偽伝・機動戦艦ナデシコ T・A(偽)となってしまった男の話   作:蒼猫 ささら

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第四話―――友誼

 

「すみませんでした、アキトさん」

 

 ルリちゃんが謝った。

 

「いや、そんな大した事じゃないよ、大丈夫だと思うから」

 

 頭を下げるルリちゃんにフォローする。

 

「ですけど……」

「大丈夫だって、俺の両親の死はネルガルの所為だったんだし。それに結局、そのユリカは何も聞けずに戻ったみたいだし」

 

 それを知る術はない。アニメ視点で見ていた俺はともかく、ルリちゃん達の視点では分かりようがない事だからだ。

 ちなみに俺は、“未来の俺”がユリカ嬢から聞いたという事にしている。

 

「だから大丈夫」

「……そうですね」

 

 ルリちゃんも納得したようだ。そう大きな影響はないと考えたのだろう。

 

「……」

 

 さて、なぜその件でルリちゃんが謝ったかというと、どうもあの時、この子が俺の部屋を訪れた際、ユリカ嬢が俺を探し回っていたのを副長のジュンとプロスさんに伝えたからだ。

 それで2人に咎められてブリッジへと連れ戻され、ユリカ嬢は俺の部屋を訪れる事が出来なかったらしい。今もプロスさん、ゴートさん、フクベ提督、ジュンの他、ウリバタケさんを始めとした各部署の責任者と会議中で忙しくしているとの事。

 ルリちゃん的には、あの時は俺との話を邪魔されたくなかったからそうしたそうだが。ユリカ嬢をブリッジへと戻しながら、ちゃっかり自分が抜け出している事に何とも言えないものを覚えなくもない。

 ……悪意はないみたいだけど。

 ともあれ、その為にユリカ嬢のパパさん訪問フラグが潰れ、ルリちゃんは謝った訳である。

 

「過ぎた事をあれこれ言った所で仕方ないし」

「はい」

「それで明後日には、宇宙に出る事になってるけど」

 

 宇宙へ出る。

 つまり外敵から地球を守る第一から第七防衛ラインを逆から突破する事になるのだが、原作のそれは地球に大きな禍根を残している。

 

 地球連合軍への根回し不足か、それともネルガルの敵対勢力による工作の所為か、はたまたユリカ嬢の説得の失敗が大きいのか、ナデシコを捕捉する為に連合軍は大規模な軍事行動を取り、これに刺激を受けた無人兵器群が襲い掛かり、軍は予想だにしない戦闘に強いられて甚大な損害を被った。

 

 アニメ的にはギャグの面が強調されたが、実際その影響は地球上の各戦線に多大な悪化を齎した筈だ。気軽に考えて無視して良い話ではない。

 ビッグバリアの方も問題だ。アレに穴が開いた事でチューリップが更に地球へと打ち込まれただろう。融合炉爆発によるブラックアウトが発生したという台詞もあった。

 

 原作での連合軍のナデシコへの印象の悪さはこれらに大きな原因がある。

 まあ、これのお蔭で独立部隊として軍から遠ざけられて自由気ままにやれた所もあるが、冷遇されて単艦で無茶な作戦に投入されたのも事実だ。画面外でも恐らく色々とあった事だろう。

 この辺はどちらが良いと言い切れない部分はあるが、軍民共に反感を買った事や後にあった問題を考えると、やはり原作通りの道は避けた方がいいように思える。

 オモイカネが連合を敵と見なして攻撃した件もある。

 

「ええ、あの件はデータの削除……思い出の喪失こそアキトさんのお蔭で免れましたが、オモイカネの成長を遅らせたのも事実です。軍や民間の反感を買ったのも勿論問題ですけど……」

 

 俺の話を聞いたルリちゃんは同意を示す。

 

「ですから今回も手を打ちます」

「緊急停止コードだね」

「はい。それもありますが、もう一つ別に手を回す積もりです。それでその事で……アキトさんの意見を聞きたくて」

「良いけど、何かな?」

 

 この子のやる事で俺に何かできる事があるだろうか? そう思って首を傾げつつも話を聞く。

 

