カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第二話 旅立ち

 翌朝、約束の時間通りに里の出入り口である「あうんの門」に現れたオレを見て、三人が唖然としている…

 

 一転、ナルトはキリッと表情を引き締め、とんでも無いことを言い出した。

「お前!ぜってー先生の偽物だってばよ。先生が時間通りに来るわけねーってば。いいかー!変化する相手の事はよーく調べねーとダメなんだよっ!」

 最後のは確かにその通り、ナルトにしては珍しく正論を吐いたね。しかし…

「お前ねぇ…」

「なんだよ!やるのかぁ!?」

 オレに襲いかからんばかりの勢いだ…。

 100%疑っている…、自らの蒔いた種か…。

 

「あのねー…。いくらオレでも依頼主は待たせないよ」

「依頼主?」

 隣を歩いていたはずだが、ナルトの剣幕に驚いてオレの陰に隠れたようだ。

「ほらー、怖がらせちゃったじゃない…。ごめんな」

 後ろを振り返って頭をポンポンと撫でてやる。

 三人がまた唖然とする。

「えぇぇー!何でだよ!旅だって言ってたのに、こんなガキ連れかよ!? なんだよー、これじゃぁ子守りと変わん」

 ゴツンッ! 全部言い終わる前に、ナルトの頭に拳骨を落としておいて謝る。

「ごめんな。悪いやつじゃないんだ。ただ、ちょーっとバカなだけだから…」

 

 ガキと言われて怒るのはガキだけである。という事は、この少女は既に大人なのだ。

 ペコッと行儀良くお辞儀してから、満面の笑顔で言った。

「はじめまして!リッカと申します。これからお世話になります」

 三人は揃いも揃って、口をぽかーんと開けてやがる…。

「…え、えーっと、ナルトさんと、サクラさんと、サスケさん、ですよね」

 宿屋から門まで歩く間に三人の特徴を教えてあったので、ひとりひとり確認するように言った。

 オレが頷くと、もう一度。

「それとカカシさん、ですね。よろしくお願いします」

「うんうん。よろしくね」

 まだ口を開けたままの三人に言ってやる。

「…お前らぁ? 挨拶もできねーのか?」

「あ、あぁ、よろしく」

「よろしくねー」

「リッカ!よろしくな!」

「リッカさんだ! 言っとくが、依頼主だからな? 敬意を払って接するよーに」

 そのオレの言葉に、リッカは手をブンブン振って否定する。

「いえいえ、依頼主は入院している先生ですし、お金を出すのも父です。私は皆さんにお世話になるだけしかできないので、敬意なんてとんでもないですっ。それに、リッカって呼ばれることあまりなかったので、そう呼んでいただけると嬉しいです!」

 

 …ふむ。親の権威を笠に着るやつはいくらでもいるけどね…。

 それに、名前呼ばれることが少ないって、一体どんな家なの…。

 ま、でも、この子は悪い子じゃなさそうなのかなぁ…。

「んじゃ…、行きますかー」

「おっしゃー!今回もまた活躍しちゃうってばよー!」

「今回もって…ナルト、アンタいつ活躍したのよ!」

「フン。全くだ」

 

 

 旅はのどかに始まった。

 

 一日目はナルト達がリッカの国や生い立ちについて、次々と質問を浴びせた。

 リッカの生まれた国は「緑の国」といい、国中に鬱蒼とした針葉樹が生え、湖がいたるところに点在する美しい国で、冬になると雪が全てを覆いつくし、雪が解け春になると色とりどりの花と新緑に包まれる。どの季節も息を呑むほど美しいと答えた。

 オレの知っている情報とも一致する。

 緑の国周囲は同じ様な小国が乱立する地域で、中には国同士の小競り合いや、国内での内乱に手を焼いている国もあり、あまり平和とは言えない国も多かった。

 しかし、国の話をする時のリッカの顔は夢見るような表情で、心から美しい祖国を愛しているのが感じられた。

 

 母親は他国の生まれで、そこは緑の国以上に冬は長く、深い雪に閉ざされるらしい。

 でも母は雪が大好きで、娘の名前を雪の結晶である「六花(リッカ)」と名付けたのだと、嬉しそうに語った。

 家族の話になると瞳が揺れて、少し寂しそうにしたが、産まれたばかりの弟が大きくなるのが楽しみだと言った。

 母親は既に亡く、父親は健在であっても家に帰らず、子守りは弟に付きっきり、一人で旅するリッカを、ナルトとサスケが自分達の境遇とは全く違ったとしても、放っておけないと感じるのは仕方ないだろう…。

 

 

 そんなのどかな旅が何日か過ぎた頃、そろそろ三人、特にナルトとサクラはこれが任務である事を忘れかけているのでないかと思われた…。

 それもこのリッカという少女が、自分だけ特別扱いされる事を絶対に許さないという、この場合のオレ達にとってはラッキーなわけだが、ちょっと面倒臭い性格をしている故でもある。

 何せ、依頼主である学者からは「なるべく野宿などさせないように」とも言われており、できるだけ夜には宿場町まで辿り着けるようにしてきた。

 忍にとって外で寝ることは至極当然。女の子であるサクラでも全く苦にしていない。

 しかし一般人で、まだ幼いリッカにとってはそうはいかない。

 更に自分だけが宿屋で寝るのは絶対に駄目だと言い張る。

 …これが、かなり強情なのだ。言い出したら聞きゃしない…

 

