婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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2・Wind of Time

最初(ハナ)はこの俺が行く。

 奴等の力がどの程度のものか見てやろう。」

 そう言って一番手に名乗りを上げたのは伊達だった。

 闘いの為に脱いだ上着を無造作に俺に渡して、愛用の槍を手に闘場の中心に歩を進めていく。

 一番手の闘士以外は控え室のような場所に案内され、一旦そこと闘場が鉄柵で仕切られた。

 鉄柵の内側で各々が自身の居場所を確保すると、俺の手から飛燕が自然な流れで、伊達から預かった学ランを受け取って、邪魔にならない場所に畳んで置いた。

 これ、寮だったら間違いなくアイロンでもかけ始めてるところだろう。

 ちなみに男根寮には洗濯機はないくせに、何故か共用で使えるアイロンとアイロン台はあるのが謎だ。閑話休題。

 

「頼んだぜ、伊達──っ!!」

「くれぐれも油断すんなよ!!」

 閉じられた鉄柵の中から、富樫と虎丸が、伊達の背中に声をかけるのを聞きながら、俺は相手の陣へ目を向ける。

 

 真ん中にいた闘士…確か、綺薇(キラ)と呼ばれていたが、どう見ても女性というか、体格からするとまだ思春期前半の少女のようだ。

 観客席の反応からすると人気闘士であるようだし、ここで出てくるからには、相当な手練れである事は覚悟すべきだろうが…。

 

『ついて行っては、駄目なんですか?』

『…できれば、待っていて欲しいかな。』

 不意に『大威震八連制覇』の前に光と交わした会話、更にその時浮かべた不満そうな表情を思い出した。

 ここで、女性が闘う事が当たり前にまかり通っていたのであれば、確かに俺の答えは、彼女にとって納得のいくものではなかったろう。

 

『光を本当に守りたいなら、俺たちが強くなるのも勿論だが、光をとことん強くして、そばに置いておくのもひとつの手だ。』

 あの時のJの言葉が今頃腑に落ちて、連れて来なかった事を、初めて後悔した。

 

『光は、俺の許嫁……俺の女だ。』

 藤堂豪毅のさっきの言葉が、俺の耳にまだ残っている。

 守られるより、共に戦う事を望む女。

 脳裏に浮かぶ、その隣にいるのは、話の中では素直じゃないながらも可愛がっていた様子の『弟』。

 相手側の陣に向かう綺薇(キラ)の小さな後ろ姿に、ほぼ無意識に光を重ねる。

 彼女がその藤堂豪毅の傍に寄り添うように立ったところで、あちら側の鉄柵が下された。

 

 光、おまえはそいつを選ぶのか。

 そいつの手を取るのか。

 本当にそれが、おまえの望みなのか。

 

 …不意に、鉄柵の間から手をのばしかけて、そんな自分に気がついて慌てて止めた。

 あれは光ではない。

 なのに、光が奴の隣を選んだような気がして、俺は雑念を振り払うように首を振った。

 

 今は、伊達の闘いを見守らなければ。

 もっとも、あいつの力は全面的に信頼している。

 これから闘う相手が藤堂豪毅本人であるならまた別だろうが、残りの2人のうちどちらが出てくるにしても、今の伊達が遅れを取るような事態にはまずならないだろう。

 

 ☆☆☆

 

 槍を携えて闘場の中心に進んできた伊達を見て、紫蘭は控え室に並べてある武器の中から、同じくらいのリーチの槍を選んで、闘場に進み出た。

 それを確認してから、私たちの前にも鉄柵が下りる。

 

「…槍使い同士の闘いか。」

 誰にいうともなく豪毅が呟いたのを耳に留め、その義理はないが少しだけ紫蘭のフォローをしてやる事にした。

 

「紫蘭は、あらゆる武器を達人級に扱えます。

 苦手はありませんし、相手の武器が何であろうと、紫蘭には関係ありません。

 相手が槍使い故に、槍を選んだだけのこと。」

 もっとも、伊達は槍が『一番得意な武器』なだけであって、その気になれば刀も拳も使えるけど。

 三号相手に拳で2タテした男だし。

 

