婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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14・Night Games

「……これは?」

 傷を塞ぎ、造血処置を施した月光の身柄がどこかへ運び出され(『素晴らしい素材が手に入った』と、なんか気色悪い白衣のジーサンにお礼言われた。いや、お前にやるとは言っとらんわ!返せ!!)、闘技場(コロシアム)の闘士の控え室みたいな場所へ連れていかれて、着替えるように言われた全身タイツのような服に、思わず男爵ディーノ言うところのチベットスナギツネの顔になった。

 …ぴったりと首から下を覆うそれは、どう見てもボディーラインがしっかり出る作りな上、下着を着けたらその線までバッチリ浮き出てしまうであろう事必至。

 だからこれは本来、素肌に直接着けるのが正しい着方なのだと思う…けど。

 

「いやこれ、裸になるのと同じくらい恥ずかしいんですけど!!」

 辛うじて極小の下穿き(布の面積が少ない上、サイドと後ろ側は平紐の、穿くとヒップが丸見えなやつ。しかも色はベージュ)が用意されてはいるが、この紐のラインでもきっと浮いてしまう。

 そもそも私の凹凸の少ないボディーラインとか誰得なんだ。

 

「まあそう言うな。

 わしと直接、専属契約を結んでいる企業が開発した、新素材の試作品でな。

 せっかくだから貴様に試してもらう。

 ……よもや、わしに逆らいはすまいな?」

「………っ!」

 …くそ。

 月光は、命は助けたがその身柄は未だ御前の管理下にある。

 彼の生殺与奪は、御前に握られているのだ。

 そしてそれは、私の返答と行動次第で、どちらにも転がり得る。

 今の私に選択の余地はない。

 

 にやにやと笑う御前を睨みつけながら、ガウンを羽織った乙女ちっくな寝間着の胸のリボンと前ボタンを外す。

 そのままガウンも一緒に思い切ってばさりと脱ぎ捨て、念の為ゆるく巻いていたサラシに手をかけたところで、御前は少し驚いたような表情を浮かべ、一旦手で私を制すると、

 

「……着終わったなら、声をかけよ。」

 と言い置いて、ドアの外へ出てくれた。

 私は御前に女として手をつけられてはいないが、任務を割り振る対象を決める必要上、ある程度大きくなるまでは身体の成長を逐一チェックされていた為、実は何度となく裸は見られている。

 御前は完全に枯れているわけじゃないけど、女性への関心は極めて淡白なひとだ。

 子供が5人居たのは恐らく必要だっただけで、母親である女性たちに思い入れたからではないのだと思う。

 むしろ女性の身体なんぞよりも強い男たちの闘いに興ふ………がふんげふん。

 そこら辺は、塾長とは正反対と言えるだろう。

 塾長は基本紳士ではあるが本質は好色なたちだ。

 その塾長が否定も肯定もしなかった私の身体ごとき、今更どうという事もないだろうに、突然見せられた気遣いに、ほんの少しだけ気が抜けた。

 …まあ、その私の身体も藤堂の家を出た頃より、どことは言わないが幾らかは育っていて、多分御前が知っているそれよりも女性的なラインになっていたからだろうが。

 それにしたってそんなに大きくもない…ってやかましいわ。

 和服を着る分には凹凸がない方がすっきりしていいんだよ!

 大きすぎるのは減らせないけど、無ければ足せばいいだけだからな!!

 ………止そう。これ以上考えたら泣く。

 

 そのクソ恥ずかしい全身タイツは、着る前はピチピチで窮屈かと思ったが、着てしまえば意外にも動きを妨げないものだった。

 …むしろ何かを着ている感覚自体がないのでそれが落ち着かない。

 ボディーラインどころか、薄っすらお臍の窪みとかまで判るし、胸あてが着けられないからさっきまで虐げられていた胸の、先端のでっぱりが若干自己主張しており、これ、もう少し時間を置かないと引っ込まないと思う。

 さっきは裸と同じくらい恥ずかしいと言ったが、訂正しよう。

 むしろ全裸よりエロい。普通に痴女だ。

 とにもかくにもそれを身につけ、何故か一緒に置かれていたオペラ座の仮面みたいのも着けて、深呼吸してからドアの外に向かって声をかけた。

 

「フフフ、なかなか似合うぞ、光。」

 …記憶にある限り、任務を遂行して帰ってきた時にすら、終ぞかけられた事のない御前の褒め言葉だった。

 かつてはあれほどに欲したものが、今はまったく嬉しくないのは何故なんだろう。

 

「……いや、今より貴様のここでの名は【綺薇(キラ)】だ。」

 しかも、なんだそれ。

『光』の擬音か、それとも『killer』ってことか。

 両方な気がする。ネーミングセンスとは。

 