 というわけで、リッカとオレ達七班は五人揃って、夜は宿屋で眠り、夜と朝はそこで食事をとり、昼食も茶屋や宿屋の弁当を持って出るということになった…。

 これは忍者の任務としてはあり得ない超厚待遇なのだ。まだ忍者になりたての三人からしたら、この任務を、楽しい旅行と感じてしまうのは仕方ないのかも知れない…。

 

 いつの間にか、リッカとサクラは依頼人と忍、警護対象者と忍、ではなく、完全に友達か姉妹のノリになってしまっている…。

 今日も歩きながら道端の花を見つけて摘んでみたり、あの雲が何に見えるなんて事に声をあげて笑いあってみたり…。

 いくらなんでもこれはマズイ気がする… どうしたもんか…困ったね、どうも…。

 最初のうちは四人仲良く歩いている姿を見ると、ま、多少の事があってもオレが対処すりゃいいかーと思って大目に見ていたのだが、そろそろ、これは任務だと釘をさす潮時かね…。

 

 しかしまー、ホントに楽しそうに歩いちゃって…。

 

 四人が楽しそうに話していたと思ったら、ナルトが突然言い出した。

「オレってば、時々リッカが言ってる意味が分かんねー事あんだけどさー、やっぱ、国が違うと言葉が違うのか?」

「ナルト、やっぱりアンタバカね。リッカが喋ってるのは国の言葉じゃなくて、ちょっと難しい言葉なの。大人が使う言葉よねー、サスケくん」

「え、あ、あぁ、そうだな…」

 どうやらサスケも時々意味が分からない時があるようだ…。

 

「でも、私も知らない言葉を喋る時あるし…、リッカ、よく知ってるわね」

「へぇー、サクラちゃんでも知らないなんて、お前ってば学校でどんな事習ってんだ?」

 リッカは少し困った顔をして答えた。

「私は学校に行っていません」

「えぇっ?じゃーお前どうやって勉強してんだってばよ」

「ナルト、アンタは学校行ってても勉強してなかったじゃない!」

 サクラが皆の気持ちを代弁してくれた…。

 ナルトは頭をかきながら笑い、リッカも笑いながら答える。

「家で家庭教師の先生が勉強を見てくれています」

「あっ、そっか、火の国まで一緒に来たっていう先生ね!」

「はい、他にも何人かいますが…。でもそれで…、学校にも行ってないので、同じ年頃の子と話す事があまりなくて、大人の話し方を真似してしまうんです…。変ですよね…、ごめんなさい」

「え、お前友達もいねーのか?」

「ナルト!」サクラが気を使って止めようとするが、リッカは笑いながら答えた。

「はい…。でも、弟がもう少し大きくなったら友達になります!」

「じゃーさ、じゃーさ、オレ達がお前の友達になってやるよ!」

 ナルトのその言葉に、リッカは目をまん丸にして驚いたが、満面の笑顔で答えた。

「はい!よろしくお願いします!」

 ナルトは満足げにニシシと笑って

「おー、任しとけってばよ!」と言った。

 

 リッカは友達じゃなくて、護衛対象の依頼人だからね…。そう言うべきだと思いつつも、嬉しそうなリッカを見たら、口には出せなった…。

 

 どうもリッカの楽しそうな笑顔を見ていると、サクラ達に釘を刺す事が、楽しそうなリッカに水を差すことになってしまう気がして、気が引けていたのは事実だ。

 

 

 そんなオレの懸念が適中する事件があった。

 事件と言っても忍にとっては小さなもので、賊はスリだった。

 しかも狙われたのはリッカではなくナルト…。

 護衛している忍がスリにあってどうするの…、まったく。

 

 ま、狙われたのがリッカであったとしても、彼女は財布を持っていないが…。

 子供だからなのか、金持ちだからなのか分からないが、彼女には支払いをするという感覚が一切無いらしく、道中の旅費などが入ったリッカの財布は、学者からオレが預かっているのだ。

 これがまた驚いた…。

 一体この旅の間、どんな高級旅館に泊まり、高級料亭で食事するつもりなのかという位の金額は入っていた。

 そう、オレ達の任務は、リッカとリッカの財布を守ることだったのだ…。

 

 それにしても忍がスリに遭うとは…。ま、すぐにサスケが捕まえたから良かったけど。

「…ナルト、お前ちょっと気がゆるんでんじゃない? あれがもし、リッカを傷付けたり、さらおうとしてたら大変だったでしょ…」

「けどさ…、けどさ…、オレってばリッカの事はきちんと見てたんだぜ。だからオレに近付いて来た奴に気付かなかったんだってばよ」

「…そうか、リッカの事きちんと見てたならいいけど、でもな、ナルト。例えば…、じゃーオレ達が誰かを襲おうとするよね。その周りには忍が護衛している。となったら、どうする?」

 答えたのサスケだ。

「まず周りの奴から消す。それか、手分けして離させるな」

「そう、波の国でも鬼兄弟やザブザはそうだったろ? 警護対象者を守るのがオレ達の任務だ。でも肝心のオレ達がやられちゃったら守れなくなるんだよ…。 だからな、ナルト。警護対象者を守る為には、自分自身も守れ」

 コクッとナルトが頷く。

 ナルトは素直だ。自分が納得したものに関しては、とても素直だ。

 リッカはオレの話を隣で黙って聞いていた。

 

 重い空気になっちまったなー。でも、ま、これで三人は少し気持ちを引き締め直してくれたかな…。

 

「さーて、今夜の宿を探そうかー」

 


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