 それはさておき、私が説明してやると、豪毅はどこか驚いたような顔で、私をまじまじと見つめた。

 …ひょっとして、声で私が光であるとバレただろうか。

 仮面越しに豪毅の鋭い目を見返しながら、動揺を隠しつつも背中に冷たい汗が流れるのを感じる。が、

 

「…貴様、喋れたのだな。」

 豪毅が発した言葉は、思わず脱力するものだった。

 あまりにもあまりなコメントに、心の声が口からだだ漏れる。

 

「ホントさっきから失礼だなお前……!」

「何?」

「…いえ、何でも。」

「………とにかく、俺は貴様等を、親父の懐刀であるとしか聞いておらん。

 その腕、しっかりと見せてもらうとしよう。」

 …気を取り直して、最初の闘いを見守ることにするか。

 私の見立てが確かならば、まともに闘えば伊達に勝ち目はない。

 確かに伊達の槍術は神技ともいうべきものだし、男塾の中でもこれほど穴のない強さを持つ男は居ないだろう。

 だがこの場合はその強さが、逆に伊達を窮地に追い込む事になる。

 何故なら……、

 

 ・・・

 

『男塾・伊達臣人。

 冥凰島十六士・紫蘭。

 両先鋒、闘場中央へと歩み寄りました!!

 ……勝負開始であります!!』

 アナウンスが戦闘の始まりを告げ、観客が歓声を上げる。

 紫蘭が纏っていたマントを脱ぎ捨て、それがふわりと舞って落ちたのを、係員が回収した。

 

「行くぜ!!」

 伊達がまずは攻撃と防御、どちらにも移れる構えを取ると、それに対して紫蘭がとったのは、伊達と全く同じ構えだった。

 伊達本人もその事に気がついたのだろう。

 次に、攻撃に入る構えをとると、やはり紫蘭も同じ動きをする。

 

「…どういうつもりだ!?

 俺に合わせて同じ構えをとるとは…!!」

「私は、鏡に映るあなたの影…!!

 あなたは、あなた自身と闘うのだ!!」

 殊更に芝居掛かった口調で、紫蘭が答える。

 

「何を、わけのわからぬ事を──っ!!」

 そして、伊達がとうとう攻撃に移ると、やはりそれに合わせた紫蘭の槍の先端が、寸分違わず伊達のそれと合った。

 

「ならばこれならどうだ!!覇極流千峰塵(ちほうじん)!!」

 それは既に伊達の代名詞ともいうべき、目にも留まらぬ無数の突き技。

 だが、紫蘭はそれすらあっさりと模倣してみせ、全ての突きをひとつ残らず、槍の先端で合わせて止めた。

 神技とも呼ばれる己の技を完全に模倣され、さすがの伊達も驚愕の表情を浮かべる。

 

「おわかりになったかな?

 これぞ奥義・千日(せんにち)颮鏡(ほうきょう)!!」

 ……そう。これこそが紫蘭の、もっとも恐るべき戦法なのだ。

 

 

 千日(せんにち)颮鏡(ほうきょう)

 この技の要諦は、集中力・反射神経を極限まで研ぎ澄まし、相手の動作を寸分違わず、一瞬にして模倣することにある。

 その修業法は数あるが、代表的なものは氷柱の下で、滴る水滴を反射神経のみにより、無意識のうちにかわすことが出来るようになるまで、禅を組むというものである。

 もちろん、卓越した体術が必要なのは言うまでもない。

 ちなみに現代でも残る格言に、『人のふり見て我がふり直せ』とあるのは、この修業訓の名残である。

 民明書房刊『中国の奇拳ーその起源と発達』より

 

 

「将棋の世界に、禁じ手とはされているが『模写矢倉』という戦法がある。

 これは相手と全く同じ駒の手順で指していき、最後には相手の王を詰めてしまうというもの。

 人の心理とは脆いものだ……!!

 こうして徹底的に同じ動きをされていると、焦燥感ばかりが募り、いつしか必ず隙が生じる…!

