婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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更新に時間がかかってしまい、申し訳ありません。
親の死という人生でも5本の指に入るであろうイベントを通過した後、ものを書くまで気持ちが上がるのに、やはり時間がかかったみたいです。


2・太陽が燃え尽きる前に、暗闇が君を抱きしめる

 瞬く間に塾生達は、御前があらかじめ配置させていた、マシンガン装備の黒服のボディーガードたちに、一瞬にして取り囲まれていた。

 

「く、くそったれが!!」

「どうやら俺達の目的は見破られていたようだな!!」

 伊達がそう言う通り、この事態を想定していなければ決して成し得ない迅速さだ。

 身につけたB(バリアー)J(ジャケット)S(システム)という防具(?)の存在を考えても、私がロイヤルボックスを離れてから、御前が表彰式の為にこの闘場へ降りてくるまでの、長くはないが短くもない時間のうちに、なんらかの情報が御前にもたらされたのは間違いない。

 …用心深い割には、身内にはユルいところのある御前の性格を考えたら、男塾の目的に気付いていながら、それをそばにいる私に、隠し通すなどという腹芸ができるとも思えないからだ。

 一度(はだ)けた胸元を直しながら、御前は厭な笑みを浮かべる。

 

「フフッ、わしも驚いたわ。

 貴様等が、まさか江田島の教え子達だったとはな。

 素晴らしい闘士達であったが、つく相手を間違えたが不運。

 全員仲良く地獄へ送ってやろう!!」

 マシンガンの数は十挺。

 この至近距離でそれが一斉に火を吹けば、いかな屈強な彼らとてもひとたまりもない。

 そして、その指示が今、出されようとしている。

 だから。

 一緒に走ってきた蝙翔鬼と独眼鉄を追い越して、その指示が御前の口に上る前に、彼らの前に立ちはだかった。

 

「光!?」

 背後から私を呼ぶ、驚いたような桃の声が聞こえる。

 

「姫っ!!」「光様!?」

 同時に黒服たちの、マシンガンを構える手が揺れるのがわかった。

 全員の顔を見覚えていたわけではなかったが、私は御前の側近の方達には、割と可愛がられていたから、牽制の効果は充分あるはずだ。

 

「……光よ。こちらへ来るが良い。」

 その護衛たちの反応を見ての事だろう、御前が私を手招きする。

 私はその御前の目を真っ直ぐに見返して、首を横に振った。

 

「御前。私はもう、あなたの籠の鳥ではありません。

 どちらの側に立つかは、私自身の意志で決めます。」

 私の言葉に御前は、一瞬目を(みひら)いた。

 私が自分の命令を拒むなど、考えたこともないのだろう。

 だが次には再び、口の端にあの、厭な笑みを浮かべる。

 

「…わしに逆らう気か。

 あの男の命がどうなっても構わぬのか?」

「月光が今、あなたの手を離れている情報は既に把握しております。

 今から殺せと命令したところですぐには実行されないでしょうし、恐れながら、彼を連れて行ったあの男の反応からすれば、命令が届いていても無視する可能性が高いかと。」

 正直、半分はハッタリだけど。

 一応は効いているようで、御前の口から小さく呻き声が漏れる。

 あと背中の後ろで塾生たちがちょっと騒めいてるのは、月光の名がここで出たからだろうが、そこ反応したら話が進まないので無視させてもらう。

 更に、何か言い返そうとした御前の言葉に先んじて、私は高らかに宣言した。

 

「清子さんや豪毅も、既にこの島を出発する段取りを整えました。

 私があなたの命令を聞かねばならない理由は今はありません!」

 …私は、ずっとこのひとの一番近くにいた。

 だから、私は御前(このひと)の行動パターンを、恐らくはここにいる誰よりも的確にシミュレーションできる。

 その私の予想通り、苛立ったように、御前は私に向かって声を荒げた。

 

「貴様は我が養女(むすめ)であり、同時に血の繋がった姪でもあろうが!

 いいからこちらに来るのだ、光!!」

 こんなことは勿論初めてだ。

 私はこれまで、このひとに逆らったことなどないのだから当然の事だが、その初めてのことに、()()()()()()()()()さすがに私は一瞬怯んだ。が。

 

「その養女(むすめ)に、貴様は何をした?」

 その御前の怒気から私を庇うように、私より更に一歩前に進み出たのは、桃だった。

 

「光の背中に、伊達や紫蘭と同じ孤戮闘の証があるのは、さっきの闘いで俺達だけでなく、ここの観客さえも目にしたことだ。」

「乙女の尊厳が御臨終の危機!

