応開発されてたっぽい。形状はかなり違うが……アレは海賊らしくカトラスを模していた気がする。
こっちはバスターソード的な大剣だ。幅広の4mほどの刀身でエステバリスの全高の半分を超える。
鍔にある補助ジェネレーターでも刀身を形成できるが、そこから更に機体本体のフィールドの上乗せも可能。
「おっしゃー! いけぇアキトー!! ゲキガンソードだ!!! 援護は任せろ!!!」
剣を持った俺にガイが叫ぶ。実にワクワクとした声だ。
お前初めて見たときにビームサーベルって言ってただろ。それにゲキ・ガンガーのは実体剣……いや、深く考えるなノリで言ってるだけだアイツは。
ともかくやってみるか。ガイの援護があるなら多分行ける筈だ。
しかし、ゲキ・ガンガーのノリは俺には少しきつい。なので――後にして思うことだが微妙にガイに感化されていたのかも知れない。
「一意専心……参る!」
周囲でガイの落としたバッタが花火と化す
一瞬、ガイの喜色に満ちた「おお!」という声が聞こえたが気にせずに吶喊! フィールド全開!!
敵艦の後方に回って突き進む。
「チェストォォォォォ!!」
上段に剣を構え、火星宙域での
――フィールドが激突する!!
直後、当然というかフィールド同士が接触し互いに反発するような、押し返し合うような感覚が装甲越しに感じた。或いはIFS通してセンサーの情報が触感として伝わっているのか?
小型と言え、敵は全長150mを越える
――そこだ!
フィールド干渉の限界点……或いは、力場干渉の真芯というべき物を感じ、その勘に任せて上段に構えていた剣を振るった。瞬間、
斬った!――
――フィールドを!
その手応えを感じた。その刹那の間に上段から振り切った剣を、今度は振り上げる!
「うぉぉおおっ! まだだ!!」
敵フィールドを斬って抜けた瞬間に眼前にあった機関部に歪曲場と荷電粒子で形成された刃で深く一度斬ると――同時にスラスター軸をズラしてもう一撃、横薙ぎを振るう。そしてそこから甲板に沿うように飛んで長く斬撃を刻んで行く。
艦体の半ばまで甲板を切り裂いた所で離脱。そして、
「やった!」
背後で大きな爆発が起きたことをセンサーと、真空の中でも走るエネルギーの爆圧で感知して喝采をあげた。
「おお! やったぜアキト!! 新兵器……ゲキガンソードは効果アリだ! 次の出撃には俺も使いたいぜ!」
「ははっ、ガイの援護があったからだよ。バッタに囲まれる中、単機で突撃なんて無謀なんだし」
「違いねえ……で、決め台詞は言わないのか? 我に……ってよ」
「……それは遠慮しとく」
ハイになっているガイに冷静になって返すと「なんだよ、ノリ悪いな」と悪態を吐かれた。
というか、やっぱりその台詞を知ってるのか、と内心でツッコむ。
ヒカル嬢もそうだけど、この世界では200年前の作品が割とオタク界隈では知られてるっぽいんだよぁ。リメイク作品もあるようだし。
こっちの近くに在る一隻のカトンボを牽制し、迫るバッタをガイと連携しながら撃退しつつそんな事を思う。
ルリちゃんもどういう訳か菌糸類が書いた
初めの緊張感は何処に行ったのか? そんな余裕が出来て戦闘を続け、
「ナデシコが来たな」
「おっし、帰還だ。ルートの指示も来たぜ」
一部カメラが望遠で1000km先の白亜の艦を捉え、モニターに映るソレを見ると同時にガイが言い。俺も送られたデータをウィンドウで確認する。
「よし、残りのマイクロミサイルを使う」
「了解だ。ミサイルを撃ったら先に行け、俺の機体の方が足が速いからな」
「ああ、悪いな頼む」
ルートを確認すると互いに短く会話して、俺は宣言通りに後退の撹乱のために脚部に装着されたポッド内にあるミサイルの残りを全部使う。ヤンマに使用した後、残った半分の8発はこの時の為に取っておいたのだ。
直撃は考えず、なるべく広い範囲にバラ撒くように入力して発射!
