僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
それは放課後のことだった。俺は食堂に向かって足を動かしている途中、道場に通っていた頃に何度か顔を合わせたことのある一人の女性に呼び止められた。織斑千冬、あの織斑の姉に当たる存在だ。俺は正々堂々と目線を合わせて話を聞く。
内容は単純明快で、とても簡単なものだった。一年三組が借り受けたアリーナを一組のクラス代表決定戦の為に使用するから使用できなくなる。そんなものだった。もちろん、後日に使用日程の変更があると思って話を聞き流していたが、その説明がなされないまま、すべての説明が終わってしまう。
「織斑先生、使用日程の変更があるのではないですかね? 今の話を聞く限りだと、また新しく利用許可を手に入れないといけないように聞こえたのですが」
「……すまないが、そういうことになる」
「可笑しいですよ、うちのクラスが借り受けたアリーナを横から攫うなんて。それに、打鉄を三機も借りられる日程はあの日だけでしたし、今更利用許可を申請しに行ったところで、上級生や代表候補生、専用機を支給されている生徒の予約で埋まっています。二三日の延期は構いません、打鉄三機を借りられる日程を用意してください」
織斑先生は静かに窓の外を眺める。部活動をしている生徒達がグラウンドを駆けている。
「確かに、我々教師陣の不手際によるものだ。こちらからもアリーナの使用許可は出してやりたい。だが、打鉄三機を貸し出せる日程は、早くて一ヶ月後だ。おまえは専用機を持ち合わせている。自身の実力の向上の為にアリーナを使用したいと言うのであれば、早くて明日にでも手配しよう」
臆すること無く織斑先生の正面に立ち、睨みつけるように見つめる。だが、あちらも何年もISに携わり、熟練された操縦者、俺の睨みなんてひよこの切なげな表情程度に見えるのだろう。だが、俺には言わなければならないことがある。俺の実力なんてしれている。企業代表という地位も男性だから与えられたもの。だが、俺の背中には、一年三組がある。俺は、一年三組のクラス代表、一年三組を纏めて、守る存在。一年三組を侮辱する人間が居るなら、それが世界最強だろうが、神様だろうが、俺は抗う。俺のせいで、危険に晒されている彼女達を、俺は守りたい。だから、俺は彼女達に守ってもらいたいと思われなければならないのだ。
「自分は、一年三組のクラス代表です。クラスメイト一人、一人を大切にしたい。だからこそ、自分一人で何かしらを享受するのは、とても嫌らしく、恥ずべき行為です。自分は、曲げません。絶対に、絶対に」
「……そこまで言うのであれば、おまえも一組のクラス代表戦にでろ。そして、三組の生徒に自分の背中を見せるんだな。そして、うちの代表候補生とバカに勝てたら、どうにかしてやらんこともない」
「本当ですね、信じますよ」
織斑先生は溜息を吐き出し、歩き出そうとする俺のことを引き止める。その表情はとても疲れていて、何か、悩みがあるようにも見えた。だが、なんとなくだが、その理由が理解できた。
「今から話すのは、教師としての織斑千冬ではなく、一人のバカな弟の姉の織斑千冬だ。肩は……大丈夫か?」
「リハビリは続けました。日常生活には、支障はありません。短い時間なら、剣道も出来ます。ですけど、やっぱり、違和感は残ります……」
「すまなかった……辞退してもよかった。一夏のことも、追求されてよかった。だが、私の知り合いは、それを許さない」
「わかってますよ、箒ちゃんのお姉さんは――自己中心的で、頭が良いから、手が付けられない」
良くも悪くも、先生は常識人なのだ。だからこそ、訴えられても良かったし、罪を償う準備もしていたはずだ。だが、非常識な知り合いは、罪を償うどころか、逆に報復すら辞さないような人だ。もし、先生が、織斑が、何かしらで警察や刑務所に行くことになれば、危険になるのは、俺と家族だ。だから、先生は、織斑に俺の肩のことを強く説明しなかったのだろう。遠回しに、痛めた程度で終わらせたのだろう。非常識に見える行動だが、逆に、これが一番正しい、常識的な行動なのだ。非常識に囲まれていると、正しい行動を誰よりも見抜けるようになる。
