僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
それは酷く懐かしい記憶だ。
俺の名前は宮本礼遇。少し変わった名前をしているが、何をやっても普通にしかならない普通の国に産まれた普通の男。そんな俺は普通じゃなくなろうと剣道を始めた。父親が探してくれた道場、そこには同い年の一夏と箒という男の子と女の子が居た。
二人は俺よりずっと上に立っていて、才能も凄かった。一夏なんて、この道場に通いはじめてから一ヶ月しか経っていないというのだから、普通な俺には超えられない壁だと心の奥底から思える。だけど、普通じゃなくなる為にこの場所にやってきたんだから、普通じゃなくなる努力をしないと。
それは道場で一緒になった二人と同じクラスになった小学二年生の時のことだ。
今日の掃除当番からは外れていたが、一夏と箒ちゃんと一緒に道場に行くために手伝っていた。一夏と小学生らしい会話を繰り広げていると箒ちゃんが同じクラスの同級生に絡まれはじめる。俺と一夏はその姿を少しの間、静かに見ていたが、すぐにそれは行動に移される。
「おーい、男女~。今日は木刀もってないのかよ~」
「……竹刀だ」
「へっへ、お前みたいな男女には武器がお似合いだよなー」
「…………」
「しゃべり方も変だもんな~」
その時は、確か、何も思わないで箒ちゃんの前に立って、そして、なんて言ったんだっけ? ああ、思い出した。
「いじめ格好悪い」
クラスの男子達はムッとした顔になって、宮本は男女が好きなのかよと反論する。その時に一夏も箒ちゃんの前に立って、同じクラスメイト、それに同じ道場で学んでいる仲間がからかわれていたらイライラするに決っているだろうと声を荒げた。
「へっ。まじめに掃除なんかしてよー、バッカじゃねーのー」
箒ちゃんが手を出そうとするが、それを止めた。そして、俺が彼の胸ぐらを掴んだんだ。
「ねえ、どうして強い言葉を使うの? 喧嘩をしたいの……違うだろ、からかいたいなら、他の子を選んでくれ」
小さいと言っても男同士の睨み合い、普通の国の普通星人の俺だって、気迫で負けてはいない。
「気持ち悪い、離せよ……勉強も運動も出来ないクズが!」
一夏と箒ちゃんがその時叫んだんだ。俺を馬鹿にするなって、他のクラスにも聞こえるくらい大きな声で……。
「なんでおまえ達はこんな奴に構うんだ? そうだろ、勉強も駄目、運動も駄目、何もかもがダメダメ星人。こんな奴と一緒に居るとか頭おかしいだろ」
俺は、そっと掴んでいた胸ぐらを離した。その時の俺は本当に駄目な奴だったんだ。勉強も運動も出来ない。剣道も少しずつしか身についていない。彼らが言っていたように、ダメダメ星人だった。普通星人は裏を返せばダメダメ星人だったという落ちだ。
――殴ったんだよな、一夏が。俺の誇りを守るために。
「言っただろ! 礼遇は駄目じゃない!! ……大切な友達を馬鹿にするな!!」
その後は俺も目が覚めた。一夏を殴り返す同級生達の姿を見て我に返った。喧嘩祭り、自分の意地とプライドを賭けて殴った。まあ、祭りと言っても大声を聞きつけた教師達に取り押さえられて終わった。
帰り道、少し腫れた頬を擦りながら道場へと続く道を歩いた。
「礼遇……おまえは駄目じゃない……」
「そうだと良いんだけどね……」
「何を言ってんだ。人はそれぞれ色々な道を歩いてるんだ。一緒の道なんてない」
一夏の言葉に涙を流してしまう。小さい頃の俺には、重く優しい言葉だった。
「礼遇、一緒に強くなろう。わたしも手伝うさ」
「箒ちゃん……」
「強くなろう」
後ろを振り返ると桜が咲いていた。季節は終わっている筈なのに。
2
「ご臨終だね★」
礼遇が落とされた姿を見て、束は酷く楽観的に、そして、軽々しく死を語った。その場に居た全員が落ちていく彼の姿を見て嘘であってくれと叫んだ。だが、打鉄を纏った彼は水面に叩きつけられ、そして、海の底に沈んでいく。
「あ、ああ……ああああああああああ!!!!」