同時に180度旋回、向かう先にも幾つかバッタが見えたがライフルを撃ちながら牽制しつつ迎撃。一気にスラスターを最大に吹かせる。
ガイも十数秒ほど後に離脱し俺に続いた。
◇
戦域に到着後、ナデシコを歓迎したのは先ずはカトンボから撃たれたミサイル。
「ブラスター照準合わせ、迎撃オート!」
艦長が指示が飛ぶ。
ミナトさんは艦を左へ切り、僅かに傾けてミサイルが来る方向へブラスターの射角に入れる。しかし進路にほぼ変わりはありません。
流石はミナトさんです、一流操舵士。
進行に掛かっていた慣性と重力制御を実に巧みに使います。自動射撃での迎撃を確認すると直ぐ様に艦体の向きを戻します。
カトンボ本体はエステバリスの牽制のお陰で気にする必要はありませんが、
「前方ならび右舷からバッタの接近を確認」
この数だけは多い無人機はそうは行きません。どうしても数の差でこちらへ向かうものが出てしまう。
しかも今のナデシコには直掩機がいません……もっとも
「前方はグラビティブラストで迎撃! 右舷は一番から八番のミサイルで対空迎撃!……あと、ルリちゃんお願い!」
「了解、
「了解、ルリルリ」
「うん、任せてルリちゃん」
艦長の命令で私は甲板上に待機させていた
砲戦を二機、陸戦を四機、重装を一機。これを遠隔操作します。歪曲率の設定を再度確認……大丈夫、フィールド内側からのミサイルと共に火線は通りますね。
起動した無人エステバリスが甲板の上を走る。
足裏全体にローラーを含めて特殊な電位操作でファンデルワールス力を強く生み、甲板をしっかり踏みしめて移動する。
ナデシコのミサイルを掻い潜り、ブラスターで迎撃しきれなかったバッタのミサイルがフィールドで阻まれて火球と成る。
大丈夫、フィールドの出力低下は許容範囲です。
バッタのミサイルは牽制に過ぎない。問題はその後……来ます!
「撃つ!」
思わず口から溢れる。
ミサイルでフィールドを削ったと見た敵無人機が突撃を仕掛け、自らのフィールドでナデシコへダメージを与えんと体当たりをして来た。
しかし、こちらの無人エステバリスがそれを阻む。
甲板上に立ち、腕部に装着するガトリング砲と脚部肩部に装着するミサイルランチャーで。
敵機の機動と軌道は、連合軍が蓄積したパターン解析とサツキミドリでの戦闘データ、そして私とオモイカネの演算で予測。
それをアキトさん達の経験を“移植”した無人エステバリス隊へ送って対処させる。直ぐ様に幾つものバッタはナデシコのフィールドに接する事もなく爆散して宇宙の塵となった。
「上手く行っているようですな」
「うむ、十分使えるな無人エステバリス部隊」
予測データを受け取ったこちらの
「流石はルリさん、こうも短期間で制御プログラムとシステムを組み立てるとは……」
「お陰でナデシコの弱点である近接防御を補えた。ありがたい事だ。サツキミドリで受領できたレールキャノンも扱えば、長距離の砲撃能力も得られそうだ」
嬉しそうに語るお二人。
まあ、改造したエステバリス同様にこれも未来の先取りですが。
戦後、木連との戦争……または彼等の交流で得た高度な無人機制御技術は、エステバリスやステルンクーゲルなどの有人機にも応用されて導入が行われました。
そのプログラムとシステムを
勿論、ある程度調整は要りますが、現行のエステバリスのコンピューターでも組み込むのがそれほど難題で無かったので、ゴートさんの言うように近接防御に弱点の解決と、ナデシコの戦力強化の為に遠慮なく使わせて貰いました。
ズルですが、特許も頂くつもりです。
俗な話になりますが、アキトさんと私の将来のためにもお金は幾らあっても困りませんから。
これは戦争ですからエレガントではない、なんて事も言わせません。
「迎撃は大丈夫みたいだね。なら進路そのまま、エステバリス隊へ帰還命令を。敵無人機の迎撃はこちらの無人エステバリスに一任。残る敵艦は機動力で振り切ってしまいましょう」
