僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
季節は六月も終わりが近づき、そして、夏の蒸し暑さを感じさせる。すべての準備は整い、多忙な日々を懐かしむ程になっている。三綾重工機も打鉄も限界ギリギリまで仕上げ、箒ちゃんの実力も向上した。シャルロットの方も社長さんが手を回しているのだろう、表立った行動はまだ確認できない。安心こそ出来ないが、彼女は前向きに行動している。多分としか言いようがないが、大丈夫だろう。
二人してISスーツを身に纏い、静かにモニターを睨みつける。箒ちゃんの方は落ち着いた様子で、武者震い一つ見せない。仕上がっている証拠だろう、頼りになる。
「初戦でデュノアと一夏を引き当てる豪運があれば」
「そこは神のみぞ知る世界だ。だけど、妙な感覚を感じる。俺の直感は当たるんだ……ありうるさ」
「そう、だな……」
モニターに映る多くの観客が自分達一年生に期待している事が伺える。
完璧な状態とは言えない、肩に違和感は存在している。それでも、俺は戦い抜く覚悟を持ち合わせている。極悪非道と罵られる作戦も考え、相棒の箒ちゃんとも算段はついている。クラスメイトの殆どが顔をしかめたが、素人と怪我人というコンビでこの大会を勝ち抜くにはこれ以上の作戦はあれ以外しなかった。了承してくれたクラスの皆には感謝してもしきれない。
深呼吸を一つ、そして、モニターに映し出されるトーナメント表、箒ちゃんの豪運か、俺の豪運か、それとも神様の悪戯か、俺達のコンビの隣に表示されるのは――シャルル・デュノアと織斑一夏、その二人のコンビだ。
「一回戦の一発目で勝負できるのは嬉しい限りだ」
「作戦が酷く順調に進むな」
「ごめんね……あんな作戦に付き合わせて……」
「馬鹿を言うな……付いていくと決めたのはわたしだ。謝る必要など存在しない」
これから先、始まるは泥仕合。いや、相手は俺達に泥を塗られるだけの試合だ。
2
少年少女の思いが交差する今日この日、そして、この場所。シャルロットは静かに深呼吸を重ねた。そして、その隣に立っている一夏も深呼吸を重ねている。
少女は自分が傷付けた少年を一秒でも早くこの大会から引きずり下ろすことを考えている。左手の負傷は外見だけなら治っているように見えるだろうが、彼女は彼と同じ屋根の下で生活している。毎日ゴミ箱に投げ捨てられる赤い鮮血に染まった包帯を見たら、彼の左手の負傷具合が手に取るようにわかる。だからこそ、その治癒の為にも、宮本礼遇という少年を倒さなければならない。少年の思惑も酷く承知しているが、それでも、彼の怪我の具合を知るからには、鬼になる必要がある。全力で、倒すしかない。
少年は自分が蒔いた種で親友が傷付いたことに激怒している。ラウラ・ボーデヴィッヒを倒すために心を決めて、すべての準備を整えた。だが、最初の壁は自分の親友であり、傷付けられた少年だ。まだ怪我は治っていない。それなのに満身創痍で出場した彼を恐れている。自分が敵討ちをすると誓っているのに、親友は自分の仕事だと彼を押しのけて前へ進もうとする。怖いと感じる、だが、それでも――親友を傷付けられた苛立ちは、自分で断ち切りたかった。
「譲れない戦いだね……」
「ああ、絶対に……一歩も譲らない……!」
少年と少女の思いは重なっていた。一人の少年の怪我を知っているからこそ、早くこの場所から離れてほしい。傷口が開かないでほしい。もう、傷つかないでほしい……それだけだった。
3
酷い苛立ちを彼女は感じていた。
自分が倒し、踏み躙ろうとする少年二人が最初にぶつかり合うことになる。彼女はどちらも蹂躙したかった。一人はとうの昔に倒したが、それでも、自分のことを壊れた人形と表現した彼、そして、織斑千冬に助けられた彼に、酷い劣等感を感じていた。だからこそ、この場で倒したかった。多くの人々が見守るこの場所で、哀れな姿を晒したかった。
