偽伝・機動戦艦ナデシコ T・A(偽)となってしまった男の話   作:蒼猫ささら

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先ずは前哨戦。


第二十五話――火星・到達。

 

 

 火星まで残りあと5日とされるその日。

 定例会議にて挨拶と各部署からの報告を述べられた直後にユリカ嬢がそれを告げる。

 

「火星圏到着まで我らの艦(ふね)はナデシコは、残り数日となりました」

 

 ブリーフィングルーム中央にある大型端末を兼ねるデスクの囲んで居並ぶ面々を見渡しながら、彼女はキリッと艦長らしい表情を見せて言う。

 声もとても落ち着いたもので普段とは大違いだ。このギャップが良いという男性クルーも一部には居る。

 

「そこで本日の会議では、予想される戦闘における作戦案と火星での行動指針を皆さんと話し合いたいと思います。その為にも先ず……」

 

 ユリカ嬢の視線がプロスさんの所で止まる。

 

「確認しますがプロスペクターさん。多大な予算を投じて戦艦を作り、民間人からクルーを募り、軍に頼らず火星までこの船を向かわせた大企業(ネルガル)からの要求(オーダー)は何なのかお聞かせ願いますか?」

 

 ユリカ嬢の視線と言葉――何処からしくない鋭さを覚える――を受けて、プロスさんが隣のゴートさんと何やら小声で短く言葉を交わして頷き合い、そしてユリカ嬢に答える。

 

「そうですね。ナデシコの出航直後に皆さんに一度お話しした通り、火星が今どうなっているのか? 火星に住む人々の安否。その調査があります。……ですが艦長が言外で懸念されているようにネルガルともあろう世界最大級のグループ企業がそんなボランティア紛いの事だけを目的に戦艦を建造し、火星に向けるなど在り得ません」

 

 先のユリカ嬢と同じくブリーフィングルームに居る俺達を見渡しながらプロスさんは返答した。

 

「火星まであと少しの今であれば、皆さんにお話しても宜しいでしょう」

 

 スッと目を細め、意味深な雰囲気をプロスさんは纏う。

 

「ご存知の通り、我が社ネルガルは50年近く火星へ投資を行い、テラフォーミングを始め開拓と開発の主導的立場を担いました。しかし火星を撤退した現在、それらの投資は意味を失い、多くの資産を火星へ置くがままになっております」

 

 そこでプロスさんは言葉を切る。その意図を理解したのだろうユリカ嬢が再び問うように口を開く。

 

「つまりその資産の回収が目的、ですか。……ですが――」

「――ええ、それが何なのか? また輸送艦でもないこのナデシコでは大量の物資を運べる訳でもない。ましてや不動産など文字通り多くの動かせない物もあります」

 

 会話を円滑に進める為の問いにプロスさんは答える。

 

「繰り返しますが、地球が遠くなった今だからお話致します。これは我が社でもかなり機密度の高い扱いのモノになりますが」

 

 そうして語られるのはナデシコの始まりだ。

 

「火星に地球人類が入植してから凡そ半世紀……ネルガルがそれを発見してからもう30年となりますか――」

 

 原作第6話でも聞いたような台詞をプロスさんは言った。

 そこからはだいたいは原作知識で知っている事だ。

 火星で相転移エンジンを持った朽ち掛けた船を発見した事から始まって。火星には地球外文明と思われる古代の遺跡や痕跡があり、ネルガルがそれらを発掘し研究・解析を極秘裏に進めていた事が語られた。

 当然、その事実に皆がそれぞれ驚きの様相を見せていた。

 

「そんなSF映画みたいな事が現実で!?」

「マジかよ……」

「……信じられない」

「って、事は蜥蜴どもともそいつは関係あるのか?」

 

 などなど。

 ブリーフィングルームが薄暗く卓上のディスプレイ以外に殆ど光が無いのが幸いだ。

 デスクを離れて顔を俯かせる事で驚いていない事を隠せる。ナデシコに乗艦した時のような演技が今は出来そうになかったから。

 何故なら、

 

 ――父さん、母さん……。

 

 そんな呟きが胸の内から零れて、両(・)親(・)の顔が浮かんでしまうのだ。

 これが自分のモノではないのは分かっているのに……。

 そして、分かってる事には。

 火星にあった古代文明の発掘・研究には自(・)分(・)の両親が深く関わっている事を俺(・)の記憶を通して知っているから、その研究成果を巡って父さんも母さんも――……だから、プロスさんが語る話が苦しい。

