婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜 作:大岡 ひじき
前半は小ネタ。デリカシーのない男ども。
後半は単なるグダグダ。
Jフラグのつもりで書き始めたのに、結局赤石と桃の補強にしかなってない罠。
男は喧嘩して仲良くなる、という塾長の説は、まあそれが全てではなかろうが間違いではないのだろう。
女の私には判らない世界だが。
あの撲針愚以来、留学生と一号生は互いの力を認め合ったのか、気付けば確かにあちこちで、和気藹々とした交流が見られるようになった。
ちなみに私に対しては、両拳を桃に潰されたコングという男の怪我を私が治療してやった時に、『どういう事だ?』『東洋の神秘だ!』と一斉に取り囲まれて怯んでいるところを桃が見つけて救出してくれて以降は特にトラブルもなく(この時助けてくれたのが桃で、本当に良かったと思っている。これが赤石だったら確実に国際問題に発展していると思うと、もう怖くて朝も起きられない…!)、彼らは私にも笑顔で挨拶してくれる。
そんな留学期間も、あと三日で終了。
それでホッとしたせいではないだろうが、なんだかお腹が痛いと思っていたら私の半年に一度の女祭りが始まってしまった。
確か前回来たのが首相暗殺の指示を受ける前だったから、周期的に1ヶ月ほど早いので少し油断していた。
ちゃんと準備はしていたから手当てに問題はないわけだが、そんな訳ですこぶる体調がよろしくない。
普通の女性は月1でこれを繰り返しているというが、私の身体も完全に成長したらそうなるのか。
半年に一度でもこれだけ気分が悪いのに、月1なんて考えただけで気が重くなる。
もう富樫や赤石にチビだガキだって馬鹿にされようが子供のまんまでいいです。
来月で18になるけど。
そういえば御前の邸にいた時には10月手前になるとひとつ年齢を増やされたのだが、この間赤石に教えてもらった私(と兄)の誕生日は9月半ばで、あながち間違ってはいなかったのだと今更気付いた。
お昼ご飯を食べたら鎮痛剤を飲もう。
そう思っていたら、執務室のドアがノックされた。
「桃?どうぞ。」
ここにはノックして確認してから入ってくるのが桃しかいない、そう思っていたから、自然とそう言ってしまったのだが。
「…失礼する。」
「え…J?」
意外にも、ドアを開けて入室してきたのは桃ではなく、留学生のリーダーであるJだった。
とはいえ留学生の中では別に一番でもないし、最近は赤石を見慣れたせいか、このくらいの大きさならそれだけでビビる事はないけれど。
ていうか、赤石が普段から無駄に威圧感を発し過ぎなんだと、今更ながら気がつく。
などと考えながらつい見入ってしまったら、ん?みたいな顔をされ、慌てて居住まいを正す。
「…失礼しました。
こんにちは、J。どうしました?
傷の方はすっかりいいようですね。」
「おかげさまでな。」
おかげさま、ときたか。
こんなの、日本人だって若い人はなかなか言わないだろう。
「…本当に、日本語上手いですよね…このまま日本で生活しても、言葉で困る事とか全然なさそう。」
私が呆気に取られて思わず呟くと、Jが頷く。
「その件で来た。
俺は、このままここに入塾する。
形の上では留学期間の延長という事で、本国には連絡済、塾長にも届け出てある。」
「…本気ですか?それはまた酔狂な…。」
私の言葉に、Jは眉を顰める。
「スイキョウ?」
どうやら彼にも、判らない言葉があったらしい。
申し訳ないが、ちょっと安心した。
「あ、失礼。ええと…物好き、で判ります?」
私の説明に、Jはここに来て初めて、唇を笑みの形に緩める。
それは初めて会った時に見たようなものではなく、やや自嘲が加わったものだったけど。
「…フッ。確かにな。その通りだ。
俺も、狂気を極めてみたいと思ってな。
…後は細かい手続きをしなければいけないそうだが、そちらはおまえに頼めと言われた。」
「了解しました。各種手続きは私がしておきます。
