僕が読みたいと思う二次創作『インフィニット・ストラトス』 作:那由他01
放課後、教室に残っている生徒達は、俺がノートに走らせているペンに釘付けだった。相手は第三世代、こっちは少しばかり強力な武装を持ち合わせているだけの第二世代。優劣は目に見えている。だからこそ、相手を翻弄できるだけの戦略を練らなければならない。それに、織斑は何も言っていないが、オルコットの方は、俺の背負っている一年三組を酷く中傷した。彼女だけは、意地とプライドにかけて倒さなければならない。
「弾幕とスモークを主体とした戦法は代表候補生、それも第三世代に乗っている人なんだから、単純過ぎると思うんだけど、違うかな?」
「単純でも、それ以外に方法がないんだよね、現実は非情なのさ」
クラスメイトの高田さんが単純でありながら、物凄く理に適った質問を投げかけてくる。確かに、第二世代が第三世代に対処する場合の定石とも言える戦術は精神面に頼る特殊兵装を無効化するためにスモークやスタンを使用するといったもの、第三世代に乗っている以上、それらの対処法をある程度は熟知している可能性は高い。
「じゃあ、シールドを多用して、ある程度接近したらスモーク」
「ティアーズ型はレーザー兵器を使用しているから、実弾兵器みたいに何発も物理シールドが耐えてくれるとは思わないよ。シールドは二枚だから、最悪の場合、二発しか耐えられないかもしれないし。でも、その距離でスモークを使うのは賛成かな」
クラスメイトの横河さんが的確でキツイアドバイスを投げてくれる。確かに、物理シールドは実弾兵器を弾くのは得意だが、レーザーとなってくると不安な部分もある。最低二回、最高で四回程度の使用しか出来ないだろう。だが、ある一定の距離でスモークを焚くことには賛成してくれている。なら、この場合に使用するスモークは戦術に取り入れて何ら問題はないだろう。
「レーザーを掻い潜り、スモークを焚いて硝煙で弾幕を張りつつ、確認できていない特殊兵装の使用を解除し、後退した瞬間に瞬時加速を使って零落白夜の発動、そして、フィニッシュ。だけど、これで仕留められなかった場合は、少しばかり不安が残る。もう二三個、作戦を用意しておいた方が良さそうだ」
「いっそのこと、瞬時加速と零落白夜の使用を一番最初にするとかどう? 相手は搭乗時間の短いお飾りの企業代表だと思ってそうだし、出来る限り攻撃を掻い潜って、瞬時加速と零落白夜で攻撃。多分、これは避けられるから、その後にほぼほぼ、同じアクションをしつつ、スモークで撹乱、硝煙を使用しての弾幕展開、そして、後退した瞬間に瞬時加速を駆使してのフィニッシュ。流れるような作業が必要なるけど、こっちの方が相手の油断を誘えると思うんだけどな」
クラスメイトの吉村さん、君は智将と呼ばれるよ。確かに、単純な行動で実力を勘違いさせ、隠し玉のスモークを駆使して相手の動揺を誘う。そして、最初に使用しなかった硝煙を使用しての弾幕展開、零落白夜による追撃、この作戦が成功したら確実に相手を落とせるだろう。
「あ、よく考えるとチャフもあるんだよね? なら、最初にチャフを投げて相手の特殊兵装に通用するかを確認した方がいいと思うな。通用しなかったら、通常通りに最初の作戦に戻る」
「通用した場合はシールドを駆使しつつ、零落白夜でフィニッシュか」
ハンドガンを一丁外した場合、収納できるグレネードは五発だ。スモーク4のチャフ1が理想的なんだろうが、もし、チャフが通用してチャフを使用した状態で相手を戦闘不能に出来なかった場合はもう一発チャフが欲しくなる。なら、スモーク3のチャフ2が理想か? だけど、通用しない可能性の方が高い。スモークを多めに用意した方がいいような気もする。
「チャフはやっぱり二発は持っていた方がいいと思うな。通用しない場合でも、回線に若干の影響を及ぼすこともあるらしいし。もしかしたら、相手の兵装の動きが遅くなる可能性も」
