幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

137 / 243
第106話 ボス?ああ、いい奴だったよ

 新称号獲得おめでとうパーティー(意訳)の翌日。俺とセナが危惧したことが起こる前に、どうやら藜さんにお詫びと共にメールが送られてきたらしいことが分かった。それもどうやら、いつも幸運極振り()の対応をしているらしい職員から。

 

「メールの最後に『同じギルドで仲良いのは分かっているので、この先は是非クソや……幸運極振りのユキと共に閲覧してください』なんて、私怨丸出しな文があったから、一応俺のところに来たと」

「滅茶苦茶、ですけど、一応、運営の、メール、ですから」

 

 第6の街のボスに挑戦する準備をしている時、そう言って藜さんが話しかけてきた。普通ならどうかと思うけど、ここの運営ならこんなクソメールでも許される、のかなぁ。肝心のメールの内容は、大体こんな感じだった。

 

 ==============================

【※重要】

 称号【オーバーロード】の誤設定について

 PN藜様。申し訳ございません。運営側の不手際によって、新称号の設定が不十分なまま実装・配布してしまいました。意図を遥かに超えた挙動が発生した為、誠に申し訳ありませんが称号効果の一部を修正、意味が分かりづらい部分に追記させていただきました。

 

 旧オーバーロード

 1戦闘にアクティブスキルをそれぞれ一度ずつ、消費をn倍にしてスキルの効果をn回分重複させることができる。また、パッシブスキルの効果を連撃数が10増える毎に0.5%強化する

 

 修正後オーバーロード

 1戦闘にアクティブスキルをそれぞれ一度ずつ、消費をn倍にしてスキルの効果を10n(0≦n≦10)倍強化することができる。また、パッシブスキル(PS/AS複合スキルは含まない)の効果を連撃数が10増える毎に0.5%強化する(上限500%)

 

 つきましては、補償として下記のアイテムを配付致します。こちら側の不手際でご迷惑をおかけしたこと、重ねて謝罪致します。

 

 ・予備スキル枠拡張チケット×5

 ・所持アイテム枠拡張チケット×5

 

 この先は、同じギルドで仲良いのは分かっているので、この先は是非クソや……幸運極振りのユキと共に閲覧してください。

 ↩︎

 ==============================

 

 なんか俺も、昔似たようなものを貰った記憶がある。所持アイテム拡張側しか活用してない気がするけれど。そして、最後に意味深なエンターキーのマーク。タップして開けということだろう。

 

「それはそうと、これで藜さんの攻撃のヒット数、最大で9600ヒットですか。パッシブ強化も……一回で480%、上限ギリギリまで行きますね」

「です、ね。計算、早過ぎ、です」

「いやいや、それ程でもないですよ」

 

 こんなの障壁の操作と比べたら、チョロいとしか言いようが無い。空間認識能力のスペックが上がれば上がるほど、単純計算とか暗記科目が無駄に得意になっていく副作用?もあるし。

 

「そして、ここからが問題の部分ですか」

「はい。ちょっと、怖くて」

 

 基本的に良心的なUPOの運営だけど、極振りが関わるとはっちゃける癖があるからなぁ……何が書かれていてもおかしくない。そう覚悟して開いたそこには、予想通り愚痴が詰め込まれていた。

 

 ==============================

 先ずはここから先は、運営個人の愚痴であって先述の部分とは別物と考えていただけると有難いです。

 

 拝啓、幸運極振り野郎ユキ殿。

 本来このような形での連絡は遺憾でしたが、事態が事態だけにこういう形での連絡とさせていただきます。

 ということで。極振りどもがイベントの最後にやらかしたアレ、あのクレーム対応のせいで運営の大半が精神擦り減らしてダウンしたぞおい。私ら対策室は慣れてるけど、他の奴らは慣れてないんだから自重しろよな?な? お前が発端となってアレをやらかしたのは知ってるんだぞ?

 というか、今回のオーバーロードのミスも、白目向いてコード打ち込んでた運営側の過労によるミスですし! 修正が遅れたのも、弄れるプログラマーが燃え尽きたからですし! まあ全面的に私らが悪いんですが!ですが!! 

 

 コホン。さて、藜様。

 調整による弱体化は、原因を作ったユキをお恨みください。

 それはそうと貴方には、ぜひ1つ頼みたいことがあります。

 どうか【すてら☆あーく】全体で協力して、そこの馬鹿の凶行を少しは減らしてくれないでしょうか。他の極振りどもと比べれば、まだ我々の負担が減るのです。なあに、その【オーバーロード】があればユキなんて一撃ですよ一撃! 何せアイツの障壁は、現時点のシステム的限界が500枚ですからね! 9100ヒット分勝ってますからね! ブチ抜いちまえば良いんですよ! FoFoo!!