 胸の内が痛い、とてもとても……くそぅ。

 

「アキトさん……」

 

 声にハッとする。

 気づくと強く握りしめていた拳に白く小さな手が添えられていた。

 

「……大丈夫」

 

 拳を緩めて、労るように見上げられた金色の瞳に笑顔を返す。ありがとうルリちゃん、と。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ホッと息を吐く。辛そうな顔が笑顔になって。

 でも、この人の手を放さなかった。

 笑顔になってもきっとまだ感情は落ち着いていないから。

 

 仕方ない事だと思います。

 見たという未(・)来(・)の(・)記(・)録(・)で真実を知り、受け止めて一年以上経過していたのだとしても簡単に消化できるものではないでしょうから。

 アキトさんの中には、きっと今も強い憤りが渦巻いている筈。

 でもそれを表に出してぶつける事が出来ない。

 真実を知っている事自体が危険であり、知られてはいけない事だから。

 また現会長であるアカツキさん自身が悪い訳ではないから……。

 勿論、ネルガルに罪はある。けれど企業全体がそうである訳でもない。

 だから、ぶつけようがない。

 それにフクベ提督との事もあります。火星という失った故郷にもう間近な事も……。

 アキトさんは今、精神に余裕があるとは言い難い。本人は気付いていないようですが……。

 深夜に料理研究で厨房や、相談事で私の部屋で二人きりになる事がありますが、不意に焦(じ)れがこの数日で見える時がある。今のように……。

 

 そんなアキトさんの様子を他所に会議は進む。

 

「では、ネルガルのオーダーはそれら遺跡資産の回収という事ですか?」

「はい、そのようになります。無論、火星の情勢と生存者の確認も大切なことには変わりありません。……そこを御座なりしては世間が黙っていないですからね」

 

 艦長の確認の問いにプロスさんは答えますが……建前は大事という事ですね。

 地球の戦況が厳しい中で強力で貴重な戦力を抱えて火星くんだりまで行って、自分達の資産だけを目的にしてはバッシングを受けかねない。だから火星を調査して居住者の救助も名目にしている。

 

 それにしても思いの外、ぶっこんで来ましたねプロスさん……ひいてはネルガルは。

 

 これも前回との違い。

 前回は、やはりあのお葬式の日々と艦長お籠りの事もあってろくにブリーフィングも出来なかったからこのような突っ込んだ話を事前に出来なかった。

 本来であれば、今回のようにクルー達に予め話を通して於いて、納得と賛同を得てスムーズに遺跡資産……いえ、まだ隠していますが極冠遺跡の中枢システムを回収するつもりだったのでしょう。

 

 何も知らず目的が曖昧のままでは、それらの作業は行なえませんし。士気に関わる。

 知らないまま、いざ遺跡群を目にしては戸惑いが先に出て、作業が疎かになる懸念も……。

 

 しかし、前回は火星宙域に入った途端の突発的な戦闘と、ユートピアコロニーでの苦い敗北と後退戦による艦の損傷の所為で情報を開示する機会を失った。

 なによりもナデシコの損傷が痛すぎました。あれで士気はドン底に落ちてしまい、余裕がなくなってしまった。

 避難民を犠牲にして自分達が生き残り、相転移エンジンの稼働が騙し騙しになり、敵地たる火星からの脱出も困難。

 前回のあの状況、プロスさんは内心で酷く頭を抱えていた事でしょう。

 ナデシコクルーが比較的お気楽……前向きな性格であったのも幸いでした。自暴自棄になってもおかしくない状況でしたからねほんと。

 

 ……今回はそれを避けたい。

 

 でないと、アキトさんの精神も持ちません。

 私にしてもそんな未来を知りながら同じ事を繰り返すなんてのはゴメン。

 ですから、避難民の犠牲を避けて必ず無事にナデシコを火星から逃さなくては……。

 

 

「…………」

 

 方針が分かり、行動指針の検討に入る。

 ネルガルの研究施設であり、火星支部の中心であるオリュンポス山。北の極冠にある研究施設と鉱(・)山(・)。

 そこへ向かいたいと示すプロスさん。艦長はそれに頷いて会議が本格的に進む中。

 私は、その彼を一瞥して考える。

 プロスさんは個人的には信頼も信用もできる人ですが、やっぱり謎が多い。

 本名不明な事もそうですが、その目的も。

 一見するとネルガルの利益の為の言動・行動を取ってはいるものの、その実、そうでない所が見受けられます。

 だからこそ信頼も信用もできる訳ですが……結局のところ、彼の動機は戦中は勿論、戦(・)後(・)も分からず仕舞い。

 そして分からないまま、私の居た時代では、ネルガルの会長秘書室長として相も変わらず商売人の顔をして数字や文字と格闘しながらあちこち飛び回っていた。

 室長ともあろう人が現場へ方々飛び回るのはどうかとも思いましたけど。

 