 私は、そこを狙えばいいわけだ。」

 紫蘭の『特定の誰かに化ける』という特技は、この奥義を極めた事によるものだ。

 最初の頃は、普通に闘っても充分強いのに、なんでコイツ私の手を真似てくるのかと本気でイラついたのだが、要は修業により身につけた集中力と観察眼により、相手の動きの癖や呼吸の取り方などを一瞬にして見極めて、それを模倣することが可能となったわけだ。

 もっとも、一度見なければ真似ることは出来ないため、私の技はまだ使用不可能である…筈だ。

 

()っ!!」

 と、そうこうしているうちに、伊達はなんとか活路を見出そうとして、自身の持つ技を繰り出しているも、技の型だけでなく身体の使い方まで全く同じに返されている。

 そして同時に繰り出して交差した蹴りが、紫蘭には掠りもしなかったにもかかわらず、伊達にはヒットしていたようで、彼は僅かに唇の端を切っていた。

 

「何をしようが、全ては悪あがき……!!

 かつてこの奥義から逃れた者はいない。」

 綺麗な顔に不敵に笑みを浮かべて、紫蘭が伊達を振り返る。

 

「おもしれえ……!!

 ならば俺が、その最初のひとりになってやる!!」

 同じように紫蘭を振り返りながら、御自慢の男前な顔に、こちらは苦々しげな表情を浮かべた伊達は、そう言って身の内に殺気を漲らせた。

 

 ・・・

 

「つまり…相手の動きを完全に真似て、動揺を誘う技ということか?」

「表面的にはそれで間違いありませんが、それだけの浅い奥義ではありません。

 この技の真に恐ろしいところは、自身が強ければ強いほど…繰り出す技が強力であればあるほど、その強さが全て自身に返ってくるところにあります。

 ……想像したら、恐くありませんか?

 貴方ほどの闘士であれば、特に。」

 問われて答えた私の言葉に、豪毅は眉を顰めて黙り込んだ。

 まあお前、一度化けられてるけどな…とは勿論言わない。

 …考えてみれば昨夜、彼が化けたのが御前だったから見分けがついたわけだが、もしあれが豪毅の姿で現れていたとしたら、ひょっとしたら騙されていたかもしれない。

 今は騙す必要がないから、相手の手をそっくりそのまま模倣しているが、暗殺の際には、ターゲットの大切な者に擬態して実行するわけだから、相手が最も無防備になる瞬間をつく事ができる。

 …昨夜は人選を間違えただけだ。

 もっとも、あれも御前の指示だったのかもしれないが。

 負けないとわかっていたと言っていたし。

 

 ・・・

 

 さて。

 スピードを上げてもパワーで押しても、どちらも同じだけ上げてくる紫蘭に、さすがの伊達にも焦りが見えてきた。

 その辺の心理も把握済みなのだろう、伊達の猛攻に対し、それまでは受けて、流していた紫蘭が、遂に反撃に出る。

 と言っても自身から動くのではなく、伊達の攻撃に対して、完全な見切りでもって、同じ威力をカウンターで返すという方法でだ。

 先に撃って出た伊達の勢いを逆に利用して返す事で、単純計算で伊達自身に倍の力が返ってきて、三又に分かれていた伊達の槍の穂先は、綺麗に合わされた紫蘭のそれに、両端の2本を折られてしまった。

 伊達の槍はこれ1本ではない筈だが、それによる精神的な動揺は計り知れないはずだ。

 

「どうやら身も心も、かなり消耗してきたようだな。

 おまえがこの地獄に耐え切れず自滅するのは、もはや時間の問題……!!」

 明らかに余裕がなくなってきた伊達に、紫蘭がニヤリと厭な笑みを浮かべた。

 …いつも思うが、こういう表情がこの男の、せっかくの美貌を台無しにしている。

 無理矢理好意的に解釈するなら、感情が素直に出るわかりやすいタイプと言えなくもないが、とにかくいろいろ若いのだ。さすが童貞

 せっかく綺麗な顔をしているのだから、どうせならうちの飛燕みたいに、その美しさすらも自身の武器にしてしまえばいいのに。

 あのひとはあのひとで結構な腹黒だけど。

 いや羨ましくなんかない、絶対。

 私だって世間の平均から見ればそれなりに美人である筈だ…それなりに。

 ……クッソ腹立つ。

 

 …は、いいんだが、モニターに時々映し出される御前の表情が、伊達が猛攻をかけ始めてから変わったような気がする。

 余裕のある笑みが崩れ…たのはまだしも、なんか頬が紅潮して鼻が膨らんで、心なしか呼吸も荒い。

 ああうん、ぶっちゃけ結構な興奮状態ですよ側近さーん!

