婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜 作:大岡 ひじき
親の死という人生でも5本の指に入るであろうイベントを通過した後、ものを書くまで気持ちが上がるのに、やはり時間がかかったみたいです。
瞬く間に塾生達は、御前があらかじめ配置させていた、マシンガン装備の黒服のボディーガードたちに、一瞬にして取り囲まれていた。
「く、くそったれが!!」
「どうやら俺達の目的は見破られていたようだな!!」
伊達がそう言う通り、この事態を想定していなければ決して成し得ない迅速さだ。
身につけた
…用心深い割には、身内にはユルいところのある御前の性格を考えたら、男塾の目的に気付いていながら、それをそばにいる私に、隠し通すなどという腹芸ができるとも思えないからだ。
一度
「フフッ、わしも驚いたわ。
貴様等が、まさか江田島の教え子達だったとはな。
素晴らしい闘士達であったが、つく相手を間違えたが不運。
全員仲良く地獄へ送ってやろう!!」
マシンガンの数は十挺。
この至近距離でそれが一斉に火を吹けば、いかな屈強な彼らとてもひとたまりもない。
そして、その指示が今、出されようとしている。
だから。
一緒に走ってきた蝙翔鬼と独眼鉄を追い越して、その指示が御前の口に上る前に、彼らの前に立ちはだかった。
「光!?」
背後から私を呼ぶ、驚いたような桃の声が聞こえる。
「姫っ!!」「光様!?」
同時に黒服たちの、マシンガンを構える手が揺れるのがわかった。
全員の顔を見覚えていたわけではなかったが、私は御前の側近の方達には、割と可愛がられていたから、牽制の効果は充分あるはずだ。
「……光よ。こちらへ来るが良い。」
その護衛たちの反応を見ての事だろう、御前が私を手招きする。
私はその御前の目を真っ直ぐに見返して、首を横に振った。
「御前。私はもう、あなたの籠の鳥ではありません。
どちらの側に立つかは、私自身の意志で決めます。」
私の言葉に御前は、一瞬目を
私が自分の命令を拒むなど、考えたこともないのだろう。
だが次には再び、口の端にあの、厭な笑みを浮かべる。
「…わしに逆らう気か。
あの男の命がどうなっても構わぬのか?」
「月光が今、あなたの手を離れている情報は既に把握しております。
今から殺せと命令したところですぐには実行されないでしょうし、恐れながら、彼を連れて行ったあの男の反応からすれば、命令が届いていても無視する可能性が高いかと。」
正直、半分はハッタリだけど。
一応は効いているようで、御前の口から小さく呻き声が漏れる。
あと背中の後ろで塾生たちがちょっと騒めいてるのは、月光の名がここで出たからだろうが、そこ反応したら話が進まないので無視させてもらう。
更に、何か言い返そうとした御前の言葉に先んじて、私は高らかに宣言した。
「清子さんや豪毅も、既にこの島を出発する段取りを整えました。
私があなたの命令を聞かねばならない理由は今はありません!」
…私は、ずっとこのひとの一番近くにいた。
だから、私は
その私の予想通り、苛立ったように、御前は私に向かって声を荒げた。
「貴様は我が
いいからこちらに来るのだ、光!!」
こんなことは勿論初めてだ。
私はこれまで、このひとに逆らったことなどないのだから当然の事だが、その初めてのことに、
「その
その御前の怒気から私を庇うように、私より更に一歩前に進み出たのは、桃だった。
「光の背中に、伊達や紫蘭と同じ孤戮闘の証があるのは、さっきの闘いで俺達だけでなく、ここの観客さえも目にしたことだ。」
「乙女の尊厳が御臨終の危機!
敢えて忘れてたのに思い出させるんじゃない!!」
多分、桃はそういうことを言いたいんじゃないんだとわかってはいるが、思い出したくないことを蒸し返され、思わずつっこんだ。
「…フッ、フフフッ……!」
それがウケたわけではないだろうが、そこで思いがけず御前が含み笑いを洩らす。
「わしとした事が…思い出したぞ、剣とやら。
貴様、元国会議員の剣情太郎の息子だな。
教えてやろう。
奴の後継と目されていた、甥であり秘書であった久我真一郎は、貴様の従兄でもあろう。
出馬の話が本格化した直後に急死したあの男を殺したのは、今、貴様が庇い立てしておるその女だぞ。」
…それもまた、触れて欲しくなかった事だ。
桃と影慶は知っているが、思いもかけず自身が、その言葉に傷ついたのが自分でわかった。だが。
「…知っているさ。
この大武會への出発前夜、光が自分から打ち明けてくれた。
俺に殺される覚悟をしてまでな。」
「なっ……!」
桃を動揺させようと発した言葉が武器とならなかったことに、御前は再び驚きに目を
「光は……苦しんでた。
これまで、自分の手で奪ってきた命の、その重さに。
愛した者すら、命令次第で殺さねばならない業に。
それもなにもかも全て、彼女自身の意志ではないにもかかわらず、だ。」
桃の言葉に、目の奥がじわりと熱くなる感覚があった。
あの日…闘士達が塾を出立する前夜、校庭で己の罪を彼に告白した時は、私は赦されようなどとは考えていなかった筈だ。
むしろ、憎んでくれればと思っていた。
それなのに……
「あの日、約束した。そんな世界に戻させはしないと。
光を、その罪に縛る鎖を断ち切り、解き放つ為にも、俺達は貴様を討たねばならん。
光は俺達の仲間だ!俺達の……光だ!!」
桃はそう言って、私の肩を抱き寄せた。
「桃……!」
その手が大きくて、温かくて…その包み込まれる感覚に、一瞬帰るべき場所にたどり着いたような気がした。
赦されていいと、その胸に飛び込んでもいいのだと。
……無論、錯覚だと判っている。それでも。
ぐぬぬ、と御前が微かに呻いたのが聞こえた。
「このような奴らに、易々と誑かされおって!