「アキトさんも言ったように先のミスマル提督の件も含めて、防衛ラインの件には反ネルガル勢力が関わっているのではないかと私も考えています」

「……うん」

「普通であれば、あんな無茶はしません。サセボでナデシコの威力を見たのであれば、ネルガルに新造艦の建造ないし現行艦の改修などを発注・依頼するのが道理です。ネルガルも大きな予算が動く軍需……多大な利益を齎すその話に乗らない筈がありませんし、参入を考えないなんて事もありません」

「そうだね、プロスさんも根回しをしているって言ってたからその辺りの話も当然出ていて、連合軍と交渉は進んでいたと思う」

「はい、ですからそれを嫌った軍需最大手……まあ、クリムゾングループなのでしょうが、彼等が敵対するように煽ったのではないかと。あわよくばナデシコの接収に託けて技術解析・盗用も視野に入れて軍の主流派と……」

「……何となくルリちゃんの考えている事が分かった。痛くない腹……もとい痛い腹を探ろうって事?」

 

 ルリちゃんは無言で頷く。

 献金、賄賂、癒着、袖の下、鼻薬などなど色々な言い方はあるが、反ネルガル勢力と連合軍のそういった後ろ暗い関係を探ろうという事だ。

 

「緊急停止コードは後に使い道がありますし、今回の突破では余り切りたくはないカードです。一度使えば対策が取られると思いますし、ですから今回はそこから……」

「強請ろうって事だね」

「はい」

 

 確かに緊急停止コードは後の地球脱出に使ってはいる。今回も同様の状況に進むかはまだ分からないが出来れば取って置きたい手札だ。

 対策の結果、ただコードを変更するだけなら兎も角、停止手順自体ガラリと変わる可能性がある。或いはそれ自体がなくなるか。

 しかし、

 

「ルリちゃんの能力を疑う訳じゃないけど、強請りネタがそんな簡単に見つけられるかな?」

「防衛ライン突破までまだ時間があります。やってみせます。当ては幾つかありますから」

「……分かった。反対はしない。停止コードは言う通り出来れば取って置きたい。ルリちゃんにそこまで自信があるなら間違いないんだろうし、でも無茶はしないで欲しい」

 

 ルリちゃんとオモイカネ、この二つがあってこそ成せる事なのだろうけど。それでルリちゃんが危険視されるのは嫌だった。

 止めるべきなのかとも考えるが、

 

「大丈夫です。これぐらいの事であれば私とオモイカネでなくとも、腕利きのハッカーであれば出来る事ですから」

 

 心配を見透かされたように笑顔でそう言われた。

 

「でも、心配してくれてありがとうございます、アキトさん」

 

 その嬉しそうな可憐な笑顔に一瞬見惚れそうになって、いや……と視線を上へズラして誤魔化した。

 この子は子供、11歳の子供。俺はノーマルだと、断じてそんな趣味は無いと念じて。

 

 

 

 

 密会の現場……という感じもあってその部屋、ルリちゃんの部屋から出ると何処かホッと安堵めいた感覚を覚える。

 あの時のように緊張を感じてはいない積りだったけど、そのように考えてしまい、安堵を覚えるという事は、まだまだ自覚してない範囲で緊張があり、ルリちゃんを意識せざるを得ないのだろう。見惚れそうになった事もある。

 

「……にしても」

 

 ドツボに嵌りそうな考えから意識を逸らして思う。

 殺風景な部屋だった。

 未来のルリちゃんの精神があるって事は、それなりに情緒が育まれている筈なのに飾り気が皆無だった。

 

「いや、ずっと研究所暮らしだっていうし……」

 

 そういった物を揃える時間がなかった。持てなかったと考えるべきか。それに今にしても戦艦の中だものな。

 

「……」

 

 むう、と腕を組んで通路を歩く。

 何とかしてあげたいと思う。いや、余計なお世話かな? それでも考えてしまう……、

 

「アーキートー!!」

「うわっ!?」

 

 背後から急に両肩を掴まれて、驚き思わずピョンとウサギのように前へと跳ねる。

 声から肩を掴んだ者の正体は分かっていた。

 

「艦長! 何をするんだ!?」

 

 振り返って驚かせた人間……ユリカ嬢に向かって声を荒げてしまう。

 

「むー、アキト冷たい!」

「な、何がだ」

「折角、会議を早く終わらせてこうして会いに来たのに」

 

