僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
女尊男卑という言葉を深く理解したのは、ごく最近の事だった。
インフィニット・ストラトス、『通称:IS』がこの世界に現れてある程度の時間が経った。第一回モンド・グロッソで一夏の姉、織斑千冬が優勝したのは、まだ、記憶に新しい。
ISは無限の成層圏を意味する。そして、ISは女性にしか動かすことが出来ない、男性にしてみたら欠陥兵器であり、女性からしてみたら、自分達の価値観を大きく変える転機となった存在だった。女性達はISをISを生み出した篠ノ之束、箒ちゃんのお姉さんを強く信仰した。そして、男性を自分達よりも下の存在だと認知し、世界のバランスは崩れ落ちた。
とある女性は娘だけを引取り、息子と夫を捨ててISの世界に。
とある女性は自分の中に宿っている子供が男の子だと知るやいなや、中絶をし。
とある女性は気に入らない上司を駅のホームから突き落とし殺害した……。
親父は三番目の例の犠牲者だ。司法機関も女尊男卑に染まり、突き落とした女性は罪に問われることなく、逆に疑いをかけられたと俺達家族を訴える程だった。悲しいが、これも時代の流れだと思う。
母は父が残してくれた遺産をすべて売却し、実家のある長崎に俺を連れて里帰りした。東京よりは、女尊男卑の精神に蝕まれた人は少なく、思いの外、のんびりとした女性達が多くて違和感を感じたが、それがとても嬉しいことだと思えた。
新転地での生活は緩やかなもので、負傷した肩も日に日に楽になっていく。だが、剣道や球技などの激しい運動は右手では行えない。最低限、利き手として使用することは出来るが、昔のように満足に振り回せるわけじゃない。
「本当に、礼遇はチャンバラが好きねぇ」
「剣道って言いたいけど、今はチャンバラの方が正しいから泣きたくなるよ」
左手に握られた一本の小太刀を模した木刀、それを右腕と同じように振るう。左腕はどうやっても右手以上の腕力を発揮できない、それに、添えるだけでも右肩にダメージが入る。片手で一本の太刀を振るうのは、今の俺の技量では難しい。だから、軽い小太刀を片手で操る。
もう、剣道を続けることは出来ない。だけど、何かしらの形で剣の道を続けたいと思った俺の我儘の終着点がこいつだった。剣道をやっていた頃の動きとは、正反対で、短さを活かした戦術を作らなければならない。目を瞑ると箒ちゃんと一夏の影が映る。何度も戦うが、勝てない。勝てる気配がしない。だけど、続ければ、二人に並び立てると思って、願って、振るうのだ。
「礼遇、学校でいじめられてない? 友達は出来た?」
「うん、話せる友達は居るよ」
「そう……よかったわ……」
母に心配はさせたくないものだ。話せる友達も出来たし、クラスの女子達も女尊男卑に染められていない。東京に居た頃より、ずっと、住みやすい。ただ、一夏も箒ちゃんも居ない。一夏は今頃何をしているだろう。どうせ、他の奴らに迷惑をかけているのだろう。箒ちゃんは……剣道を続けていてくれれば、でも、俺も一夏も大会に足を運ぶことはないだろう。一夏は冷めてしまった。俺は、肩を壊してしまった。もし、また彼女と会うことがあったら、多分、泣かれるだろうな、箒ちゃん、案外、涙脆いし……。
空を見上げる、青かった。それだけだ。
2
中学の卒業式、多くの生徒が泣いていた。俺の隣に座る友人の栗原快斗も男泣きしていた。俺は、長いようで短い中学生だったな、なんて、自分のことを振り返っていた。勉学に励み、剣を学び、よく眠った。そんな、面白味も何もない学校生活だったが、なんだろうか、満足はしていた。
通う高校の受験ももう終わらせて、合格の通知が届いている。肩の具合もある程度は回復したので、長時間は無理だが、剣道もある程度は出来るかもしれない。でも、もう、箒ちゃんには会えないだろう。
IS学園、多分、そこに箒ちゃんは入学することになる。
天災篠ノ之束博士の妹というだけで、色々な警備が付いているだろうし、身体の安全の為に日本であって、日本ではない、多分、日本屈指のセキュリティを誇るその場所に連れて行かれる。俺は、男だからその場所には、行けないだろう。
卒業証書を与えられて、友人達と別れを惜しみ、ボタンが欲しいとねだる後輩達にボタンをプレゼントして、中学生が終了する。帰り道、茜色に染まる空を見上げながら、静かに帰宅した。そして、テーブルに置かれている新聞を手に取ると信じられない記事が掲載されていた。
「……織斑一夏、ISを起動させる」
そうか、あいつは――一足早く箒ちゃんに再会するのか、羨ましい。だけど、これも運命だというのなら、それを甘んじて受け入れるしかない。俺は、所詮はその程度の存在なのだから、その程度だから、選ばれないのだ。
「……男性のみ参加可能の起動試験を開催、主催者、三綾重工(株)」
俺は、俺は、俺は――何を期待しているんだ? こんなのに参加したからと言って、一夏と同じ立場に上がれるわけがない。俺は、そう、俺は、特別な存在にはなれない。特別なのは一夏で、俺は、そこら辺に転がっている石ころのようなものだ。だから、だから、だから、期待するんじゃない。期待して、裏切られたことばかりじゃないか……!
