僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
昨日の夜、織斑先生と一夏、箒ちゃんが部屋を尋ねてきて箒ちゃんのお姉さんを説得することが出来たと言ってくれた。本当かどうかわからないが、織斑先生が同伴しているのだ、可能性は高いだろう。部屋で拳銃を握り締めていた俺、ラウラ、シャルロットは胸を撫で下ろした。その後は二人は自分の部屋に戻って、一夏との二人部屋になる。
「一夏、今回ばかりはお礼しか言えない」
「いいんだ。俺のせいでもあるから……」
一夏は自分がISに乗れること、それは箒ちゃんのお姉さんが仕組んだことなのではないかと語り始めた。自分はあの人とも仲が良かったし、何よりも織斑先生の弟。開発者の束ねぇなら俺という存在をISに乗れるようにするくらい赤子の手を捻るより簡単だ。そう言って、俺のことを見た。
「もしかしたら、俺という存在をISに登録した時に誤って礼遇もISに乗れるようにしたのかもしれない」
「その可能性は……あるな……」
「だから、間接的には俺が原因になってるのかもしれない。だから、謝らなくていい」
一夏は俯いたまま、暗い表情を崩さない。俺は苦い顔を見せてお茶を冷蔵庫から取り出した。朝と同じように湯呑で二つに注いで、笑顔で一夏に渡す。一夏は泣いていた。自分に責任がすべてあると思っているんだろうか……。
「一夏、なんで泣くんだよ。おまえに泣かれちゃ……俺が泣けないじゃないか……」
「礼遇、なんで……おまえはそんなに優しいんだよ……」
一夏は悪い、夜風を浴びてくると言って部屋を出ていった。
羨ましいぜ、親友。
2
旅館の地下、そこでは色々な会社から送られてくる武装を一年生各自が真剣な表情で整備している。色々とあって一年三組に合流した俺は多くのクラスメイトに泣かれた。そして、一夏が助けてくれたと言ったら、一夏に御礼の品をクラスで贈ろうよなんて話が飛び交った。
今の所殺気のようなものは感じない。一夏が言うよに箒ちゃんのお姉さんは完全に俺から手を引いたのだろう。これからは危険は付き纏わない。今はクラス代表としての仕事を全うする。それが最優先だ。
「三綾からの荷物を開くよ……それっ!」
高垣さんがバールを使って三綾からの木箱を開ける。中には硝煙とドラムマガジンらしき物が収納されていた。硝煙、硝煙ヘビーと来て、これは硝煙MAXと言ったところだろうか? 装弾数は百発と硝煙ヘビーから四十発も弾数を増やしている。マガジンキャッチの部分もノーマル、ヘビーに比べて素材も一新されていてドラムマガジンを装着しても十二分な強度を発揮するだろう。
「三綾もドラムマガジンにするなんて通だねぇ」
高垣さんは硝煙を眺めながらよだれを垂れ流していた。クラスメイト達は乾いた笑い声を響かせる。俺は打鉄を展開し、新しい硝煙を持ち上げる。そして弾が装填されていないことを注意深く確認して引き金を引いてみる。トリガーの切れ味が少し上がったような感覚がある。
「どう、持った感想は?」
「弾が入れられてないからよくわからないけど、今までの硝煙と変わらないと思う」
「トップヘビーになる可能性があるっと……」
高垣さんは他の木箱も開いて中身を確認する。さて、俺も三綾から届いた武装のレポートを書かなくてはならない。色々と中身の確認をしなくては。
タタタッと人が駆けてくる音が聞こえる。足音の方向を見るとうちのクラスの担任、田辺先生が息を切らしながら大きな声で言った。自室待機だと。
3
重々しい雰囲気が立ち込める旅館の一室。旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花のまでは、六人の少年少女と教師陣が集められていた。六人の少年少女が最初に思ったこと、それは宮本礼遇の不在という違和感である。何か緊急事態が起こった時、大抵は礼遇が先陣を切るようにと起用される。だが、今回は礼遇の姿はこの間にはなかった。
「では、現状を説明する」
照明を落とした薄暗い室内に、ボッと映し出される大型の空中投射ディスプレイ。織斑千冬が説明したのは、二時間前にハワイお気で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したという報告があったらしい。
