偽伝・機動戦艦ナデシコ T・A(偽)となってしまった男の話 作:蒼猫ささら
また今日は時間をズラしてまだ何話か投稿します。
本日はお祭りです。
以前、反乱騒ぎの切っ掛けとなったレクリエーション企画。
10日程前にこれが改めて許可され、準備に入り。本日、満を持して開催されました。
『ナデシコ祭、無事に開催となりました。皆さん今日一日、普段の仕事を忘れて思いっきり楽しんで下さい!』
開幕を告げる艦長の放送。
短いスピーチもせずにほんの一、二言でサクッと終わらせるのが実に艦長らしいです。クルー達が持ち通しくしているのを考えての事もあるのでしょうが。
放送が終わった後、船全体でワッと歓声が上がったのが何となく感じられます……このブリッジには歓声は上がってませんが。
というのもブリッジには、今は私一人だけ。
何時ものようにオペレーターシートに座っていて、自動航行システムの確認をしているから。
「ふう……」
短く溜息を零す。
せっかくのお祭りなのですが、残念な気持ちもあります。
『風紀を著しく乱さないのであれば、デートくらいは許しましょう』
反乱騒ぎもあった為、またあんな事をされては堪らないと思ったのか、プロスさんは恋愛関連のイベントこそレクリエーションの企画から外しましたがそのような言葉も出しています。
これに企画を立案し、懸命に動いていた整備クルー達は沸き立ち、他のクルー達も喜びました。
お祭り気分の乗じてナンパをしたいという目的を半ば達成できた為に。
しかし――
逆にこれにあの人は……アキトさんは強く警戒をした。
悪魔が宿った美術品と戦いそうな艦長だとか、
アンバーな割烹着とカレイドな杖の可愛らしい声を持つ通信士だとか、
北辰一刀流ではなくても居合が得意なパイロットだとか、
そんな彼女達もプロスさんの言葉に歓喜の声を上げて動き出すと思った訳です。
その為、アキトさんはこれに対策して彼女達の誘いを
「ハァ…」
また溜息が零れました。
せっかくのデートの機会だったのに……。
そう、
反乱騒ぎの後、介護を名目に二人っきりで二日間一緒に過ごしていた件もあって、問題の女性クルー達を下手に刺激する事は、今は危険だとアキトさんは感じているようです。比較的直近の出来事であるから尚の事。
『自分でも贅沢な悩みだと思っているし、八方美人を気取りたい訳でも無いんだけど。何なんだろうなぁ、こういうの……?』
ある時、そのような事を言っていたアキトさん。
何となく私も分かります。言葉にはし難いのですが向けられる好意を拒否しても止まらないのですよね、その女性クルー達は。
そう言うように
艦長に対しては、以前の……キスの件でその辺りは伝わってますし。メグミさんのアピールには素っ気なくあくまで同じ船の仲間、友人として接しています。リョーコさんとサユリさんにしても同様です。
なのですが……。
『テンカワさん忙しいんだ……残念。良いアピールのチャンスなのに』
『チッ、同じパイロットの
『一緒に屋台でもって考えていたんだけど、アキトくんとのしょう……ううん、いつか店を持ちたいっていうアキトくんの将来の為になると思ったんだけど』
このような声があっても全然諦める様子がありません、ほんと。
サユリさんなんて、いつの間にかテンカワさんからアキトくん呼びになってますし。
つまり、まだまだ振り向かせるチャンスが在ると思われている訳です。
しかしそれも仕方ありません。何しろアキトさんはまだ誰とも付き合って無くてフリーなのですから。
正直、あの人の
例の社内規約がある為に優位を得られるとはいえ、子供の身体である事が恨めしくなります。
元の時代まではといいませんが、せめてもう3、4年程の上の年頃であれば今18歳のアキトさんと付き合う事になってもそこまでおかしな年齢でないのに(それでも少し危ないかも?)。
思わず、ぐぬぬってしまいます。
アキトさん的には、いっそ告白でもしてくれたらハッキリ断りの返事が出来るとも思っているようですが……メグミさんとサユリさんはそれを鋭く察してか、アピールに徹して機を伺ってる様子。
リョーコさんは、もとより二の足踏むタイプで結果的に避けられてて。
艦長は……少し難しい所です。
この人だけは、あの人も完全には無下出来なくて、その隙も読まれてる所為でメグミさん達以上により虎視眈々としてる感じ……。
定番であった「アキトは私が好き!」とも言わなくなりましたし……これは私も原因かも知れませんが。
挑発じみた事を言ったのが悪かったでしょうか?
