「私が優勝したら付き合って……付き合ってもらってもいいですか?」
「ん、構わないが」
「そ、そうですか」
学年別トーナメントの知らせを聞いた日の放課後、龍燕は突然セシリアに言われた。普通に返した龍燕だがセシリアはなにか上機嫌に鼻歌まで鳴らせて教室へと戻った。また似たようなことを誰だか……数人に言われたが、まぁ勝てばいいかで軽く思い、同じ感じに返してしまっている。
「ね、龍燕。模擬戦、付き合ってもらえないかな?」
「おういいぞ」
シャルロットは龍燕を誘う。予定のない龍燕は頷いて荷物を武己に仕舞うとアリーナへと向かった。
シャルロットと放課後模擬戦するようになって二日目。その日は先客がいた。
「あれは……二対一で模擬戦か」
二対一、セシリアと鈴音対ラウラだった。しかし龍燕は見初めて20秒と経たないくらいでただの模擬戦ではなく、これは完全に一方的なものとわかった。
「模擬戦じゃないな、あれは」
「酷い……!あれじゃシールドエネルギーが持たないよ!ISが解除されたら命にかかわるよ」
シャルロットが声をあげる。
「その手を離せ!」
「一夏!」
近くで見ていた一夏が箒の手を振り切り、ISを展開してアリーナのバリアを破壊し、ラウラへ攻撃を始めた。
「武装兵装、装着!」
龍燕は武装兵装を装着して一夏の後を追った。
「う、うごかねぇ……」
一夏の動きがラウラに届く前に止まった。龍燕は小刀をラウラに向け投射する。不意に気づいたラウラは機体をひねって小刀を避けた。すると一夏は動けるようになった。
「一夏、あまり乱れるな。二人を連れて外へ行け。後ろの二人はISが強制解除して危ない」
「……わかった」
一夏はラウラへ一睨みしてから二人の方へ向かった。
「お前は……確か龍燕だったな。それはISと違うと聞いたが」
「武装兵装だ」
「武装兵装……聞いたことはないが私の敵ではない!」
ラウラが攻撃を仕掛ける。黒いワイヤー三本が龍燕に向けて放つ。龍燕はゆっくりと左腰に差した小太刀を抜刀する。
「眞炎流、突……三(ミ)突き」
三本のワイヤーの動きを完全に見切り、せれぞれの先を刀の突きで正確に破壊する。
一瞬驚いたラウラだが、すぐに真剣な顔に戻して言う。
「!…さっきの奴よりはやるようだな」
「性能や経験では圧倒的違いがあるからな」
龍燕は右手の小太刀のみで構え、距離を積める。
「これで終わりだ!」
レールキャノンを近づく龍燕へ撃ち放つ。
「ふん」
龍燕は小太刀を振り上げた。すると弾は真二つに弾き斬られ、さらに方向も変えられ龍燕の両脇を高速で過ぎていき地面に食い込んでいった。
「斬っただと?!」
「読みやすい上に、弾道が遅い」
そして龍燕はラウラの首筋に刃を向けた。
「これで『模擬戦』は終了だ、いいな」
そう言うと龍燕は武装兵装を解き、腰の鞘に刀を仕舞った。
「次はやり過ぎるなよ」
龍燕ははっきりと言い放ち、そのままラウラに背を向け歩き出す。
「……ふざ、けるな」
ラウラは身体を震わせながら声を漏らす。
「ふざけるな!」
龍燕の頭に向けてレールキャノンを撃ち放った。しかしその弾は斬られた。龍燕は武装兵装というものも纏わず、ラウラの目には斬り終えた後の体勢だった。
「そんな……ばかな……」
ラウラの顔が一瞬で驚愕に変わった。避ける事も出来た龍燕だったが、その射線上にこちらを伺っているISを纏っていない鈴音とセシリアの方だったため斬りおとして軌道を逸らす事にした。
「まさか背後から撃ってくるとはな。敗けを認められないなら次は……お前があの二人のようになるぞ」
龍燕はラウラを見ながら言う。
「そこまでにしておけ龍燕。ラウラもだ」
織斑先生が止めに入った。
「わかりました」
刀を鞘に仕舞い、それを龍燕は武己にしまう。
