婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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…なんか、豪毅エンドへの分岐があった事で、光争奪戦に豪毅がこの時点で敗退したみたいなイメージを感想欄で感じましたが違います。
あれは豪毅が勝利した時空なのです。
ここからはまた別な流れの時空を描いていくだけで、あれもひとつの結末なのです。


天挑五輪大武會表彰式編
1・Bad Girl


「…フフッ、味なことをしよるわい。

 これでは奴等の優勝を認めぬわけにはいかんじゃろう。」

「御前!大変であります!!

 こ、これをごらんください!!

 あの男塾とかいうチーム、どうも気になるところがあり、調査させていた結果……!!」

「こ、これは……!!

 ククッ…やはり奴等全員、死ぬ運命にあったようだな…!!」

 

 ☆☆☆

 

「どこへ行く!?」

 部屋を出て少し走った先の角を曲がったと同時に、作業着を身につけた係員に、私は唐突に腕を掴まれた。

 反射的に指に氣を集中…しようとしたところで、その手がパッと離される。

 

「俺だ、光。…今、何かしようとしたろ?」

 よく聞けば覚えのある声に相手の顔を見上げると、日本人には有り得ないブルー・グレーの瞳と合った。

 

「紫蘭!?あなた、こんなところで何を…」

「その質問、そっくりそのまま返させてもらう。

 ……俺の特技でもあるしな。」

「やかましいわ。」

 相変わらず憎ったらしい笑みを浮かべて、若干自虐的な事を言う紫蘭に、思わず言い返す。

 …だが、この彼の表情に、これまであったどこか卑屈なものが見えない気がするのは気のせいなんだろうか。

 

「…人を探しているのです。

 彼の無事が確認できなければ、私は御前に逆らえないので。」

 なんとなくだが、この期に及んで月光が殺される事はないような気がするが、あくまで私が思うだけで思い込みは危険だ。

 それに生きているならできるだけ早くに、身柄を確保して仲間たちのもとへ返してやらないと。

 

「一応まだ、逆らうつもりだったのか…。」

 だが、そこで話を終わらせるつもりだった私に、紫蘭は呆れたような目を向けて、まだ会話を続けてくる。

 

「…御前はあれで、用心深い割には身内に甘いところもありますので、身内ヅラをしておけば油断するかなと。」

 そして若干イラッとしつつ、それに言い訳めいた言葉を返してしまう程度には、私も以前よりはこの男に、親しみを覚えているのだと思う。

 

「そうか。てっきり、状況を楽しんでるもんだと思っていた。」

「ち、違うし!

 目的を途中で見失いかけたとか、実際ちょっと面白かったとか思ってないし!!

 …で、あなたは私の邪魔をするつもりですか?」

 ちょっとつつかれたくない部分に触れられて、慌てて誤魔化したものの、なんか墓穴を掘った気がしてならない。

【悲報】光さん、語るに落ちる。

 そんな私に、紫蘭の意地の悪そうな笑みがますます深くなった。

 

「いや?むしろ、かぶりつきで見せてもらおうかと思ってる。面白そうだし。」

「面白いとか言ったコイツ!」

「まあまあ。

 …で、探してるのはひょっとして、剃髪の背の高い男か?

 ここに、インドのビンディみたいな、丸い金属の飾りを着けた。」

 自分の眉間を指しながら紫蘭が言うのに、ハッとして彼を見つめた。

 ビンディは女性がつけるものだから違うだろうが、凡その特徴は一致する。

 

「…どこで見ました!?」

「一足遅かったな。

 エーベルシュタインがヘリに乗せて連れて行った。

 今頃は空の上だ。」

「……誰ですって?」

 聞いたことのない名前に思わず問い返してから、重要なのはそこじゃなかったと後悔する。

 

「ドクター・エーベルシュタイン。

 俺も名前しか知らないが、藤堂様の抱える組織のひとつに所属する医師だと聞いた。」

 だが、紫蘭が答えた内容で、訊ねた事を後悔したのが、思ったより重要な情報だった事を理解した。

 エーベルシュタインというのは、恐らくはあの白衣のオッサンの名前だ。

 

「…組織の名前は?」

「知らん。」

「使えねえ!しかもちょっと駄洒落入ったよね!?」

「気のせいだ。

 だがこの場合、藤堂様の手は離れているのだ。

 すぐに始末される事はないのではないか?」

 まあいい。

 名前が判っただけでも調べようはある筈。

 それに、紫蘭の言うことにも一理ある。

 だとすると、今やらなければいけないのは……、

 

「オンッ!!」

 と、唐突に聞こえた不可解な声に集中が妨げられ、反射的にそちらを振り返ると、灰色の毛並のデカイ犬が三匹、こちらに向かって駆けてくるところだった。

 ……犬?いや違う、この手入れの悪いアラスカンマラミュートっぽいやつは……!