 敢えて忘れてたのに思い出させるんじゃない!!」

 多分、桃はそういうことを言いたいんじゃないんだとわかってはいるが、思い出したくないことを蒸し返され、思わずつっこんだ。

 

「…フッ、フフフッ……!」

 それがウケたわけではないだろうが、そこで思いがけず御前が含み笑いを洩らす。

 

「わしとした事が…思い出したぞ、剣とやら。

 貴様、元国会議員の剣情太郎の息子だな。

 教えてやろう。

 奴の後継と目されていた、甥であり秘書であった久我真一郎は、貴様の従兄でもあろう。

 出馬の話が本格化した直後に急死したあの男を殺したのは、今、貴様が庇い立てしておるその女だぞ。」

 …それもまた、触れて欲しくなかった事だ。

 桃と影慶は知っているが、思いもかけず自身が、その言葉に傷ついたのが自分でわかった。だが。

 

「…知っているさ。

 この大武會への出発前夜、光が自分から打ち明けてくれた。

 俺に殺される覚悟をしてまでな。」

「なっ……!」

 桃を動揺させようと発した言葉が武器とならなかったことに、御前は再び驚きに目を(みひら)く。

 

「光は……苦しんでた。

 これまで、自分の手で奪ってきた命の、その重さに。

 愛した者すら、命令次第で殺さねばならない業に。

 それもなにもかも全て、彼女自身の意志ではないにもかかわらず、だ。」

 桃の言葉に、目の奥がじわりと熱くなる感覚があった。

 あの日…闘士達が塾を出立する前夜、校庭で己の罪を彼に告白した時は、私は赦されようなどとは考えていなかった筈だ。

 むしろ、憎んでくれればと思っていた。

 それなのに……

 

「あの日、約束した。そんな世界に戻させはしないと。

 光を、その罪に縛る鎖を断ち切り、解き放つ為にも、俺達は貴様を討たねばならん。

 光は俺達の仲間だ!俺達の……光だ!!」

 桃はそう言って、私の肩を抱き寄せた。

 

「桃……!」

 その手が大きくて、温かくて…その包み込まれる感覚に、一瞬帰るべき場所にたどり着いたような気がした。

 赦されていいと、その胸に飛び込んでもいいのだと。

 ……無論、錯覚だと判っている。それでも。

 ぐぬぬ、と御前が微かに呻いたのが聞こえた。

 

「このような奴らに、易々と誑かされおって!

 ならば貴様もこやつら共々片付けてくれるわ!

 撃ていっ!!」

 そして……恐れていた言葉が遂に、御前の口から発せられる。

 だが、黒服達の手にしたマシンガンは、どれひとつとして火を噴くことはなかった。

 

「貴様等……何をしている!?」

 苛立ったような声をあげる御前に睨まれながら、黒服達が首を横に振る。

 

「お、恐れながら……!」

「も……申し訳ありません、御前っ!!

 わ、我々に、姫を撃つなど、とても……!!」

「御前とて、そのような事をお望みではない筈!」

「憚りながら申し上げます……どうか、どうかお考え直しを!!」

「姫!貴女様もお考え直し下さい!!

 お父上は寛大なお方、今お戻りになればお許しくださいます!」

 最後の1人の言葉が何故か私の方にも向かってくるが、とりあえず無視した。

 それができるならそもそも今、こんな場所に立ってはいない。

 

「ぐぬぬぬっ!

 使えぬ奴らよ!!よい、わしがやるっ!!」

「御前っ!!」

 そして、待っても埒があかない状況にとうとう痺れを切らした御前は、一番手近にいた黒服から、マシンガンを奪い取った。

 触れていた桃の手を振り切って、私は御前のもとへと駆け出す。

 間に合わなくてもいい。

 至近距離で受けさえすれば、私のこの小さな身ひとつでも、彼らを守れるだろう。

 

「光っ!!」

 私を呼ぶ桃の声と、

 

「死ねいっ!!」

 御前の短い言葉が重なる。

 それが終わるか終わらないかのうちに、遂にマシンガンが無数の弾丸を放った。

 ───刹那。

 

 …襲ってくる筈の痛みは訪れず、覚悟を決めた私の耳に、何か大きなものが風を切る音が聞こえた。

 次に、無数の礫が当たったような金属音。

 

「えっ………!?」

 私と御前の間に突然に現れた、目の前の大きな壁が、丸い形をしているのが辛うじて見て取れた。

 それは私の前を通り過ぎて、次には来た方向へと戻っていき……巨大な円盤を、逞しい手が受け止める。

 

「……男とは、なんぞや?」

 そう言う野太い声と同時に、ひとつしかない目が、笑うように細められた。

 

「独眼鉄!?」

「俺の答えは、単純だぜ?