 子供のように頬を膨らませるユリカ嬢。

 

「ユリカ、ずっと待ってたんだよ! でも全然来てくれないんだもの」

「いや……お前……」

 

 ルリちゃんから聞いているぞ。大事な発表がある直前にブリッジを抜け出して俺を探し回っていたのを。あとあのパパさんの艦隊を振り切った後も会議があるのに即行抜け出そうとし、提督とプロスさんに咎められて「ジュン君、あとお願い」をやろうとして叱られた事も。

 どの口が言うのか……。

 呆れるが口には出さない。ユリカにしてみれば気になる幼馴染に再会できた訳で、積もる話をしたいという思いも分からなくはないからだ。

 

「で、何の用だ」

 

 分からなくもないので彼女に付き合う事にする。

 

「えっと……改めて久しぶりだね、アキト」

「ああ、十年ぶりだよな」

「うん!」

 

 サセボでの他人としてではなく、幼馴染みとしての再会の挨拶に応じるとユリカ嬢は嬉しそうに満面の笑顔を見せる。

 晴天の中で輝く太陽や夏の向日葵を思い起こさせる明るい笑顔だ。

 ……なるほど、魅力的だと思う。テンカワアキトが彼女を選んだ理由がその笑顔だけで分かる気がした。

 

「アキト、元気そうで良かった」

「なんだ、昔話に花を咲かせに来たのか?」

「えへへ、そうだよ。だって十年ぶりなんだもの。話したいこと一杯あるんだから!」

 

 本当に嬉しそうに明るく無邪気に笑う。子供のように。

 けど、その笑顔は……ああ、そうなるとあのルリちゃんの笑顔も、俺にではなく――――――考えないように首を振る。

 

「ならちょっと場所を変えるか」

「そうだね。展望室に行こ!」

 

 首を振ったこともあって仕方なさげにして言うと、ユリカ嬢は俺の手を取って半ば引っ張るようにして歩き出した。途端――

 

「――!」

 

 一瞬視界に自分の手を引く、長い黒髪を持った幼い女の子の後ろ姿が見えた。

 思わず立ち止まってしまう。

 

「? アキト、どうしたの?」

「ああ、いや……」

 

 幻覚だ。恐らく夢と同じくテンカワアキトの記憶。それを強く垣間見た。直ぐに消えたが。

 

「なんでもない」

「? ……そう」

 

 ユリカ嬢は不思議そうな顔をするが、まあ、いいかといった感じで俺の手を引いて……じゃなくて、

 

「いや、手を繋がなくとも俺は逃げないから……離してくれませんかね」

「ダーメ。アキト、手を離したら直ぐに私から離れて行っちゃうんだもの」

 

 通り掛かったクルーの視線に気付き、手を離してくれるようにお願いしたが、当然のごとく彼女は取り合ってくれない。

 

「だから逃げないから、さ」

「ダメ、こうするのも久しぶりなんだし、アキトが照れ屋さんなのも分かるけど……」

 

 そう言いながらグイグイと引っ張っていく。

 俺は溜息を吐くしかない、そう昔からコイツはそうなのだ。人の言う事なんて全然聞かない。

 さっきの幻覚の所為かそんな思考が過る。“アキト”の思いだろう。記憶と共に彼の感情もこうして呼び出される事がある。

 主幹が俺の意識にあるから、それに振り回される事は無いのだが……これも余り考えたくない事だった。

 

 

 

 展望室に火星の風景を……テラフォーミング用ナノマシンによるオーロラが掛かった空と、いつか見た草原をユリカ嬢はコミュニケから操作して映し出し、俺はその風景を楽しみながら、彼女は懐かしみながら言葉を交わした。

 話すのは主に彼女だ。

 

「アキト……」

「アキトは――」

「アキトって――」

 

 十秒に一度の割合で俺の……彼の名前を呼んで昔の思い出を口にする。飽きる事は無いのかと思うほどに。

 俺はそれに殆どは相槌を打つばかりだが時には口を挟む。彼との記憶違い……ユリカ嬢が都合よく改変した妄想(きおく)を事実のように話す事があるからだ。

 そうなると“アキト”としては反発したくもなってしまう。そうして30分ほどして――

 