 

「ばん。」

 こてん。

 とすん。

 ぱたん。

 私が指差して一言そう言うと、こちらに飛びかからんばかりに駆けてきた獣たちは、一斉にその身を倒した。

 

「やっぱり、これはゴバルスキーの狼です。

 ……しかし、コイツらが何故ここに?」

 呆気にとられている紫蘭に構わず、どうやら私を忘れていなかったらしい狼たちの頭を撫でる。

 小汚いのであまり触りたくはないのだが、指示に従ったのだから、褒めてやらないわけにはいかない。

 …そして、疑問の答えはすぐに出た。

 

「狼が急に走り出して、何事かと思えば……嬢ちゃんか!!」

「えっ!?」

「久しぶりじゃのう〜〜!!」

「ぎゃあああぁ────っ!?」

 聞き覚えのある声に記憶が反応するより先に、私の身体は何か大きなものに抱き上げられ、締め上げられていた。

 

「ギブ、ギブ!苦しい!!しかも狼より獣くさい!!」

 自分をぎりぎり締め上げるその腕を掌でばんばん叩くが、その太い筋肉はその程度ではびくともしない。

 

「……おい、光を潰す気か。」

 見かねて、私を締め上げるその男に紫蘭が声をかけるが…結果としてそれは、私にとどめを刺したに等しかった。

 

「んん?おおっ、誰かと思えばしー坊か!

 おまえも大きゅうなったのう!!」

「ぐふっ……!」

「…その呼び名は止せ。

 それと、少し緩めてやれ馬鹿力。

 光が酸欠で落ちかけてる。」

「おおっ?うっははは、すまんすまん!!」

 …私が酸欠なのは、ゴバルスキーから紫蘭への『しー坊』呼びがツボったからなのだが、今笑ったら怒られそうなので必死に我慢する。

 とりあえず、ようやく身体が自由になり、下ろされた床を踏みしめながら、私は目の前に立つ獣臭いオッサンを見上げた。

 

「…コホン。お久しぶりです、ゴバルスキー。」

「おう、嬢ちゃんはすっかり娘らしくなったのう。」

「ありがとうございます。」

 大きくなったとは言ってくれないのだなと思いつつ、形式的に礼を述べると、紫蘭が割と余計なツッコミを入れてきた。

 

「…どこがだ。

 どちらかといえば少年化してるぞ、コイツ。」

「フフッ。おなごの成長は男とは違うもんじゃ。

 しー坊も女を知ればいずれ判ることよ。」

「誰が童貞だ!」

 いや言ってないし。思ってるけど。

 

「それに、ここに来るのに使ったトラックにモニターが搭載されておったから、運転の合間にゃなったが、嬢ちゃんの闘いは見ておったしの。

 服の下のは上げ底だったようで、まだ若干肉付きは乏しいものの、初めて会うた頃に比べたらちゃあんと育っておるわい!」

「そんな事よりゴバルスキー!!

 …あなたは中央塔に居たと思っておりましたが、何故ここに?」

 私にとって凄く嫌な話題に触れられそうになったので、慌てて話を逸らす。

 

「…うむ。実は藤堂様のもとからは、今回限りで離れようと思うちょるんじゃが、その前に…」

 ……あぁ、やはりそうなったか。

 ならば、そう決断したゴバルスキーの、心残りになるものと言えば…。

 

「…森田清子さんに会いに来たんですか?」

「っ!?し、知っちょったか……!

 いやその、一度振られてはおるんじゃが…のう。」

 ほんの少し赤らめた頬を掻いて、ゴバルスキーが言い淀む。

 普段なら、オッサンが照れても可愛くないと思うところだが、ゴバルスキーのそれには妙な可愛げを感じた。

 思わず、笑みが溢れてしまう程度には。

 ただし、それは純粋に微笑ましいという気持ちだけじゃない。

 

「…今は、前向きに検討する方向で考え直しているようですよ?

