やはり俺の女性関係は色々とまちがっている。 作:四季妄
夢を見た。
「青春とは嘘であり、悪である」
夢を見た。
「なので、君には奉仕活動を命じる」
少しだけ変わった夢を見た。
「あなたの問題を矯正してあげる。感謝なさい」
ほんの僅かに幸せな夢を見た。
「なんか……楽しそうな部活だね」
変なこともなく自然と始まる夢だった。
「結論を言おう。
リア充爆発しろ。」
夢の中の俺は、現実の俺とは比べものにならないほど強かった。
「それでも」
どこかで何かを選択していれば、俺もこうなれていたのだろうか。こんな風に何かを望み、己の意思を強く貫くことができていたのだろうか。そんなことを考える。
「それでも、俺は」
恐らく、そうなれていた筈だ。何故なら辿った道筋や結果は違えど、比企谷八幡という人間に変わりはない。周りとの関係や精神の強さは異なる。でも、作り上げるための土台は同じだった。
「俺は、本物が欲しい」
だとすると、俺もそう思っているのかもしれない。独りで居たい独りが一番と声高に叫びながら、本心では形すらあやふやな何かを求めているのかもしれない。なんて、有り得ない事だと自分では分かっているのに。
『……俺はどこから、間違えたんだろうな』
もしも別のルートを歩く自分がいたとしたら、一度聞いてみたいと思った。正しい俺とは、どんな存在なのか。
「そんなもん決まってるだろ」
でも多分、期待する答えは返ってこないだろう。
「ぼっちじゃなくなった時からだ」
どこまでいってもどこに居ても、俺という人間は捻くれている筈だから。
「お前みたいなファッションぼっちがぼっち語るんじゃねぇよ。ぼっちなめんな」
そんな風に、夢を見た。
「比企谷くん」
夢を見た。
「ヒッキー」
夢を見たら、次は覚めなければ。
◇◆◇
「おはようお兄ちゃん」
「……おう」
だらだらと寝起きの体に鞭を打ちながらリビングへと向かえば、朝からにこやかな笑顔を浮かべる小町に出会った。え、なんでこいつこんな良い笑顔なの? 昨日のこともあり若干恥ずかしく、ふいと目を逸らしてしまう。
「え、なんで今小町塩対応されたの?」
「馬鹿お前。俺はいつでも誰でもどこでも塩対応だぞ。むしろ塩が余りすぎて人生までしょっぱくなってる」
「うわぁいつもの
小町的にポイント低い、とかなんとか呟きながらパンを咀嚼する妹をよそに俺も朝飯を掻っ込む。コーヒーに牛乳を少々(個人の感想です)入れて、ふと砂糖の入れ物が無いのに気付いた。と、そこへ。
「はい」
「ん」
ひょいっと渡された白いさらさらとした粉末状のそれを、スプーンで掬って少し(個人の感想です)投入する。やはりコーヒーは甘いのに限る。人生とか人間関係とかそういうのが苦いからな、飲み物くらいは只管甘くて宜しいのだ。ぐいっと飲んで――噴出。
「ぶふぉっ!?」
「あ、ごめんそれ塩だった」
てへぺろ☆と可愛いく作った握り拳を頭にコツンと当てて舌を出す小町。たしかにお兄ちゃんちょっと塩対応だったけどさ、だからと言って本当の“塩”対応することは無いんじゃない……? ねぇ、ちょっと? 非難の視線を向けていれば、はぁと一つため息を吐いて小町は言う。
「大丈夫とか聞くまでもなく分かるから良いけど。それでもお兄ちゃんの口から小町は言って欲しいかな」
「……悪い。もう、大丈夫だ」
「……そっか」
頷くと小町は俺のコーヒーカップを引ったくり、ぐいっと一気に呷った。あ、馬鹿、そんなことしたら。
「ゔっ、しょっぱぁ……」
「いや何してんのお前」
「お兄ちゃん塩入れ過ぎなんだけど……」
「うん、お兄ちゃん砂糖だと思ってたからね?」
ちゃっかりスプーンまで入れ替えやがって。普通はそんなトラップがあるかもとか疑うわけねぇだろ。うえうえと何とも言えない表情で小町は台所まで歩いて行き、水をじゃっと出してコップに注ぎ、飲む。
「っはぁ。ぺっぺっ。不味い不味いこれ不味いよ」