 ==============================

 

 ………………これは。

 

「酷い、ですね」

「いつも通りですね」

「「えっ?」」

 

 全く同じタイミングで正反対の言葉が出て、お互いに顔を見合わせた。運営からのメールって大体こんなもんだと思うのだけど……寧ろ拗ねてばーかばーかとか言い出さない辺り、まだ良い部類なのでは。

 

「こんな、メール、なのに、です?」

「だって、別に暴言とかもないですし……」

「えぇ……」

 

 藜さんが困惑したように呟いた。もう慣れたからどうも思わないけど、他のゲームやってみるとここの運営がおかしいんだよなぁ。しみじみとそう思う。

 

「まあ、畳まれてた部分に関しては、特に気にすることはないと思いますよ?」

「そう、です、かね?」

「送るならちゃんと俺宛にしろとは思いましたけど、それくらいですし」

 

 逆に言えば、まだ運営は回復しきれていないのだろう。楽しかったけど、流石にあのイベントの終わりにやらかしたのはやり過ぎだったのかもしれない。

 

「むぅ」

「ん? 2人してどうしたの?」

 

 そんな話をしていると、いつのまにか現れたセナが藜さんとの間からひょっこりと顔を出した。何やらステルスしてたみたいだけど、俺も藜さんも空間認識能力持ちだから意味ないよ……?

 

「運営の、メールで、ちょっと」

「キチメールの対処。ほら、ここの運営って極振りとか、最近は称号持ちにもハッチャケてきてるじゃん?」

「あー、うん。私にも経験ある」

 

 目を瞑ったセナが、コクコクと頷いた。ああ、やっぱりセナのところにも似たようなテンションのメールが行ってたか。この分だと多分、他の人達も同様の扱いを受けてそう。

 

「それよりユキくん、準備終わった?」

「ん、うん。バイクに水上走行は実装したから、もう特に問題はないかな」

 

 すっかり話し込んでしまっていたけど、そう言えば今はボス戦の準備中だった。まだまだ情報は少ないが、今回のボスはフルトゥーク湖から流れる太い川の中央に待ち構えており、水上で戦闘することになるらしい。だからその為の装備を付けているところだったのだ。

 因みに連絡をくれたザイルさん曰く、『アキの攻撃1発で沈んだ。即死耐性もない雑魚だな』とのことだった。アストから周回対象をこっちにすることも見えてきた。

 

「藜ちゃんは?」

「問題なし、です!」

 

 要するに、今の俺たちは負ける気がしねぇ! そんな感じだった。

 

 

 いやぁ、ボスは強敵でしたね()

 出発してから20分後、俺たちはすでに第6の街【グルーヴェド】に到着していた。この街は川の中州に存在する第7の街に相対するように、川を挟んでフルトゥーク湖側の森林に接して存在している。

 機械関連の技術が随分と盛んな街であるようで、けれど第3の街とは差別化する為か、メインは電気ではなく蒸気機関のようだった。つまり、男の子心擽ぐるスチームパンク的な街である。

 

「なんか、煙い、です」

「うーん……」

「これは、ちょっと」

「けほっ、けほっ。ん!」

 

 それは案の定というか、俺とランさんには大受けだったのに対し他の皆には不評だったらしい。

 セナは、見てるぶんには好きだけど体感はするものじゃないねと。

 藜さんは、雰囲気は嫌いじゃないけど長居はしたくないと。

 つららさんは、単純にあまり好みじゃないらしく。

 そしてれーちゃんは、目を輝かせていたけど咳き込むようになって撤退してしまった。

 

「ボス戦は快調だったのに、なんだか寂しいですね」

「こればかりは仕方ないだろう。あまり期待できないが、次の街に期待だな」

 

 そんなことを話しながら、珍しく俺はランさんと第6の街をぶらぶらと歩いていた。まだプレイヤーも疎らな街を歩いていると、自然についさっきまで行っていた一方的な蹂躙ボスとの戦闘を思い出してしまう。

 