「……ふう」
「ルリルリ」
溜息が零れると同時にブリッジの右の扉が開いてミナトさんが姿を見せた。
「システムのチェックはまだ?」
「いえ、もう終わります。お待たせしましたか?」
「ううん、そうでもないわよ。ただ迎えに来ただけ。待ってたというより私がせっかちなのね。さっき放送が掛かったばかりなんだし」
そう言って私が座る席へ歩み寄ってくるミナトさんはナデシコ艦内では珍しい私服姿です。
薄桃色のニット生地のセーターに黒のタイトスカート。首には控えめなゴールドのネックレス。肩からポーチバックを下げています。
「ルリルリは制服なのね」
私が私服姿を珍しそうに見ていた事に気付いたようで、そう指摘された。
私は無言で頷きます。
お祭りとはいえ、あくまで艦内の行事なので普段通りでいいと思ったのと、デートの機会も無いのでおめかしする必要もないと思ったから。
そして、それも読まれたようです。
「アキトくん、忙しそうだもんね」
クスリとからかうような笑みでそんな図星を言い当てられた。
少し頬が熱くなるも、ズーンと擬音が浮かんでガックリと肩が下がりそうになる。
「ああ、ゴメンゴメン。そんなつもりじゃなかったのよルリルリ。……うーん、まあ残念だったわね」
「……はい」
落ち込む私に背中を擦って慰めてくれるミナトさん。
ただ、落ち込ませた要因は自分にもある為に苦笑し少し表情を固くされてます。
そんなミナトさんに心配をお掛けするのもなんなので、私は下がり掛けた肩を上げる。
「チェック終わりました。お誘いありがとうございます。それでは行きましょうか」
「うん、お祭りを楽しみましょう。艦内を回りながらアキトくんの出し物を見に行きましょ♪」
はい、と私はそれに頷いてオペレーター席から立った。
◇
ナデシコ祭は、祭りというだけあって屋台が多く目に付く。
広めな作りになっている各層のメイン通路は勿論、休憩スペースに焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、アイスクリーム等の定番の物が多く見え、クルー各々は自らの出身地方の特色をそこに加えて差別化の工夫を凝らしている。
また各部署にあるブリーフィングルームや展望室、バーチャルルーム、体育ルーム、資材保管庫などの広い空間を使ったお化け屋敷、迷路、観劇といった出し物も催されている。
「まるで学園祭ね。懐かしくなるわ」
通路を進み、その活気づいた艦内の雰囲気にハルカ・ミナトは、思わずそう口に出していた。言葉通り懐かしそうに微笑みながら。
「そうなんですか?」
「……ええ、私の通っていた学校もこんな風だったわ」
隣を歩く銀髪の少女にミナトは答えたが、内心では少し迂闊だったと反省する。
何しろ隣を歩く少女……ホシノ・ルリは、普通の生まれではなく、育ちも軟禁とも言える研究所での生活。
学園生活とは全くの無縁であり、今後も望めるのか分からないのだ。
そんな在りようを本人は余り気にしていないように見えるが、実のところはそうでないという事をミナトは気付いていた。
だからミナトは、一度会話を短く打ち切った。
余り普通でない事を意識させるのは、この子にとって良くないから。
(この子は人間で、自分の事は普通の女の子なんだって思って欲しい)
そんな祈りがある。
それは勝手な押しつけでエゴなのだろうとミナトは思うが、その考えを捨てる事は出来なかった。
境遇への同情もきっとある。けれど、この子が普通に生きられて、幸せな生き方をする事を望んで悪い事はない。
だからハルカ・ミナトは、デザインベビーとして、また実験体として生まれた彼女へ姉のように振る舞い、普通の女の子を相手にするように接している。
生まれと育ちがどうであろうと一人の人間として幸せになって欲しいから。
そういったごく当たり前のものを感じて貰いたいから。
そこに見返りなんてものは求めては居ない。あるとすればそれは、ホシノ・ルリという少女が幸せに笑える未来を見る達成感であろう。
「ミナトさんどうしました?」
「ん? うーん、何処から見ようかな?……って少し考えていたの」
僅かに黙ってしまった事に再び疑問を抱かれたので、内心の思いを出さずに答える。
「ルリルリは、アキトくんの所に早く行きたいんでしょうけど」
「そ、それは……ハイ」
クスッと笑って言うと銀髪の少女は顔を俯かせて首肯する。その頬は赤い。
その仕草に、可愛いわね、と言葉に出さずに思う。
