HP・MPの数値が合ってなかったので、前回のあとがきを僅かに修正してます。HPなんて飾りなんですけどね!
「まさか、こんな簡単な移動方法があっただなんて…」
街の活気からは外れ、星の光のみが照らす闇に沈んだ草原。そこで俺はorzの姿勢でボソリと呟いた。
「Aglが低い人の移動手段としては、結構有名なんだよ?」
「知識不足ですみません…」
そう隣のセナが呆れたように言った。
現在位置は、始まりの街の西のフィールド。私がいるんだし折角だから! という意見に押し負けて到着したここには、今までの俺からすればあり得ないスピードで移動ができていた。
「まさか、態々門を潜らなくても、中央のポータルから移動できたなんて…」
その街の中央にあるポータルという場所から、今まで行ったことのある他の街に移動できるという話は聞いていた。けれど、街の四方の門にも移動できるなんて聞いてないよ…
「それよりも、時間が勿体無いし早く狩りに行こうよ!」
「ソウデスネ…」
確かに時間は勿体無い。そう自分の中で答えを出し長杖を支えに立ち上がる。どうせどこ行っても攻撃が当たる=即死なんだ。だったら適正レベルを遥かに超えたここだって、特に何も変わらないじゃないか。カッコつけた手前、酷い無様だけは晒したくないけど。
なんだかんだ言いつつ、最悪の場合は頼るけどね! 現状の最高レベルが40の中、34とかいうセナさんに頼るけどね!
「ん、来たよユキくん!」
「よっしゃやってやるぜ!」
自分を無理やり奮い立たせて、長杖を構える。
現れた敵は一体。大きさは大人の男がヨツンヴァインになった程度、毛並みは夜の闇に溶け込むような漆黒、僅かに開かれた頬からは鋭い牙が覗き、こちらを見つめる赤い目は爛々と輝いている。
今表示された名前は《シャドウウルフ》あ、これダメなヤツですわ。
「うーん、大丈夫かな。危なくなったら助けるから!」
少しの逡巡の後、とてもいい笑顔でセナがサムズアップしてきた。見事に退路を塞がれましたね。ふ、ふふ…即死なんか怖かねぇ! 野郎ムッコロしてやる!
「《フルカース》《マインドカース》《ラックエンハンス》《スピードエンハンス》!」
先手必勝、安定のデバフをかける。これで、この最悪な状況も少しはぁ!?
「ちょっと、あんさん速すぎやしませんかい?」
心臓がバックバクいってる状態の俺は、先ほどまでとは正反対の方向にいる狼に思わずそう問いかけた。勿論心臓云々は比喩だけれど。口調ごと絶賛大混乱中である。
とりあえず今起こったことを3行で纏めると、
突進された
ギリギリ躱せた
マジやばくね?
これで全て説明できる。うん、これ勝ち目ありませんわ。派手な啖呵をきった手前流石に恥ずかしいから、せいぜい足掻かせてもらうけどね!
手近な地面に長杖を刺して手放し、俺はこちらを狙う狼に右の掌を向ける。食らうがいい、ウサギを叩き倒すのが嫌になって編み出した必殺技を。
「《フルカース》」
呪文を発動した途端、こちらに踏み出しかけていた狼が7連続で爆発しHPゲージがごく僅かに減少した。キャウンって、なんか随分ギャップがあって可愛らしい鳴き声ですね。
それはそれとして、爆発を起こした原理は簡単。
このゲームでは、魔法の使用を失敗した場合爆発(ダメージ有)する。それを利用して武器を手放し補正がなくなった状態で魔法を放つと、この通りボンである。しかも相手への付与魔法だからなんと必中。ただし威力は1爆発が俺のステータスで放つ《吸撃》より僅かに上程度だから、とんでもなく非効率だろう。
《フルカース》の効果は相手のすべてのステータスの減少(HP・MPは除く)だからか、爆発は7つ。多分それがクリティカルしてくれてるから、ギリギリダメージが出てるんだろうね。
「《フルカース》もう一丁《フルカース》!」
「がんばれー!」
最大火力である《フルカース》が使えるのは、後9回。対して《シャドウウルフ》の残りHPは残り8割強。ざっと計算しても、遠距離で削りきれるのは3割弱まで………あっ(察し)
「これで最後の《フルカース》!」
察した未来から目を背け攻撃の出を潰すこと計9回、遂にMPが0になった。石がないから手持ちに投擲できる物は杖しかないし、ここから先はオール物理で戦わないといけない…それなんて無理ゲ。何でもするから助けてセナさん。まだダメですかそうですか。
「グルァッ!」
「せいやッ!」
無茶だと認識しながら、再び突撃してきた狼に対してカウンター気味に杖を突き出す。瞬間、全身に桁違いの衝撃が響いた。
ウサギのときと違い衝撃に負けて吹き飛ばされる視界の中、僅かに削れた狼のHPと全損寸前にまで減少した自分のHPが見えた。武器越しで被ダメが減ってるとは言え、攻撃を受けて即死してない…だと!?