艦長も無人エステバリス隊の活躍に満足したように頷き。アキトさん達に帰るように指示を出し、このまま離脱を図ります。
アオイさんがその命令を復唱し、メグミさんが各エステバリスに帰還指示とルートのデータを送る。
……フィールドを解除するタイミングに注意しないと。
徐々に接近するアキトさん達をレーダーで確認して気を引き締める。
前方から着艦するエステバリスを間違ってもナデシコのフィールドに激突させてしまわないように。
あとガイドビーコンも出さないようにしませんと、まだ一応戦闘中で敵もいるのですから。
こうしてナデシコはある種、本当の意味での初陣を無事に切り抜けた。
ただ今回の戦闘で減速を掛けた事によって、火星への到着は前回よりも遅れるでしょう。
10日ほどの誤差……これくらいは問題は無いと思いますが、それでも少し気掛かり。大丈夫だとは思いますが……。
「いえ、気にし過ぎですね」
「何か言ったルリルリ?」
「あ、何でもありません」
「そう? アキトくんの事でも考えていたんじゃないの?」
「ち、違います」
ミナトさんにからかわれる。
頬が熱くなった事も「赤くなっちゃって」と言われてクスクス笑われる。
うぅ……とはいえ、ミナトさんの言うように無事帰還したアキトさんが気になるのも確かです。
まだ戦闘待機中の為に会いには行けません。
デブリーフィングで向こうからブリッジを訪れるのを待つしかないです。
いえ、ともかく――
「――無事で戻られて何よりです、アキトさん」
そう、心の底から安堵した。
戦闘回は書くのがやっぱり大変。楽しい部分もあるのですが上手く書けているのか不安も大きくあります。
そしてその中身ですが、序盤なので警戒していた割にはあっさりと楽に勝っています。
捕捉としては。
ステルス技術については原作でもそれらしい描写があり、原作19話のルリちゃんが歌った回での有人のミサイルがリョーコさんが発見されるまで気付かれなかった事。続けて20話でのボソン砲が出た回での一連の戦闘シーン。
あとナデシコの企画段階での資料にもステルス技術が当たり前となり……と。本文に似た説明が書かれていたので本作でも採用しています。
レールキャノンについては、原作未登場で設定資料にある物を持って来ています。
ただサブジェネレータを廃してエステの全長を超えるデカブツだった物をエステ改型のジェネレータで補って小型化を試みてます……例によってルリちゃんが図面を引き直していたり。
DFサーベルは、本文の通り漫画版の遊撃にあった物をこちらで勝手に設定を加えて出しました。本来は対艦で使う物ではありませんが、何故かアキト機が敵艦に吶喊……。
実際は将来的にエステと同クラスの敵が出てきた場合の近接を想定した実験的な武器としています。
その他、ミサイルランチャー等は人型なのでガンダム的に様々な兵装があるだろうと思って持たせました。
DC版ゲームにも似たような武器が出ていますので。
今回の作戦は基本三つあり、Aは敵中突破。Bは相対しての敵殲滅ないし状況を見ての突破。最後にCは後退しての撤退。
Cに関してはネルガル的には無しなのですが、何があるか分からないのが戦争であり、戦闘なので案として一応視野に入れている感じです。
数字については1は通常出撃、2は本文にあるように奇襲、3はナデシコの直掩に付いてのエステバリス隊の運用指示になってます。
最後にルリちゃんが菌糸類作品を好んでいるのは、これと言って深い意味はありません。未来においてヒカルさんの影響が少しあったとだけ……。
以上です。
あとがきが長くなりましたが、本文ともに楽しんで読んで頂けたら何よりです。
次回の更新は間が空くと思います。少しやりたい事が別にありますので。
長くお待たしていながら申し訳ありませんが
それでも今月中にはあと一回は更新出来ると思います。上手く執筆出来れば二回……。