「行きなさい、行って悪いことは起こらないわよ」
「……!? 母さん……」
「私は女だけど、IS動かせないのよ、女でも、ISを動かせない人は居る。だったら、男でもISを動かせる人が二三人居ても可笑しくないじゃない。可能性は零じゃない。零だったとしても、落ち込む必要はないわ」
背を押される。俺は真っ直ぐと母さんを見て、静かに頷いた。
3
多くの男性が運動公園に集められていた。そして、奥の方には、倉持技研製の打鉄、デュノア社製のラファールリヴァイヴが置かれている。多分、この二機で試験を行うのだろう。俺は打鉄の列に並び、静かに時が来るのを待った。
ゾロゾロと起動させられなかった男性達が通り過ぎていくのを見ていると、やはり、一夏が特別な存在であるということを再認知してしまう。肩が疼く、やはり、俺と一夏では、月と鼈の差があるということだろう。あのわからず屋の方が、世界に必要とされている、天才ゆえの性なのだろうか、それでも、諦めるわけにはいかない。今、俺にできる事は――可能性に賭けるだけ、それだけなんだ。
自分の番になる。俺は、深呼吸をして、静かに打鉄の前に立つ。渋い銀色に輝いている。綺麗だと思えた。
「……よろしく」
打鉄に触れる。だが、何も起こらない。そうか、やっぱり可能性なんて、なかったのだろう。俺は、その程度の人間だったということだ。悲しい話だ。
静かに手を放すとそのままその場を後にしようとする。だが、後方で光が放たれ、俺は――打鉄を纏っていた。
「……サプライズは好みじゃないんだが、まあ、ありがとよ」
可能性は俺のことを選んでくれたようだ。
4
三綾重工、それは日本屈指のミリタリーカンパニーである。IS産業によって縮小した通常兵器や弾薬製造を主に行っており、全世界で使用されているNATO弾の三割を三綾重工で製造しているというデータも残されている。莫大な世界への影響力と得られる莫大な利益、それを駆使して最近はISの追加武装などを製造している。これも性能と価格が噛み合っており、世界有数のISの製造元の殆どが三綾重工の追加武装を購入しているのが現状だ。
そんな三綾重工は一人の奇跡の存在を入手することに成功した。二番目の男性操縦者、宮本礼遇、その人だった。
彼の経歴を紐解いていくと、あの一番目の織斑一夏、篠ノ之束の妹、篠ノ之箒との関係が深く、重要な篠ノ之束との関係性は不明だが、それでもISを操作できる可能性は織斑一夏に次いで高い確率だったのだろう。
「で、この子は何に乗せるの?」
「ラファールに乗せたいところなんだが、宮本くんが打鉄を所望してるんだ」
「第二世代の初期に作られた機体だから、あんましおすすめは出来ないわね。でも、最初に自分に応えてくれた機体って訳で、縁を感じてるのかもね」
「ああ、まあ、打鉄でもアレは乗せられるから別にいいんだが」
開発者達は必死に礼遇を受け入れてくれた打鉄を整備する。世界で幅広く使用されている第二世代型のIS、その初期に登場した打鉄は高い安定性と防御力が買われている。だが、裏を返せば初期に作られた時代遅れ、第三世代の開発が盛んになっている今日に打鉄を専用機にするのはどうかと思う。ラファールなどの武装の拡張領域が広い機体なら、自社の武装を大量に積み込んで第三世代に食いつけるかもしれないが、やはり、打鉄では、搭乗者の実力に左右されてしまう。
「打鉄にも強みがないわけじゃないわ。物理シールドも装備しているわけだし、近接戦を主体にするなら打鉄の方が適任という時もあるわよ」
「まあ、機動力はこっちで調整して、瞬時加速みたいなテクニックを習得してもらえればいいんだけど」
「瞬時加速はコツさえ掴めば、まあ、すぐに習得できるでしょう。それに、あの子のポテンシャルは高いわ、一人目より適正高いらしいわよ」
「へぇ、どのくらい?」
