僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

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34:海と危険

 海が見えてくる。学園からも海は見えるが、砂浜が伴っている海というのは別格だ。天候は晴れやか、日差しは日本の夏だから厳しいの一言だ。

 今、俺が居るのは一年三組を臨海学校で泊まる旅館へと運ぶ大型バスの中、隣りに座っているのは高坂さんだ。

 

「日本の夏は暑いですね、ロシアとはレベルが違います」

「そうだね、年々夏が熱くなってる」

「礼遇さんは九州から来たんですよね? 東京より暑いですか」

「いや、断然涼しい。俺が住んでたのは長崎ってところで、色々な海流がぶつかる場所にあるから、夏は涼しくて、冬はそれなりに暖かいんだ」

 

 向坂さんはそうなんですね、と何度も頷いて俺のことを聞いてくる。故郷の話というのは何というか、話していて嬉しいし、懐かしくなる。ほんの数ヶ月前まではそこで生活していたけど、今は東京都で暮らしているのだから懐かしくもなる。

 

「礼遇くん、三綾からはどれくらい武装が届くの?」

 

 前の席に座っていた高垣さんがヒョコッと顔を出す。確か届けられた書類によると三つだけだった。そう告げると三綾にしては少ないね、そう返答される。流石にデュノア社を買収したのだ、武装の研究よりデュノア社をどう手駒にしていくかに尽力したのだろう。届けられる物は真新しさの感じられない地味な物が殆どだ。

 

「そう言えば、雪影Bはどうなりましたか? 大会の時に不具合を見せたようですが」

「それは高垣さんに聞いた方がいいよ」

「ふっふっふ、雪影Bはわたしの才能によって大幅なグレードアップを果たしたのさね!」

 

 高垣さんが饒舌に語りだす。最初は打鉄との相性をプログラムの不備だと思って弄っていたのだが、プログラムの相性ではなく、打鉄の腕部のエネルギー供給不足が原因だということに辿り着いた。雪片、雪影シリーズの零落白夜は膨大なエネルギーを消費するからエネルギー供給の面を工夫しなければならない。手に持つタイプの零落白夜なら接続を機体から電波を送る形で供給しているのだが、組み込み型の雪影Bは腕部に供給するエネルギーを割いて発動していたらしい。腕を動かすエネルギーと零落白夜を発動させるエネルギーがダブルブッキングして零落白夜が止まったり、供給不足から発動が拒絶されたりする。それを腕部に供給されるエネルギーの出力を向上させるこのによって鎮火させた。

 

「高垣さんは凄いですね」

「まあ、礼遇くんの打鉄を色々と弄らせてもらってるからね」

 

 高垣さんは顔を真赤にして頭を掻いた。俺は悪い顔になって、高垣! 高垣! 高垣! と連呼する。するとクラスメイト達が事態を察してか、こう連呼しはじめた。

 

「「「高垣! 高垣! 高垣!」」」

 

 そう連呼し始めた。広瀬さんは日頃この連呼に巻き込まれるので大きな声で高垣さんの名前を呼んだ。高垣さんは末代まで祟ってやると頬を膨らませていたが、顔は柔らかかった。

 

「あ、旅館が見えたよ!」

 

 一番後方の席に座っているシャルロットの声が響いた。バスの席順を決める時、物凄くゴネていたが、流石にくじ引きで平等に決められたのでそれ以上の変更は出来なかった。その時、物凄く睨まれたことを覚えている。そして、唐変木とも言われた。いや、君からの好意はしっかりと受け取っているのだが、これとそれは違う話なのだよシャルロットくん。

 さて、臨海学校。どんなことが起こるのかな?