六人の少年少女が険しい顔付きになる。一夏も何となくだが、状態が飲み込めた。軍用のフルスペックが暴走している、それは非常に危険だということ。止める必要がある。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして十五分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」
その後も千冬は事態の説明や教師による会場閉鎖などを語る。そして質問の有無を問うと一夏が一番最初に手を上げた。
「礼遇は……」
「宮本は今回の件からは外すつもりだ」
「わかりました」
一夏は寂しそうな顔になる。年齢は同じだが、兄貴分のように慕っている礼遇がこの作戦に参加しないのは心苦しさがある。活躍するしないではなく、礼遇という頼もしい存在が居てくれないというのが苦しいのだ。礼遇は逆転の発想を持って多くの事態を収めてきた実績がある。だが、今回はそれに頼れない。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった。ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」
「了解しました」
スペックを要求したセシリアが汗を流しながら千冬の言葉を受け入れた。
六人に手渡されるタブレット端末。そこには目標ISのデータが記されている。一夏は小難しい情報ばかりで大まかな内容しか把握できていないが、それでも最新鋭の第三世代が暴走している事実だけはしっかりと受け入れた。六人は提示されたスペックを確認し、どう対処するかを検討する。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「……攻撃と機動の両方を特化させた機体ね。厄介だわ。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうのほうが有利……」
「……三綾からラファールの防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」
一夏は渋い顔になる。この大仕事、桁が違い過ぎる。相手は競技用のISなんて生温いものではない。本物の軍用モデル。試験機だとしても、その強大さは目に見えている。ちゃんとした戦略が必要だ。
「偵察の類いは」
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」
「一度きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
「そうですね」
一夏は山田先生の言葉に頷いた。他の子達も一夏のことを強い視線で見る。だが、一夏は生唾を飲み込んで、これは自分では出来ないかもしれませんと告げた。千冬はどうしてだ、そう尋ねる。零落白夜が使える機体は二機ある。一夏は礼遇もこの作戦に参加させることをお願いした。
「宮本はヤツに攻撃されて精神的なストレスが溜まっているだろう。この作戦に出させるにはリスクが大きい。すまないが、織斑……おまえにしか出来ない」
「……お願いします。作戦構築だけでも、礼遇を起用してください。怖いんです。あいつに何も言えないまま行くのが」
「――ッ!? ……田辺先生。宮本を連れてきてください」
「わかりました」
一夏の弱音はここにいる誰しもが理解できた。宮本礼遇、彼はIS学園の一年生の中で最強という立ち位置に立っている。そして、とても優しい。頭も回り、気配りも出来る。一夏と礼遇は親友だ。一度は仲違いをした仲だが、今は親友。そんな彼に何も言わないで作戦を遂行するのは嫌だ。それは、全員が理解している。
五分くらいだろうか、それだけの時間が経過して大柄な少年が渋い顔をして部屋に入ってくる。そして、最初に言い放ったのは――大事みたいだな、そんなものだった。
「宮本」
「先生からタブレットを受け取って、移動する時に全部理解しました。一夏の白式が適任でしょう」
「問題点はあるか?」
「零落白夜を発動できる機体を標的との交戦距離まで運ぶ足がありません。白式は機動力に関しては問題はないですが、どうしても燃費が悪く交戦距離まで戦える余力があるかどうか。俺の打鉄に至っては機動力が圧倒的に足りません。交戦距離に入れたとしても、相手の方が機動力が上、満足に交戦できるかどうかも」