(うん、やっぱりこの子は普通の女の子ね)
そう嬉しくなる。
ただ同時に不思議に思う事もある。
この少女がごく普通の一人の女の子としての表情を見せる最大の要因である
少女自身も語った事であるが、あの彼とはこの船で初めて会ったというのに……事実、彼女はずっと研究所育ちで外の世界を知らなかった。だというのに乗艦して直ぐにまるでお互いをよく知っているかのように接していて非常に親しい。
あの彼にとって幼馴染だという艦長以上に、だ。
だから、とても気にはなる……なるのだが、
(……踏み込むのは、ちょっと拙い気がするのよね)
ネルガルの研究所育ちで、しかも非合法なデザインベビー……そんな少女と初対面の筈なのに親しい事に不穏な物を覚えてしまう。
またそれとは別な感覚的なものであるが……
その囁きに従ってではないのだが、
「アキトくんの事は
若干、
少女はその言葉の内には気付かず、言葉どおりに受け止めて頷く……頬の赤さをそのままに。
「そうですね。アキトさんの居る格納庫まではまだ遠いですし」
「うんうん、美味しいデザートは取っておいて色んな物を摘み食いしながら行きましょう。お祭りを楽しんで」
そうして、ミナトは白い小さな手を取った。
少女はそれに一瞬驚いた顔を見せるも、
「あ、はい……楽しみましょうお祭りを」
普段無表情なだけに、まだ少し乏しいものであったが嬉しそうに微笑を浮かべた。
ミナトも勿論、笑みを返す。少女のその微笑みを見れることが嬉しいから。
◇
然程広くもないややこじんまりとした執務室で彼……プロスペクターはキーボードを叩いて作業をしていた。
ナデシコの総務統括の責任者としての業務は少ないようで膨大だ。
補佐として二人の社員が自分と同じく出向で付いて来てはいるが、今この部屋にいるのは彼一人。
各部署から上がる情報を文字と数字に分けて処理して纏め上げ、本社へ送る報告書にする。また部署とクルーから寄せられる要望への対応も考えて先ずはメモしていく。
「ふぅ……」
肩の凝りを感じてデスクの上に浮かぶウィンドウから眼を離して、両手を上げて伸びをする。
「やれやれ、歳には勝てませんなぁ」
一人呟くと、ウィンドウを消して立ち上がって、部屋の隅にあるコーヒメーカーへと向かいちょうど出来上がった黒い液体を近くに備え置かれたカップを手に取り注ぐ。
ミルクは入れず、糖分を欲したのか角砂糖を二つ入れる。南米産の天然の豆をつかった高級品を先ずは一口。
「ふむ、なかなか上手く仕上がったようです」
彼は満足げに頷く。
そうしてデスクへ戻ろうとした所でインターホンが鳴った。
返事はせず、カップを持った左の手首にあるコミュニケを操作――部屋の扉が開く。
「おや、ゴート君」
開いた扉の向こうに立っていたのは巨漢の男性。ナデシコの保安責任と戦闘指揮を預かるゴート・ホーリーだ。
自分と同じくネルガルからの出向者。
「貴方もお仕事ですか。ご苦労さまです」
ゴートが脇に抱えるファイルが目に入ってプロスペクターは尋ねた。
「ミスターこそ、お疲れ様です。このような日まで」
「ハハハッ……お互い仕事人ですな」
デスクへと座り直しながらゴートの巨漢を部屋へ招き、彼が持つファイルを――敢えてデータで送信しない所が彼らしく慎重だと思いながら――受け取る。
艦内のお祭り雰囲気とは無縁とばかりに二人は仕事の会話をする。
「……先の戦闘で分かっていた事ですが、パイロット達の練度は上々のようですね。エステバリスの有用性も十分に示せました。実戦データを含めて本社は大いに満足するでしょう」
「はい、彼等は良くやってくれてます。今後も更なる練度向上とエステバリスの運用研究に力を尽くす所存です」
ゴートの返事にプロスペクターは、ふむ……と首肯する。
完全な人型という従来から逸脱した最新鋭となる兵器と、それを扱うパイロットのデータはシミュレーターと実戦の物……双方合わせて貴重であり、今のネルガルにとっては黄金よりも価値がある……いや、むしろその黄金を生む卵だ。
現状、ネルガルしか持ち得ない重力波を組み合わせた
プロスペクターはその詳しい事情までは知らないが、どうも敵である蜥蜴らは一部技術……電装系関連がこちらよりもかなり遅れているらしい――そのような説明を本社からされており、データをバンバン送れとのお達しが出ている。
(なんとも不思議なものです。高度な無人機を有し、連合軍を一蹴出来る程の軍事力を持つというのに。……チグハグというべきか?)