 ……この後、『この時間までまだ興奮が冷めやらぬお客様の為に、特別にミッドナイト・ショーを開催致します』との声と共に集まってきた観客の前、ライトアップされた闘技場(コロシアム)へと連れていかれた。

 轟くような歓声の中で、私が入ってきたのと逆側にある扉から、巨大な猛牛が現れて、まるで肉食獣のような咆哮をあげる。

 武器どころか布の一枚すら与えられずに、闘牛士の真似事をしろというのか。

 ……とりあえず肉は硬そうだ。

 

 ☆☆☆

 

騎馬戦車(スコルピオン)を落としたからと言って、よもや勝った気ではおるまいな!?」

 スパルタカスはそう言うと、先ほど男爵ディーノに対して使っていた鞭を再び手にして、なぜかそれで地面を打った。

 

「奥義・赤鞭砂塵(レッド・ウィップ・サンドストーム)!!」

 鞭は地面を砕き、砂埃を生じさせる。

 何のことはない、煙幕だ。

 その煙幕の間から、例の鞭の先が飛び出してきて、俺の身体を掠る。

 だが、それだけのこと。

 奥義というから期待したが、とんだ子供だましだ。

 次々襲いかかるそれを、身を逸らして躱す。

 一度状況を理解してしまえば、俺の目はその軌道を捉える事ができ、もはや掠る事すらない。

 間髪入れずに、再び烈風剣を放つ。

 剣圧が砂埃を吹き散らし……奴の姿も、同時にかき消えた。

 

「……むっ!?」

 馬鹿な。身を隠す場所などどこにもない筈だ。

 ふと、背後にカチリという微かな、小石を踏むような音が聞こえた。

 反射的に振り返る。と、

 

「かかったな、赤石!!」

「なっ!?」

「もらった───っ!!」

 …奴が現れたのは俺の足元の、地面からだった。

 握られた短剣の切っ先が真っ直ぐに俺の胸元に向かい……。

 最初に感じたのは、熱。

 

「ぐはっ!!」

「フッフッフ、呆気ないものよ。

 俺の短剣は確かに、貴様の心臓を完全に貫いた!」

 一拍遅れて、鼓動とともに強くなってくる痛みに、俺は地面に膝をついた。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 だが。

 とどめを刺す必要もあるまいと背を向けようとしたスパルタカスの兜を、俺の剣圧が飛ばす。

 

「なっ……なに〜〜っ!!!!」

 刀を構えている俺を二度見するように振り返り、改めて視界に入れたスパルタカスは、驚愕のあまり棒立ちになった。

 

「…まさかこの程度で、俺を倒したつもりじゃねえだろうな?」

「馬鹿な……信じられん!!

 貴様の身体は、一体どうなっている……!!」

 確かにこの状況では、確実に倒したと判断したところで不思議じゃあねえが。

 

「フッ…企業秘密ってやつだ。」

 溢れてくる血を申し訳程度に手で抑えつつ、俺は笑いながら立ち上がってみせた。

 

 ……まさか2日連続で、この奥義に助けられる事になるとはな。

 一文字流奥義・血栓貫(けっせんかん)

 奴の短剣の軌道を視界に捉えた瞬間、俺は僅かに身を躱して刃先を逸らし、間一髪で致命的な急所を外した。

 しかも、昨日のは俺の刀(斬岩剣兼続)だったから、それだけ出血も避けるべき範囲も大きくなったが、この短剣程度なら造作もない。

 勿論、正確な見切りと同時に、俺の動体視力があればこそ可能な技だったのは言うまでもないが。

 

「……このバケモノが!!

 まだそんな力が残っておるとは驚きだが、ならば今度こそ地獄へ送ってやろう!!」

「そいつは不可能だ。」

「なにっ!!?」

 次の瞬間、奴の手にした鞭が、バラバラと細切れになって足元へ落ちる。

 一文字流奥義・微塵剣。

 さっき兜を飛ばしたのは、俺があの一瞬に放った剣撃の、ほんの一閃に過ぎない。

 

「なんだと!?俺の赤鞭(レッド・ウィップ)が……!!」

「最期だ、スパルタカス!!」

 そして。

 

 

「けえええ─────っ!!」

 

 

 斬。

 

 

「ぐぐっ……!!