 バスから降りると一年生全員が綺麗に整列していた。俺はというと身長が高いので一番後方、多分、旅館の人達と会話している先生達から見ても俺の存在は確認できるだろう。織斑、宮本という織斑先生の声が響く。少し駆け足になりながら先生の元にやってくる。

 

「ああ、こちらが噂の……?」

 

 旅館の女将さんだろうか、物腰の柔らかい美人さんだな。

 

「ええ、まあ。今年は二人男子がいるせいで浴場分けがが難しくなってしまって申し訳ありません」

「いえいえ、そんな。それに二人は有名人ですよ。サイン貰っちゃおうかな?」

「宮本礼遇です。よろしくお願いします」

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

 俺と一夏は丁寧なお辞儀をして、静かに顔を上げる。一夏の方に目をやると大人の女性に耐性が無いのか、顔を真赤にしている。

 

「それじゃあ皆さん、お部屋にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」

 

 多くのクラスの女子達が勢いのある返事を返した。俺は一年三組が並んでいる列の前に立ち、こう一言「楽しんで学ぼう」。彼女達は賛成! そう大きな返事を返してくれた。そして部屋に移動する。

 今日一日は終日自由時間。食事は旅館の食堂にて各自自由に取ることになっている。

 

「えっと、部屋割りの紙によると……一年三組の部屋は……」

 

 一年三組全員を引き連れて旅館の中を大行進する。そして、クラスメイト一人一人を部屋まで案内し、自分も部屋に戻る。だが、その部屋というのが職員が使用する少し狭い部屋なのだ。ここで一夏と一緒に寝泊まりすることになっている。女子生徒が雪崩込んでくる可能性は隣の部屋が先生達が寝泊まりする部屋だということもあり、可能性は低いだろう。

 

「礼遇早いな」

「おう、一夏。お茶でも飲もうぜ」

 

 一夏も部屋に合流して、冷蔵庫に入っていた冷たいお茶を湯呑で分けて一息入れる。

 今日一日自由時間となっているのだから思い切り羽根を伸ばすのも悪くない。

 

「入るぞ」

 

 扉が開かれて織斑先生が入室してくる。何か緊急事態なのかと首をかしげるが、切羽詰まった顔をしていないので伝え忘れていたことを話に来たのだろう。

 

「大浴場は一定の時間に男子に開放する。なにせおまえ達二人以外は全員女子だからな。空いたタイミングで私が追って伝えよう」

「「わかりました」」

「そして、泳ぐなら別館の「――」という部屋を使え」

 

 織斑先生がスッと退室して、俺達二人は顔を見合わせる。

 夏だ、海だ。泳ぐしか無い。

 互いに水着とタオルの入った鞄を持って部屋を出る。

 

 

 夏だ、海だ。暖かい風が心地いい。

 さて、結局の所は俺が選んだブーメランパンツは成功したのか、それとも失敗したのかと言うと成功したと言っていいだろう。ただ、物凄く色物を見る目線は絶えていない。やはり失敗かもしれない。

 

「礼遇くん、その水着妙に似合ってるね!」広瀬さんが顔を赤くしながら言ってくれた。

「ああ、なんか運命的な出会いを果たしたんだ」なんか、妙に恥ずかしくなる。

 

 さて、泳ごう。さあ、泳ごう。

 

「それにしても、拳銃と打鉄は絶対に離さないんだね」

 

 シャルロットが腰にぶら下げている拳銃と打鉄を指差す。俺は海が完璧に安全とは限らない、最近の拳銃は塩水に浸けても壊れないと言った。『SIG・P229』はステンレス製だから錆びる心配もない。

 

「ねぇ……僕の水着、どうかな?」

 

 シャルロットは着ているオレンジ色のビキニタイプをどうかと尋ねてくる。うむ、水着なんてものは一年に一度見るか見ないかのしろ物だからどうにも感想に困る。やっぱり水着は露出部分が多いものだ、下着と変わらない。そうなるとどのような返事を返したら良いのだろうか?

 

「……似合ってるとしか言えないな! うん、凄く似合ってる!!」

「なんか、無理矢理褒めてるよにしか聞こえないよ……」

「ああ、無理矢理褒めてる!」

 

 シャルロットはプンとした表情になって、女の子が色々と考えて選んだ水着を無理矢理褒めるなんて最低と言って離れていった。これは俺のセンスの無さが引き起こした結末だろう。まあ、シャルロットと俺は友達なわけだし、一晩寝たら関係は回復しているさ。

 

「それにしても……ブーメランで拳銃ぶら下げてると海パン刑事を連想するなぁ……」

 