「……一体何を目的にしていたのやら。いえ、いるのか」

 

 ポツリと小さく呟く。

 その辺り、当時も未来も気にしていなかった訳ですが、こうして過去に戻った今になって気になってしまう。

 今回も敵(・)ではない事は確かでしょうが……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『敵、距離十万キロ。エステバリス隊、出撃準備!』

 

 ゴートさんの指示が飛ぶ。

 ナデシコは火星圏に到着。第一次火星会戦で散った連合艦隊のデブリ帯(ざんがい)を抜けて敵と相対した。

 ふと、このかつての部下達の墓標を目にしたフクベ提督の心情は如何なるものか考えてしまう。

 ただ、俺はもとより“アキト”も提督を恨んでもいないし憎んでもいない。だって分(・)か(・)っ(・)て(・)る(・)から。

 だから俺は、アキトとしても代弁して言いたいことをあの日……ナデシコ祭の後で伝えた。

 それは――

 

『エステバリス各機、後部デッキへ移動して下さい。作戦に変更はありません』

「了解!」

 

 メグミ嬢の連絡に思考を中断する。

 俺の返事と同時にパイロットの皆も了解の旨を答える。

 

「今はとにかく、戦闘に集中だ」

 

 軽く深呼吸。出撃前のこの緊張にはまだ慣れない。

 

『テメェら出撃だ! サツキミドリや前回同様に無人機相手だからって油断するなよ! 蜥蜴連中も俺達のデータは得ているんだからな!』

『わかってるわかってる』

『ええ、でもそれは私達も同じ』

『おうよ! 先の戦闘データでこっちも連中の事は分かって来てるしな! それにエステも装備もアップデートしているんだ! 遅れは取らねえさ!』

 

 まるで緊張などしていないかのような仲間達の声。

 しかし、それは裏返しだ。こうして何とも無いように会話をして気を紛らわさせ、落ち着かせている。

 

「ああ、俺達もそう簡単にやられるつもりはない。勿論、油断もしない。大丈夫さリョーコちゃん」

 

 だから俺も普段通りに何でもないように答える。

 それにスバル嬢はニッとし、やや野性的な笑みを浮かべる。

 

『はっ……ならこの中で一番被弾した奴がメシの奢りな』

『フィールドに当たっても?』

『当然だろ』

『げ、それだと俺達が不利だろ』

「ガイの言う通りだ。今回は俺達二人……β分隊(チーム)が前に出るんだから」

 

 抗議をする。だが、デカい口を叩いたのは男ども二人だ、と却下されてしまった。

 それに俺とガイはゲンナリとしたが直後に出撃が下り、再度抗議することも出来ずに暗い宇宙の海へ巨人の体躯(からだ)を持って飛び出した。

 

 そして俺(・)は、エステバリスのカメラ越しに初(・)め(・)て(・)近(・)く(・)で火星を見る。

 小説でゴートさんが言ったように確かに思ったより赤くなかった。

 この世界の資料でも見知っていたが、テラフォーミングで造られた大気と海のように広がる巨大な湖の為に赤茶けた星は青みを帯びていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アキトさん達、エステバリスが後部デッキから放出されたのを確認。

 

「ナデシコ、最大戦速! 作戦通りに行きます!」

「了解! ナデシコ全速前進! このまま敵陣へ突撃!」

「了解、任せて! ルリルリ、回避の指示とデータをお願いね」

「はい」

 

 艦長と副長の指示にミナトさんが答え、私もミナトさんの言葉に首肯する。

 メグミさんは、エステバリス隊と艦内の通信状況を確認しながら敵が発する通信状態の解析も行っている。声もないデータのやり取りですが波長からデータ量や交信頻度を解析すれば、敵無人機のパターンをある程度予測できる。

 メグミさんは元は声優なのでこの作業には、私もフォローを入れています。

 

「距離二万キロを切ったら、一度グラビティブラストを広域放射。以降は収束しての砲撃で狙いをつけて撃って下さい。レールキャノン共々、タイミングはお任せします」

 

