やはり俺の女性関係は色々とまちがっている。 作:四季妄
小町に嵌められた。俺の目の前に広がるのは青々と茂った草木に、ちょうど自分の半分より上ほどの身長でわーきゃーと騒ぐがきんちょ。突然の平塚先生からのラヴコールをひたすら無視し、外には出ない何も知らないという鉄の意志と鋼の強さで保っていれば、千葉行くよーという妹の言葉に騙されてやって来たのがここ、千葉村である。あぁ、働きたくねぇ。
「やる気が無いわねダル谷くん」
「仕方ないだろ……夏休みだぞ今は……休みは休むもんだろ……」
「ヒッキーは通常運転だね……」
「やー、本当お兄ちゃんですよねー」
「まぁ、比企谷くんらしくて良いと思うよ?」
唯一戸塚だけが優しい言葉を返してくれた。やはり戸塚が天使なのは間違っていない。こんなにも心も体も綺麗な存在が居るだろうか。目の前に居るというのに信じられない。戸塚最強。天使、天使すぎる。
「さて、君たちはここに何をしに来たのか知っているか?」
と、話を切り出したのは平塚先生だ。
「泊まりがけのボランティア活動だと伺ってますが」
「うん、お手伝いだよね」
「え? これって合宿じゃないの?」
「小町、キャンプするって聞いたんですけどー?」
「そもそも何も知らないんだが、俺」
答えが多すぎてどれが正解か分からない。伝言ゲーム下手かお前ら。恐らくはたった二人共通している戸塚と雪乃のそれが正しいのだろう。ボランティア、お手伝い。いい言葉だと思う。さぞ素敵な響きで、正しく清い行動に違いない。けれど、自分でやるとなると一気にやる気をなくす言葉でもある。報酬なしとかマジかよサービス残業かよ。ブラック企業ならぬブラック部活だ。
「俺は内申がもらえるって聞いて」
「え、なんかただでキャンプできるっていうから来たんだけど?」
「それな、マジ。ただでキャンプとかやばいっしょ」
「わたしは男の子同士がキャンプするって聞いてhshs」
あえて今まで触れておかなかったがここで触れておこう。というか触れておかないと後々怖い。主に最後。海老名さんマジやべぇ……。今回の奉仕活動、メンバーは奉仕部に加えて小町&戸塚、葉山に三浦に戸部に海老名さんという異質な人員構成だ。なんとなく嫌になってくるんだよなぁこれが。
「まぁ、おおむね合っているからよしとしよう。君たちにはこれからボランティア活動をしてもらう。詳しく言うと小学生の林間学校のサポートだな」
「先生、お腹が痛いので帰っていいですか」
「比企谷。ちょっと来い、なに、不具合は大体叩けば治る」
「一昔前の考えですよそれ。いえ、なんでもないです。はい、腹痛はおさまりましたからっ」
威圧感と殺気と悲しみの篭った瞳には勝てなかった。くそっ、もう駄目だ、耐えきれない。お願いだから誰か貰ってあげてぇ!
◇◆◇
なんだかんだ些細なことはあれど、林間学校は滞りなく進んでいった。オリエンテーリングから始まり、見た雰囲気楽しそうな一日と言った感じだ。そこに明確な悪意や嫌悪はない。誰もがここで過ごす状況を楽しんでいるように見える。けれどもそれは、傍から見ているからだろう。見えないのは隠されているだけで、密かに紛れてそれらは潜んでいる。ぼっちとは自然と、そういうものに気付きやすい。
「カレー、好き?」
「……」
飯盒炊爨に野外調理、今晩のカレーの準備を皆でせっせと
「……別に。カレーに興味無いし」
それだけ答えて、少女はたたっと葉山から離れる。悪い方向へと傾いた印象はそう良くならない。人間とは解釈の仕方でがらりと変わり、変えられる生き物なのだ。例えるなら俺と葉山なら、ボランティアを慈善事業と褒め称え、片や無銭労働だと貶し貶める。ちょっと変わった奴を個性的と捉え、片や社会不適合者だと判定する。つまるところ、そいつの印象も人間性も在り方も何もかも、受け取る相手によって変わる。なればこそ、彼女が悪感情を向けられるのは必然だ。
「……じゃあ、せっかくだし隠し味入れるか。隠し味、なにか入れたいものある人ー?」
べっとりと少女に貼り付いていた
「はいっ! あたし、フルーツとかいいと思う! 桃とか!」
ふと聞こえてきた声が誰なのか分かるも、誰なのか分かりたくない気持ちに駆られた。由比ヶ浜、お前何やってんだ……。小学生に混じって挙げた意見が小学生よりちゃんとしていないのは正直やべぇ。流石の葉山もアレだったようで、一言二言話をしたかと思うと由比ヶ浜はとぼとぼとこちらに歩いて来た。
「あいつ馬鹿か……」
「ほんと、馬鹿ばっか」
鶴見瑠美は冷えた声でそう言う。だがしかしその冷たさは物足りない。精々が冷蔵庫レベルだ。雪乃くらいになると氷点下余裕のマイナス二桁くらい。冷たすぎて凍死するぞ、言葉で。
「まぁ、世の中大概そんなもんだ。馬鹿しかいねぇし、そう思う自分も馬鹿だって気付く」
「さすが、筋金入りの馬鹿は言うことが違うわね」
出た、氷点下余裕マイナス二桁さん。
「頭の出来はそこまで悪くないんだけどなぁ……」
「学ばないし捻くれているし修正のしようもないあなたの脳みそは果たして正常と言えるの? 逆説的に馬鹿で良いでしょう?」
「お前にしては凄い暴論な上に論理性の欠片もない適当な言葉だな」
「あなたと話すのにそこまで気を張る必要がないもの」
「あぁ、そうですか……」
その言葉に喜ぶべきかどうか真剣に悩んでいると、鶴見瑠美は静かに近付いてきて口を開いた。
「名前」
「ん? 名前がどうかしたか」
「名前聞いてんの。普通今ので分かるでしょ」
ふっ、甘い。MAXコーヒー並に甘い考えに思わずニヒルに口元を歪めてしまう。俺を普通という定規で測れるとは思わないことだ。普段ぼっち放課後非ぼっち休日ヒッキーな俺を普通とは言わないからな。
「……人に名前を尋ねる時は先ず自分から名乗るものよ」
や、だから怖いってお前。見ろ、鶴見怖がってんじゃねえか。ビビって逃げるぞ、と事前に溜め息をつく準備をしていれば、意外なことに彼女は目をそらしながらもぼそっと答えた。
「…………鶴見瑠美」
「私は雪ノ下雪乃。そこの彼が比企谷八幡」
「で、こいつが由比ヶ浜結衣な」
「なに? どったの?」
近くまで来ていた由比ヶ浜が反応する。偶然にも奉仕部員だけが綺麗に揃ってしまった。しかも問題の中心である鶴見瑠美にだ。この林間学校で大きな問題はない。常時であれば適当にやり過ごして手伝いだけして帰れば十分と言えよう。しかし鶴見瑠美の抱える問題が小さい訳でもない。これは巧妙に隠されて見えなくなった、大きさの分からないものだ。
「……なんか、そっちの二人は違う気がする。あのへんの人達と」
「だとよ、雪乃」
「あなたと同列というのは少し気になるけれど、まぁ、そうなんじゃないの?」
恐らく、これがここでの目的になる。
「私も違うの、あのへんと」
鶴見瑠美は、まるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
私事で少し間を開けます。
六月一週には復帰しますのでしばしお待ちください。