「そう考えるとスモークと同じくらい必要性は高くなるのか、じゃあ、スモーク3のチャフ2で戦うか」
スモークとチャフがこの戦いの鍵を握る。使い方を誤れば、確実に落とされるのが現状だ。自分の技量では、第三世代を落とせない。だからこそ、三人集まればなんとやら、この場合はクラスメイトが集まればなんとやらだ。確実に倒せる方法を見つけなければならない。それに付け加えて、正攻法に多少のアレンジを加える必要もある。それくらい、第二世代と第三世代では、差があるのだ。
「みんなみんな! オルコットさんの兵装が判明したよ!!」
新聞部に所属している新井さんがファイルに包まれた書類を持って教室に入ってきた。俺は即座にその書類を受け取り、内容を確認する。
「スターライトmkIII、大口径のレーザーライフルか、やっぱり打鉄の物理シールドじゃあ、一発しか耐えられそうにないな。二枚あるから二発が限界か」
まあ、物理シールドに頼り続けてきたからな、少しばかり劣勢。それに、世界中で実弾兵器を多用したISが主流になっている今現在、打鉄はシールドを多用した戦術を取ることが多く、こういう大口径のレーザーライフルと戦うことなど本当に稀なのだ。だから、戦略にシールドは二回しか使用できない。
「ブルー・ティアーズ……BT兵器か、遠隔操作して相手にレーザーの雨霰を降らせる。チャフが通用する可能性は零じゃない。通用しなくても、スモークを使えば、どうにかなるか」
「レーザー四機とミサイル二機……レーザーはいいとしても、ミサイルの対処に困るね。煙幕を張った場合、ミサイルを撃たれたら、作戦の進行に支障が出るし」
「スモークを一発減らして、グレネード型のフレアを一発だけ入れた方がいいかね?」
「そうだね、ギリギリまで相手にチャンスを与えないようにするならそれしかないだろうけど、もし一撃必殺が出来なかった場合はこれまたジリ貧になるだろうし」
吉村さんと俺が戦略を練っているところで、広瀬さんが手を上げて質問する。
「全部の作戦に目を通したけど、もう、ハンドガン全部外してグレネードを十発積んだ方がいいんじゃないかな? それだったら、スモークもチャフもフレアも、この中にはないけど、スタンも入れられるし、十分な弾数になると思うんだけど」
俺と吉村さんは口を大きく上げて、心の底から思ったことを口に出してしまう。
「「天才だ……広瀬さんは天才だ……」」
よく考えるとそうだ、ハンドガンなんて硝煙が使用不能になった場合のサブなのだ。それに、硝煙はこの作戦の要であり、これが使用不能になった場合は即敗北を意味する。つまり、ハンドガンが登場するシーンはこの戦闘では無い。だから、ハンドガンを外してグレネードを入れた方がその後の戦闘にも差し支えなく、勝率を飛躍させることにも成功する。灯台下暗しということか。
「これだったら、作戦を何度も繰り返すことが出来るし、スタンなんかを織り交ぜて少しずつパターンを変化させれば、十二分に勝機はあるよ」
「そうだね、あとは相手の適応力次第かな」
「「「「広瀬! 広瀬! 広瀬!」」」」
クラスメイト全員に褒め称えられている広瀬さんは、顔を真赤にしている。とても可愛かった。
2
学業に精を出し、クラスメイト達と代表候補生セシリア・オルコットの対処法を考えたり、今日も色々と多忙な時間が流れて、食堂で軽い食事を取って座布団を枕にしてダラリとしている。すると扉が叩かれる音が響く。慌てて扉を開くと箒ちゃんがすまないと一言告げて、静かに入室してくる。多分、一夏のことで何かしらの進展があったか、それとも、逆に何かしらの逆鱗に触れてしまったのだろう。
俺は座って待ってて、と、優しく言い、湯呑みと急須を出してお茶の準備をする。そして、入れられたお茶をちゃぶ台に置いたと同時に箒ちゃんの口が開いた。重々しい声色だ。