 艦長の続いての指示。

 広域放射は前回同様、機雷の布石を警戒したものでグラビティブラストの試し打ちのようなもの。ついでにバッタを落とせれば儲けものといった所。

 次弾以降の収束発射は、この距離では主に敵フィールドの消耗が目的。そして消耗した所を甲板に立つ無人エステバリスが構えるレールキャノンでの攻撃、撃破を狙う。

 

「……やはり数が多いな」

 

 提督がポツリと呟く。

 レーダーの映すウィンドウには二十数隻以上の赤い光点が浮かんでいる。その内、巡洋艦であるヤンマ級は八隻。

 ナデシコに対して7割程度の性能でグラビティブラストも中型口径で広域放射能力はありませんが、この数はなかなかに厄介です。

 

「後退をお望みですかな?」

 

 プロスさんが慎重な様子の提督へ茶化すように言う。

 それに提督は首を横に振る。

 

「……いや、此処は諸君ら若者の判断と、このナデシコの性能を信じよう」

 

 一瞬、意外に感じてしまった。プロスさんもそんな顔をしています。

 前回では後退を叫んでいたのもありますが、提督にとっては第一次会戦の大きなトラウマがあるから。

 これは恐らく事前のブリーフィングと先の戦闘での戦果の影響でしょう。

 

「分かりました。では艦長頼みますよ。我が社、最新鋭の戦艦の力を存分に見せつけて下さい」

「了解です! ナデシコは予定通りに敵の“全滅”を狙います! 恐らくそれで次のフェーズに進める筈です」

 

 艦長の意気込み通り、ナデシコは敵陣へ目掛けて突き進む。

 三つに分かれて方陣を組んだ敵艦隊。この右翼を先ずは突きます。

 

「距離二万キロ切ります」

「うん、グラビティブラストを発射! 同時にデコイミサイルを!」

「「了解!」」

 

 艦長の命に私とミナトさんが応える。

 最大戦速で敵に当たったナデシコ。カタパルトから発射したエステバリスに扮したデコイもあってこれで敵の目はこちらにほぼ向いた筈。

 

 ――アキトさん、頼みましたよ。こちらも頑張りますが今回もそちらに期待大です。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 俺達、エステバリス隊が漆黒の宇宙へ飛び出した直後、ナデシコは一気に前進して離れて行く。

 前回とは逆だ。

 ただし、今回はナデシコは勿論、俺達も慣性航法には移らない。流石にそれでは速度が足りないからだ。

 作戦会議では、前回同様にナデシコの慣性に乗せて一気に放り出す案も出てはいたが、ユリカ嬢とルリちゃんが却下していた。

 その理由はよくある話で、同じ手は通じない、という奴だ。

 なのでその学習を逆手に、という訳では無いが今回は順序を変えた。

 ナデシコが先行して敵の目を引き、その隙に俺達は迂回して敵側面を突く。

 

『よし、俺達も行くぞ! アキト、ヤマダ……フォワードは任せた!』

『了解、アキト行くぜ! ゲキガンソードの切れ味を見せつけてやるぞ!』

「ははっ……了解。目に付く端から切っていくよ」

 

 変わらずのガイのゲキガン節に苦笑して応えて、機体を加速させる。

 ガイも出撃前に言っていた事だが、エステバリスは先の戦闘の後でアップデートが掛けられている。

 ウリバタケさんと研究班が手を尽くして短い期間でアサルトピットを含めて改修が行われて、エステバリスの各出力系が17%向上して推力、駆動系、フィールドも相応に性能が上がった。

 この少しの違いがデータ頼りの無人機には極めて有効に働く……とはルリちゃんやゴートさんの言葉。

 なお、今回は改型に乗っているのはヒカル嬢と前回に続いてイズミ嬢の二人。共に大型のレールキャノンも携行している。

 

 加速は掛けても動力は主に推力部分に回す。

 レーダー、センサーもアクティブは最低限の近距離に限定して可能な限り敵からの発見を避けて敵陣に近づく。

 既に戦闘は始まっていて、右翼から突撃したナデシコに対して敵は方陣を崩して囲い込もうと動いているのが大まかに見えた。

 それに僅かに不安を覚えるが、

 

「……でも想定通りだ」

 

 不安を押し殺して呟く。自分を落ち着かせるように。

 ナデシコが突撃した方向からは遠く回り込むように俺達エステバリス隊は動き、敵側面を……左翼を突く。

 