セシリアが静かに手を上げた。イギリスからブルー・ティアーズの強襲高機動型パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていると言った。相手との距離を把握する超高感度ハイパーセンサーも付いているから文句のつけようがない。
礼遇は頷いて、セシリアに頼めるか、そう尋ねる。するとセシリアは優しい笑みで大丈夫ですわ。そう返した。
「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「二十時間です」
「ふむ、ならば適任――」
腑抜けた笑い声が響き渡る。礼遇は腰にぶら下げた拳銃に手をかけて、声の主の顔を見る。
「ああ、パラサイト。居たんだ? もう攻撃するつもりは無いからアクション起こさないで、目障りだから」
礼遇は手をかけることをやめて、彼女と距離を広げた。一夏と箒は彼を隠すように立ち上がり、束のことを睨む。だが、彼女はそんなこと知らないという表情でズカズカと千冬の前に立つ。千冬は強い嫌悪感を放ちながら、部外者は消えてくれないかと告げる。
だが、束は臆することなくマシンガントークを続ける。大まかな内容は自分が箒のために持ってきた紅椿という機体のスペックを確認しろというものだ。礼遇は紅椿という言葉に違和感を持ちながら、箒の方に顔を向ける。すると箒は後ろめたそうな表情で俯いた。
「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ! これでスピードはばっちり!」
展開装甲? そう一夏が首をかしげると束は千冬の隣に立って説明をしはじめた。しかも、メインディスプレイを乗っ取った形で。さっきまで福音のスペックデータが映っていた画面は、今はもう紅椿のスペックデータへと切り替わっている。
彼女は饒舌に語り始めた。展開装甲とは第四世代型ISに搭載される装備だと。一夏と箒以外の全員が背筋を凍らせた。第三世代の試験機が可動し始めたこのタイミングで第四世代型を登場させる。それは、あまりにも規格外だった。
それでも彼女の話しは止まらない。『ISの完成』を目的とした第一世代型。『後付武装による多様化』を目的とした第二世代型。そして『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』。空間圧作用兵器にBT兵器、あとはAIC。そして紅椿というのがそれらを追い越す第四世代型。『パッケージ換装を必要としない万能機』という、机上の空論そのもの。
「展開装甲というのはね、具体的には白式と……言いたくないけどそこのパラサイトの打鉄の雪影とかいうゴミにも採用されてまーす」
束は心の底から嫌そうに説明した。三綾が雪片弐型の研究データを産業スパイによって持って帰らせて、それを小型軽量化とエネルギー効率の改善したゴミが備わっていると。
束は紅椿がどれだけ凄いかを淡々と説明し、そして、最終的には現状、この世界で一番強いISが紅椿だということを証明した。全員が箒に視線を向けて、冷や汗をダラダラと流す。
「はにゃ? あれ? なんでみんなお通夜みたいな顔してるの? ああ、そうか! パラサイトが死んだんだね! 殺す手間が省けたよぉ」
千冬はこの緊急事態、迅速に終わらせるには紅椿が適任だろうと溜息を吐き出した。出来れば、このウサギが持ってきた代物は極力使いたくないというのが心情だが、これを使うのが一番早いのだから決定する他ない。セシリアの方を向くと静かに頷いた。
「ちなみに紅椿の調整時間は七分あればよゆうだね★」
「よし。では本作戦では織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする」
箒が静かに手を上げた。
「わたしは一夏との共同戦闘の経験がありません。一夏ではなく、礼遇を連れて行かせてください」
場が凍りついた。全員の視線が束に向けられる。昨日は礼遇を殺そうとしていた人間がここにいる。箒のこの提案は礼遇という存在を酷く危険な状態に置く片道切符。束は歯を食いしばったが、昨日の約束を忘れてはいない。
「確かに撃破できる確率は箒ちゃんとパラサイトでの共同作戦の方が上だね。でも、いっくんの白式は第三世代。そっちのゴミムシは第二世代。わかるよね? 箒ちゃん……」
「姉さん。わたしが一緒に戦う相手くらい――自分で決めさせろ!!」
箒は自分の姉のことを殴り捨てた。束は酷いね、そう言って口の中の血を畳に吐き捨てた。
「箒ちゃん……」
