僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
部屋の隅で拳銃を握り締めながら襲撃が来るかどうかを思い詰める。こんな楽しい時にあの人と遭遇するなんて天国と地獄だ。確実に殺しに来ていた。躊躇いもなく銃口を向け、引き金を引いた。わかることは一つ、一人になっていないと他の人に迷惑がかかる。下手をすると殺される。今は銃を握り締めて、警戒するしかない。
安全装置を外し、薬室に球を込める。持ってきた予備のマガジンに十三発全弾入っているかどうかを再確認、そしていつでも再装填できるようにベルトに挟む。
「……礼遇、私だ」
「ラウラか……俺と一緒に居るのは危ない。自分の部屋に帰るんだ」
「話は聞いた。私も軍人の端くれだ、一緒に居させてくれ」
ラウラは静かに扉を開けて入ってくる。左手にはいつか見たガンケースが握り締められている。
壁に寄りかかっている俺の隣に座り、ガンケースの中から拳銃を取り出す。ラウラは笑って、色々とあるだろうが、私を頼って構わない。そう言って、薬室に弾を込めた。
「ラウラ、おまえは俺よりずっとISに乗ってるからわかるだろうが、ISというものを作った人間だ。拳銃一丁でどうにか出来る相手とは限らない。巻き込まれる可能性もあるんだぞ……」
「その時はその時でいいさ。それに、おまえに死なれたら……私は楽しく遊べない。私に遊びを教えてくれた、これからも教えてくれる人が死ぬなんて考えたくもない。死ぬなら一緒にだ」
互いに拳銃を握り締め、そして、しっかりと前を向く。少なからず、千冬さんの目が光っている間、あの人は手を出してこないだろう。手を出してくるタイミングと言えば、この臨海学校が終わると同時くらいか? 一人で居るより、力がある人と一緒に行動する方が安全なのかもしれない。
ホルスターを取り出して、腰に巻き付ける。そして拳銃を収納し、ラウラの方を見た。
「ラウラ、情けない話だが……俺を守ってくれないか?」
「当たり前だ」
壁に掛かってある時計を確認すると七時半と言ったところ、食事の時間だ。
「部屋に籠もっていても意味がない。ご飯食べに行くか」
「行動した方が安全な場合がある。賛同する」
ラウラもホルスターをベルトに通して拳銃を携帯する。さて、あの人はどう出てくるだろうか、厳しい展開が予想されるのはわかっているが……行動しないといけないことだけはわかってる。
2
宴会場と呼べる場所に足を運ぶと俺とラウラの制服姿が酷く浮いていた。他の生徒達は全員浴衣着を着用していた。織斑先生がサッと俺とラウラに気づき、私の隣で食べるといいと言ってくれた。そして、何が起こるかわからない、武器は手早く抜けるように気構えておけとも言われた。
出された食事に手を付けることなく、窓を注意深く観察する。いつ何かが飛び込んでくるかわからない。拳銃のボタンは外している。いつでも抜ける。
「……大丈夫だ。窓際には篠ノ之と織斑を座らせている。窓からの侵入は無いだろう」
先生の言葉に胸を撫で下ろす。流石に窓から侵入したら大切な妹とその幼馴染が怪我をする可能性がある。好きな人はとことん好きな箒ちゃんのお姉さんはその人達を怪我させるようなことは絶対にしない。箸を握り、豪勢な料理を口に運ぶ。
「織斑先生、僕も礼遇の隣に座っていいですか?」
「……IS以外の自衛の手段はあるか」
「ここを触ってください」
シャルロットが織斑先生に声を掛ける。織斑先生は浴衣着姿のシャルロットの腰の部分を触り、座ってくれと通した。ナイフか拳銃を仕込んでいるのだろうか? 情報の回り方が早くて驚く限りだ。シャルロットは苦しそうな表情で俺のことを見た。
「礼遇……絶対に守るから……」
「守られる立場にはなりたくないが……心強いよ……」
シャルロットは自分の料理を持ってきてラウラの隣に腰掛ける。ラウラも武器を持った人間が増えて嬉しいと小さく呟いた。
「食事の時くらい気を抜きたいんだが、それが許されない状態ってわけか」
料理をチビチビと口に運ぶが、どうにも味がしない。部屋中を見渡してどういう風に侵入し、俺のことを殺しに来るのかを考えてしまっている。一年三組が固まっている場所から侵入されたらと思うと吐き気まで感じる始末だ。
「……気配が消えた。宮本、大丈夫だ」