「あ、あの……ボーデヴィッヒさん、わたしは何をしたら?」
「何もしなくていい……」
「は、はい!」
ラウラは歯を食いしばり、そして、腑抜けた表情の彼らの写真を睨みつける。
殺意は広範囲に分散され、凍てつく。
織斑千冬の弟を許せない。
織斑千冬が認める存在を許せない。
自分だけが、彼女に見てもらいたい。
そんな、
そんな、
そんな、
幼い子供のような感情が彼女の中を巡る。
「わたしは……絶対に認めない……」
「な、なにをかな……」
「奴らの存在だ……」
殴られたロッカーは扉が壊れ、地面に落ちる。
彼女の殺意は限界まで膨れ上がっていた。
4
アリーナの中には二組の少年少女、いや、シャルロットのことを知らない人々からしてみれば、一組の少年少女、もう一組は二人の少年のコンビだ。
ラファールを身に纏うシャルル・デュノア、正しくはシャルロット・デュノア。
白式を身に纏う織斑一夏、織斑千冬の弟。
カスタムされた打鉄を身に纏う宮本礼遇、二人目の男性操縦者。
学園側の打鉄を身に纏う篠ノ之箒、篠ノ之束の妹。
奇しくも面白おかしい組み合わせに会場は酷く盛り上がっていた。有名人が挙って戦う一発目、熱気を離れていても感じられる。
「礼遇、わたしはあんな作戦は了承できない! 戦うなら一人で戦え……」
「箒ちゃん? で、でも……あれ以外の方法は……」
「武の道を歩んできた同志だと思っていたが、おまえがあそこまで落ちたとは想像もしていなかった。勝手に戦え、わたしはそこら辺で待っている。そうだな、おまえが情けなく負ける姿を見るさ――宮本」
「おい、戦う前から仲間割れなんてよしてくれよ……戦いにくい……」
一夏が不安そうな顔で俺のことを覗き込む。
「いや、いいさ……酷い作戦を考えた自分にも責任がある。箒ちゃん……待ってて、一人で倒すから……」
「多勢に無勢、勝てるわけがないだろ。早く負けてくれ」
「箒! 本当に……でも、礼遇を倒して早く療養に入って貰いたいとは思うから好都合だ。すまない礼遇」
「……簡単に負けると思うなよ」
箒ちゃんは静かにアリーナの壁に寄りかかり、俺のことを見る。そして、二人で静かに頷いた。
三分だ。
試合開始のブザーが鳴り響く。
シャルロットが放つ弾が飛来する。それをシールドで弾きながら、こちらも硝煙ヘビーで応戦する。射線を掻い潜って懐に潜り込んでくる一夏を蹴り飛ばし、シャルロットとの距離を詰め、雪影Bでの攻撃を試みるが、彼女が握るアサルトライフルで弾かれ、後退射撃を受ける。だが、即座にシールドを展開、ダメージを最小限に抑える。
「後ろがお留守だぞ!」
左に飛び退き、雪片弐型の零落白夜を回避し、転んだ状態で硝煙ヘビーの引き金を引く。一夏は慌てて上昇を開始し、弾は数えられるだけで八発しか被弾しなかった。状態を起こすとシャルロットがショットガン二丁を構えて接近してくる。俺は後退し、姿勢を低くしてシールドで被弾を避ける。
壁際に追い詰められた俺はギラギラとした二人の目を見て畏怖の感情を隠せないでいた。
「礼遇……怪我をしているんだから、出る必要なんて無かったんだ」
「お願い、これ以上傷口を広げないで……」
「剣構えながら、銃口向けながら言われたくないセリフだね……」
「「わからず屋が!!」」
一夏が瞬時加速を駆使して接近、雪片弐型が迫る。
咄嗟にシールドでカバーし、蹴り飛ばす。蹴り飛ばした後にはシャルロットのショットガンの弾薬が飛来し、シールドを破壊する。使えるシールドはもう一枚、まだ三分は経過していない。
上昇を開始し、硝煙ヘビーに新しいマガジンをセット、シャルロットに照準を合わせる。が、また瞬時加速を駆使して一夏が正面に現れる。シールドを移動させ、攻撃を防ぐが、真っ二つになって地面に落ちる。
シャルロットのアサルトライフルの弾が正確に飛来し、脚に被弾する。これ以上の被弾は危険と判断し、一夏に組み付き、盾として利用する。
「すまないが、おまえが三枚目の盾だ」
