婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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『平八伝』を見る限り、若い頃の御前は、血が繋がっていないのがなんかの間違いってくらい豪くんに似たイケメンだと思うけど、いつもキリッとしてる豪くんと違い御前はイケメンがしちゃいけない顔を平気でするので御前の勝ち(何故


6・今日の続きが未来(あした)になる

「【伽瑪髏徒(キャメロット)】とな…そやつらが、光を連れ去ったと?」

「間違いない。

 もっとも、文遣いの男の話では、すぐに主導権は奪い取ったらしいが。」

 光を探し、結局なんの手がかりも得られぬまま、一度塾に戻った俺が、突然塾内アナウンスで呼び出され、何故か本人不在の秘書執務室で顔を合わせたのは、俺にとっては1ヶ月と少し前くらいに、文字通りの死闘を繰り広げた相手だった。

(来客の対応をここでする事自体は、単にこの部屋以外に応接設備がないからだろう…以前そんな事を光が口にしていた気がする)

 

「…1人ではそれも長く保つまいと思い、たまたま手近にいた者を迎えに行かせたが、それも帰ってこぬようなのでな。

 力及ばず連れ去られたか、己の意志でなのかはわからぬが、奴らの本拠地へ向かったのは間違いない事と思われる。」

 言いながら一旦、前に置かれた茶器を取って、口を湿らすように傾け、卓に戻す。

 ただそれだけの一連の仕草に、疑いようもない人品の良さが見てとれて、改めてこの男が、この国に於ける上流階級の、更にほぼ最高位の家に育った事実を思い起こさせた。

 

 藤堂豪毅。

 この国の政治・経済を陰で支える藤堂財閥の御曹司…否、これまでその頂点に立っていた父親の後を継いで、今や若き総裁である。

 その男が、何故か『父の仇』である筈の男塾を訪れ、塾長との面会を求めてきて、更に何故かその場に、実際に手を下した俺も、立ち会わされているという次第だ。

 なんだこの地獄。

 しかも散々探して見つからなかった光の行方の、その手がかりとなる情報がここでいきなり出てきたことで、今俺は正直、どうリアクションをとっていいかわからないでいる。

 

「実に不愉快だが、絶対君主であった親父の時とはうって変わり、今はこの俺を若造と見て、隙あらば追い落とそうとする輩も少なくない。

 総帥としての職務は今日のところは側近の者に任せてはいるが、俺の不在が知られれば、奴らはその機に乗じて手を打ってこよう。

 隠し通せるのも、まる二日ほどが限界だ。

 となれば、端的に言って俺一人の手に余ると判断し、貴様ら男塾に協力を要請しようと、こうして俺自ら足を運んだというわけだ。」

 豪毅が話したところによれば、【伽瑪髏徒(キャメロット)】とは例の天挑五輪大武會で伊達と戦った紫蘭の語った、孤戮闘を運営する組織であるらしい。

 藤堂財閥の裏の運営は全て、前総裁である藤堂兵衛の管理下にあった為、息子である豪毅には詳細を知らされていなかった。

 彼の此度の総裁襲名は、父親の死によってもたらされたものであるが、その死は未だ公にはされておらず、また正式な引継ぎが為されずに交代に至った為、裏組織については今回のことがなければ、その一端すら未だ掴めずにいたらしい。

 その件については光の方がまだ詳しいだろうが、その光ですら全てを把握はしていないだろうとの事。

 ともあれ、豪毅が存在すら知らなかったが故に放っておかれた末端組織が、痺れを切らして接触してきたその手段が『藤堂の姫様』の誘拐であったのだそうだ。

 …誘拐を企てたその御令嬢が、自分達が藤堂の依頼を受けて作り上げた暗殺者だったということは、本人の顔を見てもすぐには気づかなかったらしいとの事。

 …杜撰すぎやしないかと思うが、それだけ相手も切羽詰まっていたという事なのだろうか。

 まあ、これに関しては、標的にする相手が悪かったということもあるだろう。

 光はこの状況で、大人しく助けを待つということができる性格の女じゃない。

 

