婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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3・愛ゆえに狂おしい嘆きの天使たち

 書き終えて、封をした手紙を、塾から出す郵便物の中に混ぜる。

 こうしておけば午後には回収に来て、明後日の午前中には無事に配送されるだろう。

 内容は、一見すると単なる時節の挨拶と、書いた側の他愛のない近況報告程度。

 だが受け取った相手だけはそこに、別な意味を読み取ってくれるだろう。

 子供同士の遊びが、まさかこんな事の役に立つなんて。

 

「殺シアム」開催まで、あと4日。

 

 ☆☆☆

 

 その「殺シアム」は、途中まではなかなかに見応えのある試合だった…などというのは、実際には衆人環視の中での殺し合いに対して、いささか不謹慎に過ぎるだろうか。

 途中まで、というのは、防戦一方に見えながら一撃必殺のチャンスをうかがっていた桃の戦いに富樫が割って入り、どこから持ってきたか知らない拳銃を赤石に向かって発砲して、いいところに水を差したからだ。

 とはいえあれによって赤石の『俺は目はいい方だ』という言葉が、ハッタリではなくむしろ謙遜だった事実を見せつけられる事になった。

 弾丸の軌道を見切れる動体視力とか普通に人間業じゃないし、それを一刀両断できる剣技も同様だ。

 だが桃の方も只者じゃなかった。

 というか、私の目にはどう見ても、彼が全力で戦っているように見えなかった。

 最後には赤石の太刀筋を見切った桃の刀が、とどめに向かってきた赤石の懐に入り、その胸を切り裂いた。

 

「全治3ヶ月、富樫の借りはピッたし返したぜ。」

 血まみれの顔で桃が言いながら、いつもの余裕の笑みを浮かべる。

 だが悪い。

 あくまで私の都合だが3ヶ月も待てない。

 その富樫が、胸に仕込んだ鶏のお陰で無傷だったわけだから、あなたが負わせた赤石の怪我を、私が今晩にでも治してしまう事を許してほしい。

 

 ・・・

 

「…また、怪しげな術を使いやがるぜ。

 だが一応、礼だけは言っといてやる。」

 全治3ヶ月の筈の胸の傷が綺麗に塞がったのを目の当たりにして、何故だか呆れたように赤石が言う。

 

「別に構いません。

 あなたに長く寝ていられては困る事情がありまして。

 今晩大人しく寝ていてくれたら、明日の朝には普通に動いて大丈夫です。

 なので明日は私に付き合って、行って欲しい場所があります。」

 本当は一人で行きたいけど、情報源を蔑ろにするわけにはいかない。

 それが筋だと塾長に言われた。

 

「待て。てめえには試合の後、話を聞かせてもらう約束だった筈だ。」

 その最大限の譲歩に対し、赤石が噛み付く。

 私は彼の顔の前に指を広げ、少し脅すように言った。

 

「私の返答は『何らかの形で』と言った筈ですよ、赤石。

 その為にも、是非お付き合いください。

 ちなみに、塾長の許可は頂いてます。」

 

 ☆☆☆

 

「…なんだ、その格好は。」

 校門の裏口で待ち合わせて、顔を合わせた瞬間に、赤石が問う。

 私の服装は、メイクこそ年齢相応に清楚に施してあるが、首相暗殺未遂の際に身につけていた着物。

 正直、本来の私の年齢には大人っぽ過ぎるのだが、今手元にある私服は幸さんが持ってきてくれた3枚の和服のみであり、その中で借り物でないのはこれだけだ。

 恐らくは返せないであろう着物を借りていくわけにはいかない。

 この着物に短髪だとちょっとかっこ悪いので、結い髪にするのに(かもじ)は借りたけど。

 

「私としては、二人で出かけるのに、あなたのその服装こそなんなんだと思いますけどね。

 せっかくのデートなんですから、もう少しなんとかなりませんか?」

「デッ………!?」

 塾敷地内で身につけている改造制服のままの赤石に、仕返しとして軽口を叩くと、赤石が少しだけ顔を赤くして絶句する。

 ふふん、デカい図体でそれ以上にデカい態度の割には、可愛いところもあるではないか。

 

「冗談です。

 私としては、塾長に迷惑がかかる可能性を考えて、制服は止そうと思いまして。

 何せ特徴がありますからね、あの制服は。

 まああなたの場合、そこまで改造してあれば、コスプレと思われはしても、男塾の制服だとは判断されないでしょう。

 …行きますよ、赤石。」

「…どこへ行くつもりだ。」

 歩き出す私の背中に、赤石が問いかける。

 