 倒れないうちに、何か飲み物でも差し上げてくださ〜い!!

 ……って、よく考えたら私たちは、あのひとを討ちにきてるんだった。

 いやいやでも、天誅を下す前に血圧上がって死なれたらなんか逃げられた感が凄いし、何の為にここまで勝ち上がって来たのか判らないからね!

 …そういう事にしておいて欲しい。

 てゆーか、薄々気がついてたけど御前ってやっぱり…いや、止そう。

 

「いい加減にしねえか──っ!!」

 いつもなら敵に感情を乱される事のない伊達が、怒りもあらわに更に激しい猛攻をかける。

 

「フフッ、それでいい。

 どんどん頭に血を昇らせるのだ。

 怒りと焦りは正確な判断力を失わせ、技を鈍らせる。

 そしておまえは自らの墓穴を掘るのだ!!」

 対する紫蘭は余裕の(てい)で、その強引な連打を全て見切ってあしらっているが……何か、不自然だ。

 というか、私は先日の梁山泊戦で雷電を失ったと思った直後に、怒りを爆発させた伊達を見ている。

 あの時に私が胸を詰まらせたほどの氣の圧力を、今の伊達からは感じない。

 状況があの時とは全く違うとはいえ、こんな事があるだろうか?

 あれほどに我を忘れているように見える伊達から、私は本気の怒りを見て取る事ができなかった。

 そう見ていたら、伊達はいきなり足元の、互いの攻撃により抉れた闘場の床の欠片に足を取られ、動きが一瞬止まる。

 その隙をついて紫蘭が放った突きの一撃は、反射的に防御の為に構えた槍の柄をあっさりと貫き、その右胸に到達した。

 

「ぐふっ!!」

 それは急所を避けてはいても、伊達本人が放った技と同じくらい、深くその胸を抉っており、苦悶の声をあげた伊達は、それが引き抜かれたと同時に、息も荒くその場に膝をついた。

 

「これで勝負あったな。

 その傷と折れた槍では、もはや闘うこともできまい。

 さあ、覚悟を決めるがいい!!」

 その穂先に塗れた血を振り払うように振りながら、紫蘭が伊達を見下ろす。

 その目を睨みつける伊達は、一見身動きも出来ずにいるように見えるが…、

 

 ☆☆☆

 

「違う。伊達は今の一撃、わざと撃たせたのだ。

 どんな窮地にあろうと、小石に蹴躓いてやられるような男ではない。」

 俺は一度闘って、奴の強さは身にしみて知っている。

 そして今の伊達は、あの時よりも更に強くなっている。

 そして何より、闘いにもある程度のスタイリッシュさを求める傾向のある男が、あんな無様を考えなしに晒すはずがない。

 それに、あの目。

 敢えて激情に駆られているように見せて、あれは冷静に、鷹が獲物を狙う目だ。

 何か策がある……あいつは、そういう男なのだ。

 

 ☆☆☆

 

 とどめを刺すべく構えを取ろうとした紫蘭に、抵抗すべく伊達が立ち上がり、観客席の歓声が高まった。

 

「フフッ、まだやる気か。

 おとなしくとどめを刺されれば良いものを。」

 嘲るように嗤う紫蘭に対し、残る力を振り絞って、伊達が折れた槍を手に取る。

 そこから身を低く、しゃがんだ態勢から、構えた槍を背に隠すような構えを取ると、紫蘭をキッと睨みつけた。

 …この態勢だと、まるで歌舞伎の舞台のようだ。

 それが絵になるあたり、こんな時でもこの男はカッコつけなのだなと、頭の片隅で思った。

 

 …モニターに映された御前が、側近の方から湯呑み茶碗を受け取っているところが映る。

 どうやら私の心の叫びを聞き届けてくれた人が居たらしい(絶対違)。

 

「見せてやろう……覇極流超奥義・宇呂(うろ)惔瀦(やけぬま)!!」

 そして伊達は、どうやら最後の力を振り絞って、一撃必殺を狙うつもりらしい。

 

「まだわからんのか。

 この期に及んで繰り出すからには、かなり高度な奥義であろうが、俺の千日(せんにち)颮鏡(ほうきょう)の前には、なんの意味も持たんことが!!