ならば貴様もこやつら共々片付けてくれるわ!
撃ていっ!!」
そして……恐れていた言葉が遂に、御前の口から発せられる。
だが、黒服達の手にしたマシンガンは、どれひとつとして火を噴くことはなかった。
「貴様等……何をしている!?」
苛立ったような声をあげる御前に睨まれながら、黒服達が首を横に振る。
「お、恐れながら……!」
「も……申し訳ありません、御前っ!!
わ、我々に、姫を撃つなど、とても……!!」
「御前とて、そのような事をお望みではない筈!」
「憚りながら申し上げます……どうか、どうかお考え直しを!!」
「姫!貴女様もお考え直し下さい!!
お父上は寛大なお方、今お戻りになればお許しくださいます!」
最後の1人の言葉が何故か私の方にも向かってくるが、とりあえず無視した。
それができるならそもそも今、こんな場所に立ってはいない。
「ぐぬぬぬっ!
使えぬ奴らよ!!よい、わしがやるっ!!」
「御前っ!!」
そして、待っても埒があかない状況にとうとう痺れを切らした御前は、一番手近にいた黒服から、マシンガンを奪い取った。
触れていた桃の手を振り切って、私は御前のもとへと駆け出す。
間に合わなくてもいい。
至近距離で受けさえすれば、私のこの小さな身ひとつでも、彼らを守れるだろう。
「光っ!!」
私を呼ぶ桃の声と、
「死ねいっ!!」
御前の短い言葉が重なる。
それが終わるか終わらないかのうちに、遂にマシンガンが無数の弾丸を放った。
───刹那。
…襲ってくる筈の痛みは訪れず、覚悟を決めた私の耳に、何か大きなものが風を切る音が聞こえた。
次に、無数の礫が当たったような金属音。
「えっ………!?」
私と御前の間に突然に現れた、目の前の大きな壁が、丸い形をしているのが辛うじて見て取れた。
それは私の前を通り過ぎて、次には来た方向へと戻っていき……巨大な円盤を、逞しい手が受け止める。
「……男とは、なんぞや?」
そう言う野太い声と同時に、ひとつしかない目が、笑うように細められた。
「独眼鉄!?」
「俺の答えは、単純だぜ?
男とは、女と誇りを守るもの。
それがこの独眼鉄の『男』よ!!」
言って呵呵大笑する独眼鉄に、黒服がマシンガンを向けるのが、視界の端に見える。
「危な…」
「
私が警告の声を上げようとした瞬間、別の方向から氣を纏った旋風が、独眼鉄を狙った黒服の肩に、浅くない裂傷を刻んだ。
「う、うわあっ!!」
叫んだその腕からマシンガンが落ち、地面に当たって音を立てる。
「蝙翔鬼!」
「死に逃げるのは、おまえが一番嫌う事だろう?
その手がどれほど汚れていようが、諦めずに雪ぎ続ければいずれは綺麗になると、俺は言った筈だ。
…生きてなければ、それも出来んぞ?」
更にまた、蝙翔鬼のその言葉が終わらないうちに、他の黒服達の手からもマシンガンが落ちた。
「うおっ!?」
「ぎゃっ!!」
「ぐああっ!!」
連続する短い悲鳴にそちらへと目をやれば、素手となった黒服達の手の甲には、一様にトランプのカードが突き刺さっている。
「…まだ、貴女を守るという誓いを、果たせてはおりませんでしたのでね。」
そう言ってシルクハットの男はニヤリと笑ってみせた。
「男爵ディーノ!」
「フフッ、手負いのわたしとて、この程度のことはさせていただきますよ…!
ちなみにわたしのこの傷の仇は、赤石くんが取ってくれたので御心配なく。」
…仇というのは、あの鞭の男のことだろうか。
などと、割とどうでもいい事を一瞬考えた私の傍を、一陣の疾風が吹き抜けた。
「大豪院流・
それは、先程の蝙翔鬼の
「……邪鬼様っ!!」
振り向けば、先程の私との闘いで氣を使い果たしていた筈のその男が、その大きな手を前に突き出して、全く危なげもなく仁王立ちしている姿が見えた。
……何故だろう。
天動宮に通って氣のレクチャーを受けていた時に何度も感じた、正体のわからない『儚さ』を、今の彼からは微塵も感じないのは。
帝王と呼ばれたその男は、自身の背後を振り返ると、声高らかに戦闘開始を告げた。
「貴様等!
男がこれだけ雁首揃えておるのだ!!
女の一人くらい、守り切って見せるがよい!!」
「「「押忍ッ!!!!」」」
そこにいる闘士全員が、帝王の言葉に応えたと同時に……全ての武器が、黒服達へと向かうも…
「ヒ、ヒイィイィ〜〜〜ッ!!!!」
素手になった時点で戦意喪失していた彼等は、全員情けない悲鳴を上げて、抵抗する事なく逃げ出した。
……正直、彼等が命を落とすところを間近で見たくはなかったから、少し安心した…などと思うのは、私が男塾での生活に染まりすぎたせいだったろうか。
「さあ、これで残るは藤堂兵衛ただ一人!」
影慶の声がそう告げた事に、我に返ってあたりを見渡すと、怒りに身を震わせる御前の目が、明らかに私を睨みつけているのを、確かに見た。
光。3人の鎮守直廊。更に邪鬼様。
原作ではここに居ないはずのやつが5人も居るせいで、本来あった筈の死天王の見せ場がどっかいきました。
というか、この5人をこの場で動かした上で、死天王の
すごく悩んだ末、開き直りました。
アタシは悪くない(ドヤァ