「来た!」

 

 距離3000キロを切った所で敵陣の一部……左の方陣の八隻程になる艦隊の内の半数が俺達のいる方向へ舵を切り、バッタを発進させる。実際はもっと早い段階でこちらをキャッチしていた筈だが、対応に迷ってこの距離で動き始めたのだろう。

 それを認識するかしないか、どちらが先か、

 

『無線封鎖解除! 全機を戦闘出力! レーダーもセンサーも好きに使え! データリンクも忘れるなよ!』

 

 スバル嬢の指示が飛んだ。

 それに応えるようにIFSへの意識を高める。

 

「ガイ行くぞ! 俺は右から!」

「応ッ! 俺は左から片っ端に行くぜ!」

 

 喰らえっ! ゲキガァン……ソードッ!!という声が通信回線に響く。

 その声に合わせたのではないが、俺もエステバリスの背中……ジェネレーターの脇に設置されたサブアームを兼ねた鞘からその剣を抜いた。

 DFサーベルとはまた違う新しい近接兵装。実体剣タイプのDFサーベル、通称『ナガマキ』。

 その名がつくようにこれは柄が長めの作りになった4m程のルナニウム製の刃が付いた剣だ。

 ウリバタケさんが考案し設計した対フィールド用兵器。

 早い話、原作中盤以降に出たフィールドランサーのソード版。

 形を変えたこの早い登場にはルリちゃんも驚いていたが、サツキミドリで開発されたサーベルと俺がそれを構えて吶喊した戦闘データがその登場を大幅に早めたらしい。

 

『敵が持ったら厄介なフィールドもこれなら一撃だ! 斬り裂くままに突撃してアキト……お前がやったように敵艦に斬撃をお見舞いしても良いし、斬ってフィールドに隙が出来た所にミサイルや砲撃を叩き込むのも自由だ! ハハハッ!!』

 

 そんな風にウリバタケさんが嬉しそうに説明していたのを思い出す。

 余程の自信作のようで、かなり調子に乗った語り節を見せていた。

 尤も、その自信は確かだった。

 

『ヨッシャー! これで三隻目!! カトンボってのはまさにその名の通りだな! アキト、そっちの大物は任せるぜ! こっちも今のコイツを落ちたらこっちの一隻をやる!』

「了解! こちらも二隻を今落とした」

 

 バックスに付いた三人娘の援護を受けながら俺とガイは敵艦を標的にナガマキで斬り掛かったのだが、シミュレーターでの試験通りに刃が深くフィールドに接触した先から斬って無力化する。

 勿論、野菜のように容易とは行かず強い抵抗感があり、斬った瞬間にエステの機動力に鈍りが出る。しかしそれも慣れしだいでどうにもなる。

 その抵抗感を前提に次の動きを考えれば良いだけだ。

 そう思い、敵巡洋艦クラスのヤンマに最速で接近してバッタの攻撃を避けながら……或いはバックスの援護射撃を予期して動いて斬り掛かった。

 

「くっ!」

 

 カトンボに比べると強い抵抗。負荷の強さに鈍(・)り(・)もその分だけ機体の動きに生じる。

 

「ッ!」

 

 センサーに感……背後にバッタが三機!

 敵艦のフィールドに刃を押し当てながら前転し、その抵抗の反発力を利用しつつスラスターを吹かしてその場を離れる――直後、先程までいた箇所にバッタ達の機関砲が掠めた。

 更に直後、外れたバッタの砲弾が破れたフォールドを抜いてヤンマの装甲を軽く叩いた途端――

 

『――わりぃ、テンカワ……援護が遅れた』

 

 バッタ達の背後から大小の別々の砲弾が無数に飛び込んで小さな砲弾、ラピッドライフルのはバッタを引き裂き。大きな砲弾、レールキャノンのはヤンマの装甲を撃ち抜いて巨大な火球に変えた。

 

「リョーコちゃん、助かったよ」

『いや、その前に上手いこと躱していただろ、礼はいらねぇよ。さすがの反応だなテンカワ』

 

 バレルを延長し、大容量弾倉に変更した支援型のラピッドライフルを構えた赤い機体にお礼を言うと、その機体はウィンドウに映るパイロットの動きに合わせて首を横に振った。

 

「それなら褒め言葉もいらないよ。ただ他の皆よりIFSに馴染みがあるだけだから」

『……ハァ…まあ、良い。次行くぞ! イズミのレールキャノンがもう別のを叩いている』

「了解!」

 

