カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第十話 リッカの使命

 火影室に入るまで、オレとリッカは一言も喋らなかった。

 今何か話しても再び火影様の前で話すのだから、二度手間になるから…だけでなく、お互いに深く考えを巡らせていたのだ。

 

 机に両肘をついたまま手を組み座る火影様の前に二人並び、リッカの元に一人の男が訪ねて来たことだけをオレから簡単に説明した。

 リッカに向かって続きを促すように頷いてやると、同じように彼女も頷き返し、一呼吸おいてから話し出した。

 

「私の国は緑の国ではありません。(もり)の国と言います」

 杜の国は確か緑の国の隣国だ。あの辺りは小国がいくつもあり風土も似ているのだ。

 旅の始め頃に誇らしげに国の美しさを話していたが、あれは杜の国の景色を思い浮かべていたに違いない。

 

 リッカは話を続ける。

「周囲の国はこの五大国近辺とは文化が少し違います。杜の国には大名はいません。代わりに国王と呼ばれる者が国を治めています。私の父が国王です」

 

「それであの時の刺客が、兄上達だったと…」

 黙って聞いているつもりだったが、思わず口に出してしまった。

「何?」火影様も驚いたようだが、それ以上は何も言わない。

 リッカは頷き、話を続けた。

「はい。お母様は違いますが、あの四人のうち二人がお父様と前王妃との子、王子です。私の兄様で、私が…」

 リッカが殺めた男が兄の一人だったのだろう。四人のうち二人が手練れだったのは、二人の王子とその護衛だったということか…。

 

 何から話すか迷ったようだが、ゆっくりと話し出した。

「そうですね、まずはそこからお話しします」

 

 リッカが依頼時、最初に話した国名や、ただの金持ちというのは確かに嘘だった。だが、忙しい留守がちの父と、弟の出産時に亡くなった母、というのは真実だった。全部が嘘ではなかったから真実味があったのだ。

 リッカが語った自分の名前の由来なども真実なのだろう。

 

 二人の王子の母親、今は亡き前王妃は国内の有力者の娘で、その親族は王妃亡き後も二人の王子の後見として権力を振るっていた。

 後に王に見初められ新王妃となったのは既に滅びた国出身の女性で、これがリッカと弟の母上にあたる。

 このリッカの母である新しい王妃には国内の後見こそなかったが、国民にはとても慕われており、前王妃勢力の横暴に辟易していた者など、新王妃の子供が王統を継ぐことを期待する者も多かった。

 

 元々小さな内乱が度々起こるような不安定な国だったが、ついに前王妃派と新王妃派で国が二分してしまう結果となった。それでもなんとか新王妃派が優勢を保っていたが、新王妃も亡き人となり、前王妃派が勢力を増しつつあった。

 

 そんな折、一人の男が王宮に出入りするようになった。

 その男はいつも黒いマントを羽織り、フードを目深に被っていた。皆、最初は不審に思っていたが、男が興味深い話を始めた為、重臣達がこぞって招くようになり、いつの間にか国の中枢にいた。

 

 その男は遠い火の国の木ノ葉隠れの里に伝わる禁術や、秘伝を手に入れることができると言ったのだ。

 火の国と言えば忍び五大国の筆頭。前王妃派も新王妃派も目の色を変えて欲しがった。

 しかし、その男が禁術や秘伝を持っている訳ではなく、木ノ葉隠れの里を襲撃し奪うことで手に入れる事ができるのだと、襲撃にあたっては木ノ葉の地図や警備の配置などは全て判っているので問題ない…、と言ったと。

 

 大国相手の襲撃計画に当初は両派閥とも難色を示していたが、他方に手に入れられては困ると考え、国王が王妃の喪に服している間に、国として木ノ葉を襲撃する事を決めてしまったのだ。

 

 

 オレはここまで話を聞いて、一つの確信を持った。

 火影様に目をやると、同じ様にこちらを見上げており、頷きあった。

 それには気付かずリッカは話を続ける。

 

「いくらその男が木ノ葉の情報を手に入れていても、相手は大国です。我が国のような小国が国をあげて挑んでも、到底、敵う筈がありません。これは隠れ里の襲撃という問題ではなくて、戦争を仕掛けるという事です。他方に取られたくない、という意地だけで大国に宣戦布告し、血を流すのは派閥争いをしている者達ではなく、多くの忍です。私の国には隠れ里がないので、忍は全て国に属します。国が命令すれば行くしかないのです。でもそれは、お父様の、国王陛下の意志ではありません。私は止めたかったんです…」