寮の手配と、制服も用意しなければ…あー制服。
さすがにあなたのサイズ、在庫なさそうだなー…採寸しましょうか。」
「…どうすればいい?」
「ちょっとそこに立ってください。
あ、ベストは一旦脱いでくれると助かります。」
「わかった。」
…ところで制服は勿論だけど、ひょっとして指定下着も、私が発注しなければいけないのだろうか。
それはちょっと遠慮したい。
後でこっそり桃に頼んで説明してもらい、自分で発注書を書いてもらおう。
…その、桃に頼む段階からがもう嫌だけど。
とりあえずメジャーを持ってきて、Jの前に立つ。
身長が判っているから、着丈は計らなくても大丈夫だろう。
だとすれば胸囲と胴囲と肩幅、腕が太いから袖ぐりも一応測った方がいいかも。
…そういえば赤石が制服の袖取っちゃってるの、あれ絶対に腕が太すぎるせいだよな。
今はいいけど、冬になったらどうする気だろう。
…どうもしない気がする。
というか、この塾に於いて季節感というものはむしろないと考えた方が良さそうだ。
それは、ここの象徴となっているあの校庭の桜を見ても判ることだ。
そんな事を考えていたら、ノックの音がして、返事をしたら今度こそ桃が入ってきた。
「押忍。少々失礼するぞ、光。」
「桃。お疲れ様です。何かご用ですか?」
「ちょっとJにな。
赤石先輩がおまえを探してるから、面倒なら裏口から逃げろって伝えにきた。」
いやちょっと待て。
「赤石…あの銀髪の男だな。」
「ちょ、もうそれ確実に、私に赤石を引き止めておけって事ですよね?お断りします!」
ただでさえ体調の悪い時に、そんな厄介ごとを私に押し付けるんじゃない!
「そう言うな。
赤石先輩はおまえの兄貴みたいなモンだろ?
なんだかんだでおまえには甘いしな。頼むよ。」
「兄……?」
笑いながら私に向かって両手を合わせる桃の横で、何故かそのキーワードに反応したJが、私をじっと見つめる。
「あんな面倒な兄は要りません!
人聞きの悪いこと言わないでください!」
「心配するな、光。
桃、俺は逃げん。配慮には感謝する。」
配慮には感謝する、ね。
もうつっこみ疲れたけど、ほんとヘタな日本人より日本語上手いよJ。
なんて事をやっていたら、
「押忍。光、邪魔するぞ。」
と、本日の厄介ごとが入ってきた。
ああくそ部屋が狭い。
「邪魔だと判ってるなら来ないでください!」
苛立ちまぎれに手近にあったティッシュの箱を、赤石に向かってぶん投げる。
赤石はデカイ手であっさりとそれを受け止め、放り投げるようにしてテーブルの上に置くと、軽く首を捻りながら私に向かって問いかけた。
「…随分と機嫌が悪ィじゃねえか。
こいつらに何かされたのか?」
「いやひとのせいにするなし。
というか過保護はやめてくださいと何度言えば」
文句を言っているとデカイ手で頭を掴まれ、そのままぐりぐりと揺さぶられた。
「やめれ!首がもげる!」
「わかったわかった。
文句があんなら後で聞いてやる。
…Jと言ったな。ツラ貸せ。」
なんか適当に流しながらJを連れて行こうとする赤石。
それに軽くキレつつ、 私はJと赤石の間に立ち塞がった。
「待ちなさい赤石!まずは私の用件が先です!
J、さっきの続きです。
そこに立って、腕を少し上げてください。
採寸します!」
言いながら、さっきから持ったままだったメジャーをピシリと鳴らす。
Jが私と赤石に交互に目をやってから、赤石に向かって問うた。
「…どうする?」
「……こいつの言う通りにしろ。
俺の用件は後でいい。」
フッ、勝った。
「…わかった。」
Jが何だか呆れたように言って、私の方に向き直った。
「ほらな。
なんだかんだで、光の言う事はきくんだ。
赤石先輩は。」
「そのようだな。」
「なにをぶつぶつ言ってるんです?
はい失礼、胸囲測りますね…っと。」
Jの分厚い胸にメジャーを回す。
一瞬だけ抱きつくような格好になった時、何故か男3人が揃って息を呑んだ。
「…ッ」「…!」「!?」
「ん?どうかしました?