 まさに虫と言わんばかりに群がるように接近するバッタに対応しながらスバル嬢に従う……と言ってもバッタを相手にするのはスバル嬢で、俺は彼女によって火球と化すバッタの隙間を縫って虚空を掛けるのだが……敵艦に目掛けて。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ったく、テンカワの野郎は……」

 

 赤い機体のコックピットの中、センサーとレーダーに捉え、射撃用にモニターの前に浮かぶ望遠ウィンドウにバッタが映る先から撃ち落としつつ彼女は短く憤る。

 パイロット達の中ではエステバリスを最も理論値限界近く扱える反応速度を持っているというのに、その才能に自覚がなく、自己評価が低い事に苛立ってしまうのだ。

 確かに瞬間的な判断や戦闘技量では、自分達正規パイロットにはまだ二段くらいは劣る。

 それでもだ。

 

「間違いなく天才の部類だってのにな」

 

 これはリョーコだけの評価ではない。

 ヒカルは、アキトくんって器用でフィーリングのセンスが抜群だと思う、と評し。

 イズミは、艦長とはまた別方向。頭脳ではなく身体の扱いや感覚的な事には非常に鋭い、と意見を出している。

 ヤマダことガイからは、頼れる相棒という以上の言葉は聞いてはいないが恐らく同様の事を感じている筈だ。

 何しろ、訓練校では“シミュレータークラッシャー”との異名を取る――軍のシミュレーターではガイの技量に追随出来ない――ほどの技量の持ち主で、彼のバディを勤められるパイロットはいなかったのだから。

 オマケにリョーコにとっては悔しい事にその異名を示すようにエステバリス隊のエ(・)ー(・)ス(・)なのだ。実質、技量並び対戦成績はガイがトップである。

 そしてそのバディを元素人であるアキトが荒削りながら務めている。

 

「……あのゲームだってトップクラスだっていうのに」

 

 先の祭りの事も思い出す。

 例のゲームは聞いた通り非常によく出来ていた。コントローラー操作と人型ロボット、スロットルにペダルと戦闘機の違いこそあれど、軍のシミュレーターに劣らないくらいに。

 そこでも世界上位に入るのだからやはり……だから、

 

「ったく、苛つくぜほんと」

 

 だから、気になる。

 テンカワ・アキトというチグハグな野郎の事を。

 強いくせに全然そんな素振りも雰囲気を見せず、強い男なのにそれに奢らず穏やかで誰にも優しくする彼が……。

 

「いい加減、分かって欲しいぜ」

 

 苛付きながら彼のことを考えてしまう。

 その苛つきを先行する彼に群がろうとする虫型の機械にぶつけるように……撃つ、撃つ、撃つ!!

 

「オラァ!! 邪魔すんじゃねーっ!!」

 

 ぶつけるように叫んだ。

 突撃するレッド・パープルの機体を追いかけながら……先行する彼が、ほんの少しこ(・)ち(・)ら(・)へ(・)振(・)り(・)返(・)る(・)事を期待して。

 戦闘中であり、敵艦を標的に必死な彼にそれが出来る筈もないのだが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 戦闘は当初の想定以上に上手く行っています。

 

「エステバリス隊、敵左翼を崩しました。側面を突かれた敵はかなり混乱しているようです」

 

 メグミさんが報告をする。

 彼女の言う通り声無き無人機の通信は傍受する限り、まるで悲鳴を上げるかのように通信量が上がっていて、混乱と言っていい程に乱れています。

 右翼を突いたナデシコの側面ないし背後に回ろうと動いてた敵中央は鈍り、このままこちらを制するか、アキトさん達に対応するか判断(こたえ)が付かない様子。

 状況から常に正しい選択を選ばんとする無人機(AI)の弱点がモロに出ています。過去の記録(データ)を参照しようにも此処までの苦戦は覚え(ログ)が無いので尚更でしょう。

 

「好機だな」

「はい、提督。……敵の動きが鈍っているうちに決めてしまいます! エステバリス隊に連絡。崩れた左翼の残敵に構わず中央へ突撃! ナデシコはこのまま右翼を崩してエステバリス隊との合流を目指します!」

「了解! エステバリス隊に連絡、左翼の敵への攻撃を切り上げ、中央部隊へ向かうように! ナデシコは進撃しながら右翼を崩して中央でエステバリス隊と合流!」

 