「ふふ、でも本当に良かった。アキト、元気そうで」

「ああ」

「お父様からは、テンカワの家の人は全員亡くなったって聞いてたから」

「……」

「私、あの時、すごく泣いちゃったんだよ。何日も何日もふさぎ込んじゃって、ベッドで泣いて、お父様やお手伝いさんを随分心配させちゃって」

「……そうか」

 

 その話が出た。

 でも、俺は相槌を打つだけに留めた。彼女は……ユリカ嬢は知らないのだから、真相を。

 だから、

 

「ねえ、アキトはいつ地球に来たの? 来ていたなら教えくれても良かったのに」

「住所も連絡先も分からないのに教えられる訳ないだろ」

「むう、それはちょっと冷たくないかなぁ? 私だったら一生懸命探すのに」

「地球に来てから大変だったからな、そんな余裕はなかったよ」

「……そっか、アキトにも事情はあるか、そうだよね。じゃないと私を探さない理由は無いんだし」

「はあ、相変わらずだなホント」

 

 都合よく解釈する彼女の捉え方に呆れる。

 

「それで、おじさんとおばさんは元気? 地球に来ているんでしょ?」

「………………」

「アキト?」

「……事故で亡くなった」

「え?」

 

 黙ったことで訝しげだった表情が驚きに変わる。

 まったく教えないで置こうかとも迷ったが、両親がいない事は誤魔化せないように思えて事故という事で落ち着けた。

 

「そ、そんな! 嘘でしょ!? 何時!?」

「もう結構前になる」

「……アキト、ごめんなさい」

「いや、良いんだ。気にしなくても」

 

 空気が読めない彼女だが、さすがに気まずさを覚えたようだ。原作では殺された事を聞いて、彼が変に憤った所為か、おかしな妄想を拗らせたが……こうやってゆっくりと“アキト”と話せて、楽しく思い出を消化できたお蔭なのか、拗らせる様子はない。

 思うにアレはアキトが構わない所為で勝手に暴走したのではないかとも考えられる。ああいった暴走や妄想は、ユリカ嬢なりのフラストレーションの解消の仕方なのではないだろうか?

 

「……んじゃあ、行くよ。仕事もあるし」

「あ、うん。……お仕事頑張ってね。あと……その、元気出してね」

「……ああ、ありがとう。こうしてお前と話せて良かったよ」

 

 言葉が途切れた所為というのもあるが、実際コックの仕事があった。元々休憩時間を見てルリちゃんの所へ行ったのだ。

 

 

 

「……話せて良かった、か」

 

 通路を歩きながら呟く。

 別れ際のその言葉はつい自然と零れたものだった……が、俺は本当にそう思ったのだろうか?

 確かにユリカ嬢と話すのは嫌な感じではなかった。むしろ楽しく話せていたように思える。それこそ久しぶりに会った友人との会話のように。

 けど、やっぱりそれは、

 

「くそっ……」

 

 小さく罵った。

 俺の感情ではないのだろう。ユリカ嬢が感情を向ける“本当の相手”と同じで。

 

「俺は――」

 

 途端、どうしてかムシャクシャした感情が湧いて来た。

 どこにも行き場がない、出口がない、胸の中にグルグルとした形容しがたい苛立ちを感じる。

 

「すう、はぁーー……」

 

 それを吐き出そうと強く息を吐く。それでも余り気が晴れなかったが。

 

「……さあ、仕事だ」

 

 厨房で働けば、その忙しさでその内気にならなくなり、こんな苛立ちは忘れられるだろう。

 そう思う事にした。

 

 

 

 

 仕事を終えて部屋に戻ると、ドアを開けた途端に軽快な音楽が聞こえてきた。

 

「この曲は……」

 

 聞き覚えのある音楽にアイツが居るのだとすぐに理解した。

 

「おう、コックか」

 

 投影用のスクリーンに大画面を映し、そいつはアニメ……そうあのゲキガンガーを見ていたのだが、集中していて気付かないかと思いきやリビングに入るとこちらに振り返った。

 

「確かヤマ「ダイゴウジガイだ!!」ロウ」

 

 名前を呼ぼうしたら大声で途中で言葉を塗り替えられた。

 だが、ロウという言葉尻が聞こえたのだろう。

 

「ダイゴウジガイだ!!!」

 