「IS適正A、一人目はBだったらしいし」
開発者達は少ない投資で金の卵を産み落とす鶏を捕まえてきたのだと心から思った。そして、この打鉄はその鶏を導く存在。だけど、その鶏は世界中から狙われる。いくら三綾重工が世界屈指のミリタリーカンパニーであっても、世界中の諜報機関が黙ってはいないだろう。IS学園に在学中もハニートラップに引っかかる可能性がある。
「それにしても、一番目の織斑一夏も色男だけど、宮本くんも色男よね」
「男の俺に言わないでくれ、妬ましくなる」
「ハニートラップ大丈夫かしら?」
「まあ、流石に国外に連れ出すなんてことはないだろうさ、彼はある程度の常識は持ち合わせているようだし」
整備士達は雑談を繰り広げているが、指先は器用に動いている。そして、運び出された一本のIS用の武装を睨みつける。
「雪影……本当に完成していたとは」
「暮桜の雪片を第二世代でも使用できるようにした一品、見た目はただのショートブレードだけど、これにどれくらいの開発費を使ったのかしら?」
「俺達の一生分の給料でも作れないさ、でも、ラファールに乗せられると思っていたが、打鉄にね」
「機体のエネルギー効率に関しては打鉄の方が上よ、燃費を七割程改善したらしいけど、第二世代に搭載するにはそれでもエネルギー食い過ぎなのよ。エネルギーを多く貯め込めて、防御力が高くて、燃費が良い打鉄の方が雪影を乗せるのは適任だと思うわ」
「まあ、それもそうか」
整備士達は慎重に打鉄に雪影を搭載し、ほぼすべての作業を終わらせる。
「打鉄・三綾重工機、この子がIS学園でどう暴れるのかしら?」
「彼次第だ」
4
俺はとても豪華な内装の部屋に通された。そして、初老の男性がにこやかに迎え入れる。そして、ソファーにかけなさいと優しい声色で告げる。一礼してそのままソファーに腰掛けて、真っ直ぐ目を見る。すると男性はにこやかに笑い、お茶を持ってくるように俺のことを連れてきてくれたレディーススーツの女性にお願いする。
「私は三綾重工の代表取締役をやっている紺野一二三というものだ。よろしく頼むよ」
「この度、御社の打鉄を動かした宮本礼遇です」
「ほう、今頃の若者にしては礼儀を弁えているようだ。気に入ったよ」
「ありがとうございます」
女性が緑茶を持ってきてくれたので、静かに一口口に入れる。家で飲んでいるお茶とは風味も深みも何もかもが違う。一言で言えば、とても高い味がする。やはり、社長さんが飲むお茶はすごい、そう思った。
「君には選択肢がある。国に保護されつつ、我社のテストパイロット兼ね、企業代表としてIS学園に入学すること。国に保護されつつ、まあ、我々以外の企業に所属するか、所属しないでIS学園に入学することだ」
「ここで、企業代表をさせてください」
「即答だね? 何か理由が」
「あの打鉄に乗りたいんです。アイツとは、縁を感じるので、出来れば、専用機として貸し出してももらいたいです」
社長さんはにこやかにわらって、一枚の書類を取り出す。
「私は、君が第三世代を開発している会社に行くと踏んでいたのだが、我社で働いてくれるか。もちろん、打鉄を貸し出そう、我社で開発している武装も出来る限り付属する。我々三綾重工は君の最大で最高のスポンサーとして行動する。それでいいかい?」
「はい、よろしくお願いします」
一夏、俺はおまえと同じ土俵に上がれる。箒ちゃんとも会える。
一夏、俺はおまえを超える。絶対に、俺は――おまえ以上の頂に登りつめてやる。
第三世代を使う主人公が思い浮かばない、じゃあ、量産されているスコープドッグのような機体はないのか? そう考えたらあるじゃないか! 打鉄が!! こいつをこの作品に出てくる凄い施設でバリバリにカスタマイズしたら第三世代いけんじゃね? そんな感じで礼遇の専用機は『打鉄・三綾重工機』になりました。