 男とは、女と誇りを守るもの。

 それがこの独眼鉄の『男』よ!!」

 言って呵呵大笑する独眼鉄に、黒服がマシンガンを向けるのが、視界の端に見える。

 

「危な…」

天稟(てんぴん)掌波(しょうは)──っ!!」

 

 私が警告の声を上げようとした瞬間、別の方向から氣を纏った旋風が、独眼鉄を狙った黒服の肩に、浅くない裂傷を刻んだ。

 

「う、うわあっ!!」

 叫んだその腕からマシンガンが落ち、地面に当たって音を立てる。

 

「蝙翔鬼!」

「死に逃げるのは、おまえが一番嫌う事だろう?

 その手がどれほど汚れていようが、諦めずに雪ぎ続ければいずれは綺麗になると、俺は言った筈だ。

 …生きてなければ、それも出来んぞ?」

 更にまた、蝙翔鬼のその言葉が終わらないうちに、他の黒服達の手からもマシンガンが落ちた。

 

「うおっ!?」

「ぎゃっ!!」

「ぐああっ!!」

 連続する短い悲鳴にそちらへと目をやれば、素手となった黒服達の手の甲には、一様にトランプのカードが突き刺さっている。

 

「…まだ、貴女を守るという誓いを、果たせてはおりませんでしたのでね。」

 そう言ってシルクハットの男はニヤリと笑ってみせた。

 

「男爵ディーノ!」

「フフッ、手負いのわたしとて、この程度のことはさせていただきますよ…!

 ちなみにわたしのこの傷の仇は、赤石くんが取ってくれたので御心配なく。」

 …仇というのは、あの鞭の男のことだろうか。

 などと、割とどうでもいい事を一瞬考えた私の傍を、一陣の疾風が吹き抜けた。

 

「大豪院流・ 撞球(どうきゅう)反射馘(はんしゃかく)!!」

 それは、先程の蝙翔鬼の天稟(てんぴん)掌波(しょうは)と似てはいるが、それより明らかに暴力的な氣により巻き起こされた空気流が、黒服達が拾おうとしていたらしいマシンガンを、その手の届かぬところへと弾き飛ばし、それが回転しながら滑った先で、また別のそれを弾き飛ばしてゆく。

 

「……邪鬼様っ!!」

 振り向けば、先程の私との闘いで氣を使い果たしていた筈のその男が、その大きな手を前に突き出して、全く危なげもなく仁王立ちしている姿が見えた。

 ……何故だろう。

 天動宮に通って氣のレクチャーを受けていた時に何度も感じた、正体のわからない『儚さ』を、今の彼からは微塵も感じないのは。

 帝王と呼ばれたその男は、自身の背後を振り返ると、声高らかに戦闘開始を告げた。

 

「貴様等!

 男がこれだけ雁首揃えておるのだ!!

 女の一人くらい、守り切って見せるがよい!!」

「「「押忍ッ!!!!」」」

 そこにいる闘士全員が、帝王の言葉に応えたと同時に……全ての武器が、黒服達へと向かうも…

 

「ヒ、ヒイィイィ〜〜〜ッ!!!!」

 素手になった時点で戦意喪失していた彼等は、全員情けない悲鳴を上げて、抵抗する事なく逃げ出した。

 ……正直、彼等が命を落とすところを間近で見たくはなかったから、少し安心した…などと思うのは、私が男塾での生活に染まりすぎたせいだったろうか。

 

「さあ、これで残るは藤堂兵衛ただ一人!」

 影慶の声がそう告げた事に、我に返ってあたりを見渡すと、怒りに身を震わせる御前の目が、明らかに私を睨みつけているのを、確かに見た。




光。3人の鎮守直廊。更に邪鬼様。
原作ではここに居ないはずのやつが5人も居るせいで、本来あった筈の死天王の見せ場がどっかいきました。
というか、この5人をこの場で動かした上で、死天王の 壟義(りょうぎ)盾行(じゅんこう)に繋げることが、アタシの貧弱な脳内でどう動かしても無理でした。
すごく悩んだ末、開き直りました。
アタシは悪くない(ドヤァ
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