「一夏と会ったか……」
「はい、会いました。だけど、もう、幼馴染ではいられないでしょう。彼も、彼なりに悩んで、そして、導き出した答えは、他人として接すること。個人的には、また、三人で剣の道を歩みたかったんですけどね……」
「我儘で、変に曲げない馬鹿な奴だからな……姉として、謝らせてくれ。すまない……」
「いいんですよ、千冬さんは、弟としての彼しか見たことがない。だから、友人として見る織斑一夏を知らないんですから。友人として見る、織斑一夏は、俺と箒ちゃんが一番知ってます。だから、自分を責めないでください」
「すまない……だが、私にも、責任がある。自分勝手に、責めさせてくれ……」
先生は、静かにその場を後にした。背中は、泣いているようにも見える。苦労が絶えない人だ。瞳を見ればわかる。影で何度も泣いたのだろう。だからこそ、あの人の目は、酷く落ち着いていて、そして、寂しさを漂わせる。
2
深呼吸をして、冷静さを欠いていないかを入念に確かめる。大丈夫、俺はまだ、冷静な精神状態を保てている。
一年一組の引き戸を開けて入室する。すると一組の生徒達の視線が綺麗に半々にわかれる。半分は顔で、半分は腰にぶら下げている物騒なものだ。
教壇に登り、クラスを見渡す。見知った顔は、織斑と箒ちゃんだけだ。
「一年三組のクラス代表、宮本礼遇だ。君達、一年一組のクラス代表決定戦の影響で、アリーナを使えなくなった。その件に関して、抗議をさせてもらいたい。クラス代表決定戦に出場する生徒は、俺の前に来てくれないか?」
プラチナブロンドの見る限り欧州出身の顔立ちの少女と織斑が静かに俺の前までやってくる。そうか、やっぱり織斑も一つ噛んでいたか。いや、それもそうか、男だからという理由で物珍しさから推薦されたと考えれば、わからないこともない。俺の場合はケースがケースだったから、違和感も何も感じなかったが、普通なら、こうなることが当たり前なのだ。
溜息を一つ吐き出し、そして、睨むように二人を見る。
「状況が状況だ。教師の不手際もあっただろう。だから、俺は君達を強くは責められない。だが、織斑先生が譲歩案を出してくれた。俺が君達二人に勝利したら、出来る限り早い日時で一年三組が提示した条件を飲んでくれると言ってくれた。こっちも、クラス代表として、はいわかりました、お譲りしますと告げることは、まあ、出来ない。だから、言い方は悪いが、君達のクラス代表戦に混ぜさせてもらう。何か、言いたいことはあるか?」
「……わかった、正々堂々と戦おう」
一夏は静かにその場を後にする。箒ちゃんは俺の顔を見て、静かに頷いた。わたしがどうにかするから、心配するなと言っているのだろう。頼もしい限りだ。
「そうですの、失礼なことをしてしまいましたわね。ですが、こちらも祖国を侮辱された件がありますので、引き下がることは出来ませんわ。それに、代表候補生が一人も在籍していない一年三組にアリーナは贅沢でしてよ」
「……それは、宣戦布告と受け取っていいか? 確かに、一年三組に代表と名の付く生徒は俺しかいない。それに、俺は国の代表候補生ではなく、所詮は一企業のテストパイロットとしての意味合いが強い、企業代表だ。だが、一年三組を背負っていることに変わりはない。おまえが、背負っていない重さを背負っている。国の期待という重さを背負っているおまえには、軽く見えるかもしれないが、俺は、この重さを誇りに思っている。だからこそ、言わせてもらおう――負けはしない。全力で叩き潰す」
「そう……自己紹介がまだでしたわね、わたしはセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生でしてよ」