 中央塔でのあなたの闘いに、何か感じるものがあったようで。

 元々、好意は抱かれていたようですし。」

「な…ほ、ほんとか、それは!?」

 本当は私が言うべきことではないだろう。

 だが、ゴバルスキーの清子さんへの気持ちすら、利用できるならば利用しよう。

 そう、私は元々そういう人間だ。今更なのだ。

 

「お願いしたい事があります、ゴバルスキー。

 彼女を連れて、この島から避難してください。」

「なに!?」

 私の体はひとつしかないから、複数のことを同時にはできない。

 だから、可能であれば手を分けるのは当然だ。

 

「今から、優勝チームへの表彰式が行われますが、男塾はそこで、藤堂兵衛を討つつもりです。

 ですが御前が易々と、彼らの手にかかるとも思えません。

 私は彼らの人質になり得ますし、清子さんは私の人質になり得ます。

 まずは私が、御前の言いなりにならない下地を作りたいのです。」

 私がそう説明すると、ゴバルスキーだけでなく、紫蘭までもが目を瞠る。

 だが2人とも話の腰を折るような真似はせず、黙って続きを促した。

 

「ここには自爆装置の設備があり、どこかにそのスイッチがある筈なのです。

 私は御前の行動パターンを、恐らくはここにいる誰よりも的確にシミュレーションできると思います。

 その私の脳内シミュレーションの結果、御前は追い詰められたら、この闘技場(コロシアム)を爆破しかねないという予測が立ちました。

 なので私はそのスイッチを探し、それを起動できないよう破壊しようと思っています。」

 ここに来た時には使う気でいたものを、今は使わせない為に動くことになるのは、なんだかおかしな気分だけど。

 

「…ですが、現時点では場所が判らない以上、間に合わない可能性が高いのです。」

「ザ・無計画!!」

 …ってなんか以前にも誰かに言われたような気がするが、今は紫蘭だから無視しよう。

 

「…観客がいる以上、避難できる時間の余裕はあるでしょうが、万が一という事もあります。

 なのでできれば事が起こる前に、せめて彼女だけは、安全な場所まで連れていってほしいのです。

 清子さんは私にとっても大切なひとですから。」

 正直、ここで再会するまでは、彼女がこんなにも私のことを思ってくれているなんて考えたこともなかった。

 私が今、彼女を守れない以上、守ってくれるであろう人に委ねるのがいいに決まっている。

 

「な、なるほど…じゃが、実は今、わしは1人ではないんじゃ。

 怪我人と、ここに来る道中で拾った奴らが、同行者として、おってのう…。」

「同行者?」

 あちらの塔から連れてきた仲間がいるのか。

 しかし途中で拾ったというのは一体…?

 と思った刹那、

 

「怪我人は、光に任せれば大丈夫だ。

 ついでに俺たちの治療もしてもらえると助かる。」

 聞き覚えのある、だがそこにいるはずのない者の声を聞いて、私は考える間もなくそちらを振り返った。

 

「は?………ええぇっ!?あ、あなた達…!!」

「よう、光。会いたかったぜ。

 といっても俺達も、おまえの闘いは見せてもらってたがな。」

 そこにいたのは、どこか病んだ雰囲気と鍛えられた身体がまったく合っていない長髪の男と…、

 

「久しぶりだな。

 まだ薄ぼんやりとしか顔が見えねえのが残念だが。

 おまえがあらかじめ手配しててくれたおかげで、俺たちは助かったんだってな。

 礼を言いに、痛む体を引きずってここまで来たぜ。

 ありがとうな、光。」

 そして、隻眼のいかつい巨漢だった。

 

「蝙翔鬼!独眼鉄!!」

 最後に会ってからそれほど日数も経っていない、予選で撤退した2人の顔がやけに懐かしく思えて、少し警戒したふうに私を引き止めようとする紫蘭の手を振り切って、私は2人に駆け寄った。

 

「お二人とも、よくご無事で…」

「何とか自力で中央の塔へ行ったんだが間に合わなくてな。

 仕方なく闘技場(こっち)に向かってる最中に、やはりここに向かうトラックに運良く拾ってもらって、ここまで来れたんだ。

 ……で、まずはこの男の治療をしてやってくれんか。」

 そう言って独眼鉄が、その逞しい背中から下ろしたひとの姿に、私は目を瞠る。

 

(ホン)師範!?」

「ひ、姫……!」

 それは、私が中央塔に滞在していた13歳の一時期に、護身術の稽古をつけてくれていた恩師だった。

 どうやらほとんど動けないらしく、おろされた床に、割と短めの手足がだらんと投げ出される。

 