織斑先生が胸をなで下ろした。俺も漂っていた殺気が消えた気がして流れていた汗がサッと引いていくのがわかる。料理を口に運ぶとちゃんと味がした。安堵のため息を一つ。この状態からの攻撃は降り注がない。確信こそできないが、織斑先生が言ったのだ、多少は安心できるだろう。
「……ボーデヴィッヒ、デュノア、出来る限り一緒に居てやってくれ」
「「わかりました」」
苦い顔になる。女の子に守られる男の子というのも情けない。
3
部屋に戻る途中で一夏と箒ちゃんに呼び止められた。その表情は苦しいもので何とも言えない。
「……礼遇、俺がどうにかする。束ねぇを止める」
「わたしもだ! あの人をどうにかして止めなくては……」
シャルロットとラウラは二人が箒ちゃんのお姉ちゃんと関係が深いことを察して、一歩引いた位置で辺りを警戒してくれている。俺は重々しい口を開いた。
「頼めるか? 今回ばかりはあの人と親しい二人に」
「――ああ! 束ねぇだって話せばわかってくれる。礼遇、でも、まだ束ねぇと話し合ってないから油断だけはしないでくれ」
「姉の愚行を止めるのは妹の役目だ。どうにかしてみせる」
「ふたりとも……ありがとう……うぅ……」
優しく二人を抱きしめて、男らしくない涙を流してしまう。二人は事の重大さをより一層感じたのだろうか、鋭い表情になっていた。こうなってみると、俺一人で解決できないということがはっきりと分かってしまう。頼られてきた俺が、二人に頼る日が来るとは思わなかった。やっぱり、俺という存在は弱いものなのだろう。
「織斑、篠ノ之。奴を探しに行くぞ」
後方から織斑先生が現れた。
4
束は崖の上から夜空を眺めていた。ウサミミが揺れ動き、月に雲がかかる。そっと立ち上がって、やあやあ、そう三人に声をかけた。三人の表情は刃物のように鋭く、彼女のことを嫌悪しているようにも思えた。第一声は一夏によって告げられた。
「束ねぇ……礼遇に手を出すのはやめてくれ! 俺の大切な友達なんだ!!」
束は、深い溜息を吐き出し、一夏のことを見る。小さい頃から知っている大好きな親友の弟、それが自分の意見をハッキリと言えるようになったのは嬉しいが、それがパラサイトと忌み嫌う存在を庇う言葉なら話は別になる。彼女は宮本礼遇を殺したくて仕方がない。一夏と箒に付き纏うゴミムシという存在でしかない彼を生かしておきたくはないのだ。
「ねえ、いっくん……この世界には必要のない存在ってのがいるんだよ? わかる」
「姉さん! この世界に死んでいい命なんてありません!!」
「大人になったなぁ、箒ちゃん。綺麗事を真面目な顔で言えるくらいには」
束はアタッシュケースを展開し、三人の前に投げる。
「今回パラサイトを殺すために用意した武器全部。それ以外は大きな物しか持ってないから安心して」
千冬がアタッシュケースの中を開くと武器商人か、そう言わせるくらいに大量の銃火器が詰め込まれていた。一夏と箒は大量の汗を流し、これだけの武器を用意してまで礼遇のことを殺そうとしていたのかと生唾を飲み込む。ウサギは笑っていた。
「姉さん……誓ってください。これから先、死ぬまで礼遇のことを狙わないと」
「えー、それは酷いよ箒ちゃん!」
「誓ってくれないなら……」
箒は束の隣に立ち、そして、一歩、二歩と歩みを進める。流石に怖くなったのか、束は箒の服を掴んでそれを阻止する。だが、妹の目は本気になっていた。これは怖いと言って、彼女は立ち上がる。
「パラサイト一匹の為に箒ちゃんが死んだら採算取れないよ」
「礼遇は寄生虫じゃありません! 人間です!!」
「変わらないよ、アレはわたしにとって見たらただの寄生虫。わたしの大切な人達にこびり付くゴミムシ」
一夏も崖の上に立ち、そして、千冬も立った。束は困惑する、どうしてゴミムシ一匹にここまでするのだろうか、ただ寄生するだけしか能がない単細胞に。千冬は言った。さあ、二本の手で二人選べ、そして、一人を犠牲にしろと。困惑した。三人が三人、本気で一人を守ろうとして死を覚悟していることに。
「あー、はいはい、わたしのまーけ。手を出さないから死ぬのだけはやめて、ね!」
一夏が束の前に経って、小指を差し出した。
「指切りしようよ……絶対に礼遇に手を出さないって……」
「……はい、どうぞ」
指切りげんま、その声が夜の崖に響き渡る。
彼女が他の手段を持っていることなんて知らず、三人は受け入れてしまった。ウサギが改心したと……。