やはり俺の女性関係は色々とまちがっている。 作:四季妄
奉仕部部員プラスアルファ、総勢五名による川崎沙希更正計画は難航を極めた。やり方を捻り出すこと自体に苦はない。ピンと来たものをとりあえずは試してみるだけだ。当初は気楽に進めていた俺達だが、まさかここまで手強いとは想定していなかったのである。
「大志か、なんだ」
『さっき猫とか聞いたんすけど、姉ちゃん猫アレルギーっすよ』
「……お、おう、そうか」
我が家の飼い猫であるカマクラを使ったアニマルセラピー案、川崎自身の体質により失敗。
「君は親の気持ちを考えた事はないのか?」
「……親の気持ちなんて知らない。ていうか、先生も親になったことないから分からないだろうし。そういうの、結婚して親になってから言えば?」
「ぐはぁっ!」
平塚先生に事情を話して説得してもらう案、本人の心がばっきばきに折れて失敗。あの女、なんと卑劣な。やめろ、ちくしょう、なんか涙が出てくるじゃねえか。もう誰かもらってやれよ……。
「どうしようもないわね……」
「おい、平塚先生泣いてたんだけど」
「そこも踏まえてどうしようもないのよ」
「……さいですか」
実際打つ手なしなのは本当だ。尽く、といってもたかだか二つの案を潰されただけだが、それでも川崎の鉄壁
「……流石のぼっち力、だな」
「ヒッキーがまた何か変なこと言ってる……」
「お兄ちゃん頭大丈夫? 病院行く?」
「先生、可哀想……」
ぼそりと呟いた一言にそれぞれが噛み付いてきた。由比ヶ浜と小町はとりあえず放っておきながら、一人まともな反応をしている戸塚へ目を向ける。戸塚、お前はそのままでいてくれ。そのままでいい。そのままが一番だ。変わらないことを恐れないでくれ、変わることを恐れてくれ。優しい君が大好きです。
「……? 比企谷くん? どうしたの」
「いや、なんでもない。にしても、どうする」
ちらっと雪ノ下雪乃の方を向いてそう問えば、彼女はそっと顎に手を当てて考え始める。手詰まりに近い現状は、確率の低いアイテムのドロップを狙っている時のような気分だ。物欲センサーとか確率の壁越えとか妖怪イチタリナイとか。
「後は
「――それね」
凛と、透き通った声音が響いた。
◇◆◇
川崎はバイトをしている。しかも朝方まで帰ってこない。エンジェルなんとかの店長を名乗る人物からの電話。これらの情報をまとめ上げ、千葉市内にある『エンジェル』と付く
「お待たせいたしました、ご主人様」
「ああ、カプチーノを二つお願いします」
「ご主人様がお望みでしたらカプチーノに猫ちゃんなど描きますが、いかがいたしますか?」
「いや、大丈夫です」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ♪」
注文を聞いていたメイドさんは、オプションを断っても嫌な顔一つせず素敵な営業スマイルを浮かべた。居酒屋風にするなら「はい喜んで!」という感じだ。これがプロかと思わず感動しそうになる。サービス精神溢れる接客は実にこちらとして気分が良い。なるほど、どうりでみんな何度も足を運ぶ訳だなぁと一人納得した。
「……比企谷くんって、慣れてるの?」
「ん? そんなことはないぞ。初めてだからな」
「にしては堂々としてるよね……」
あぁ、戸塚、違うんだ。俺だって入った瞬間は結構緊張していた。大体自分は人の多い所や初めての場所というのが嫌いな人間である。故にこそ基本家から出ないのだが、そうすると余計に加速してしまうという負のスパイラル。とまぁ、それらは今どうでも良くて、何を言いたいかというと。
「……あれを見てみろ」
「あれって……というか、目の前の材木座くん……」
「む、む?」
今回、ここに来るにあたってこういう類の店に強いと思われる材木座を呼び出した訳なのだが、現在水をハイペースで飲みながらかたかたとコップに超震動を与え続ける存在と化していた。曰くこういうのは好きだが、いざ入ると恥ずかしくて上手く喋れないとのこと。役に立たねぇ。
「人はな、自分より焦っている奴を見ると逆に落ち着くんだよ、戸塚」
「そ、そうなんだ……」
「八幡。我のことをそんな目で見るな」
男三人、特に意味のある会話もせずにぼうっと過ごす。他の人員はといえば、小町はカマクラと共に帰宅させてある。中学生をあまり遅くまで出歩かせては危険だ。小町になにかあっては我が家の一大事になるのは確定的に明らか。大人しくしていてくれ、マイシスター。それはそれとして残り二人はというと――。
「お、お待たせしました。……ご、ご主人様」
言うのが余程恥ずかしかったのだろう。そいつは顔を真っ赤にしながらカップを置いた。そっと顔を見てみれば、メイド服を着た由比ヶ浜だった。つまるところ、この店のサービスでメイド体験中。着ているのは黒と白を基調としたふりっふりの、スカートがやけに短く胸元が強調されたものである。
「…………」
「に、似合うかな?」
持っていたトレイをテーブルに置いて、赤くなった頬をかきながら由比ヶ浜は言う。似合うかに合わないかであれば、迷わずどちらか答えは出ている。けれど、声に出すのが些か恥ずかしい。
「わぁ、由比ヶ浜さん可愛いね。ね、比企谷くん」
と、そこへナイスなタイミングで戸塚からのパスが送られてきた。やはり俺の天使が戸塚なのは間違っていなかった。
「あぁ。うん。……似合ってる、んじゃねえの」
「っ……い、いやいや、なんでそんな曖昧だし……」
「あ、や、悪い。似合ってる」
「ぅ……そ、そっか……」
ふいっと由比ヶ浜がそっぽを向く。僅かに見える顔はいつもより気持ち赤くなっているように思えた。果たしてそれは恥ずかしさか、それとも怒りからか。なんて、殆ど分かりきっているのにはぐらかすのは自身の心の弱い証拠だろう。
「待たせたわね」
そう声を掛けてきたのはここに来た最後の一人雪ノ下雪乃だ。こちらはロングスカートに長袖、さながら大英帝国時代のメイドさんを彷彿とさせる。分かりやすいように分かりにくい時代的なネタで例えればロッテンマイヤーさん。
「うわ、ゆきのんやばっ! めっちゃ似合ってる。超きれい……」
はぁーと息を吐きながら由比ヶ浜が絶賛する。確かにこいつの言う通り、
「だな。なんだ、すげぇ似合ってる」
「……そう。まぁ、どうでも良いのだけれど」
素直じゃない、とでも言ってやろうか。
「とりあえず、ここに川崎さんは居ないわ」
「見てきたのか」
「えぇ、シフト表に名前が無かったもの。自宅に電話がかかっているのだし、偽名の線もないでしょう」
きっちりかっちりと仕事をこなしていた雪乃に感心しながらカプチーノに口を付ける。いや本当、こいつがメイドとかしたら徹底的にやりそうで怖い。メイドは少しドジなくらいがちょうど良いのだ。主に萌え的な要素を考えて。……や、別に由比ヶ浜のことじゃないからね?
「とりあえず、今日はここまでか。収穫はなし……と」
「仕方ないわ。これ以上は遅くなるから」
今更ながら一日をふいにした事で、若干の不安が募る。これでもう一つの方にも居なかったら目も当てられない。どうか、川崎がそこで働いているよう祈っておこう。……バイトを辞めさせようとしているのに、バイトをしているように願うとか、ちゃんちゃらおかしいな。