「恐らくは、私にとっての死地へ。」

 私がそう答えると、赤石は私を睨むように見据えた。

 

「何だと?」

 その赤石の目をまっすぐに見返し、私は彼に、懇願する形で言った。

 

「お願いがあります、赤石。

 あなたは何もせず、何も聞かず、一部始終を見届けてください。

 あなたの知りたい真実は、恐らくはその過程で手に入ります。

 ですから…もし私が死んだら、私の事は見捨てて、あなたはその場を立ち去ってください。

 …いいですね、約束ですよ。」

 懇願の形をとっていながら、ほぼ命令だったけれど。

 

 ・・・

 

 約束の場所に着くと、もう夕方だった。

 既に待っていた背の高い人影が振り返る。

 

「お久しぶりです、豪くん。

 ……で、間違いないですか?」

 まだ2人とも子供だった頃、戯れに考えた、2人だけに通じる暗号。

 それを見てここに来た者が、本人である事は疑いようがないのだけれど。

 つい確認してしまったのは、目の前に現れたその男が、私の記憶にある少年の姿と、どうしてもイメージが一致してくれなかったからだ。

 私とて、彼がいつまでも11才の少年のままではいないと、ちゃんと理解はしていたつもりだ。

 しかし…多分桃と同じくらいはあるだろう長身で、だけど胸板は遥かに厚く、腕も首も太い。

 癖の強かった頭髪は短く刈りそろえられて、長めに残した揉み上げがその片鱗を窺わせるのみ。

 

 むしろそこは何故残したと思わなくもないが、今は気にしている時じゃない。

 

 丸みを帯びていた頬も肉が削ぎ落とされ、愛らしさが精悍さに取って代わられている。

 濃い眉と長い睫毛に縁取られた、どこか寂しさと孤独を感じさせる瞳だけは、辛うじてそのままだったけれど。

 

「光姉さん…生きていたんだな。」

 低い声が、懐かしげに答える。

 隣で赤石が息をのむ気配がしたが、私は構わず言葉を返した。

 

「見違えましたよ。

 大きくなりましたね、随分逞しくなりました。」

 どうやら確かに、ここに現れたこの男が、私の「おとうと」である事に間違いはないようだ。

「御前」…藤堂財閥総帥・藤堂兵衛。

 彼はその五男、藤堂豪毅。

 現時点で、「御前」側の人間で唯一、私が信用できると踏んだ男。

 最後に会ってからそろそろ5年近く経つが、未だに私を「姉さん」と呼んでくれるようだ。

 

「その男は?」

「見届け人、といったところでしょうか。

 空気だと思っていてください。

 …私が、首相の暗殺に失敗した件は御存知でしたか?」

「何!?」

 その私の問いには、豪毅よりも先に赤石が反応した。

 そういや言う必要もなかったから言ってなかったな、私が暗殺者だということを。

 

「…黙っていなさい。何も聞かない約束ですよ。」

 軽く睨みながら言うと、赤石は小さく舌打ちして引き下がった。

 うむ、もう少し躾けてから連れて来たかったが、時間が足りなかった。仕方ない。

 

「帰国してすぐに聞いた。

 だから、俺は姉さんを探していた。」

 やはり知っていたか。まあ普通に想定内だ。そして。

 

「それは『御前』の命令で、私を始末する為ですね?」

 そう言った私の言葉に、豪毅は激しくかぶりを振る。

 

「違う!

 俺は姉さんを、親父より先に見つけるつもりだった。

 任務に失敗した姉さんを、親父が許すとは思えなかったからだ。

 …俺が必ず守る。そう決めた。」

 そう考えると思っていたのだ。

 一緒に暮らしていたあの頃、この子は私を慕いすぎていた。

 私の見る限りだが5人の兄弟たちの中で、「御前」に一番素質を買われていたとはいえ、上の兄たちがもっと遅くに出された修行に11歳の時点で出されたのは、半分は私と引き離す目的でもあったろう。

 

「…何故?」

 だけど、判りきっている事を、わざと確認する。

 お互いの立場を、認識させる為に。

 

「何故、とは?」

「『御前』の命令は絶対でしょう。

 あの時の私にとっても、今のあなたにとっても。

 私を匿ったりしたら、あなたは『御前』の命令に背く事になる。

 それは決して、あってはならない事。」

「姉さん…しかし」

 何か言おうとした豪毅の、その言葉を遮って、私は言葉を発する。

 時間に制限はないが、それほどのんびりもしていられまい。

 

「豪くん、あなたに確認したい事があります。

 私を探している時に、私によく似た男性に会いませんでしたか?」

 隣で赤石が再び息をのむ。当然だろう。

 その辺の豪毅の行動如何で、赤石がどう出るか決まるのだ。

 状況によっては赤石と豪毅のどちらか、或いは両方が死ぬ事態になる。

 だが私は、それは避けたいと考えていた。

 

「…会った。

 てっきり姉さんだと思って呼びかけたら、人違いだったが…自分と似た顔の女を探していると言っていた。」

「てめえが………っ!!!」

 豪毅の言葉の途中で、赤石が背中に右腕を回す。

 どうやら刀を背中に隠しているらしい。

 

「何もするなと言っています!