 

 まるで、止めたかったが止められなかった…、みたいな言い方だな…。そのオレの考えが聞こえたかのように、リッカは少しの間話を止め、オレの顔を見上げていた。

 

「戦争を止めたかった私は男と…、ある約束をしてしまいました」

 リッカは、オレの目をしっかりと見上げて続ける。

「その約束は…、木ノ葉の忍、はたけカカシを国に連れて来ること…。写輪眼という瞳術で、どのような術も人心も思うがままという忍、その忍を連れて来ることができれば、木ノ葉襲撃計画を白紙にしても良いと…、自分が協力しなければ不可能な計画なので、自分が手を引けば当然そうなると言いました」

 

「それでうちの班ご指名だったんだね」

 ニッコリ笑ってやると、悲しそうに目を伏せて頷き

「はい…。波の国の件や、どのようにしてか、隣国から火の国に行くという学者まで見つけてきて、火の国に着いたら飲ませるようにと、軽い毒薬も渡されました」

「その男の計画だったんだね」

 リッカに言いながら、オレは再び火影様と頷きあった。…間違いない。

 

「兄様達の件で失敗に終わりましたが、…でも、あの前から少し迷っていました。私は、私の国の事しか、私の国の忍のことしか考えてなかった…。皆さんと一緒に旅をして、他の国にも人がいて、その国を愛し守っている人達がいると…、そんな当たり前の事なのに…、考えてなかった。そんなときに…、兄様を殺してしまって、どうしていいかわからなくなって…」

 

 次々こぼれる涙を拭いながら、必死に言葉を続ける。

「カカシ先生とたくさんお話しして…、里を見せてもらって、私の国だけじゃなく、木ノ葉も守りたい、守らなきゃって思ったんです…。でも、でも、今日ヒイラギに言われて…気付いたんです。私、木ノ葉に居たらいけない!」

 

「…このタイミングで言うべきかわからないけど、実はね、オレがお前預かることになった時に、火影様に言われた事があるんだ」

 火影様も頷いたのを確認して続ける。

「お前が望むなら亡命を勧めてくれってね。ずっと木ノ葉に居ていいんだよ?」

 

 オレを見上げた深い緑色の瞳が大きく見開いて、大粒の涙が溢れだした…。

 

 少しして、リッカは涙を拭うと、表情を隠すように俯いて言った。

「…ありがとうございます。…でも、私は木ノ葉に居ては…、いけないんです」

 自分に言い聞かせるように繰り返す。

「居ちゃいけない。早く帰らないと…」

 

 おそらくヒイラギに言われた「火種」を気にしているのだろう…。

 彼女の強情さをオレは知っている。一度言い出したら聞かないのだ…。

 帰ると言ったら帰るだろう。困ったね…、どーも。

 

 代わりに、小さな疑問を尋ねてみることにした。

「ところで…、兄上達も忍だったけど、お前の国では王族でも忍になるの?」

「はい。私の国では何度も内乱がありました。その中で一番困るのは忍が王家に反乱を起こす事です。そう考えた過去の王が王子を忍にし、部隊に所属させる事で、忍の内乱を防ごうとした事が始まり、と聞いています。私はまだ部隊には所属していませんが、ヒイラギ…今日の例の者です。私が幼い頃より彼が護衛として仕えながら、護身術として、体術、忍術などを教えてくれました」

 幼い頃よりって…、まだ十分、幼いんだけどね…。

 

「そっか、彼も氷遁を使うし、家庭教師にはもってこいだ」

「はい、氷遁は私の母の家系からですが、ヒイラギもお母様と同じ国の生まれで…」

 

 しばらくオレ達の話を聞いていた火影様が、オレを見て言った。

「ふむ。少しシカク達とも話したいのォ。カカシ、シカク達と、その間にこの子を見ておるようにナルト達も呼ぶように言ってくれんか」

 オレは頷き、次の間に控えている者に、シカクさん達幹部連中と、ナルト達を呼ぶように伝えた。

 幹部連中にはリッカの一連の件について知らせてはあるが、今回新たに分かった事について、急ぎ協議するべきであると考えられたのだ。

 


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