 高垣さんの言葉で俺は地面に崩れ落ちる。確かに海パンと拳銃という組み合わせはこち亀の海パン刑事そのものだ。それに俺はムキムキに鍛えているわけで尚更に海パン刑事感が加速する。妙に恥ずかしい。やっぱりブーメランを買ったのは失敗だった。

 

「礼遇くんは自衛のために拳銃を持ってるんだからそれを言ったら駄目だよ」

 

 吉村さんがフォローを入れてくれる。一応、一夏より危険な身に置かれている訳だから最低限の自衛の手段は持ち合わせておかなくてはならない。この姿も俺という人間にとってみれば不思議な姿ではないのだ。そうさ、俺だから許されるファッションというやつだ。

 

「礼遇さん……すごい筋肉ですわ……」

 

 青色の水着、腰にはパレオとかいうやつが付いてるタイプを着たセシリアが顔を真赤にさせて来た。

 

「おう、セシリア」

「……触ってよろしいですか?」

「いいぞ、減るものじゃないしな」

 

 セシリアは恐る恐る俺の上腕二頭筋に触れる。硬い、それが第一声だった。やっぱり筋肉は男女問わず魅力的に映るものだ。

 

「綺麗ですわ……」

「写真でも撮るか?」

「ぜひ!」

「え、冗談だったんだが……」

 

 セシリアがインスタントカメラをパラソルの影に置かれていたインスタントカメラを取り出し、四方八方から俺の筋肉の写真を写していく。流石にこれは恥ずかしいものがある。流石に終わりにしてくれないかと声をかけようとすると、大勢の女子達がセシリアに群がり、現像したらコピーしてわたしに売って! そういう声が響き合っている。

 

「礼遇……こっちに来てくれ……」

「え、ラウラ?」

 

 セシリアが女子達に揉まれている姿を眺めているとラウラが俺の手を引いて海の方に歩みを進ませる。そして腰くらいの深さになったところでラウラが水を引っ掛けてくる。そうか、水掛け合戦をしたいということか! よし、付き合ってやるよ!!

 スクール水着姿のラウラに水をかける。ラウラもやったな、なんて言って水をかけてくる。

 

「あはは!」

「それそれぇ!」

 

 ラウラと水掛け合戦を楽しんでいたらラウラに大量の水が引っ掛けられる。ラウラの後ろにはシャルロットが目の光を失いながら立っていた。

 

「シャルロット……参加するなら一声かけてくれ……」

「礼遇を独り占めにするの禁止!!」

「「えぇぇ……」」

 

 ラウラと綺麗にハモった。

 

 

 少し疲れたので砂浜に腰掛けて深呼吸を数回。女の子というものはか弱いものだと勝手に考えていた時期があったが、思いの外パワフルとしか言いようがない。大の男が女の子に揉まれるだけで息切れをするのは地味に恥ずかしい。だが、楽しいというのは確かだ。

 

「礼遇、今日は良い天気だな」

「おう一夏」

「ああ、少し疲れた……泳ぐのって気持ちいいけど疲れるよな」

「運動の王様だぞ、水泳は」

 

 一夏はそうなのか、そう言って頷いている。息も整ったことだしもう一回泳ぎに行こう。すると鈴さんが駆け寄ってくる。目的は一夏だろう。どうぞ、そういうジェスチャーをして一夏へと続く道を譲る。二人は幼馴染らしい会話を繰り広げて、最終的には少し遠いブイの場所まで競争することになったようだ。

 

「……礼遇、隣いいか?」

「箒ちゃん」

 

 箒ちゃんも他の子と同じビキニタイプの白い水着を着ていた。俺はどの子より箒ちゃんの姿に見惚れてしまった。

 

「どうした……気分でも悪いのか……」

「いや、なんでもないよ……」

 

 箒ちゃんが隣に座る。凄くドキドキする。でも、箒ちゃんは一夏が好きなのだ。それを応援すると決めた俺には付け入る隙は無い。そうなると小さい頃からの淡い恋心は成就しないということだ。いやはや、辛い恋愛をしてしまっているよだ。

 