「姉がこのような突飛な行動を取るようになったのは間違いなく、この1年ほどの期間を共に過ごした、貴様らの影響であろう。」

 …と、まるで俺の考えていたことを読んだかのようなタイミングで豪毅が言う。

 光のあの性格は、元来のものではないということなのか。

 少なくとも豪毅の知っている光の行動ではないのだろうが…。

 

「そういうことで、責任は取ってもらう。

 光を、奴らの元から取り戻すこと。

 それが、此度の藤堂家当主から男塾への依頼だ。

 …なにも只働きをしろとは言わん。

 ここで姉の身柄を保護してもらっていたのは事実。

 藤堂家としては姉の滞在費用も含めた謝礼を、経費含めて支払わせていただくゆえ、一先ずはこれで引き受けていただきたい。」

 豪毅はそう言って1枚の…恐らくは小切手であろう紙を指で滑らせて塾長の前に置く。

 俺の方から金額は読み取れなかったが、塾長はそれを一瞥すると、ふんと鼻を鳴らした。

 

「…依頼内容はともかく、光の滞在費というのであれば、それを受け取る気はない。

 ここで生活させておったのは我が娘『江田島光』よ。

 自分の娘の生活費を、藤堂家に支払わせる謂れも、義理もないわ。」

 にべもなく言い放つ塾長の言葉に、豪毅の眉が不快そうに動く。

 その反応を目に留めた塾長の唇の端が、ニヤリと笑ったのを、俺は確かに目にした。

 そして。

 

「…だが、『藤堂豪毅』の入塾に伴う学費及び寄付金という形であれば、当塾として受け取るにやぶさかではないぞ?」

 言って、ようやくその紙を指先でつまみ、殊更にヒラヒラとさせて否やを問う塾長の顔は、どこか悪戯を成功させた子供のような表情に見えた。

 

「…そいつは随分と高く吹っ掛けてきたものよ。

 この俺に、男塾(ここ)の塾生になれと?」

 数瞬、やや呆然としていた豪毅は、次には浅く息をひとつ()くと、改めて表情を引き締めた。

 そうしてから、睨むように塾長を見据える。

 あ、と思った。

 これは、驚かせた時の光と同じ反応だ。

 あいつも、軽く動揺した後は表情を取り繕おうとして一瞬睨むような目をする。

 姉弟として共に暮らすと癖まで似てくるものなのか。

 それともこいつが光の影響を少なからず受けているのか。

 ……逆もあり得るか。両方かもしれない。

 

「貴様の父である藤堂兵衛は、確かにわしにとっての仇であり、宿敵であった。

 だがその業を、息子である貴様にまで、負ってもらう気はないのでな。

 むしろ、将来は間違いなく、この国を背負って立つ1人となるべき貴様を、この男塾の旗の元で、真の男として完成させれば、藤堂の奴が草葉の陰で、大いに悔しがろうて。

 …無論、貴様が否と言うのであれば強制はせぬが。」

 その、豪毅の視線をまともに受けるように、というよりは射返しながら塾長が言う。

 その本意を確かめるように、豪毅は無言で塾長を見返している。

 

 …間に入れば切り裂かれそうな空間を、先に和らげたのは豪毅の方だった。

 

「…いいだろう。俺自身、興味はあった。

 これほどの男を育てた、この男塾に。」

 そう言って豪毅が、俺の方を振り返る。

 瞬間交わしたその視線には、いつか見た殺気はこもっていなかった。

 

「……が、すぐにというわけにはゆかぬ。

 先ほども言ったが俺も今は、不肖の父親の不始末を片付けている最中で、長くは邸を空けておられぬからな。

 この件が片付き、部下に当面の仕事の引き継ぎをし終わったら、その時には再びこの男塾(まなびや)の門をくぐることとする。」

 それで良いか、と豪毅が問い、塾長は頷いて、その紙を懐に仕舞った。

 

「然らばこれは、ありがたく受け取らせて貰う。

 藤堂豪毅よ。

 貴様の入塾、楽しみにしておるぞ。」

 言って、次には表情を引き締めた塾長が俺に向き直る。

 

「そして男塾は、此度の藤堂豪毅の依頼により、伽瑪髏徒(キャメロット)とやらの討伐と、光の救出に向かう!