 黙って見ていなさい!」

 鋭く斬りつけるように言葉で制する。

 

「………クッ!」

 赤石が忌々しげに喉の奥で唸った。

 まったく血の気の多い事だ。

 

「…続けてください。」

 私が促すと、豪毅が小さく頷いて、再び口を開いた。

 

「俺は手を引けと言った。

 姉さんの状況を話す訳にはいかなかったが、一般人が下手に踏み込めば、無事でいられるとも思えなかったし…何よりあいつは姉さんに似過ぎていた。

 下手に近づけば、俺が間違えたように、人違いで消される可能性がある。

 そうして立ち去ろうとしたら、あいつは自分の連絡先を書いたメモを、俺に渡してきた。」

 その辺の情報は、赤石から聞いて知っている。

 今のところ双方の情報に矛盾はない。

 だが、ここからだ。

 

「それを、どうしました?」

「連絡するつもりはなかったから捨てようと思ったが…そこに書かれている緊急連絡先のひとつが、親父の息がかかった弁護士の番号だった。

 それが気になって、その弁護士に連絡をして、奴のことを聞いた。

 …奴が姉さんの双子の兄だと、その時に知った。

 アメリカで暮らしていたものが、何故か2年前に帰国したので、親父の命令で、姉さんと接触させない為に監視しているのだと言っていた。」

 もともと監視の目的で送り込まれたというなら、両親の生前の顧問だったというのも嘘だったのだろう。

 兄が高校に通い、更にその間の生活を過不足なく営める程度にあったという両親の現金遺産も、その嘘の為に「御前」が出したものであったに違いない。

 恐らく「御前」は、私と血縁関係のある者とを接触させる事で、私に人としての感情が戻る事を警戒したのだろう。

 私は「御前」に、それなりに手放したくないとは思われていたのか。

 不謹慎だが、少しだけ嬉しくなる。

 

「この人の話だと、兄は心臓の病気の手術の為にアメリカに行き、両親の死後、そのまましばらくそこで暮らしていたそうです。

 そして、その手術の費用の為に、両親は私を『売った』のだと。

 という事は、兄の手術費用を出したのは『御前』という事になりますね。」

 その目的は、間違いなく私だ。

 正確にはその時点で既に扱えたであろう、私のこの力。

 塾長は「橘流氣操術」と仰っていた。

 

「てめえら、さっきから言うその『御前』ってのは誰だ!いい加減…」

 と、それまで黙って聞いていた赤石が突然吠える。

 これまではなんとか抑え付けていたが、そろそろ臨界を迎えたようだ。

 

「…どうやら、強制的に黙らせた方が良さそうですね。」

 私は赤石に手を伸ばすと、指先からの氣の針を、赤石の喉と、四肢の関節に撃ち込んだ。

 

「…!!?……、………!」

 これで1時間は、喋る事も動く事もできない。

 最初からこうしておけば良かった。

 

「騒がせて申し訳ありません、豪くん。

 …それで、その後は?

 私の兄は、亡くなったそうです。

 恐らくは、あなたと接触した事実を危険視した何者かに襲われて。

 豪くんには、その犯人の心当たりがありますか?」

 私の問いに、豪毅が頷く。

 

「知っている。

 手を下したのは弁護士だ。しかも独断でな。

 俺が奴を訪ねた時、奴は事務所に片腕になって戻ってきた。」

 …そういえば赤石が、「腕一本ぶった斬っただけで、取り逃がした」と言っていた気がする。

 

「独断で?

 でしたらその男、彼に引き渡していただく訳にはいきませんか?