「うむ、わざわざ運んでもらってすまんかったの。

 嬢ちゃん、わしからも頼む。

 何でこうなったか、聞いても言おうとせんのじゃが、手足の腱が切られとるんじゃ。」

 そこにゴバルスキーが寄ってきて、彼の背を支えた。

 傷口に巻かれている包帯の巻き方が男塾仕様であるところを見ると、これを巻いたのは蝙翔鬼か独眼鉄のどちらかだろう…独眼鉄が今、あまり目が利かないらしいところを見ると、蝙翔鬼である可能性が高いか。

 状態を見るために外させてもらうが、血止めは完了しているらしいから、増血処置の必要はない気がする。

 

「…いけません、姫のお手が汚れまする。」

「そんな事言ってる場合ですか!

 じっとしていてください…あれ?これは……!?」

 そうして傷を診たところ、刃物ではなく鋭い拳圧による裂傷のようだ。

 というか正直これは、かつて見たことのある彼自身の技で付けられたそれに、一番近い気がするのだが……そんな事があるだろうか?

 

「…ん?どうしたんじゃ、しー坊?」

 と、ゴバルスキーの発した声に反射的に振り返ると、何だかやけに気配を消した紫蘭が、こちらに背を向けて立ち去ろうとしているところだった。

 

「紫蘭……!」

 何か哀しげにその名を呼ぶ(ホン)師範。

 それを気まずそうに見下ろす紫蘭。

 コイツが得意とするのは、相手の技の模倣。

 その紫蘭のこの態度……そして、自身の技で傷つけられた師。

 この状況が示すものは。

 

「…………犯人お前かあぁ──っ!!!!」

 全て解けた謎に、私は紫蘭の襟首を引っ掴んだ。

 

「恩師に何つー事すんのよ、アンタわぁ──っ!!」

「俺にとっては怨みしかない『怨』師だ!」

「ハァ!?何それ?これだから童貞は!!

 このひとは確かに厳しかったけど、それは後々のアンタの事を、充分考えてのことだったでしょうが!」

「どどど童貞ちゃうわ!!つかそれ今関係ない!!」

 とりあえずピンポイントでメンタルを削った後、脳が揺れるほど揺さぶっておく。

 

「俺の見立てではあいつも生娘なんだが。」

「同じく。」

 私が紫蘭に制裁を加えている間、その後ろでなんか言ってる奴らがいたが、それはとりあえず無視した。

 

「いやあ、相変わらず仲がええのう。」

「「どこがだ!!」」

 だがゴバルスキーが発した空気読めない一言には、私と紫蘭は思わず同時につっこんでいた。

 なんだこの状況。

 

 ・・・

 

「…それはそれとして、姫。

 自爆装置のスイッチの場所なら私が知っておりますが…気付かれずにそこに行くのは不可能でしょう。」

 この場の怪我人の治療をひと通り済ませて落ち着いた頃、(ホン)師範が、硬い声でそう告げるのに、私は問い返した。

 

「……それは、何故?」

「闘場の真下に、いざという時の脱出ポッドがあり、スイッチの場所がその操縦席の中だからです。

 しかもその出入り口を開く為にも別なスイッチがあり、それは藤堂様が持つコントローラーただひとつ。

 事実上、そこへ到達できるのは藤堂様ただお一人ということになりまする。」

【悲報】私の計画、割と最初の時点から既に無理ゲーだった件。

 

「まじか。

 …確かに、用心深いあの方の考えそうな事ですね。」

 だとすればもう諦めて、避難を優先させた方がいいのかもしれない。

 

「……(ホン)師範、申し訳ありませんが、今からあちらの医療スタッフへ指示をして、豪毅をこの会場から避難させてくれませんか。

 治療は済んでいるのですが、少しばかりダメージが大きいので、今の段階で自力で歩かせたくはないのです。

 その時、ついでに森田清子さんを呼ぶように指示を出して、一緒に連れていくといいでしょう。

 なのでゴバルスキーは、彼と同行してください。」

 御前は表彰式で闘場におり、護衛はそちらに集中する。

 基本、冥凰島(ここ)の闘士たちを束ねる立場にいる(ホン)師範の指示なら、怪しまれず速やかに実行される筈だ。

 私がそう頼むと、(ホン)師範はどこか苦いものを含んだような表情で微笑んで、頷いてくれた。

 