 提督の言葉に艦長は強く頷いて新たに指示を出し、副長が復唱。

 これに私達も応じてブリッジは慌ただしくなる。

 ここまではエステバリス隊に目を向けられないよう防戦気味でしたが反撃です。尤もそれでもヤンマは一隻持って行ってますが…。

 

「グラビティブラストを撃つわよ、ルリルリ!」

「はい! ダメ押しします」

 

 ミナトさんが合図を掛け、私は甲板上の砲戦フレーム2機に指示を送ってレールキャノンを構えさせる。

 勿論、その間にもバッタは群がり、ミサイルが襲い掛かり、ブラスターのオート射撃と他の無人エステバリスによる迎撃は続いている。

 また、敵艦からのレーザーがナデシコのフィールドを舐めて、リニアカノンの軌跡が掠める。

 

「発射!」

 

 いつもは優しい声に鋭さが帯び、その発声とほぼ同時に収束された高重力のビームがナデシコから伸びる、陽炎のように揺らめく光の屈折が前方300キロ以上先、ほぼ直線にあるカトンボ2隻とヤンマ1隻を飲み込む。

 駆逐艦であるカトンボは、ナデシコに比して三割程度の性能。フィールドも同様で脆い。

 だからナデシコの収束型グラビティブラストの直撃には殆ど耐えられない。もっと距離が離れていれば別ですが、それを示すように。

 

「カトンボ二隻中破、ヤンマは健在…推定フィールド20%低下」

 

 私に代わってメグミさんが報告を上げる。

 何となくブリッジクルーもコツというか連携が取れて来ましたね……一瞬、そんな事を思いつつ砲戦フレームのトリガーを引く。二機双方に三連射!

 レールの摩擦で白熱し、弾体を覆うアーマチェアがプラズマ化した磁性砲弾が超高速で連続して打ち出される。

 プラズマ化の影響でビームのような光弾にも見える6つそれは、中破し火球と成りつつあるカトンボの傍を通り過ぎてその後方に在るヤンマに突き刺さった。

 

「――ヤンマへの直撃を確認! ……大破、いえ、轟沈します!」

 

 メグミさんの続く報告。

 突き刺さった光弾は二発がフィールドに阻まれましたが、残りの砲弾がその二発の干渉点に飛び込んで敵防御を突破した。

 

「やるなホシノ、見事な砲撃だ」

 

 ゴートさんの称賛が聞こえる。

 

「実体弾……いや、レールキャノンの攻撃でフィールドの干渉点を穿てば、やはり有効打が狙えるか」

「はい、先程のはグラビティブラストによる減衰もありますが、レールキャノン……地上で使えばマッハ10〜15以上で飛ぶ弾体の運動エネルギーに伴う見掛け質量は、フィールドの時空歪曲界面への質量作用に急激な負荷を与えます。この界面への干渉負荷を修正する前に連続して更に負荷を与える事で歪曲面には崩壊点が生じます」

「そこからフィールドをこじ開ける訳だな」

「……いうは易し、ですが」

 

 私の説明にゴートさんは、ふむ…と唸る。

 実際、艦船とはいえ、ジッと停止している訳ではないですし、機動兵器に対して巨体であるとしても距離に寄っては豆粒や米粒のように小さく見える。

 更に言えば、敵の猛火に晒されている今のような状況であれば、当然こちらも回避などで動いている。

 そんな状況で正確に点をこじ開けるような射撃や砲撃が可能であるかは……余程高度な演算力か予測を行わないと無理。

 妨害技術が高度に発達した現在、旧世紀にあったようにレーダーやレーザー照準が当たり前に出来る時代ではなくなったのですから。

 

 まあ、そんな正確な射撃が出来てしまうのが私とオモイカネであり、リョーコさん達のような超エースパイロットなんですけど……。

 

「難しい話はともかく、これでこっちのヤンマはこれであと一隻よ」

「はい、とっとと落としてしまいます。ミナトさんお願いします」

「OK、任せてルリルリ。やることは同じなんだから♪」

 

 ペロリと赤い唇を舌なめずりして少し獰猛な笑みを見せるミナトさん。普段の優しげな印象から雰囲気が変わりますが……何となく似合いもします。

 これが大人の魅力というものでしょうか? 未来の自分の姿を思い浮かべるとそんな風になれるとは思えない。同じ女性なのに。

 自分で言うのも悲しくなりますが、人によっては合法ロリとかいうタイプですからね、私。

 ……ほんと、涙が出そうなくらいに悲しくなります。

 なので、あ(・)の(・)剣(・)士(・)のように可愛らしくも凛としたタイプを少なくとも目指したい所です。

 