「逆にすまない、盾にはなれない」
白式の出力を駆使してターンし、俺の背中をシャルロットの射線に差し向ける。雪影Bで一刺ししてから落下、一夏に弾が当たったことを確認してPICを駆使して滑るように滑空する。
あと一分だ。
「シールドが無い状態で僕の攻撃を捌けるかな?」
「捌ける捌けないじゃない。捌くんだよ……」
連射力の高いアサルトライフルに持ち替えたシャルロットの弾が裸の状態の俺に向かって飛来する。
一夏も体制を立て直して攻撃の準備に移っている。
硝煙ヘビーでシャルロットに応戦、一夏の軌道を確認、最適な位置で戦闘を続ける。
あと少しだ、あと少しで――シャルロットを落とせる。
「礼遇! お願いだから!!」
「――三分だ!」
「――えっ!?」
シャルロットに巻き付く一本のワイヤーブレード、そして、彼女を明後日の方向に勢い良く投げつける。それを確認した瞬間に瞬時加速を駆使して接近、雪影Bを彼女の腹部に突き刺す。即座にその量を減らすエネルギーと困惑した表情、そして、三分が三十分に感じたと言わんばかりの箒ちゃんの表情。その二つが俺達の作戦を表していた。
5
一年三組の教室、シャルロット以外のクラスメイト全員と箒ちゃんが集まった教室で作戦会議が始まっていた。大会は明日、これが最後の作戦会議となる。だからこそ、俺が考えた、確実にシャルロットと一夏を倒す作戦を全員に説明する必要がある。
「箒ちゃんは三分間戦闘に参加しないで……」
「……どういうことだ?」
「コンビで戦わないといけない大会なのに、一人で戦うってこと? 無茶だよ礼遇くん!」
「いや、礼遇くんにも作戦があるんだよ……話して、絶対に言いふらさないから……」
俺は暗い表情で作戦の内容を告げる。すると箒ちゃんは生唾を飲み込み、そして、クラスの皆は酷く渋い顔をしていた。
俺の作戦、名前をつけるなら、極悪非道作戦とでも言おう。
最初に箒ちゃんが俺の作戦に文句を言い、そして、戦線から離脱する。だが、これはフェイクであり、俺が劣勢に立たされ、箒ちゃんが完全に戦意を失っていると錯覚した状態で不意打ちのワイヤーブレードを使い、そして、雪影Bを駆使して一瞬でシャルロットを退場させる。その後は箒ちゃんと共に一夏を撃退するという正々堂々の欠片も存在しない手段であり、作戦だった。
「でも、そんなの……大会なんだよ……」
広瀬さんが悲しそうな表情で反論する。だが、すぐに高垣さんに肩を叩かれる。
「百合ちゃん……」
「ひなちゃん……礼遇くんは怪我をしている。篠ノ之さんもお世辞にも強いとはいえない。そんな状態で正々堂々と戦っても負けるのは目に見えているの。だから、こういう作戦も取り入れないと――二人は負ける」
「でも、礼遇くんは強いから……」
「俺は強くないよ。だから、騙し討みたいなことをしないと勝てない。セシリアも一夏も、全部運が良かったし、対策も十二分に練れた部分もあった。だけど、今回ばかりは無理なんだ。一対一ならこんな作戦組み立てない。箒ちゃんには、土壇場でこんな作戦を言い渡すのも心が苦しい……」
広瀬さんは涙目になりながら、静かに意見することをやめた。
箒ちゃんは深呼吸をして、静かに頷く。
「ここで、こんな作戦は嫌だと言って逃げ出すのは……不義理だ。付き合うさ、最後の最後まで」
「ありがとう、箒ちゃん」
6
「シャルル!?」
「すまない一夏、わたしは――勝つためには手段を選べないんだ!」
葵を構えて一夏に接近、素早い剣撃で翻弄する。
「箒! おまえって奴は!」
「嫌われても構わない……だが、礼遇をボーデヴィッヒと戦わせるためには、鬼になる必要があるんだ!」
鋭い一太刀が一夏のシールドを抉る。
『勝者! 宮本・篠ノ之ペア!!』
箒ちゃん……ごめん……。
でも、第一歩は踏み出せた。
俺は、情けないよ……でも、ありがとう……。
いやはや、こんな作戦考えた自分が恥ずかしい……礼遇ちゃん、箒ちゃんごめん……。