一夏が叫んだ。そして、その場に突っ伏して、何度も何度も地面に拳を叩きつける。だが、礼遇が非常に危険な状態で撃墜されたことには変わりない。一夏はその場に居合わせた全員を睨むようにして見、セシリアに強い視線を送る。
「セシリア! 礼遇を救出に行かせてくれ!!」
セシリアがわかりましたわと言おうとした瞬間に束がそれを止める。満面の笑みで……。
「いっくん、もうあのパラサイトは死んだよ。エネルギーも尽きたようだし、今更行っても無駄だよ。箒ちゃんはほぼ無傷のようだけど敵がいる前でオイオイ救出活動なんて出来ないよ。見捨てた方が得々」
「なんでそんなことが言えるんですか! わかってますよ……束さんが礼遇を殺したかったことくらい。でも、礼遇は大切な友達なんです!!」
「大人になろうね、いっくん? もう人の死を受け入れられる年齢でしょ」
千冬が一夏を担ぎ上げ、別室に連れて行った。このままこの場所に居させたら、束を殺そうとISを展開する可能性がある。何を考えているのかわからない存在だ。怪我をする可能性がある。それを事前に防ぐには、彼を一人にすることだ。
近くの空き部屋に一夏は連れて行かれ、そして、その場に投げ捨てられる。
「すこし冷静になってくれ――教師陣で救出活動は絶対に行う」
「――礼遇……」
「少し寝ていてくれ……」
千冬は一夏の首をトンと叩き、気絶させる。
部屋に戻ってきて、最初に千冬が告げた言葉は篠ノ之を帰還させろ。それだけだった。
4
箒が帰投して、部屋に戻ると同時に倒れ込んだ。目は真っ赤に腫れて、口は何度も閉じたり開いたりを繰り返している。その姿を見た全員が歯を食いしばった。だが、強い言葉を浴びせることは出来ず、苦い表情を見せることしか出来ないでいる。
「……箒さん、作戦を考えますわよ」
セシリアが倒れ込んだ箒に肩を貸し、無理矢理椅子に座らせる。互いに目に光は宿っておらず、一人の少年が死んでいるかもしれないという事実に目を隠している。でも、それではいけない。前を向かなくては、救出活動も出来ないのだ。一歩を踏み出すしかない。
「箒……僕の言葉をしっかりと聞いて……」
シャルロットが座っている箒の前でしゃがみ、目を合わせて語りはじめる。
礼遇が簡単に死ぬわけがない。でも、危険な状態であることには変わりがない。一刻も早く敵機を落として礼遇を救出しにいくことが先決であると。その言葉を耳にし、箒は過呼吸になる。それをシャルロットは抱きしめながら大丈夫、大丈夫と優しく何度も、何度も言って、落ち着かせる。
「箒……わかるよ、礼遇のことが好きなんだよね」
「…………」
「僕の場合は恋だけど、箒は――信頼という名の愛情」
「デュノア……」
「シャルロットでいいよ……」
「シャルロット……わたしは……わたしは!」
「大丈夫だから、皆で、礼遇を迎えに行こう……」
箒はシャルロットに胸を借りて大粒の涙を絶え間なく流し続けた。
「役立たずのわたしでも……力になれるか……」
「大丈夫、絶対になるから……一緒に迎えに行くよ」
ラウラがガッツポーズを見せた。そして、銀の福音の居場所を特定した。そう告げると全員に強い意志が持たされたことになる。一刻も早く目標を落として、礼遇を救出に行く――それが自分達に出来る最善の選択なのだから。
「みんな! 行くよ!!」
シャルロットの掛け声と同時に行動は開始された。
5
桜の花が舞っている。ヒラヒラと、桜花びらが舞い踊っている。
一面真っ白な空間、そこには一本の桜の木が植えられていて、花を満開に咲かせている。
「どうも、ご主人様。お目覚めはよろしいですか?」
「君は?」
「貴方が打鉄と呼んでいるものです」
桜の木の前に一人の女の子が現れた。桜色の着物を着込んだ美人。この子が打鉄なのか……。
彼女は右手に百合の花、左手に椿の花を持ち、差し出した。
「選んでください。二人の進む先を」
「……じゃあ、この桜、桜を選ぶよ」
桜の花びら達が風に吹かれて吹雪いた。桜吹雪。
「咲かせますか、桜の花を――吹雪くまで?」
「ああ、吹雪かせる。綺麗な桜吹雪を」