 にしても、敵もこちらの狙いを流石に看破しています。

 ヤンマが射線に入らないように艦隊を動かして牽制と猛攻を掛けてきます。逆に向こうのグラビティブラストがナデシコのフィールドを揺るがす。なら――

 

「ミナトさん、ヤンマを無理に狙う必要はありません」

 

 艦長の声。やはり同じ事を考えますか。

 

「!……了解」

 

 艦長の声掛けと同時に私は操舵席の端末へデータを送り、それを見たミナトさんは首肯をする。

 データ内容は簡単な事。ヤンマを無理に狙う必要は無いのであればと、敵の分布図から狙いを付け易いカトンボにターゲットマーカーを示した。

 

「撃つわよ!」

「はい、こちらも正面以外を狙います!」

 

 そうして再び光を屈折させる大槍がナデシコから伸び、プラズマを纏った磁性の光弾もエステバリスから無数に撃たれる。

 その大槍と光弾が飛び交う度に漆黒の宇宙(ソラ)に熱く輝く大輪の華が咲き散る。

 またそんな大輪の華を彩るかのように幾つものレーザーの光条が奔り、火線で貫かれた小さな花火が輝く。

 

 

 戦闘開始から凡そ30分後。

 

「敵、散開しつつ後退の動きアリ」

 

 中央部隊もエステバリス隊に崩された敵は散り散りに撤退を始めます。

 

「ルリちゃん、敵の損耗は?」

「凡そ七割です」

「うん、“全滅”というには十分過ぎる戦果だね」

 

 私の算定に艦長は満足そうに頷きます。

 軍事上の定義による全滅は戦力三割の損失。その倍以上の七割となれば、それはもう十分どころではないです。

 

「正直、もう少し早く下がると思っていたんだけど」

「そこはやっぱり無人機だからじゃないか? 人的な損害は出ないんだし」

「……そうだね」

 

 疑問気な艦長にアオイさんが答えて、それに納得いかなそうな様相ながらも頷き返す艦長。

 

「では、フェーズ2に移行します。ナデシコも敵に合わせて後退。エステバリスに帰還命令を。進路をデブリに向けて下さい」

「了解。作戦はフェーズ2へ移行。ナデシコは回頭反転し後退。エステバリス隊に帰還命令。これよりデブリ帯へ移動開始」

 

 艦長と副長の指示が飛ぶ。

 ここからが本番です。火星近海に展開していた敵の状態を鑑みるにフェーズ2は問題なく行くでしょう。

 アレだけの損害を一方的に与えたのですから敵は慎重になる筈。直ぐには仕掛けては来ない。

 先の威力偵察でナデシコの実力を温存していた甲斐があったというものです。この短期間でのエステバリスのアップデートも想定外だった事でしょう。早くも登場したセイヤさんの玩具も。

 

「ただ、順調過ぎるのも怖いものですね」

 

 前(・)回(・)の失態は、慢心と油断から来た部分もある。

 この一方的な戦果がそれに繋がらなければ良いのですが……。

 

 ナデシコと私達は確かに強力で優秀です。

 しかし、どれだけ強くとも単独、単艦では出来ることに限りが在る。

 戦力評価で皆、それは分かっていると思う。この勝利の上でも……。

 なのに不安が消えない。それは前回の失態のせいなのか? それとも――帰還シークエンスに入ったエステバリス隊……ウィンドウに映るそれらの内、一機を見つめる。

 

 この戦いの前、昨日の晩にアキトさんには伝えていた事がある。

 火星の脱出が困難な場合の最終手段。ソレを頼る際に必要になる事を。

 

「いえ、大丈夫です。きっと……」

 

 そうはならない……させない。

 その為に出来ることはやってきた。だから大丈夫。

 

 ナデシコはいよいよ火星へと降りる。でも『運命の選択』なんてものは決して選ばせない! 無事に地球へと帰ります。

 

 

 




 原作では監督がメカアクションに照れがあるとの事であまり無かった部分を本作では少しでも補えるようにつらつら書いてます。
 それとSF作品らしさも意識しています。

 それでも上手く書けてるかは別なのですが……思った以上に文章が長くなっていますし。
 やっぱり戦闘シーンは難しい。
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