無論、不審感はある。木星蜥蜴と呼ばれる敵……と、それを確信的に語る上層部に。
ナデシコの
何しろこのナデシコ自体がそのチグハグなギャップを持つ船なのだから。相転移エンジン、グラビティブラスト、ディストーションフィールド……それらの研究から派生した様々な最新技術。現行から余りにも逸脱した物と、現行のままの技術が融合した船。
フィールドを搭載し、現行以上の高度な重力制御を導入したエステバリスもまた同様だ。
それと類似した物を覚える……だとするなら木星蜥蜴と呼ばれる者達は――?
「…………」
眼の前の大男にそのような内心を悟られないようファイルに目を通して
そして気になる項目に目が留まる。
「DFサーベルでの件は、ただ勘でやった訳ではないのですね」
「はい。ホシノとウリバタケ主任による見解とデータ解析の結果、エステバリス側から受け取ったセンサー情報をIFSを通してテンカワの脳の感覚野に伝達したものだと分かりました。それを彼は無意識に勘だと翻訳ないし解釈したものと考えられます」
「ふむ」
「ホシノの意見では、これは幼い頃からIFSに長く馴染んだテンカワだからこそ起こり得た事であると。また人型という機械と人体内で構築されたナノマシンの神経網との親和性……相性の良さ、その相乗効果である可能性が高いとの事です」
ただしこれは人型兵器自体エステバリスが史上初である事から前例が無く、仮説に過ぎないともゴートは言う。
作業機械で民需の人型はあるにはあるが、そちらは搭載コンピューターやセンサー類、回線網の処理速度や性能が不足しているので参考に成らないし、先ず起こりようが無い。
もし、先行のプロトタイプを扱っていた
「まあ、しかし、勘でない以上、このデータは全エステバリスに共有可能であり、火器管制システムへ攻撃プログラムとして実装が可能です。更にフィールド干渉の解析データからウリバタケ班長よりサーベルを改修し対フィールド用へ特化した兵装の研究・開発が提案されています。私個人としては非常に有用性があると考えます。裁可の程をご検討下さい」
「分かりました。検討致しましょう。ウリバタケさんには、プランの具体的な詳細を纏めておくよう伝えて下さい」
「はっ」
敬礼こそしないが軍人のように返事をするゴート。
にしても――
「――流石ですね」
「? 何がです」
怪訝に返されて内心で呟いたつもりが思わず言葉に漏れてしまった、と気が付く。
「ああ、テンカワさんが火星で長くIFSに慣れていた事ですよ。それに随分と成長が目覚ましい」
「そうですね、彼はやはり良い拾い物でした。エステバリスへの操縦適正の高さもそうですが、体術と銃器の扱いにもセンスがある。何と言うかとても器用だ。……不得手が無く、なんでも卒無く熟す」
「……でしょうね」
「む、ミスター?」
ムッスリとした顔が再び怪訝な色合いを帯びる。
それにプロスペクターは首を横に振って、何でもないと答える。
ゴートはそれでも不思議そうにしていたが、プロスペクターの目利きを知る事からその目に映るものにしか分からない事があるのだろうと考えたのか深く尋ねることはなかった。
そのあと、二、三言葉を交わしてからゴートは執務室を去った。
大男がこの部屋から離れたのを確認してプロスペクターは、ベストの裏にある胸ポケットから古い手帳を取り出して開いた。
中には一枚の写真。データには残しておらず原本も既に無い……いや、消去した。
――写っているのは、二人の男性と一人の女性。そして女性に抱えられたほんの三歳くらいの幼い男の子。
友人夫妻とその子供と一緒に撮影した一枚。
夫妻は非常に多才な人物であった。
男性は、専門の物理学以外に電子、機械といった工学面に高い理解があり、女性は専門の考古学と地質学以外に材料研究に優れた才覚があった。
学生時代には二人でタッグを組んでテニスをやっており、アマチュア大会で好成績を収めている。
「そういった器用さは、貴方たち譲りなのでしょうね」
懐かしそうにプロスペクターは話し掛ける。写真の中の友人へ。
だから流石だと言い、彼の多才さと器用さに納得がある。
同時に申し訳なさもあった。その才能を利用する形で
しかし、それも生存率を高める為である。彼を含めてこのナデシコの……。
