どうやら、先日のスリさんには感謝しないといけないようだ。
久々の実戦で(といってもサスケにとっては準備運動にもならない位のもので)ちょっとやり過ぎてしまった気もするから、謝罪もしないといけないかも知れないが…。
三人は適度な緊張感を持って旅をするようになった。
そして、オレを「カカシさん」と呼んでいたリッカだったが、いつの間にか三人と同じように「カカシ先生」と呼ぶようになっていた。
三人が適度に緊張感を持ったからなのか、何故かリッカがオレに懐きだしたからかはわからないが、オレ達五人の旅はいつの間にか、前にサクラを中心にした三人、後ろにオレとリッカというフォーメーションが自然とできていた。
そんなフォーメーションにも慣れてきた頃だった。
雨上がりのその日は、濡れた木の葉がキラキラと光り、樹々の間を抜ける日陰になった道では、まだ水溜まりも多く、それに木漏れ日が反射して、とても美しい日だった。
ナルトもそんな美しい日に浮かれているのか、水溜まりを飛び越えたり、回り込んでは水溜まりの水をサスケに飛ばしてどやされたり…、ま、コレはいつもの事か…。
そんな前を行く三人の様子を見て、リッカもクスクス笑いながら楽しそうに歩いていた。
不意に気配を感じたオレは、三人に向かって叫んだ。
「跳べ!!」
同時にリッカを抱き上げて横っ飛びに跳ぶ。
その刹那、オレ達がいた所とナルト達がいた所に無数の手裏剣が刺さった。
樹々の中に隠れる気配を探る。
1、2、…3、……4。 四人か。
それも少なくとも内二人はかなりの手練れと思われる。
跳んだ場所がオレと三人が逆だった為、少し離れてしまった。
本来なら、サスケ達にリッカを守らせ、オレが四人を片付けるのが最善と思われたが…、こうなってしまっては今さら動けない。
オレがリッカを守りつつ戦うしかない。
「サスケ!お前の八時の方向に一人いる。そいつをお前ら三人でやれ。 ナルト、サクラ、わかったな! かなり強いぞ。気を付けろ」
「「「了解!」」」三人が力強く答えた。
あいつらに任せた一人はかなりの手練れの筈だ、しかし、三人一緒にやればあいつらならできるはずだ。
残るは三人。
こちらが単独の場合、複数相手では格段に護衛の難易度が上がる。
ま、ここで愚痴っていても仕方ない…。やるだけだ。
リッカを背に隠したまま、左眼を覆っていた額当てを引き上げ
「大丈夫だから、しばらくこのまま居てねー」
オレの緊張を悟らせないように、微笑みながら穏やかに言う。
後ろで頷いたのが感じられた。
やはり、サスケ達に任せた一人と、こちらにいる一人はかなりの手練れだ。
残り二人だけなら問題無さそうだが、こいつ一人いるだけで苦戦を強いられている。
写輪眼を持ってしても三方から来る攻撃を躱すのが精一杯だ。
いや、写輪眼が無ければ全てを防ぐことは無理だっただろう。
…どうやら、奴等のターゲットはリッカらしい。
サスケ達が相手している一人は、ただ三人を足止めしているだけの様にも見える。
そして、オレが相手している三人のうちの二人は、オレではなくリッカに対して殺気を発している。もう一人、一番の手練れは、恐らく写輪眼の対処法を知っている…。
暗殺のターゲットがリッカで、写輪眼を持つ忍との戦闘を予想している…
これは、…どういうことだ?
この暗殺と、リッカの任務依頼がうちの班指名だった事と、関係あるという事か…
オレが可能性を考えながら、左側にいた奴の体を左肘で止め、クナイを払うのに右手を出した時、右から別の奴の刃先が振られた。
クッ!
右手を戻して刀を払えば左から来るクナイを通してしまう。
更に、その一瞬の隙をついて、正面からもう一人が笑みを浮かべながら飛びかかる!
マズイッ…!
その時、「危ないっ!」という声とともに、オレの右を何かが掠める。
男の「ぐっ…」という短い声がし、振られていた刀が音を立てて地面に落ちた。
オレはその隙に、左側のクナイと、正面から飛びかかって来た奴を払い除ける。
男は落とした刀を拾おうともせず、左手で右肩を押さえていた。
そこには手裏剣が深々と刺さっていたのだ。
…オレの手裏剣だ。手裏剣は里によって大きく違う。あれは木ノ葉のもので、オレの手裏剣に間違いない。だが、オレは投げていない…。
リッカか…。オレのホルスターから抜いたのだ。
しかし、手裏剣は素人が簡単に投げられるものではない。
それに、手裏剣が刺さっている場所にオレは驚いた。
闇雲に投げただけなのか、それとも…。
更に驚く事に、リッカはオレの腰の忍具パックからクナイも出していて、それを掴んで刀の男に飛びかかった。
その様を見れば一目瞭然、忍だ…。 それも、かなり高度な訓練をされた忍だ。