ええと、125センチ…あと、袖ぐりは…。」
・・・
「はい、終わり。
じゃ、これをもとに制服、発注しますので。
お疲れ様です、J。」
あとは男同士、拳の友情でもなんでも好きに育んでください。
私は私のお仕事をします。
「ああ。
しかし、日本の学生が着る服と聞いていたが、女性職員も同じものを着ているとは思わなかった。」
Jがベストに腕を通しながら、なんかあっさりとんでもない事言った。
「え!?」
「…はあ。」
何故か赤石が、ため息とともに頭を抱え、
「やっぱりな。あれでバレると思ったぜ。」
桃が言いながら苦笑する。
「ど、どういう事ですか!?」
どこでバレたのか判らぬまま、動揺した私は若干噛みながら訊ねる。
「その…だな。
さっきのは、男としては、嬉しくないわけではないが…。」
Jが額を掻きつつ若干バツが悪そうに言いながら赤面する。
「は?」
「光。言おうか言うまいか迷ったんだが、おまえ今日、サラシ緩いんじゃないか?」
「えっ?」
「そうじゃねえ。
機嫌悪ィし、微かに血の匂いもする。
恐らくは生理中だ。
だから胸が、いつもより張ってやがんだ。」
「ええっ?」
「あー、確かに、言われてみれば風呂で見た時より若干大きいな…。」
「ええぇっ?」
「風呂?
おい剣、どういう事か説明してもらおうか。」
「あ、え、い、う……えぇ───っ!?」
「…ひょっとして、光が女なのは秘密だったのか?」
「一応な。とりあえず内密で頼む。」
「了解した。」
私が驚く事しかできずにいる間に、男たちは勝手に会話を進めていた。
てゆーか、胸とか、生理とか、風呂の話とか、そろそろ何に対して赤面すればいいかも判らぬまま、じわじわと顔が熱くなる。
なにがなんだか判らなくなって、私は思わず叫んだ。
「全員出て行け───っ!!!!!」
・・・
数時間後、執務室を訪ねてきた椿山が、「桃から、渡すように頼まれた」と、小さな包みを手渡してきた。
開けてみると小さな箱に道明寺桜餅が4個入っていた。
聞けば寮の近くの商店街にかなり古くから経営している和菓子屋さんがあるとかで、その店のものだという。
「光さんを怒らせたからお詫び…って言ってたんですけど、何かあったんですか?」
って椿山が聞いてきたが曖昧に誤魔化し、せっかくなのでお茶を淹れて椿山と一個ずつ堪能した。
お菓子に罪はない。
残りは後で塾長か、虎丸とでも一緒に食べよう。
久しぶりに食べたせいもあるだろうが、それはあんこの味に深みがあって繊細で、それでいてしっかり甘くて(私はお菓子に関しては甘さ控え目などというヌルい概念は必要ないと思っている)とても美味しかった。
詳しい店の場所を椿山に教えてもらったから、今度私も行ってみよう。
それにしても、桜餅は長命寺より道明寺の方が好きだって私、桃に一度でも言った事があっただろうか?
なんで知ってたんだ?偶然か?
なんでもいいけど、次会った時にお礼言おう。
ていうか私、なんで怒ってたんだっけ?
☆☆☆
「俺に用とは?」
「橘 薫という男を知っているな?