「……一夏は本当に疎い人間だ」

「……箒ちゃんもめげずにアタックするしかないよ」

「……わかっているんだが、気づいてもらえるかどうか」

「言葉がわからない訳じゃないんだから、気付くさ。俺は箒ちゃんを応援するっていつも言ってるだろ」

 

 箒ちゃんは寂しそうな笑みを浮かべた。

 一夏と箒ちゃんが好き同士になる。それが俺の願いなのにどうしてだろうか……このままで良いと思えてしまう。箒ちゃんと一夏が結ばれる。それが幸せなはずなのに、仲間はずれにされているような……。

 箒ちゃんが立ち上がった。

 

「少し泳いでくる。今日は暑い」

「うん、俺も泳ごうかな」

 

 海へと二人で走った。

 

 

 一夏と他愛もない会話を繰り広げて部屋に戻っていると箒ちゃんが庭に埋まっている何かを注意深く観察していた。

 

「……礼遇、織斑先生に報告を頼む」

 

 俺は箒ちゃんの言葉がよくわからず、埋まっているものを同じように注意深く観察すると――それは俺の身の危険を感じさせるものだった。

 埋まっているのはウサギの耳だ。本物のウサギの耳というわけではなく、人工的に作られているであろう、いわゆる『ウサミミ』というやつだ。それが何を意味するか、それは二人の幼馴染をしている俺にはわかる。

 二人はいいにしても、俺は駄目だ。これに関わると命が危ない。嫌われているのだ、箒ちゃんのお姉さんに……。

 音を立てないようにその場から離れた。

 織斑先生に報告しに行く途中で偶然鉢合わせた。先生も海を泳ぎに行く途中だったのだろう。先生は俺の顔色を見て、何があった、そう緊張感のある声色で質問した。俺は、篠ノ之束さんが現れたのかもしれませんと素直に告げる。すると絶対に警戒を怠るな。私も出来る限りおまえのことを見守る。そう言ってくれた。

 

「……あのウサギが現れたか、何を企んでい――ッ!?」

 

 強い炸裂音が響き渡る。織斑先生は駆け出した。付いていくかどうか考えるが、俺をどうするつもりなのか確認するためにも付いていくのが懸命だろう。鞄の中の拳銃に手をかける。

 

 

「ああ、パラサイトも来たか……まあ、そうだよね。来るよね」

 

 ――篠ノ之束。

 たった一人でISを完成させた天才。

 

「……しんじゃえ~」

 

 一瞬で握られた拳銃が発砲音を響かせる。右に飛んで道端の岩の陰に隠れ、鞄の中から拳銃を取り出す。打鉄を起動させた方が安全だとわかっているが、基本的に私情でISを起動させることはご法度だ。確か、あの拳銃の名前は『ブローニング・ベビー』だったか? 小口径の弾薬を使用するから頭に当たらない限り死ぬことはない。多分。

 岩陰から顔を少しだけ上げると織斑先生が箒ちゃんのお姉さんと組み合っていた。

 

「わたしの生徒に何をする!」

「ちーちゃんのクラスの生徒じゃないじゃん? それに気に障るから殺すくらいいいでしょ」

「サイコパスが!!」

「一夏! 箒ちゃん!! ここは危ない……逃げよう……!」

 

 二人は声にならない恐怖で口を開くことが出来ないが、素直に従ってくれた。

 

 

「あーらら、逃げられちゃったよぉ」

 

 束は酷く残念そうな顔で千冬の顔を見る。表情は笑顔で溢れていた。

 

「……何故、礼遇を殺そうとする」

「さっきも言ったけど、気に食わないから殺すだけだよ? それ以上の理由が必要かな……」

「それは理由にならない。人の命を何だと思ってる!」

「ねえ、なんでパラサイトがもてはやされるの? アレはこの世界に必要のない存在なんだよ。それを排除するのに理由なんていらないじゃないかな?」

 

 握り締めていた拳銃を捨てて、千冬に背を向ける。

 

「箒ちゃんを人気のつかない磯まで連れてきて、渡したい物があるから」

「……礼遇は連れてこないぞ」

「まあ、どうせ死ぬからどうでもいいよ」

 

 束は不気味な笑みを見せて消えていった。

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