 男塾総代・剣桃太郎よ。

 今よりこの闘い、貴様に全権を委ねる!!

 心してかかるが良い!!」

 その言葉に対する、俺の答えはたったひとつだった。

 

「押忍ッ!!」

 

 ・・・

 

「豪毅……!」

 あの後、客人を校門まで見送るようにと塾長に命じられた俺は、玄関口より前で、ここでいいと言って、先に立って歩き出した豪毅の背中に、思わず呼びかけた。

 …『藤堂』ではなく下の名前の方を、心の中で呼んでいたのは、ヤツの父親と区別する為だった。

 あくまで俺自身の事情であり、本人がそれを知るはずがない。

 呼んでしまってから『馴れ馴れしい』と思われる可能性に気がついて、一瞬息を呑んだ。が、

 

「なんだ?」

 頓着した様子もなく俺を振り返り、(いら)えを返すその反応にホッとしつつも、確認せねばならぬ事に、俺は気を引き締めた。

 躊躇いながらも、その言葉を口にする。

 

「…男塾への入塾は歓迎する。

 だが、俺は…おまえの親父を……!」

「俺は、もとは孤児だ。

 藤堂兵衛(あの男)とは、血の繋がりなどない。」

 だが豪毅は、俺が何を言わんとしていたかをまるで予期していたかのように、まだ言い終わらぬ言葉尻に、被せるようにして言葉を返してきた。

 しかも、思いもよらない事実まであっさりと告げてくる。

 

「藤堂財閥が運営する孤児院にいた俺が、あの男の目に留まり引き取られたのは、6歳になるかならないかという年の頃だ。

 以来、光や、のちに俺が斬った上の4人の兄達と同様、奴の最も信頼のおける者…といえば聞こえはいいが、言わば道具となるべく育てられた。

 兄達の中には、奴の実の子もいたし、光は血縁上は姪にあたるが、奴にとっては血の繋がりなど些細なことで、役に立つか立たぬかどちらかでしかなかった。」

 …ちょっと待て。

 これは俺が聞いていい話なのか?

 確か豪毅はさっき、財閥の総裁としての実権を完全に握りきれていないと言っていた筈だ。

 藤堂の実子ではないというのが事実であるなら、それはこいつを追い落とそうとする勢力にとっては、その口実になりうる事態ではないのか。

 養父である藤堂兵衛自身が、血縁に拘っていなかったとしても。

 

「…そんな男を、父親などと思ったことは一度もない。

 光と出逢わせてくれた事だけは感謝するが、その光を裏の世界から救う為にも、また俺自身が奴に使い潰されぬ為にも奴の命、いずれは絶たねばならぬと思っていた。」

 そう言って笑みを浮かべたその表情に、微かに哀しみがたたえられているのを、俺は見た。

 …それは、藤堂兵衛を俺が討ち取った後、男塾に戻ってからの光が、日々の忙しさの中に覆い隠そうとして、隠しきれていないそれと同じ(いろ)をしていた。

 

『…光に、似ていたから、かな。』

 何故助けたのかと光に問われ、答えた己自身のその言葉を反芻しながら、やはり、と改めて納得する。

 

 豪毅(こいつ)と、光は似ている。

 血の繋がりはなくとも、二人は姉弟なのだ。

 

「おまえが斬らねば、遅かれ早かれ俺がぶった斬っていたのだ、気にすることはない。」

 だから……光同様この男もまた、俺には決して見せまいとするその(いろ)に、俺は敢えて気づかなかったふりをした。

 

 ・・・

 

 …数時間後。

 

「あの天挑五輪大武會から1ヶ月。

 またこのヘリに乗る事になるとはのう。」

「ああ。

 あの藤堂財閥総帥様から直々の依頼って事だからな。」

「ここに伊達や飛燕、雷電がいれば、もっと心強かったのだが。」

「居ねえモンは仕方ねえ。

 それに依頼内容はあくまで、あのじゃじゃ馬の回収だ。

 ゾロゾロ何人も行ったところで邪魔なだけだろう。」

「ええ。志願した者は多かったのですが、そう思って面子は厳選させて貰いました。

 …付き合っていただいてありがとうございます、先輩。」

 藤堂家から差し向けられたというヘリで、伽瑪髏徒(キャメロット)の本拠地へと向かうのは、俺と富樫、虎丸、J、そして赤石先輩の5人だった。

 