「俺の名前は宮本礼遇、三綾重工の企業代表、そして、一年三組のクラス代表だ」
一年一組の生徒達全員に深々とお辞儀をして、静かに退室する。すると多くの三組の生徒達が俺が出てくると同時に尻餅をついて恐ろしげな表情になっている。苦笑いを溢してしまう。
それもその筈だ、自分とは何十時間、何百時間と操縦時間が違う代表候補生に宣戦布告をしたのだ、末恐ろしい。だが、それくらいしないと俺は彼女達に何かしらを示せない。俺は、彼女達を牽引して行く必要がある。弱々しい姿を見せることは恥ずべき行為だ。俺は、一年三組のクラス代表として、古風な男として、彼女達に大きな背中を見せたいと思っている。
3
ISの整備場は多くの人が集まっていた。その大半が一年三組の少女達であり、その視線は打鉄の整備を行っている俺に集まっている。機械系が得意な生徒は、ここはこうプログラムした方がいいとアドバイスを飛ばしてくれて、作業は思った以上に早く進行している。
「確かに、硝煙は弾薬の供給面で高いアドバンテージがあるけど、12.7×99mmNATO弾の威力不足がネックだね。それに、アリーナでの模擬戦だけなら、硝煙を使うより、学校に備え付けられている『焔火』を使った方がいいんじゃないかな? 個人的な意見だけど」
「いや、焔火は三綾に居た頃に何回か使わせてもらったことがあるんだけど、口径の大きさと炸薬の多さが影響して、パワードスーツであるISを装着していても、着弾が乱れるんだ。それならある程度の精密射撃が出来る硝煙を使用した方が、小さくてもダメージを蓄積できると思うんだよね」
「ホウホウ、やっぱりモノホンを使ってる礼遇くんの言葉は重たくて理解しやすいね」
隣でキーボードを甲高く鳴らしながら、打鉄の微調整を行っているクラスメイトの高垣さんが軽い質問を投げたが、俺の意見を聞いて素直に納得してくれる。それに、焔火を使用したとしても、装弾数が少ない分、弾幕を張るという観点から見てみたら、やはり、硝煙の方が分がある。この打鉄はどうあがいても、近中距離向けの味付けがされている。中距離での錯乱、そして、弾幕を張りつつ瞬時加速を使用しての一撃離脱が一番美味しい戦い方だ。ある意味、装弾数をもっと増やすために口径を落とした硝煙を使いたいとも思える。
「ショートブレード、ハンドガン、アサルトライフル、打鉄は拡張領域が狭い機体だから納得できるけど、やっぱり火力不足だよね」
「必要最低限を詰め込んだらそれ以上は詰め込めないのが、こいつの悪いところだ。だけど、ハンドガンは二丁入れてあるから、一丁外してグレネードなんかを詰め込むことも出来なくはないよ」
クラスメイトの広瀬さんが打鉄の武装について質問する。そして、俺はそれを的確に返答する。すると彼女は何か閃いたという表情になって、スマートフォンを取り出してから、青いISの画像を見せる。
「一組の代表候補生、セシリア・オルコットさんだったかな? 彼女の機体は中遠距離型のティアーズ型、多分、遠隔操作の何かしらの武装を取り入れてると思うから、スモークなんかが効果的なんじゃないかな?」
「確かに、精神面に頼る第三世代型には、視覚などを奪うスモークを多用した戦術が効果的だという話も聞かないことはない。それに付け加えて、開発段階ということもあって、チャフも機体によっては通用することがあると聞いたことがある。これは重要なファクターだ」
携帯電話を即座に取り出して、三綾に電話をつなぐ。そして、スモークとチャフを出来る限り用意してくださいと告げると明日には届けると返事が帰ってきた。
「よし、機体の整備も武装の調整も終了。今更だけど、こんな作業を見てて楽しかった?」
ほぼ全ての女子達が首を縦に振った。やっぱり、ISに興味があって入学したんだな、なんて、心の底から思えた。
誤字脱字があったら報告お願いします。
こんな自分勝手に書いた自分が読みたいと思う物語にお気に入り登録してくれてありがとうございます。