意識が覚醒する。
6
さざ波の音が響き渡る。
一人の少女が歌と踊りをしていた。
一夏はその少女を見て、酷く懐かしい感情を覚えた。
彼が彼女のことを見つめているといつの間にか歌が終わっていた。踊りもやめて、彼女はじぃっと空を見つめている。彼は不思議に思って、座っていた奇から離れて少女の隣へと向かう。
波の音が響く。
波打ち際までやってきた彼を、涼しい水の調べが濡らす。
「力を欲しますか?」
「……欲しい」
「何のための」
「友達を――いや、仲間を守る力を」
「じゃあ、行かなくちゃ。妹も目を覚ましたから、すぐに来る。頑張って」
7
「ぐっ、うっ……!」
ぎりぎりと締め上げられ、圧迫された喉から苦しげな声が漏れる。
福音の手は堅く箒の首を掴んで離さず、さらにはエネルギー上へと進化した『銀の鐘』が紅椿の全身を包んでいた。
(これまでか……。情けない……)
ぽうっと光の羽が輝きをマシていく。一斉射撃への秒読みがはじまる中、箒の頭の中には二人の幼馴染の顔が浮かんでいた。
「たすけて……れい、ぐう……いち、か……」
トップスピードで接近する機体が二機。
――桜色と白色。
二機の攻撃が交わりながら、紅椿を掴んでいた福音に襲いかかる。
『!?』
突然、福音は箒を掴んでいた手を離す。
「ただいま」
「遅いぞ礼遇……」
「……ふたりとも」
桜の花が舞い散る一機のIS。それは打鉄の銀色ではなく、桜色に染まっていた。そして、一夏が暮桜そっくりと苦笑いを見せる。礼遇はこう答えた。
「桜吹雪。花を咲かせ過ぎたらこうなった」
8
直径十センチ程度の桜の花のようなシールドが機体中を覆う。『桜花弁』これが桜吹雪という機体の武器であり、盾である。あらゆる攻撃からも身を守り、どんな状態からでも攻撃を行える万能兵器。武器はこれだけしか存在しないが、これだけあれば十分だ。
「さて、一夏――手っ取り早く倒すぞ」
「ああ、任せろ」
一夏は左腕に備わった何かを構え、放った。そうか、珍しいこともあるものだ。二人同時に
福音が放つレーザーを桜花弁で防ぎ、白式の通り道を作っていく。
『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』
エネルギー翼を大きく広げ、さらに胴体から生えた翼を伸ばす。そして次の回避の後、福音の掃射反撃がはじまった。
「一夏! 攻撃は全部俺が防ぐ! 気にせず突っ込め!!」
桜花弁を使用してレーザーの一発一発を防ぎ、白式に一発も被弾させない。
『状態変化。最大攻撃力を使用する』
福音の機械音声がそう告げると、それまでしならせていた翼を全身へと巻き付けはじめる。それはすぐに球体になって、エネルギーの繭に包まれた状態へと変わった。
「――まずい!」
「大丈夫だ一夏! 俺がどうにかする!!」
雨のように降り注ぐレーザーを一枚一枚の桜花弁で防ぎ切る。
「一夏!!」
「おおおおおおりゃああああああ!!!」
スンッと鈍い音が響き、白式は福音に蹴り飛ばされる。零落白夜を発動させるエネルギーが切れたか!?
「一夏! 礼遇! 受け取れ!!」
紅椿が桜吹雪と白式の腕を掴んで福音から少しだけ距離を取る。
――エネルギーが回復している!?
「これで何も考えず戦えるだろう!」
「そうだね、ただ、前を見て戦おうか! 俺は桜で」
「じゃあ、俺は百合で」
「わたしが椿」
「「「花を咲かせようか」」」
一夏が白式の機動力を活かして一気に距離を詰める。箒ちゃんが援護に入り、そして、俺が拘束する。
「桜花弁、舞え!」
桜花弁が福音の回りで舞い踊り、逃げることを許さない。あとは一夏、おまえの零落白夜だけだ。
「おおおおおおっ!!」
一夏が福音を切り裂き、そして、完全に動きが止まった。
アーマーを失い、スーツだけの状態になった操縦者が海へと落ちていく。それを桜花弁で受け止めた。
「終わったな……やっと……」
「ああ、終わった」
「……二人とも、ありがとう」
三人で空を見上げた。
あれだけ青かった空ももうすでに赤く染まっていた。