 ☆☆☆

 

「…わたしが見つけた時、はじめは死んでいるのかと思ったんですよ。

 なにせ深い山の中で、全身血まみれで倒れていたんですから。

 …後になってそれが全て返り血で、本人はほぼ無傷であるとわかりましたが。

 ともあれよくよく見れば息はしているし…どちらにせよそのまま置いておくわけにもいかず、困った末に月光と雷電を呼びに行ったのです。

 わたしも子供で、1人では彼を、辛うじて背負うことはできても、寺まで運ぶことは出来なさそうでしたので。」

 丸い木枠で張られた布地に、細かく針を通してゆくその綺麗な指の動きは、話をしながらいささかも揺らぐことはなく、繊細かつ鮮やかな模様を、その枠の中に描いていく。

 なんとなくそれに目を奪われていると、反対側からフフッと笑う声がして、反射的に視線をそちらに移した。

 

「…拙者も、あの日のことはよく覚えており申す。

 何せ、修行寺にやってきて数日も経った頃には既に、10年もおる如き顔をしておったような、繊細な顔にも似合わぬ豪胆な()が、見たこともないくらい血相を変えて、拙者らを呼びに来たのですからな。」

「わたしとて動揺くらいします。

 …って、わたしの話はいいじゃないですか。」

 懐かしげに微笑みながら答える声に、手を止めて顔を上げたその微笑みが、少しだけ拗ねたような色を帯びている気がしたのは私の気のせいか。

 この人もこんな顔をするのだな。

 

 …飛燕と雷電が懐かしげな顔で話しているのは、彼らと伊達が初めて出会った時の話だ。

 話の中心人物は、座席にもたれかかって腕を組んだまま目を閉じており、一見眠っているように見えるが、入眠していないことは気配でわかる。

 

「まあそんなわけで寺に連れ帰ったものの、しばらくの間は警戒して、全く懐いてくれなくてですね」

「…ひとを拾ってきた猫みてえに言うな。」

 と、飛燕の言葉が終わるか終わらないかのうちに、その伊達の方からツッコミが入る。

 振り返ると、窮屈そうに丸めていた背中を伸ばして、こちらをちょっと睨むような目で見ている伊達が目に入った。

 その無駄にキツい目つきに、私の隣に座る紫蘭がちょっとビクってなったが、そのツッコミ入れられた本人は、けぶるような笑みを浮かべながら、穏やかに言葉を返す。

 

「おや、これは失礼。起きていたんですね。」

 絶対わかって言ってただろうと明らかにわかる返しに、伊達が小さく舌打ちするも、飛燕は全く動じずに、再び手元の木枠に視線を落とした。が、

 

「そんな事より、高度が下がってる。

 そろそろ目的地に着くみてえだぞ。」

 伊達の言葉に、今乗っている軍用ヘリの小さな窓から外を覗くと、眼下に広がる大海原にぽつんとひとつ、小さな島があるのが見えた。

 それがどんどん近づいてくるところを見ると、それが目的地であることは疑いようがない。

 

「あれが我々【伽瑪髏徒(キャメロット)】の本拠地です。

 ……本当に行かれるつもりなのですか?」

 念の為案内役と人質的な役割として連れてきた幹部の男がそう問うのに答えず、私たちはヘリの着陸を待った。

 

 …それはさておき伊達が猫っぽいという印象は、どうやら私だけが抱いていたわけではなかったらしい。




光も豪毅も、御前の死に対する思いは一つではありません。
光は特にですが豪毅もまた、父親としての愛情を御前に求めていた時期もあれば、それが叶わず絶望の思いを抱いた事もあるわけで、その絶望がどんなに深くても、それを理由に御前を憎み切ることは未だにできていないのです。
故に『あの男は死ぬべきだった』と思ってはいても、同時にそれを悲しむ気持ちも心の片隅に秘めています。
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