「《アサシネイト》」
驚愕しつつゴロゴロと転がっていく中、狼の首筋に暗い紫色の線が走り、儚いカシャンという音を残して光になって消えていった。
回転が止まりどうにか起き上がった俺は、けれどその場から一歩たりとも動くことも、回復アイテムを使うこともできなかった。別に何かの状態異常にかかったわけではない。只々…見惚れていた。
「うーん、やっぱりこの辺じゃこれくらいかー」
長めの銀髪が差し込んできた月明かりに煌めき、透き通るような碧眼は妖しい光を放っているように感じる。右手に持たれた黒い銃剣が鈍い光を反射させ、纏う影のような黒い外套がそれらの印象を際立たせている。その非現実的な光景は俺の保つ乏しい語彙では表現できないほど、なんというかこう、美しいものに思えた。
何せレベルアップの音を聞き流し、無意識にスクリーンショットを撮ってたほどだ。究極に近づくほど、形容する言葉は陳腐になるもの……なるほど至言だね。
「ユキくん、回復しなくていいの?」
「はっ!」
セナからかけられたその言葉で、俺の意識は漸く現実に帰還した。転んだだけでも消えそうなHPを見て、慌てて初心者用ポーションで回復を図る。今の俺のレベルは7、まだ初心者の適用内で本当に良かった。
そして、俺が回復しきったのを見計らってセナが話しかけてきた。
「えっと、ユキくんはステータス、幸運に極振りしてるんだよね? 幸運以外のステータスは壊滅的なんだよね?」
「装備分しか他のステータスはないな。今も、これからも」
満面の笑みを浮かべてサムズアップする。それと同時に、開いたステータスの画面で得たポイントを全てLukに振り分けた。壊滅的だろうが知ったことか、目指せLuk4桁だ。
「あのねユキくん、そんなステータスじゃ、普通あそこまで戦えないから!」
「いや、魔法が使えるなら誰でもできると思うぞあれくらい。攻撃の出を読んで魔法で潰せば、MPの保つ限りはなんとか…」
「それ初心者がやることじゃないよ…」
先程の神々しい雰囲気は何処へやら、リアルと同じいつも通りの
その頭をポンポン撫でて、俺は誤魔化すように言う。
「まあ、1対1ならギリギリ戦えるのは分かったんだ。きっと冒険だってできないことはないさ」
そもそも使っているスキルが【付与魔法】だから、誰かを支援してこそ本懐とも言える。寄生って言われるだろうから、よっぽどのことがない限りやりたくないけど。ちょっと待ってこれなんて矛盾。
「む〜」
「それは一先ず置いておいて。あの狼も何かレアドロップとかあったりするのか?」
努力次第できっとどうにかなるだろうし、冒険関連は一旦後回しにしておく。それよりも、1ゲーマーとしてはそっちの方が気になる。
「…通常ドロップで牙と毛皮。レアドロップは、夜に出現するモンスターが共通して落とすやつしか無いよ? それも道具の強化とか素材にしかできないやつ」
「なるほど…」
ちょっとムッとしたセナに頷きながら、俺はアイテムを確認する。ほぼ空のアイテム欄には通常ドロップらしい牙と毛皮、そして夜の結晶なる謎のアイテムが存在した。きっとこれがそのレアドロップなのだろう。
「夜の結晶…セナは使う?」
「うん」
「じゃあはい」
今の俺には投げる以外使い道がないし、実体化させて軽く握らせる。夜の結晶っていう割には紫水晶みたいだけど、まあこれはこれで綺麗だと思う。
「あ、うんありがとう…って、えぇ!?」
俺が手渡したアイテムを見て、大袈裟にセナが驚いた。何か、そんなに驚くことがあっただろうか?
「不思議そうな顔してるけど、これレアアイテムなんだよ!? 入手し易い方のやつだけど、1500Dくらいはするんだからね!?」
「初期の所持金の半分か…ならあんまり問題ないな」
「大有りだから! もう、ユキくんには相場とか教えないと、多分大変なことにーー」
「大丈夫だよ、セナくらいにしか売らないし」
そう断言すると、何故か口をパクパクさせて固まってしまった。もし何かを手に入れても卸す先もツテもないし、自分で使えもしないならセナにプレゼントした方が圧倒的に有益だろう。
「もう、すぐそういうこと言って…
よし分かった、これでも私ギルドマスターだから買い取る!」
「ただで良いのに…」
「買 い 取 ら な き ゃ ダ メ な の !」
これはもう引いてくれないパターン入りましたね。無料プレゼントにしようと思ってたのに、絶対にお金と引き換えになるだろう。仕方ない…こうなったら、可能な限り安く買い叩いてもらおう。
「じゃあ500Dで」
「安すぎるよ!」
「これ以上高くはしないからな」
安く仕入れて安く提供するのが俺のモットーなんでね。という冗談は置いておいて、半額以下で買い叩いてもらうのにはちゃんと理由がある。セナの手を借りることができる(多分)この事実だけで、俺にとっては普通にお釣りが来る。
そして睨み合うこと数秒、結局セナが折れた。
「はぁ…仕方ないなぁ」
「毎度ありー、かな?」
トレードが成立し、アイテムとお金が交換された。多少貯まってるし【頭】と【腕】の装備を買うのもアリかもしれない。dexを0から1くらいにはしたいし。
「それじゃあ、もうちょっと狩りに行こうよユキくん!」
「えっ」
満面の笑みを浮かべたセナが、俺の左手をきゅっと握る。頼るのではなく、逃さないように。
「だって強化素材だから、1個だけあっても仕方ないんだもん。それに、戦えないこともないんでしょ?」
「ソウデスネ」
墓穴を掘った先にマグマがあって、逃れ得ぬダイブをした気分だった。そうですよね、気が済むまで周回ですよね…
「れっつらごー!」
「おー…」
結果だけ言うならば、途中から引きずり回されてたり、それが原因で死に戻りしたりしながら、レベルが10まで上がるほど数を狩ったところで俺はようやく解放されたのだった。
正直、始めて1日でこの情報量はないと思うんだ。幸運強化が小から中に変化してたのが救いだとは思うけど。
Q.セナさんの銃剣はどんなやつ?
A.盗賊アーサー。弾も撃てます。