カカシ真伝 雪花の追憶   作:碧唯

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第七話 オレの忍道

「さーてっと」

 気分を変えるようにリッカの肩をポンッと叩いて、ようやく本題に入る。

 

「いやー、今日此処に来たのはだな。実は…、火影様に言われて、オレがお前を預かる事になって」

「え?」 ハハハ。オレと同じ反応。そうなるよね!

「で、目の届く範囲でってことで、自宅で預かれと言われちゃったんだよね…」

「…自宅?カカシ先生の…?」

「そ…。でも、リッカ女の子だしな、嫌だったら、夜だけここに戻るっていう方法もあるんだからね?」

 

 リッカは何故か、頬を若干赤らめながら答えた。

「…ご迷惑でなければ…、カカシ先生のお家に…泊めてください」

 ま、女の子が(例え監視員であっても)男の部屋に泊めてくださいと言うのだ…、気恥ずかしくもなるだろう。

「わ、わかった。…じゃぁ、まずは必要なものでも買いに行くかー」

 

 預けてあったリッカの荷物を受け取りに行くと、そこにイビキさんの姿もあった。

 オレ達の様子を窺っていたのは気付いていたので、ここで何も言う事はない。

 オレがそう思い黙っていると、イビキさんは意外な事を言い出した。

「カカシ、お前暗部に戻る気は無いか?」

「は?」

「いや、オレの部隊に欲しいなぁと思ったんだ」

「ご冗談を…。今のは尋問なんてものじゃ無いですよ」

「まあ、そうだがな…」

「まだ受け持った下忍もヒヨッコですし」

「そうだな、まぁその気になったら何時でも火影様に言ってくれ」

 オレは何も答えず会釈だけして離れた。

 

 

 収容所を出た時には里は夕焼けに包まれていた。

 リッカは眩しそうに里を見渡していた。

 

「欲しいものあるか?…あ、ちなみにコレはお前が元から持っていた財布だ。ここから払うんだから、遠慮せず何でも買いなさい!」

 と言っても、元々が旅の荷物を持っていたので、これといって必要なものも思い当たらないが…。

 本人も同じ様子だったので、オレが選んだ店でいくつか小物を買った。

 

 それから、リッカはしばらく食事をとっていない筈なので、腹に優しいものを出している店を探し夕食にして、ようやく部屋に帰った。

 

 

 すると部屋には火影様から寝具が届いていた…。

 

 そうだ…、オレの部屋にはベッドが一つあるだけだった…。

 

 

 

 

 …………っ! いかん!緊急任務だっ!!!

 

 

 

 

 オレは戦闘中もかくやというスピードで移動し、枕元に置いてあったものを隠した。

 …オレの大切な、名著「イチャイチャシリーズ」だ…。

 

 ふぅー…。さすがに中を見られる訳にはいかないからな…。

 

 と、まぁ一息ついたところで、風呂を勧めてその間にオレは寝床の準備をする。

 ベッドでオレが使っていた布団を床に下ろし、デスクとの間に敷く。

 代わりにベッドには新しい布団を揃えた。

 

 リッカは相変わらずのあの性格で、ベッドは悪いからオレが使えと言い張る。

 

「オレの使ってる布団じゃ悪いから布団は新しい方と替えてあるし、それに一応オレは任務中だからね。だからお前がゆっくり休んでくれた方がオレも休めるよ」

 そう言うと渋々納得してベッドに座った…。やれやれ…。

 

 

 リッカは枕元に並べてある二つの写真立てを見ている。

 

 …危なかった。あの横には例の名著が並んでいたのだから…。

 オレは内心胸を撫で下ろしながら床に座り、ベッドにもたれた。

 

「この子、カカシ先生…?」

 二つの写真立ての写真は現在のカカシ班と、もうひとつが、かつてのミナト班だ。

 リッカはミナト班の方の写真に写る、生意気そうなガキを指して言った。

 

「そうそう。これは今のナルト達よりも少し年下の頃だけど、今のアイツらと比べ物にならないくらいバカで生意気だったよ…」

 自嘲気味にそう言ったオレの、額当てを外し露になった左目から頬まで続く傷痕、写真立ての少年にはない傷痕に、リッカはそっと触れながら聞いた。

「カカシ先生は…、どうして忍者になったんですか?」

「んー? …何か格好いい事言えたら良かったんだけど…、まっ、忍者しかなかったからだ。父さんも忍者だったし、忍者になるのが当然…っていうよりは、他の道なんて知らないし、考えた事もなかったからね」

 

「それでも命を懸けられるんですか?人の命を奪う重みに堪えて、それでも…」

「そうだねー。確かに殉職した忍もたくさんいるし…、歴代の火影様達も命を懸けて里を守り死んでいった。…だからかなぁ?忍者になる事に疑問を持たなかったのと同じで、里を守りたいと思う事に疑問はなかったね。大切なものを守りたいって思うのは、すごく当たり前で自然な事じゃない?」

 リッカは視線を落とした…。オレの言葉をまだ納得できないのだろう。

 

「もちろん、忍としての生き方に疑問を感じることはあるよ?」

 オレがそう言うと、リッカはふと顔を上げてオレを見つめる。

 

 オレは波の国での任務を思い出していた。

 ザブザとハク、あの二人の生き方と、ナルト達がその二人の生き方から感じた想い。

 

「忍は感情も持たず、存在理由も求めず、ただ任務を遂行する道具。そんなのは嫌だってナルトが言ったんだよ。オレはオレの忍道を行くってな」

 

 オレは思い出し、笑いながら言った。

「何か嬉しかったんだよ。あいつらが奴等なりの忍道を行くっていうなら、オレは奴等がその道を真っ直ぐ進めるようにしてやりたい。それも、オレの存在理由の一つなんだって思ったんだ」

 

「…ナルトさんが、少し羨ましいです」リッカはそう言って、静かに微笑んだ。

 

「ナルトは…、あぁ見えて結構苦労してるからね。だから、アイツに教えられることはたくさんあるよ」

「そうですね…。辛い事もたくさんあって、弱さも知ってるから…、だから、ナルトさんも、カカシ先生も、その分、強くて、優しいんですね」

 

 ちょっと驚いた…。ナルトは苦労しているとは言ったがオレの事は何一つ言ってない。

 恐らく、収容所で話した時に、オレの想いの裏にある、過去の傷を感じ取っていたのだろう。

 答えの代わりに、頭を撫でてやった。

 

「疲れたろ。もう、おやすみ」

 そう言うと、リッカは頷いて布団に潜り込んだ。

「おやすみなさい…」

 

 しばらくして寝息が聞こえてきても、オレは月明かりに照らされた、あどけない寝顔を見ていた。

 

 一体この子が背負っているものは何なのだろう…。そう思わずにいられなかった。

 


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