 な、なんという男よ、貴様という奴は………!!」

 言いながらスパルタカスは、逆袈裟に真っ二つの状態で、地面に落ちる。

 奴が息絶えるのを確認して、俺は再び地面に膝を落とした。

 

「赤石先輩!」

 俺を呼ばうそれが、剣の野郎の声だと気がついて、俺は斬岩剣を地に突き立て、それを支えに何とか立ち上がった。

 

 ・・・

 

 簡易休憩所に辿り着いた男爵ディーノが、気を失う前に話した事を一言でまとめると、光の馬鹿がやらかしてとっ捕まったらしい。

 

「ほんとに一言でまとめましたね…。」

 やかましい心を読むな剣。

 自分は殺されることはないからとディーノを逃し、そのディーノを追ってきたのがさっきのスパルタカスだったというわけだ。

 

「どうして、おとなしく待っているという事ができないんだ、あいつは……!!」

 剣の野郎が呟いた言葉は、この場の全員の思いだったろう。

 諦めろ、剣。俺はそろそろ諦めた。

 

 ☆☆☆

 

 …猛牛との闘いは呆気なく勝負がついて、更にデカいのをもう1頭倒しても時間が余ったせいか、このやたらと身体は動きやすいけど間違いなくエロい格好のまま、10人余りの剣闘士(グラディエーター)みたいな衣装を着けた男性達と更に闘わされた。

 なにげに以前富樫に無理矢理押し付けられて読んだ、全裸に仮面だけ着けて戦う女の子が主人公の漫画を思い出しながら(隠すトコ絶対間違ってると読んだ時は思ったが、顔が見えないというだけで羞恥心が目減りするのを、知りたくなかったが実感した。今ならば、意外と『翔霍』にノリノリだった影慶の気持ちも理解できる。私はもっとキャラは変えようと思うけど)、最後の1人を気絶させたところで、ようやく終了の鐘が鳴った。

 へとへとに疲れ果てたのもさることながら、若干の不都合を覚えながら部屋に戻され、さっき着てた寝間着と下着を渡されて『綺薇』の衣装は回収された。

 

『衣装の使い心地はどうだった』と御前に訊ねられたので、

 

『身体の動きを全く妨げず俊敏性は申し(ぶん)ないのですけど、激しい動きが続くと乳首が擦れて痛いです』と正直に言うと、

 

『…開発担当者に伝えておく』と、少し気まずい顔をして去っていった。

 

 ようやく休むことができた私は、ベッドに横になると同時に、気絶するように眠った。

 というか、汗が酷いけどシャワーを浴びる余裕すらなかった事を考えれば、氣の消耗でほぼ気絶していたのだと思う。

 

 ☆☆☆

 

「…御前、報告いたします。

 侵入者を捕らえに行ったスパルタカスが、男塾の陣の手前で倒されました。」

「なに!?………そうか。

 小虫など放っておけと言ったものを、油断しおって。…まあよい。

 ヘリを、いつでも飛ばせるよう準備しておけ。」

「御意。」

 

 ……夜明けまであと3時間あまり。

 次に目を覚ましたとき、更なる地獄に直面することを、この時の私は知らなかった。




作中で光が何度か指摘してますが、基本的に塾生たちは相性の悪い敵とか、或いは相手の得意ステージで戦うというのがもはや仕様です。
まあその方が話が盛り上がるというのも事実なんでしょうけど(メタ感
梁山泊での赤石対宋江将軍戦とかそれの最たるもので、あれ赤石じゃなく伊達だったら、あっさり勝てたとまでは言えなくても、あれほどの苦境に立たされる事はなかったと思うのです。
(もっとも、伊達が苦境に立たされるところとかそもそも想像つかないですけど)
今回のスパルタカス戦は、アタシのそんな想いが反映されており、割と呆気なく勝負がついたのはその為です。
ここで重要なのは原作で邪鬼様と相討ちしたスパルタカスさんに赤石があっさり勝ったとしても、だから赤石が邪鬼様より強いという事ではなく、相性の問題がそれだけ大きいという話なのです。
つか一番最初の構想ではスパルタカスさんは、ただの小娘と侮って完全に油断したところを光にサクッと殺され、『高須(たかす)(すばる)くんなんて居なかったんだ、いいね』的な不憫な展開になる予定でした。
これは無いなと思い直して考えた末に赤石と戦ってもらう事になりましたが…ええ、つまりは原作にある『邪鬼対スパルタカス』という対戦カードが、『婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜』に於いて消滅することは、最初から決定していました。
あの対戦に思い入れがあった方には申し訳ありません。
邪鬼様には別な相手を用意していますが…こっちは『ある意味相性最悪じゃね?』くらいの感じになる筈です。
もう皆さん、大体予想できちゃってるとは思いますけどね…。
けどできれば感想欄に予想書くのは遠慮していただけたらと思います。

そして光の闘技場(コロシアム)での闘いは敢えて結果のみを書き、その詳細を省いてあります。
『綺薇』の衣装は『曉』の時代に登場する零坐零差(れいざれいさ)の、開発段階での試作品。
既に完成度は高いもののまだまだ細かい課題が残ってるようですw
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