僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』   作:那由他01

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番外:千冬の苦難

 あのバカが作ったものが、世界のパワーバランスを崩す決定打になるとは、あの頃の私には、見当が付かなかった。だが、一つだけ言えることがある。私は、ISという存在に何かしらの畏怖の感情を抱いていた。

 バカの妹、箒がこの町を旅立ってから、一夏は酷く沈んでいる。道場も、閉鎖された。私も剣を教えられるほど、自由気ままな状態ではなく、色々な事情が重なり合って、手をかけられない状態になってしまっている。一夏の友人、礼遇がどうにか、一夏の精神状態を整えてくれればなんて、希望的観測もしてしまっている。疲れているのだな、なんて、心の底から思えた。家族の精神状態を整えてやるのは、家族の使命なのだから、他人に頼ることは、してはいけないのに……。

 家に帰ると一夏が静かにテレビを見ていた。いつもなら、手料理を作って出迎えてくれるが、最近は気が張っているのか、虚ろな表情でテレビを見ていたり、自室で眠っていることが多い。

 

「千冬ねぇ……おかえり……」

「あ、ああ……」

 

 素っ気ない返事をこれまた、素っ気ない返事で返してしまう。自分の不器用さに苛立ちを覚えるが、弟を心配する気持ちは人一倍膨れている。どうにか、一夏のことを助けてやりたい。そう心の底から思っている。

 

「……俺、なんで剣道なんてしてたんだろ」

「……私が、連れて行ったからな」

「……辞めようと思えば、すぐに辞めれた。だけど、居心地がよかったから、続けてた。でも、今は……虚しいんだ。箒が居なくなって、見える世界が変わった。礼遇は、続けようって誘ってくれてるけど、俺は、続けたくない。楽しい、楽しくないじゃなくて、虚しいんだ……」

 

 礼遇も一夏のことを考えて行動したのだろう。だが、無気力になっている一夏には、あまり効果が出ていない。やはり、私が道場を借りて、二人に剣を学ばせた方がいいのかもしれない。だが、時間が、どうしても時間が作れない。ISで色々なことがあった。バカの余計なお節介のお陰で、近々行われるISの大会にも出場させられるかもしれない。国からの要請も出ている。弟に、弟の友人に割ける時間があるわけがない。もし、一夏のことを思って、すべてを蹴飛ばして剣を教えたら、一夏は大丈夫だろうが、礼遇の命にかかわる。あいつは、何をしでかすかわからない狂気じみた人間だ。そして、私に対する執着も、また、常軌を逸している。

 どうしたらいいのだろうか、私は、どういう風に行動したらいいのだろうか……自分勝手に行動などしたくない。全員が、喜べるような行動をしたい。だが、足を引っ張っている奴が居る。そして、私はそいつとは、離れようとしても、離れられない立ち位置に居るのだ……。

 

 

 連絡が入った。一夏が、礼遇を木刀で殴りつけたらしい。最悪の事態がこんなにも早く訪れるとは、夢にも思わなかった。だが、遅かれ早かれ、疲弊した一夏の精神状態を察していた私が一番悪い。タクシーを拾って早く礼遇が眠っているであろう病院に直行しなければならない。そう思い、すぐにタクシーを呼んだ。

 刹那、携帯電話に連絡が入る。今現在、喋りたくもなければ、関わりたくない人間からだ。

 

「ハロハロォ~束さんだよ~」

「今は忙しい! 要件があるなら手短に説明しろ!!」

「まあまあ、そんなに急がなくても。大丈夫、いっくんは束さんが守るから。暴行罪にも、何にもさせないよ。あっちの家族が何かしらの訴え起こしたら、殺せばいいだけだし」

「――!? おまえは何を言っている!!」

 

 頭のネジが飛んでいるなんて生易しい、こいつはネジなんて一本もない。本物のキチガイ、罪悪感も何も感じずに殺すなんていう重々しい言葉を使うし、なんなら、行動も起こせるほどのサイコパスだ……。

 吐き気を感じた。何故、私はこんな人間と関わりを持ってしまったのか、心の奥底から恐怖した。

 