 まあ、来るがいい。

 それが最後の悪あがきとなる!!」

 相変わらず余裕の(てい)を崩さずに、紫蘭がまたも伊達と同じ構えを取るが…どうやらここで最後の抵抗を試みた伊達に、内心圧倒されているらしい。

 それが証拠に、さっきまでキャラ作って『私』だった一人称が、本来の『俺』に戻っている。

 まあ、これは私だから判ることだろう。

 表面上、紫蘭の表情には、なんの(いろ)も現れてはいない。

 ある程度の溜めの時間のあと、伊達の氣が動く。

 この間にも紫蘭の目には、伊達の筋肉の微妙な動きが観察されているだろうが、さて。

 

「行くぜ!!()っ!!」

 …そうして繰り出された技は、手にした槍を上空へと投げ放っただけ。

 筋肉の動きまで模倣して、同じようにして槍を投げた紫蘭が、見上げた視線を伊達に戻して、嗤う。

 

「…これは一体なんのつもりだ!?

 超奥義・宇呂(うろ)惔瀦(やけぬま)とやらは、手でも滑ってしくじったのか?」

「…これでいいのだ。

 宇呂(うろ)惔瀦(やけぬま)なんて奥義は存在せんのだからな!!」

 その言葉に、紫蘭が形のいい眉根を寄せた。

 …あ、なんかすごく嫌な予感がする。

 私の勘が正しければ、今この瞬間、伊達の底意地悪さが炸裂している気しかしない。

 

宇呂(うろ)惔瀦(やけぬま)を逆さに読んでみるがいい。」

 ……やっぱりか!うん知ってた!

 コイツってそういう奴だよな!!

 

宇呂(うろ)惔瀦(やけぬま)……ウロヤケヌマ……!

 マ・ヌ・ケ・ヤ・ロ・ウ………!」

 そして言われた紫蘭が、クソ真面目にその通りに逆さ読みをして…

 

「マヌケ野郎だと──っ!?」

 自分で言って自分で怒るという、まさにマヌケな状態になってしまっていた。

 

「そして、落ちてくる槍をよく見るんだな!!」

 更に、上空に投げ放たれた二本の槍が、落ちてくる方を伊達が指差す。

 それは片方は真っ直ぐ地面に突き刺さったが、もう片方はカランとそれこそマヌケな音を立てて、地面に当たると同時に転がった。

 

「なっ!!あ、あれは……!!」

 地面に突き刺さった槍は紫蘭のもの。

 そしてもう片方の、地面を転がったのは、先程折られた槍の柄だけだ。

 ならば、穂先の付いている方は……!!

 

千日(せんにち)颮鏡(ほうきょう)、敗れたり!!

 相手と同じ武器を持たねば、その奥義は成り立たん!!」

 どうやら背に沿わせて隠し持っていたらしい、短くなった槍を構えて、伊達が宣言した。

 自身も槍を構え直そうにも、それは一瞬では手の届かない場所にあり、そこにたどり着く前に、伊達の攻撃を食らってしまうだろう。

 そう判断してか、紫蘭は防具の中に隠し持っていたらしいナイフを取り出し、それを構える。

 

「やめろ…もはや貴様に勝ち目はない。」

「ぬかせ〜〜っ!!」

 初めて自分から仕掛けた紫蘭の攻撃は、あっさりと伊達に躱される。

 その身体が交差した瞬間、自身が飛び込んだ勢いそのまま、伊達の槍に胸を貫かれていた。

 …先程、彼が与えた傷と、寸分違わぬ場所を。

 

「己を見失い自滅したのは、貴様自身だったな!!」

 それは我を忘れてなどいない、実に伊達らしいやり口だった。

 …つか、底意地の悪さで勝敗が決まるとか。

 

 ☆☆☆

 

「御前……!!」

「フッフッフ、何も案ずることはない。

 …このままで終わることはない!!

 奴はこのわしが手塩にかけて造り上げた、敵を倒す事だけを至上の目的とする男……!!」

 貴賓席でその闘いを見つめていた大会主催者は、彼の為にぬるめに入れられた茶を一気に飲み干し、その湯呑みを側近に返しながら、不敵に呟いた。

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