それになるべく荒事に対する術を身に付けて欲しいという思いもある。彼には。
「正直に言って驚きました。
お陰でプロスペクター個人として火星へ行く目的の一つが片付いた。友人夫妻の子息の無事を確認できて。
しかし、喜ばしい再会ではあったものの、彼の方はこちらを覚えていなかった。
それも仕方がない。“火星に居た頃”はまだメガネは掛けておらず、髭もなく、髪型も今のようにきっちり分けてはいなかった。衣服も今ほど洒落てはおらず、何処にでも居るサラリーマン風であった。
「ただ、この船に乗せるかは悩みましたけどね」
火星で最後に彼にあったのは夫妻の葬式の場だった。
子供の彼は必死に周囲に訴えていた。
『父さんと母さんは殺されたんだ!』
そう叫ぶ彼に周囲の大人たちは同意するように頷いてはいた。
ただし、それは当時、火星独立派が起こしたテロと解釈しての事であり、彼が本当に伝えたかった事ではなかった。
きっと彼は周囲の大人たちに深く失望した事だろう。
自分はそれを知りながらも真実を噤んだ。……彼を守るために。
そして、夫妻の残した財産と降りた保険金や見舞金の手続きを行ない。信頼できる施設に彼の身を預けた。
気には掛けていたがそれっきりだ。火星支部の副司令である自分が関わり過ぎるのは危ぶんだ事もある。
そして社命もあり自分は地球へと移り、監査部に入ってネルガルという企業を見続けた。
「ある意味では貴方達の遺産とも言える、このナデシコで再会したのは縁だと感じました」
だから彼をナデシコへ誘って乗せた。
無論、これで夫妻の遺児である彼が生存し、火星から地球へ
経歴を誤魔化すことも考えはした。しかし調べられれば直ぐにバレる。
そして乗せないという選択肢もまた危険であった。乗せずに何処かで彼の事がネルガルに知られればどうなる事か……。
その危惧が拭えなかった。
「ですので、せめて目の届く所へ、と思いました。……あの時、貴方達が殺された時のような思いはしたくありませんからね」
そう、自分は事前に知る事のできる立場にいたのに……。
前会長が夫妻を疎ましく思っていた事を知っていたのに……。
少し目を離し、少し手が届かなかった隙に……。
「無念を晴らすとまでは言いませんが、貴方達を手に掛けてまでネルガルがやろうとした事、そしてそうまでして進む先を見届けたいと思います。……大丈夫、息子さんは守ります。戦場に出しておいて何を、と怒るでしょうが、少なくとも彼等の手には掛けさせません」
そして何時かは、真実を彼に――。
手帳を閉じて胸に収めた。秘める決意とともに。
その為にネルガルにこれまで勤めて来て、ナデシコへ乗ったのだ。
亡き友人達の残した物の行く末を見届け、真実を残す為に。
「――ふむ、真実と言えば」
彼に関して不思議な事がある。
このナデシコの唯一無二のオペレーター、ネルガルの研究所で半ば秘匿されていた少女。
「初対面の筈なのですが……」
彼も尋ねた時はそのように返答していた。
しかし、彼女は一方的に見知っていた様子で、その後は彼もまた何か納得した様子で彼女と親しげに接するようになった。
それが実に不可思議である。接点は皆無であるというのに……。
原作におけるプロスさんの行動原理は何であったのか?
それを考えて独自解釈しました。
一見、所属企業の社畜のように見えてそうでもない行動もする彼。
火星にかつて居て、支部の副司令官という立場であった事と、テンカワ夫妻の死の原因を調査していたという事から考察した感じです。
もし原作が2クール以上ある物語であれば、こういう深堀りもあったのかな?とも思って書いてます。
アキトの才能に関しては、憑依に関係ありません。しっかりアキト本人の能力です。
1000%の方の資料にしか記載されていないのですが、実はアキトはとても器用であり、天才肌もしくは秀才肌というくらいに何でも卒無く熟せるとの裏設定があったりします。
コックとパイロットの二足草鞋が出来ているのは、そのためなんだとか。
まあ、三人娘に付いて行けてる時点で普通でないのは明らかなんですけど。
荒魂マサカド様、yelm様、人力バスターシメジ妖刀アルビノ竹光様、暇人mk2様、SIGSEGV様、誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。