「だってさぁ、いっくんが正しいじゃん。やる必要ないんだよ、剣道。それなのに一々続けようなんて、バカじゃないのかな? 箒ちゃんが居ないんだから、やらなくていいんだよ、剣道なんて。本当に、あのパラサイトの脳みそがどうなってるのか疑いたくなるね」

「おまえは……本当に人間か……!」

「まあ、そうなんじゃないかな? でも、いっくんは偉かったね、あのパラサイトが剣道を続けてたら、下手すると箒ちゃんに再会するわけだし、またまた下手をしたら箒ちゃんの心があのパラサイトに流れたり。それを食い止めた辺り、やっぱりいっくんって賢いね!」

「黙れ!!」

 

 何がパラサイトだ、私は、礼遇の努力している姿を少なからず見ている。天才肌の一夏は努力を怠っていた。だが、礼遇は弱音を吐かないで我武者羅に努力を重ねていた。私は、一夏や箒より、直向きに努力を重ねる礼遇の方に感心の眼差しを向けていたのだ。そして、私から見る一夏と箒は、逆に、礼遇に依存していたようにも見えた。彼は、二人を何かしらの形で引っ張っていた。リーダーのような存在だった。だからこそ、一夏が起こしたこの事件、私は許せなかった。

 

「肩入れするのは、まあ、いいけどさぁ、あんまり馬鹿な行動をしたら……わかってるよね、ちーちゃん?」

「なんのことだ……」

「確かに、世間一般から見たら私の行動は非常識に見えるかもしれないけど、でもね、私は大好きな三人を守るためならなんだって出来る。だから、馬鹿な行動をした瞬間に一人、一人、消していくからね?」

「……大会のことか」

「そうだよ、いっくんが起こしたこれ、世間一般様に知られたらどうなると思う? 私の大好きなちーちゃんが大会に出られない。それはね、とてもとても心苦しいことだよね――あとは、まあ、わかるでしょ……」

「殺す……ということか……」

「はい正解! やっぱりちーちゃんは物分りがいいなぁ~」

 

 唇を噛み締める。血が流れているのがわかる。

 

「それでも、私は――彼に謝罪がしたい、織斑一夏の姉として……」

「……気に触ったら、殺すから」

「――!?」

「ちーちゃんと会話する一言一言、私は聞くんだよ。そして、少しでも気に障ったら、殺す。それだけ、正直な話、会いに行かない方がいいよ、彼らの命を考えたら」

 

 バカの手の平に三人の命が乗せられている。もし、私が彼らに会いに行ったら、確実に……。

 私は、静かに引き返した。私の感情で人が死ぬ姿は見たくはない……死なせたくない……。

 

「本当に、ちーちゃんは優しいね、そういうところ、大好きだよ!」

 

 殺してくれ、私を……この世界から消してくれ……。

 

 

 私は、信じられないニュースをテレビで見た。宮本晴明という男性が電車に轢かれて死亡したらしい。それだけなら、頷くだけで終わりの話だ。だが、私には、宮本晴明という男性に心当たりがある。そして、その子供にも、心当たりがある。彼は、宮本礼遇、一夏の幼馴染の父親だ。

 携帯電話の着信音が響き渡る。そして、やはり、かけてきたのはあの女だ。

 

「ハロハロ、ニュースみたかなぁ~」

「お、おまえ……」

「宮本家の家族形成は会社員の父親、専業主婦の母親、学生の子供、母親の実家は長崎、ここから遠いよねぇ」

「おまえの言うことを聞いて、会いに行かなかったんだぞ……!」

「全滅よりはマシでしょ、それに、あの家族がこの町に居着かれたら、まあ、いっくんに真実が漏れるかもしれないし、最悪、いっくんが自殺なんてしたら、わかるでしょ? それにさぁ、私に信者っているんだよね、使い勝手良かったよ」

 

 私は……どうすればよかったんだ……。

 携帯電話を床に投げつけ、破壊する。

 私は、人殺しだ……。

 

 

 宮本家はこの町を去った。そして、一夏には、軽い怪我だと告げた。叱らなかった。叱れば、確実に彼らに危険が及ぶ。私は、私は、私は――弱いな。




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