 ボスの名前は【水竜戦車・ミヅチ】。その姿は名前の通り、水上を縦横無尽に動き回る2頭の竜が引く戦車に騎乗した、両手に竜の装飾があるランスを構えた鎧姿の巨躯だった。

 このボスは驚くことに、2頭の竜それぞれと戦車本体、それに騎乗している本人全てにHPバーが存在していたのだ。更に竜は魔法が効かず、戦車本体はクリティカルが発生せず、これらを潰さない限り騎乗する本体には攻撃が効かないという鬼畜っぷり。きっと多くのプレイヤーを、これから泣かすに違いない。

 

 が、戦闘は5分も経たず終わりを告げた。

 

 まずつららさんが、初手でフィールドを全面凍結。足場を作りつつ、戦車の機動力を大幅に減少させた。

 

 次に俺が、それでも愚直に突撃してくる戦車の片側に、減退と障壁を多重展開することで片側のみ動きを強制停止。結果、戦車が勢いよくすっ転んだ。

 

 その次に、セナと藜さんの前衛アタッカーが突撃。7人に分身したセナの猛攻に呆気なく竜が撃沈。オーバーロードの影響か、質量を持った残像状態になった藜さんの猛攻により、もう片方の竜も撃沈。

 

 追い打ちにランさんの銃撃や砲撃、つららさんとれーちゃんの魔法によるコンビネーションが炸裂し、セナと藜さんの猛攻も加わり戦車本体が崩壊。

 

 ボスが水中に逃げたけれど、全員に行われた直下からの攻撃を防ぎつつ、爆雷的に爆竹を大量投下。地上に出てきた本体は、氷漬けにされた挙句悍ましい勢いでHPを0にされた。

 

 こうして運営自慢のボスは、ものの数分で素材とお金に変わったのだった。これでも一撃で終わらせないあたり、先輩方よりは随分優しいから許して。

 

「それにしても、順当に強化されてきてるセナは兎も角、10秒で竜を吹き飛ばした藜さんの火力ヤバかったですよね」

「だな。プレイヤー相手だと、もう一撃必殺なんじゃないか?」

 

 運営は何やらヒット数を下げて安心していたようだが、藜さんの火力が補助役の『クリティカル確率上昇』のサポート込みだと異次元の領域に突入していたのだ。

 

 藜さんのヒット数増大の大役を担っているスキル【天元(大)】。その効果は『クリティカル威力上昇 100%・攻撃のヒット数を倍化、ヒットあたりの威力は20%減少する』というもの。クリ威力は倍率固定のようだが、威力20%減はスキル効果の対象内であったらしく、下限の99%減まで行ってしまったらしい。

 しかしそれでも、一撃の威力は大体10。それが9600ヒットするのだから、単純計算で96,000ダメージ。無論クリティカル抜きでの数値だ。そこに所持スキルとペットと合体時の追加効果で、一撃毎にそれなりの追撃ダメージ。結果、ボスが秒で溶ける事案が発生した。

 

 代償として、デュアル先輩が持つ様な『○○ダメージ以下のダメージを○回カットする』アクティブスキルや『○○ダメージまでのダメージを無効化する』パッシブスキル持ちには、十中八九無効化されてしまうだろう。しかしそれを鑑みてなお、十分過ぎる火力と言わざるを得なかった。

 

 

 思考の片隅で、そんなことを考えている時だった。

 

「ん?」

「あれ?」

 

 俺とランさんは、通りの真ん中で突っ伏して動かない、奇妙なプレイヤーを発見したのだった。

 




ボスステータス

【水竜戦車・ミヅチ】
《水竜A・B》
 それぞれHPバー2段(一本500万)魔法効果無効。
 本来なら水属性のブレス、水中からの攻撃、高速起動を駆使しプレイヤーを苦しめたはずだった。
 その正体は、崩壊した機械群に何者かが竜の魂を封じ込めたもの。本編では秒速で破壊された為、結局触れられることはなかった。

《水竜戦車》
 HPバー2段(一本500万)クリティカル無効。
 本来なら、大波の発生、水竜を切り離しての行動、飛行や潜水などでプレイヤーを泣かせるはずだった。
 水竜と同様に、自動車の車体に何者かが悪魔の魂を封じ込めたもの。結局触れられることはなかった。

《ミヅチ》
 HPバー3段(一本400万)実は状態異常に強耐性。
 本来なら、高威力の2つのランス、河の水を操ることによる範囲攻撃、無差別呪い攻撃、水中からの奇襲などで活躍するはずだった。
 実は鎧の中には、呪われた黒い骨が収納されている。だがこの騎士風の鎧も、何者かに荒ぶる魂を入れられただけの模様だ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。