 もう一度この男は言った。先程よりも大声で。

 ……こいつはこんなんでどうやって今まで過ごしてきたんだろうか? 誰かに本名を呼ばれる度にそう叫んでいたのだろうか? ナデシコに来る前はパイロット養成の士官学校に居たという話だが、そこでもそうしていたのだろうか? 階級絶対の縦組織で教官などを相手に? そんな疑問が過った。

 まあ、とりあえず、

 

「分かったよ。だけど俺の事もコックじゃなくて名前で呼んでくれ」

「ああん、ホントに分かっているのか? なら二度と間違えるなよ。この俺の魂の名を! このダイゴウジガイ様の名前を!!」

「ああ」

 

 一々大声で叫ばれるのも面倒なので素直に頷く。

 

「ふん、まあ、いいだろう。それで……それで、……それ、で」

「うん?」

「……えっと、お前なんて名前だっけ?」

「……」

 

 同室になる相手の名前を聞いていないのかコイツは……。呆れ――

 

「――いや、まあ、そうだな。自己紹介はしてないしな。俺はテンカワアキト。コックとして雇われた」

「お、そうそう、そうだ。アキトだ。テンカワアキト。艦長がそう言ってたな」

「ああ、急な同室って事で迷惑をかける事になったけど、よろしく頼むよ、“ガイ”」

「……おお、応! アキト! ナデシコの左も右も分からないお前の事を、この“ダイゴウジガイ”様が面倒を見てやるぜ! 任せろ!」

 

 なんだか良く分からないけど、急にテンションを上げるガイ。なんか感動してないかこいつ? ちょっと目尻が光っているような?

 

「よし! ならば早速だ! 男が見るべきこの熱き聖典! 魂のバイブル! それをお前に特別に見せてやろう!!」

「あー……」

 

 見せてやろうと言うがもうそれスクリーンに映っているよな。ゲキガンガーの事だよな。

 正直、コックの仕事に疲れているんだけど……料理に気が向いていないってホウメイさんにどやされてきつい仕事を回されたし。

 しかし、うん……まあ、

 

「そうだな、見せてくれ。ゲキガンガー、懐かしいよな」

「お、お前、知っているのか!? この幻の超大作の事を!」

「ああ、小さい頃に見てたから」

「そうか! そうか! コックだとか言いながらエステに乗って美味しい活躍をしやがってなんだコイツは? ……とか思ってたけど、そうか! そうか! お前も同士だったんだな! やっぱロボットは、熱血はロマンだよなぁ!」

「ちょっ!? ガイ、近い、近いって!!」

 

 ガシッと肩を掴まれ、グッと顔を近づけて興奮した面持ちで語るガイ。

 

「よぉし! そうとなったら一話から一気見だ! 今日はゲキガン祭りだぜ!! オマケに俺様の特別編集したスペシャルの奴も見せてやる!!」

 

 テンション高く叫ぶとガイは再生機の前に座り、ディスクの交換を始める。

 

「……」

 

 ゲキガンガーという作品が気になっていた事もあって付き合おうと思ったのだが失敗だった。これは止めるのは無理だろう。ユリカ嬢とは別のベクトルで話を聞かない奴だし。いや、予測して然るべきだった。

 明日は寝不足確定か。

 

「……疲れているのに」

 

 がっくりと肩を落とす。

 しかしそんな奴だけど、悪い奴ではないし、気の良い人間でもあるんだよな。

 ……でも、もしかしたら、

 

「明後日か」

 

 防衛ラインの突破。

 副提督はとっくに降ろしている。ルリちゃんの進言で救命ボートに乗せて太平洋に放り出した。

 軍に通信を送っているから今頃救助されている事だろう。

 だからガイが死ぬ事は無いはずだ。その要因は除去してある。心配はいらない……筈だ。

 

 ――少し不安だった。

 

 

 




 ユリカさんについては嫌いではないのですが、正直原作での印象は微妙な感じでした。しかし今話を書いている内に私の中に印象の変化を感じています。
 原作のメインヒロイン―――しかし真のヒロイン(某ドラマCDのルリちゃん曰く)によってその座を奪われてしまいましたが―――であり、アキト(偽)に絡む以上、彼女にも上手い役回りを与えたい所です。

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