「……一夏と何度か話したが、やはり、礼遇とは、元の関係には戻れないと言っている。そして、自分のことを酷く責めていた。わたしは、どうすることも出来なくて、今は、そっとしているのが現状だ」
「まあ、一夏は頑固な部分があるから、期待はしてなかったよ……」
「……やはり、一夏と呼ぶんだな」
箒ちゃんは笑みを溢す。普段は織斑と呼んでいる。だけど、この場では、一夏と言ってしまった。多分、未練がましく、幼馴染でありたいと無意識に思っているのだろう。俺は、一夏を心の底から嫌えないでいる。何が起ころうと、結局は何年も道場で一緒に武を磨いた仲間、何をされようが、激しい憎悪は沸き立たないのが現状だ。
箒ちゃんは静かにお茶を一口含んだ。
「支えると公言はしたが、わたしに一夏を支えられるのだろうか、近々、一夏に専用機が支給されるらしい。データ収集の為だが、最低限の自衛の手段としてもだろう。姉さんの妹でありながら、専用機を持ち合わせていないわたしは、一夏、そして、礼遇の重りになりやしないか、心の底から不安なんだ……」
「箒ちゃん……それは違うよ。支えることは、隣で一緒に戦うだけじゃない。心を支えることが大切なんだ。一夏が俺と喧嘩をしたのも、結局は、不安定になった精神状態を元通りにできるような人が居なかったからさ。一夏には、あの時、千冬さんしか居なかった。でも、千冬さんはモンド・グロッソに出場する間際で、色々と忙しかったし、不器用な人だから、どうすればいいのか、わからなかったんだと思う」
「礼遇……ありがとう……」
箒ちゃんは涙を流す。やっぱり、箒ちゃんは涙脆いな、なんて、懐かしさと心苦しさを感じながら、静かにお茶を飲んだ。少しだけ、苦いような気がする。
「そうだ、箒ちゃん、遅くなったけど全国大会優勝おめでとう、でも……篠ノ之流じゃなかったね、何かあったの?」
「あの大会のことは言わないでくれ! 私は、暴力的に自分のストレスを発散するがために、篠ノ之流ではない、禍々しい我流の戦い方をした。そして、勝ち進んでしまった。優勝なんて、しなくてよかった。そんな姿を、幼馴染に見られたと思うと――酷く、恥ずかしい……」
「やっぱり、箒ちゃんも寂しかったんだね……一夏と一緒で……」
「私は、あの大会で……大切な何かを失ったような気がする……」
苦悩と疲弊、それが彼女を雁字搦めにしていた。故郷を捨てさせられ、親しい友人も離れ離れ、篠ノ之束の妹ということで周囲からの目線はキツく、そして、精神状態を不安定にさせた。もし、俺があの場所に立っていたら、もし、箒ちゃんに辛かったね、でも、自分らしく戦うべきだよ、そう、告げられたら、彼女は高らかに胸を張って、優勝したことを誇るのだろうに。
「失ったものは、また、探し出せばいい。人間なんて、すぐに何かを無くすんだから、探せばいいよ」
「……出来るわけない、そんなこと」
「俺も探す。俺にだって、原因がある。希望的観測になるけど、もしかしたら、俺も箒ちゃんが立った舞台に立っていたかもしれない、だけど、それが出来なかった。もし、立てていたら、俺は、箒ちゃんに篠ノ之流を使えと言っていた。それだけで、箒ちゃんの心が楽になっていた。でも、出来なかった。だから、今から出来る何かを探していこうよ。箒ちゃんが一夏を支えて、俺が箒ちゃんを支える。そしたら、箒ちゃんは辛くなくなる。辛くなったら、俺に頼ればいい、俺だって、時代遅れとか言われてるけど、打鉄という専用機を持ってるんだ。箒ちゃんが支えられない部分を、俺が、どうにかしてあげるから、泣かないでよ、俺は、箒ちゃんの笑った顔が好きなんだから」
「礼遇……ありがとう……」
やっぱり、箒ちゃんは弱くて脆い子なんだよな、支えてあげないと。一夏は彼女を支えられる程、察しが良いやつじゃない。俺が、彼女を支える杖になるしかないんだ。
やっぱりね、時代遅れの打鉄じゃあ、どうしてもこういう戦術に頼る部分が大きくなりますよね。考えて考えて考えて、そして、一筋の光があるからこそ、戦いは面白い。