「小町、それ俺のコップなんだけど」
「知ってるよ、全くもうお兄ちゃんは……」
え? なに? なんで俺今唐突にdisられたの? パンを齧りながら適当にぼんやりとしていれば、その間も小町はせっせせっせと動き回る。なにやってんだろーなーうちの妹。そう考えたところで、コトリと近くにコップが置かれた。中には良い塩梅(個人の感想です)に甘い香り漂うコーヒーが淹れてある。
「ほら、お兄ちゃん、甘いの好きでしょ」
「……お、おう。なんか今日のお前おかしくない?」
「おかしくないよ。小町お兄ちゃんのこと好きだからね。あ、今の小町的にポイントやばい」
「はいはいやばいやばい」
「うっわぁ酷い対応……」
今日のお兄ちゃんはしょっぱいとか言う呟きは全くもって聞こえない。そもそも俺がしょっぱいとかどういう意味だ。舐めたことあんのか。日常的に嘗められて生活する俺だが、流石に日常的に舐められた経験は無い。ウソをついてる味とか言われたことも無い。
「てかお兄ちゃん、良いことあった?」
「は? そりゃ、なんでだよ」
「んー……なんか、いつもよりお兄ちゃん
と言われてもだ。特に俺としてはそんな朝から良いことがあった訳でも無くいつも通りに「学校行きたくねーなーサボろっかなーもう死んじゃおっかなー」くらいのテンションだった。いつものテンションひっく。特に美少女な幼馴染みに起こされるとか綺麗なあの子に耳元で囁かれるとか可愛い彼女とイチャイチャしたということもない。つーか先ずそんなヒロイン的な人間がいないわ。
「……あぁ、そういや、なんか良い夢を見た気がするわ」
「へー、それってどんな?」
「内容は忘れた。でも良い夢だった、筈だ」
「ふーん、そっかー」
まるで興味ない感じに返されてそのまま黙る。おかしいなぁ、話振ってきたのそっちの筈だったんだけどなぁ。俺何か悪いことしたか。悶々とした気持ちを抱えながらも無事朝飯は食べ終わり、がたりと席を立った。
「ごっそさん。じゃ、行くか」
「はいはい。ごちそうさま」
気付けばかなり時間が迫っていたので、食器を適当に洗い桶へ入れてさっさと家を出る。遅刻をするとどこぞの教師に殺意の波動を向けられる気がするので是非とも生活態度はきちんとしていきたい。
「お兄ちゃん大丈夫ー? 忘れ物ない?」
「おう」
「ハンカチ持った? ティッシュは? 携帯は? あ、もう寝癖たってるよ。目も濁ってるし、洗わなきゃ駄目じゃん」
「お前は俺のおかんか。あと目は元々だ」
妹からの気遣いがマジ余計なお世話すぎて叫びながら走り出すまである。何それただの変態過ぎて通報不可避だな。もしくは知り合いに見つかって黒歴史コース。まぁ俺の場合はその知り合いがいないんだけどね!
「あ! そうだ小町忘れてたよ」
「何をだ」
「そりゃもちろんお兄ちゃんとの行ってきますのキ――」
「置いて行くぞ」
「もう冗談だってばー! どうどう? ドキッとした?」
「いや全然」
「酷っ! そこはお世辞でもときめいたとか言っておくべきだよ!」
たしかに俺達は千葉の兄妹だが高坂さん家のように特殊な訳ではない。流石に十数年一緒に暮らしてきた妹に劣情を抱くというのは兄として何かが引っ掛かるというか親父の目がやばいというか。後者の方が説得力ありすぎじゃね。
「それじゃしゅっぱーつ」
「自転車走らせるの俺だけどな」
「いいからほら、早く早く」
急かす小町に呆れの息を吐きながら、ゆっくりと愛車に跨ってペダルを踏む。まぁ、なんだかんだ言っても妹は可愛くて仕方ないものなのだ。時々うざったくはあるが。こうして使われるのも悪くないと思う。故に、小町と楽しい会話をしながら登校を始めた俺は、知らない。
『From ☆★ゆい★☆
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ヒッキーと二人で、話したいことがあるんだけど』
最近は専らメールよりLINEですよね……。