 私は兄を知りませんが、彼にとっては友であったそうです。

 どうか、仇を取らせてあげてください。」

 豪毅は兄の死のきっかけにはなったかもしれないものの、手を下してはいない。

 それどころか、命の心配をして遠ざけようとすらした。

 私が確認したかったのはそこなのだ。

 豪毅が、私の兄の仇であるのか否か。

 そうでない事がわかった今、赤石と豪毅の2人が、殺し合いをする事態は避けられたと言っていい。

 後はその弁護士を引き渡してくれれば、赤石は満足する筈だ。

 してもらわなければ困る。

 

「その必要はない。

 奴は親父の命令で、既に俺が始末した。」

 だが豪毅の言葉に、私の隣で動けずにいる赤石が、驚いた表情を浮かべる。

 

「…なるほど。

 行方不明というのは、そういう事でしたか。

 了解しました。

 あなたは、私に嘘はつかないですよね。

 信用しますよ。」

 これは豪毅に対してより、赤石に対する牽制だ。

 この件の後、彼を探す事、殺す事の必要がない事を、暗に強調する。

 

「姉さん、俺と来い。今の俺なら姉さんを守れる。

 …必ず、俺が守ってやる。」

「さっきも言ったでしょう。

『御前』の命令は絶対です。

 私を始末する命令を、あなたは受けている筈。

 今、私はここに居ます。

 どうすべきか、わかりますよね?」

 一緒に暮らしていた頃は、特に何の感情も抱かずに接していたつもりだ。

 けれど実際には、私は彼の存在に慰められていて。

 本来なら兄が占めていたのであろう場所に、彼が居てくれたから私は、心を完全に無くさずに済んだのだ。今思えば。

 豪毅は確かに私の「おとうと」だった。

 私は「姉さん」だから、「おとうと」を守らなければいけない。

 この子に私を守らせては、いけない。

 

「姉さん…!」

 豪毅が、信じられないものを見る目で私を見る。

 何故だか赤石までが同じような表情を浮かべている。

 その赤石に視線を移し、一瞬笑いかけてやってから、私は再び豪毅に向き直った。

 

「ただし、彼はこのまま帰してあげてください。

 彼に施した拘束は、あと一時間もすれば血流とともに解けます。

 その間に私を殺して、あなたは『御前』のもとに遺骸を持ち帰ればいい。

 さっきから煩いので仕方なく拘束しましたが、元々この人とは、全てを見届けてそのまま帰れと、最初から約束をしています。」

 そう言ったら赤石に、ものすごい目で睨まれたけれど、知ったことか。

 

「姉…さん。」

「刀を抜きなさい、豪毅!

 でなければ、私があなたを殺します!」

 言いながら、豪毅の懐近くまで入り込む。

 だが恐らくは触れるのは不可能。

 少し殺傷力が落ちる飛ばし攻撃で氣の針を放つ。

 

「うっ!!?」

 天性の勘なのだろう、豪毅はほぼ反射的に首を捻って、目には見えていない筈の私の攻撃を避けた。

 首筋に一筋、赤い線が走る。

 そこにじわりと血が滲んだ。

 

「…よく避けましたね。でも次はない。」

「本気か…姉さん。」

 豪毅の、長い睫毛に囲まれた瞳が、哀しげな色を映す。

 それは最後に会った日に見たのと同じ。

 

 まったく…泣き虫ですね、豪くんは。

 こんなに大きくなったのに、そういうところはちっとも変わらないんだから。

 

「忘れましたか?

 私は『御前』の育てた暗殺者です。

 間合いに入れたら、その瞬間が最後ですよ。

 …さあ、抜きなさい。豪毅。」

「姉さん……光。」

 すらり。

 豪毅は、ずっと手にしていた太刀をようやく抜いて、構えた。

 堂に入った構えだ。

 私と離れた後、相当の修行をしたに違いない。

 ただ、あくまで私の見解でしかないが、現段階ならばきっと、桃と戦えば桃が勝つ。

 でもそれは仮定の話。

 今、彼と向き合っているのは、桃ではなく私だ。

 

「それでいい。

 死にたくなければ、私を殺すしかない。」

 どうせいつかは、「御前」の刺客に討たれるのならば、私は豪毅の手にかかって死にたい。

 

 

「う……おおおぉぉぉぉ───っ!」

 と、少なくとも1時間は声も手も足も出せない筈の赤石が、大きく吠えた。

 

「!?」

 向き合っていた私と豪毅が、存在すら忘れていたそちらに一瞬目を奪われる。

 赤石は神がかった速さで背中の刀を抜き放つと、豪毅に向かってそれを振り抜いた。

 

「一文字流奥義・烈風剣!!!!!」

 大きく攻撃的な氣が、風圧となって豪毅を襲う。

 

「くっ!!」

 それにより豪毅が体制を崩し、私との間合いから瞬間外れた。

 その瞬間、太い腕が私を捕らえ、踏みしめていた地面が足から離れた。

 

「きゃ……!!!?」

「来い!」

 気付けば私は赤石に横抱きに抱えられ、対峙していた場所から連れ去られていた。

 見上げた薄曇りの夜空に、刀のような三日月が浮かんでいた。

 

 ☆☆☆

 

 赤石は私を抱えたまま全力疾走して、どこをどう走ってきたものか、夜の街中、やや人通りの多い交差点に差し掛かったところで、ようやく私を下ろした。

 さすがに呼吸を乱し、肩で息をする。

 

「おい、いい加減答えろ!