「わかってる。自分の行動が可笑しいことくらい。でも、一夏と一緒じゃあ、倒せるヴィジョンが浮かばないんだ」
束は礼遇のことを睨んで紅椿を持っていた。
4
「箒ちゃん……なんで俺を選んだんだ……」
冷たい口調で箒ちゃんを攻めた。別に怒っいるわけじゃない。ただ、箒ちゃんが好きなのは一夏で、初めて自分のISを与えられたのだ。それなら、好きな人と一緒に作戦を遂行した方がいい。それなのに、選ばれたのは俺だった。
「……一緒に極悪の花を咲かせたじゃないか。一緒に戦ったじゃないか」
「それはわかるよ。でもね、箒ちゃんが一番に選ばないといけないのは一夏の筈だ。俺なんて選択肢に入れる必要も無いんだ。今からでも遅くない――一夏と!?」
箒ちゃんが俺のことを抱き寄せた。
「……わかってる。好きなのは一夏で、恋してるのも一夏。でも、こういう時に頼りにするのは――おまえなんだ」
「……わかったよ。俺の負けだ」
箒ちゃんの頭を撫でた。
5
時刻は十一時半と少し。
七月らしい晴天が広がっている。
「……打鉄」
「行くぞ、紅椿」
互いに機体を展開させ、独特の浮遊感と安心感を感じる。箒ちゃんの方に顔を向けると両手を握り締めて、自分に喝を入れていた。その姿を見て、最初の頃の自分を思い出す。
「すまない礼遇……巻き込んで……」
「箒ちゃん、俺は箒ちゃんに負けた。だから、付いていくよ――どこまでも」
「ありがとう」
箒ちゃんの紅椿という機体に肩を置く。そして、地面が抉れる程の機動性を目の当たりにする。これが第四世代の機動力……。
『篠ノ之、宮本、聞こえるか?』
オープンチャンネルから織斑先生の声が聞こえる。俺と箒ちゃんは頷いて聞こえていることを伝える。
『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ』
「了解しました」
「織斑先生、状況に応じてのサポートはよろしいですか?」
『そうだな。だが、無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然、なにかしらの問題が出るとも限らない」
「わかりました。出来る範囲で支援をします」
箒ちゃんから強い闘気のようなものを感じる。こんな大仕事、練習機を数回くらいしか乗っていないのにこの気迫、燃えている。俺もおんぶに抱っこは出来ない。箒ちゃんに選んでもらったんだ――一回で終わらせる。そして、笑顔で帰ってくるんだ。
「見えた!」
「あそこか……」
機動力に劣る打鉄、出来る限り距離を詰めて――瞬時加速で決める!
『銀の福音』その姿に恥じない鈍く輝く機体。それを仕留められる距離に――届いた!
箒ちゃんの紅椿から手を離し、瞬時加速で近接戦が出来る距離に詰める。そして、左腕部に取り付けられた雪影Bを突きつける。届く! 確実に届く距離!!
「敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘》、稼働開始」
「――ッ!?」
左腕を右腕でガッチリと掴まれる。この超音速飛行からの瞬時加速を用いた攻撃が受け止められる……ありえない! 掴まれた左腕を振り解くが、銀色の羽が俺を包んだ。そして、光が――。
機体から響き渡るアラート音、早くこの翼から逃げなくては作戦が水の泡になる。翼に向けて雪影Bを何度も突き刺し、腹部に蹴りを入れて脱出する。が、レーザー攻撃を受けていた二枚のシールドがグチャグチャに融解し、ボトリと海面に叩きつけられた。
翼がはえた銀色の天使、これは――規格外のようだ。
「箒ちゃん! 援護を!!」
「わかった!!」
大量に飛んでくるレーザー、それを一発でも受けたら爆発して大きなダメージが通る。一発も当たってはいけない緊張感が焦りを加速させる。ファースト・アタックで仕留められなかった。これは酷くヤバイ。軍用のフルスペックを第二世代の打鉄でどうこうできるものなのか――いや、どうにかしなくてはならない!!
箒ちゃんが紅椿の機動力を利用して福音を足止めしてくれている、今なら!
――海面に漂う一隻の船。
「なんでだ! 海上封鎖した筈なのに船が……」
「密漁船か、構うな礼遇! このチャンスを無駄にしたらもう」
福音は船を見つけたのか、大量のレーザーを放つ。
人が死ぬ、それは、あまりにも酷いことだ。やらせてはいけない。させてはいけない。
体が勝手に動いていた。
「うグッ! ガァァァ!!」
「礼遇!!」
箒ちゃん……ごめん……。