やはり俺の女性関係は色々とまちがっている。   作:四季妄

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相手の気持ちは

『例え世界を敵に回したとしても、俺だけは君の味方でいるよ』

 

多少の差異はあれど、そんなニュアンスの言葉は小説やドラマでよく見聞きする。とてもロマンチックで素敵な台詞だ。現実に格好良い奴が言ったのならば、さぞ様になるだろう。まぁそうじゃない奴が言ったら確実に痛い人認定なんだけどね!

 

『絶対に、君を一人にはしない』

 

心に響く言葉としては、タイミングと状況によるが最高位にあると思う。実際に、物語で盛り上がるシーンには多い筈だ。あぁ、実に良いよな、憧れる。健全な男子ならそんなことを一度は言ってみたくなるよな。

 

『俺が君を守ってみせる』

 

言うのは簡単だ。けれども、本当にそう出来る奴は何人いるだろうか。そう出来てしまう人間は、この世にどれだけ存在しているのだろうか。そんなことすら出来ない奴は、一体どうすれば良かったのだろうか。

 

「例え世界を敵に回そうが、俺だけはお前の味方でいる?」

 

いいや、違うだろ。そうじゃいけない。そのやり方では何も解決しない。全部が全部、どうにかするためには何かを切り捨てなければいけなかった。使える手札は非常に少ない。悩んで悩んで悩み抜いて、結果があいつらにとって一番であると言い聞かせて、全身全霊を持って挑んだ。

 

「例え世界を敵に回そうが」

 

だから、結果と結び付けた。

 

「俺が、お前らを守ってみせる」

 

そんなこと、出来る筈もないくせに。

 

「迷うな、悔やむのは後にしろ。今は、ただやり切ることだけを考えろ」

 

元々一番優先度が低かった。故にこそ、躊躇いなくそれを切った。僅かな手札の一枚である、“自分”という札を捨てていく。己の身も心も削っていく。自身の何もかもを殺して、何でもないかのように装ってその場だけを乗り切るために。

 

『もう、俺に関わるな』

 

切って。

 

『一緒に居て楽しいか? 俺はそう思わない』

 

切って、切って。

 

『俺とお前じゃ、過ごす場所が違うだろ』

 

切って、切って、切って。

 

『いい加減迷惑だろ、だからちょうど良い』

 

まだ残ってる、まだいける、だから切り続けて。

 

「あぁ、そうか、これで良いのか」

 

結果は自然と付いてきた。その時から、俺にとっての正解はずっと決まっている。足りなければ何かで補えば良い。それこそ、自分というカードを切って足していくだけだ。

 

「だから、そうだ。こんなのは」

 

だって、そうだろう、一度自分で落とした物を拾ってどうするというのか。

 

「絶対にまちがっている――」

 

俺はずっと、孤独であるべきだろうに。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「とりあえず、一つあなたに言っておく事があるわ」

「……なんだよ」

 

盛大な宣言のあと、胸を張った雪ノ下がすっと目を細めながら言葉を続ける。正直なところ、何を言われるか分かったものじゃ無いので若干怖い。というか帰りたいし帰りたくもあるし帰りたいとかだよなぁ。なんて思いながらぼーっと聞き流してた。

 

「人の話はきちんと聞きなさい余所見谷くん」

「っ、お、おう……」

 

気付けば雪ノ下が直ぐ近くまで迫っていた。いや、うん、分かったから一旦座ろうか。いつの間に立ってここまで歩いて来たのか知らないけど。なに? 瞬歩? お前死神か何かだったの? まぁ単に俺が気付かなかっただけだけど。

 

「そ、それが言いたいことか?」

「そんな訳無いでしょう。……比企谷くん」

「お、おう」

「私、あなたの事が嫌いよ」

 

……分かってはいた事だ。自分からそうなるような事をしたのだから、それくらいの覚悟は出来ている。だから別にどうということはない。雪ノ下は俺のことを嫌っている。それで良い。そうでなければおかしい。だからこれは、当たり前のように普通のことなのだ。

 

「人の気持ちを考慮しない考え方も、自分を真っ先に外していくやり方も、それで間違えながら成功することも、嫌いだし、認めない」

「――」

「一人で救った気になって、勝手に傷付くあなたが嫌いよ」

「……そうか、で、話は終わりか?」

「そうやって、逃げてばかりなところも」

 