光と、同じ顔をした男だ。」
「カオル…カールの事だな。
彼を知っているのか?やはり日本に?」
「……死んだ。」
「何だと?」
・・・
「つまり、光はカールの双子の妹という事か。」
「そうだ。ここでは塾長の息子だがな。」
「…何故、それを俺に?」
「てめえも、あの野郎に絆された1人かと思っただけだ。
ならば、あいつの最期を伝えるべきだとな。」
「…そうか。感謝する。」
☆☆☆
留学生たちが、Jを残して帰っていった後、私は若干思うところがあり、桃に空手の指南を受けていた。
なんだかんだで、私は桃や赤石に心配をかけているようだし、自分の身は自分で守れるように、できる事をしていこうと思った。
そう言ったら桃には「そういう事じゃないんだがなぁ。」と苦笑いされたが。
でもいいんだ。
今度塾長から、小太刀を教えてもらう事になっている。
それがある程度形になったら、今度は赤石に相手になってもらおう。
…そっちはそっちで、また苦虫噛み潰したような顔されるのが容易に想像つくけど。
存分に手加減をしてもらって組手をしていたら、真新しい制服に身を包んだJがやってきた。
私と桃の組手の様子をしばらく眺めていたJは、私に向かって、「今度は俺とスパーリングをしてみないか。」と言ってきた。
私はボクシングの事は判らないから無理と答えると、シャドーボクシングのやり方を教えてくれ、本当に打ち合わず型だけで拳を合わせようと提案してきた。
「心配しなくても、そんなに激しい運動じゃない。
心臓の悪い男にもできたトレーニングだ。」
と言っていたが、やはりそれ兄の事なんだろうな。
…実際にやってみたら、ボクシングのスパーリングというよりダンスを踊ってるみたいになった。
そう思うと、さすがレディーファーストの国の軍人、リードするのが上手い。
僅かに汗をかいたくらいのところで終了の声がかかり、そばで見ていた桃が拍手した。
…なんとなくだが、桃との空手の組手の際には、若干掴めていなかった体捌きの感覚が、Jとのこれで少しだけ掴めた気がする。
ボクシングって蹴りがあるわけじゃないから上半身だけが重要なんだと思ってたけど、本当に必要なのはフットワークなのかも。
「大変勉強になりました、J。
ありがとうございます。」
「いや…俺の方も、懐かしい友と再会したような気がして、楽しかった。いずれまた頼む。」
「勿論ですとも!是非!」
このトレーニングの間脱いでいた上着に袖を通しながら、Jが穏やかに微笑んだ。
…制服の裾をはためかせて去っていくJの、大きな背中を見送っていたら、唐突に桃が右手を伸ばし、私の頬に掌を触れた。
何事かと見上げれば、ひどく優しく、それでいて少し寂しそうな微笑みが、私を見下ろしている。
いつもの余裕たっぷりの笑みとは違うその表情に、私が何かしたかと少し胸が痛んだ。
「…どうか、したんですか?」
「ん?
フッ、光が俺の目の前で、あんまりJと仲良くするから、少し妬けた。」
そう答えた表情は、もういつもの桃だったが…。
「はぐらかさないでくださいよ。
私には言えない事ですか?」
「俺は正直に言ったぜ?
でもそうやって心配されるのは悪くないな。」
「…もういいです。」
そんなに信用されていないのかと、ちょっとがっかりしながら、私は桃の手を顔から離す。
そのまま背中を向けて去ろうとしたら、突然脇を掴まれて持ち上げられた。
「ちょ!な、何ですか!?」
「まあいいから。
運動した後だし、少し休憩しようぜ!」
子供を抱くみたいに抱きかかえられ、大きな木の下に連れてこられたかと思えば、何を思ったか桃は、私を抱いたままそこに横になった。
深呼吸しろと言われてその通りしていたら、いつの間にか眠っていた。
相変わらず大きくて穏やかな氣は、心地よく私を包んでくれていた。
・・・
「の、のう。これ、どうすればええんじゃ?」
「どうって、起こして寮に連れて帰らなきゃまずいだろうが。
光は、起こしゃ自分で帰るだろうが、桃は意外と寝起き悪いからな。」
「しっかし、二人とも、気持ちよさそうに寝ておるのう。
なんか起こすのが悪いような…。」
「だが、何だってこんなところで、二人で昼寝してやがんだ、こいつら…?」
「ひ、光さん〜……!」
一応この話での塾生の年齢設定は、基本的には一般の高校生を基準にしてます。というか、大まかな年齢がはっきりしてるのは富樫だけで、その富樫が「3年前中学生だった」というのに合わせた形で、桃たち一号生はこの年16歳。
ただし赤石先輩とまだ未登場の伊達は、3年前の二号生と一号生の筆頭という事だけど、事件が起きたのが3月の年度末って事でひとつ足す計算。なので赤石先輩は21歳、伊達は20歳。
(学園生活編の4話でもちょっと触れてますが、富樫兄が男塾に入ってきたのは、だからこの事件後の4月になります。なので生きていれば伊達の一個下って事で、彼らの間に面識はありません。今気付いたけど富樫兄、ヒロインの一個上って事だ。笑)
あと、
本当は父親と同じプロボクサーになる事を夢見てたんだろうに、父親を亡くしたが故に17歳になってすぐ、授業料なし給料ありの