「それから、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。いいな」
「……教官がおっしゃるのであれば」
そう言うとラウラもISを解いて行ってしまった。
「龍燕、あそこの二人を保健室へ運んでやれ」
「はい」
龍燕は一夏と一緒に、セシリアと鈴音を保健室へ連れていった。
―――クラス
龍燕はクラスの女子達に囲まれていた。
「龍燕、私と組みましょう」
「いえ、私と」
「……」
今回の勝ち抜き戦が二人一組となった為、クラスのほとんどの女子が龍燕と組みたいと囲まれているのだ。
一夏はシャルルと組むそうで、二人と組みたかったという者達は諦め、ここに混ざっているようだ。また鈴音やセシリアは機体の修復が間に合わないそうで不参加となったという。
「失礼するわね」
突然教室に青髪の人が入ってきた。その人はちょっと通らせてねぇとクラスの女子を左右へ移動させ、龍燕の席の前に立った。
「貴方が灼煉院龍燕ね?」
「そうだが」
「私は更識楯無。ここIS学園の生徒会長よ」
生徒会長と聞いて周りがざわめく。
「生徒会長……たしか生徒の一番上、だったか。俺に何か用かな」
「んーちょっと移動して話しましょう」
「二人で、か。わかった。みな、後でな」
龍燕は更識について行った。
―――園内道場
「手合わせ?構わないが」
「では着替えたらここでね」
龍燕は武己を使って制服から胴着に変えた。
「あら便利な機能ね。私はそんな便利なのはないから着替えて来るけど……覗かないでね」
「覗かん」
更識は笑みを浮かばせながら更衣室に入っていた。そして数分で出てきた。龍燕の胴着の袴の裾は纏められているが、更識の胴着は袴は纏められていない物だった。
「手合わせの方法はどうする?俺のいた国の決まりとこことは違いがあるだろうからな」
「そうね……どうするかな?」
更識は少し考える。
「ならば三十分間以内に俺を掴まえる……いや触れたら勝ちでいい。どうだ?」
軽く笑みを浮かばせながら龍燕がいうと、少しムッとしながら更識が答えた。
「それでいいの?お姉さん、簡単に勝っちゃうよ?」
どうかなと龍燕が言い切ったと同時に、更識の視界から龍燕が消えた。
「え、消え?」
「――時間を増やそうか?」
更識はニッと笑みを浮かばせ、「三十分で」と言い返しながら背後にいる龍燕を捕らえに移る。しかし龍燕は最低限の動作で動き、紙一重で更識の手から避けていく。更識は龍燕の胴着にすら掠めることが出来ず、自分の予想していた以上の見切りや敏捷さに驚きを増していく。
「結構…いいえ、かなり早いわね」
「……これでもかなり速度を落としているんだがな」
二十分近く全力集中して動き、龍燕に触れようとする更識だがフェイントをかけても全く捉えられなかった。そして更識は息も上がり始めた。残りのおおよそ十分は……龍燕は目を閉じた状態で全て見切っていた。
「ん、時間だな」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
いつの間にか龍燕がかけていたタイマーモニターが鳴り、龍燕は動きを止めた。
「は、速い……しかも汗一つかかないで、息も上がらないなんて…………本当に人間?」
「人間だ」
「残り少しってとこから目を閉じてたのに何で避けられたの?」
「簡単に息が上がり、気配が読みやすくなっていたから。避ける事自体は相手の目を見ればどこを狙っているかだいたいわかる。意表をつく手も何度かやっていたがそれも似たように読んだ」
更識は本当に予想以上ねと呟いた。
「私の敗けだね。織斑先生に勝ったというのもわかりそう」
「今日呼び出したのは手合わせだけではないな?」
「おおっ、察しもいいみたいだ。話は……シャワー浴びた後龍燕君の部屋でいいかな?」
龍燕は構わないと返し、一度別れた。