容赦なく突き刺さって抉る言葉に、ぐっと拳を握りながら必死で堪える。実際、返す言葉も無いことは自分自身が一番良く分かっていた。理解しながらも実行したのだ。分かっていなければ、そいつは本物の馬鹿だろう。残念なことに、俺は本物の馬鹿になれていない。

 

「私の気持ちを考えた事がある?」

「……そんなの」

「無いでしょう。だから教えてあげるわ。あの時は答えられなかったものね」

 

一つ息を吸う間を置いて、雪ノ下は言った。

 

「楽しくない相手を、買い物に誘う訳が無いでしょう」

 

反射的に、俯いていた顔を上げて目を見張る。一瞬だけ脳の機能が停止したように固まって、それから焼け付くように残る声を噛み砕いた。揺れる、揺れる、脆くて弱い大事な何かがぐらぐらと揺れ動く。

 

「本当に仲が良くなければ、下らない話をしてくすりとも笑う筈が無いでしょう」

 

正しく、真っ直ぐに、偽らず、雪ノ下雪乃は静かに熱くぶつけてきた。ふと気付けば指先が震えている。なんて酷いことをしてくれるのか。……阿呆か、酷いのは、俺だろう。知っていても、それしか選べなかっただろうから。

 

「――よく知らない誰かとなんて、比べるまでも無いでしょう」

「っ……」

 

雪ノ下、それは。

 

「例え世界を敵に回しても」

 

それは、無理だったんだ。

 

「あなたが味方であれば、良かったのよ」

 

俺じゃあ、足りなかった。届かなかった。どれだけ手札を上手く使っても出来ない方法だった。だから切り離してやり過ごすしか無くて。

 

「……は、なんだそりゃ」

「分からないでしょうね。それを否定して、切り捨てて、離れていったのはあなただもの」

「分かってないのは、お前もだろ」

 

やらかしたと、気付いた時にはもう遅かった。

 

「気持ちだ何だと、分かってないのはお前も同じだ」

「同じ? 何が同じだと言うの?」

「お前は俺の気持ちを考えたことがあるのかよ」

 

馬鹿か、やめろ、汚いだけだ。全く持って格好悪い。好き勝手しておきながら偉そうに気持ちを考えろだなんだと、吐き気がする。ふざけるな、今すぐその口を閉じて死んだ方がマシだ。

 

「あなたの気持ち? あれだけのことをやっておきながらよくそんなことが言えるわね」

 

本当にその通りだ。

 

「俺は俺のやれる全力で、最高の結果を出した。どうしてそれにケチを付けられる」

「本当に最高の結果なら、こんなことにはなっていない筈よ」

「ならこれ以下になるのが良かったのか? 違うだろ。これで良いんだよ(・・・・・・・・)

 

ピクリと、雪ノ下のこめかみが引きつった。

 

「やっぱり、あなたは何も分かっていない」

「そうかよ、お前だってそうだと思うがな」

 

じっと、無言でお互いを睨み合う。最近では気まずい事の多かった空気が、今はとても刺々しいものへとなっていた。恐らく俺も彼女も引く気は無い。何だかんだと言いながら結局は冷静さを欠いている。比企谷八幡という人間の中途半端さだ。独りであるには割り切れない程の()()を知ってしまった。けれど誰かとあるには色々と足りていない。だから芯を強く保てず、行動に一貫性が生まれないのだ。

 

「……っ」

「……、」

 

そんな雰囲気を壊したのは、コンコンと響くノックの音だった。鋭敏になっていた感覚が直ぐ様音の方へと振り向き、教室の扉が目に入る。平塚先生はノックをしない、では誰なのか。答えを出す間もなくからりと、遠慮がちに開きながら入って来たのは。

 

「ぁ……」

「……」

 

肩までの明るめに脱色された茶髪。

 

「……ヒッキー」

 

ボタンが三つほど開けられたブラウス、そこから覗いた胸元に光るネックレス。

 

「……あなたは」

 

短めのスカートに、ハートのチャーム。

 

「……っ」

 

あぁ、連日でこれは、本当に最悪だ。

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