「御意に、姫。

 …私はこの先の私の主を若と……否、豪毅総帥と定めておりまする。

 一度死んだも同然の身で、あの方のお役に立てるのであれば、もはや本望というもの。

 ……できれば姫にも、あの方を隣で支えて頂きたいものですが…難しいのでしょうな。」

 …まるで先ほどの私と豪毅のやりとりを知っているかのような(ホン)師範の言葉に、一瞬どきりとする。

 このひとは目が見えない分、やけに勘の鋭いところがある。

 

「…申し訳ありません。」

 多くは口にせず、ただそれだけを言うと、(ホン)師範は何故か、私の頭を撫でた。

 

「私などに謝り召さるな。

 貴女は、御自分が信じる道をお行きなされ。」

「…ありがとうございます、(ホン)師範。」

 私のことなど見えていないその目を、それでも見返して一礼し、ゴバルスキーにも目配せをする。

 ゴバルスキーは私に頷くと、紫蘭の肩を鷲掴むようにして引っ張った。

 

「しー坊もこっちに来るんじゃ!」

「……なんだと?」

「状況によっちゃあ、観客の避難誘導が必要になるかもしれん。

 その時にゃ、経路をちゃんと知っとるやつが必要なんじゃ!」

「ま、待て!俺は……おいっ!!」

 ……何故かこっちに助けを求めるような目を向ける紫蘭が、ずるずる引っ張られていくのを見送ってから、私は蝙翔鬼と独眼鉄に向き直る。

 

「…あなた達は私と共に、闘場にいる闘士達と合流しましょう!」

「いや、あいつの訴え無視なのか!?

 絶対、おまえと一緒に来たがってたよな!?」

「…逆に可哀想だから触れてやるな、独眼鉄。」

 …って、なんか2人からひとでなしを見るような目を向けられているのは何故なんだろう。解せぬ。

 

 ☆☆☆

 

 私たちが闘場にたどり着いた時には、既に表彰式は始まっていた。

 

「さあ、受け取れい!

 まこともって見事な闘いぶりであった!!」

 闘場へと降りてきたこの大武會の主催者は、先ほどまで熾烈な闘いを繰り広げた優勝チームの大将に、名誉の証としての優勝旗を差し出す。

 

「そして、願いごとを言うがいい!!

 褒美として貴様等の望むこと、なんでも叶えてやろう。」

 恐らくは。

 御前の、ここに至るまで数々の、素晴らしい闘いを見せてくれた闘士に対する、尊敬の念だけは真実であると思う。

 強い者たちが闘う姿を見ることが、生きがいというくらい好きなのが、御前というひとなのだ。

 だから、今この場で桃に見せている敬意は、きっと彼の本心だ。けど。

 

「身に余る光栄……欲しいものがひとつある!!

 それは、貴様の命だ──っ!!」

 そう。彼らはこの瞬間の為に、命がけで闘ったのだ。

 絆されるわけにはいかぬだろうし、絆される筈もない。

 桃は破れたズボンの下の、ずっと太ももに添わせて持っていた小脇差を抜き放ち、御前へと肉薄する。

 その鋭い剣撃は、そのまま振り下ろされたなら、御前の頭から足先まで、真っ二つにしていてもおかしくないほどの威力であった筈だ。

 しかし。

 

 

「馬鹿め!!」

 

 

 ───ガキィン!!

 

 

 御前はその場で、微動だにしなかった。

 にもかかわらず、振り下ろした桃の小脇差は、見えない力に弾かれ、その刀身が半ばから折れて、次の瞬間には地面に落ちていた。

 

「フフッ……愚かな。

 わしには指一本、触れることはできんのじゃ。」

 予めこの事態を予想していたかの如く、なんの動揺も見せずに表彰台から降りた御前は、質素でありながら上質な袷仕立ての紬の、胸元を(はだ)ける。

 

「見るがよい!

 この装置は米国国防総省が、要人警護のために開発した、B(バリアー)J(ジャケット)S(システム)といってな。

 半径一メートル以内、目には見えぬ特殊な電磁波がわしを包み込み、バズーカ砲さえもはじき返すようガードしているのだ!!」

 …恐らくは、塾長すら誤解している事だと思うけど。

 藤堂兵衛という男は、今の立場を得る為に踏み台にしてきた命を、決して軽視してはいない。

 むしろそれ故にこそ、己が生に執着するのが、彼の信念だった。

 奪ってきた命に生かされているなら、それを易々と奪われるわけにはいかないと、強く信じていた。

 

 だから。己が命を守る為の備えは怠らない。

 それが、藤堂兵衛という男だ。

 

 ……今、私たちは、その信念を見せつけられたも同然だった。

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