 あいつは一体誰だ!?『御前』ってな何者だ!!」

 私の氣による拘束を自力で破った男が怒鳴る。

 私はどうやらこの男を、相当見くびっていたようだ。

 

「お答えできません!

 どうして約束を破ったんですか!?」

「あの状況で動かねえ奴は男じゃねえ!

 てめえは俺に、男をやめろってのか!?」

「約束を破るのは男としていいんですか!」

「うるせえ!てめえは女だ!

 女はおとなしく男に守られて、好きな男のガキでも生んでろ!」

「意味がわかりません!

 なんでそうなるんですか!」

「女には女の幸せがある!

 死ぬのは男に任せてりゃいいって言ってんだ!!」

 気付けば私たちの言い合いに、通りすがりの人がみんな振り返る。

 …うん、大柄な改造学生服の銀髪男と、小柄な和服の女が大声で怒鳴りあってるんだから、そりゃ確かに目立つだろう。

 2人してその、はたから見ると異様な光景に気づき、赤石が声のトーンを落とす。

 

「…てめえ、自分が死ぬ事であいつを守ろうとしたんだろうが…あいつだけじゃねえ、俺の事もだ。違うか?」

 赤石に問われ、私は溜息をひとつ吐いて、答える。

 

「…あなた方男と違って、私は感情に任せた無駄死にはしません。」

「何だと?」

「女だって、出産で死ぬ事がありますよ。

 そして、母親の命と引き換えに生まれた子も、誰も育ててくれなければ、そのまま死にます。

 母親の方が生き残っていれば、その先も生きていけるのに。

 それは無駄死にです。

 あなたの言う女だって、それと同じですよ。

 誰かが守らなければいけないくらい弱いなら、その守ってくれる人がいなくなった後、どうやって生きていけって言うんです?

 無責任です、そんなの。私は違います。

 私が母親なら、極力生きて子を守りますが、命の危険があれば子を諦めて自分が生きます。

 でもこの場合、私が守るべき人は私より強い。

 その場を生き抜けさえすれば、その後は自分で生きていってくれる。彼も、あなたも。

 私なんかが生き残るより、よっぽど理に適っています。」

 私の言葉に、赤石が私を睨んだまま、何か言いたげに口を開く。

 が、私はそれを制して言葉を続けた。

 

「私はね、赤石。

 子供の頃から、人を殺してきました。

 子供のうちは、子供である事を、ある程度成長してからは、女である事を武器にして。

 飼い主の意のまま、男の習性を利用して、その男を何人も手にかけてきたんですよ?

 あなた方、男の考えることなんて、ちゃあんとわかってるんです。

 …あの子は、『御前』に逆らっても私を守ろうとする。

 私を連れて、逃げてすらくれる。

 けど、そのうち逃げきれなくなって、最後には二人とも殺される。

 あの子なら死の間際に言うでしょうね。

 姉さんと一緒に死ねるなら本望だ、と。

 けど私は嫌です。一緒に死ぬなんて。

 そのくらいなら私が死んであの子が生きてくれた方がいい。

 あの子が私を殺して、私の骸を土産に『御前』のもとへ帰るのが、一番いい。

 飼い主が飼い犬を庇って死ぬなんて、笑い話にもなりゃしません。

 それが一番の選択なんです。

 なんの問題もない。」

 だが私の言葉を聞き、赤石が突然私の両肩を、その大きな手で掴んだ。

 そのまま私の背後の建物の壁に、私を押し付ける。

 

「痛いです赤石!離してください!!」

「問題大ありだ馬鹿野郎!!

 てめえは飼い犬じゃねえ!

 俺もあいつもてめえも、同じ人間だ!!」

 …この男は何を言っているのだろう。

 私が人殺しであると、今聞いたばかりだろうに。

 私たちはお互いの目を見据えたまま、そのままの状態で暫し固まっていた。が、

 

「…ついて来い。見せてえ(モン)がある。」

 赤石はゆっくりと私の肩から手を離すと、大きな背中を私に向けて、歩き出した。




この時点での豪毅には若干甘さがあります。
兄貴全員ぶった斬った後、師匠を奥義奪ってぶっ殺したのはこの後日のお話。
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