婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜 作:大岡 ひじき
後から考えると、月光を怒らせるって相当凄い事だった気がする。
「龍ちゃん、うちの子抱っこして〜!」
「横綱、うちの孫もね!」
「うちのも頼むぜ、龍次!」
村祭りの奉納相撲が終わると、横綱に向けてかけられる声がこれだ。
同年代の他の子供より発育が良かったおれは、10歳の年の祭りで初めて横綱を張って以来5年間、その地位を守り続けた。
何せ奉納相撲の土俵に立つ『横綱』は、村で一番強い男の称号だ。
おれがこの村に居る間は、誰にも譲るわけにはいかねえ。
その、一番強い男の肉体に神が宿り、その脚が四股を踏む事で、大地の穢れを祓う。
五穀豊穣を願う神聖な儀式だ。
そしてそれが終わると、その年に生まれた赤ん坊を、次々と抱っこさせられる。
力士の、神の宿った腕に抱かれた赤ん坊は、元気に育つという、古くからの習わしだ。
…だが、15歳の年の祭りで、無事奉納相撲が終わった後にかかった声は、いつもと少しだけ違っていた。
「今は、龍ちゃんが横綱なの!?
大きくなったのね〜!
…うちの子、もう赤ちゃんじゃないけど、まだご利益あるかしら?」
声をかけられて振り返ると、割と綺麗な、でもちょっと派手な女の人が、3つか4つくらいの小さな女の子の手を引いて、おれに笑いかけていた。
一瞬「誰だ?」と思ったが、彼女本人じゃなく、連れた女の子の顔を見て、記憶の蓋が開く。
「ひょっとして、
おれんちの3軒隣のうちの、7歳年上のお姉ちゃんだった。
つか、うちとは姻戚っての?
確か、うちの母ちゃん方の叔母さんの旦那さんの妹の娘、だった気がする。
姉ちゃんは昔から美人と評判で、ガキだったおれも少しは憧れてた…少しだぞ?
「すぐにわかんなかったの?
小ちゃい頃はよく遊んであげてたのに、薄情な子ねえ。」
うちの村の周辺には、高校がない。
進学しようと思ったら、村から出て下宿とか寮に入るとかするしかない。
優花姉ちゃんも高校入学と同時にこの村を出ていって、それ以来会ってなかった筈だ。
都会っぽい派手な化粧とか服装とかして、子供の手なんか引いてこられて、すぐにわかんなくたって仕方ねえよな?
「当たり前じゃ。そんな格好しとるんじゃもん。
でも、この子は昔の姉ちゃんによう似とる。
幾つじゃ?」
おれが問うと、
「よんさい!」
指を4本立てて、女の子は元気に返事をした。
うん、賢い。
これが同じ頃のおれなら、おんなじ台詞吐きながら、出す指は3本だった筈だ、ってやかましいわ。
それに、おれはこの歳の頃の姉ちゃんは知らないが、もう少し大きくなったら、きっとそっくりになるだろうと、容易に想像できた。
「4歳か。名前は?」
「もか!」
「モカ?」
「桃香っていうの。
この子の父親がそう呼んでたものだから。」
この子の父親、という言い方に少し違和感を感じる。
普通はうちの主人とか旦那とか言うもんじゃねえのかな。
なんか人ごとみてえだ。
それに、サラッと聞き流したけど過去形だったし。
気にはなったけどそれ以上つっこめず、おれはもう一度女の子の方に向き直る。
「モモカちゃんか。
抱っこしちゃるから、こっちゃ来い。」
「やだ!」
「ちょっと桃香〜!」
「ハハハ、振られちまった。」
「ごめんね、龍ちゃん。」
すまなそうに苦笑する優花姉ちゃんの顔は、ほんの少し昔の面影を残していた。
…後から聞いたところによれば優花姉ちゃんは、高校を中退して桃香ちゃんを出産してた。
相手はバイト先の社長で、既婚者だった。
優花姉ちゃんは相手が所有するマンションに桃香ちゃんと二人で住んで、時々相手が通ってくる生活を、4年間続けたらしい。
が、先頃その事実が相手の奥さんの知るところとなり、姉ちゃんは慰謝料を請求されない代わりに相手と一生会わない事を誓約させられ、親娘共々追い出されて、村に帰ってきたそうだ。
ともあれ、昔から美人と評判だった優花姉ちゃんが村に帰ってきたという事で、村の若い衆は色めき立った。
冷静に考えれば、都会慣れした女が、この村を出たこともない世間知らずの田舎モンなんぞに心を動かす筈がないんだが、男に捨てられて帰ってきたんなら俺でもいけんじゃねえか、身体が寂しいだろうから、いっぺんくらいヤらせてくれんじゃねえか、みたいな空気が、奴らの中に漂ってるのは、おれが見ても判った。
事件が起きたのはそんな時。村祭りのあった日から、2ヶ月ほど過ぎた頃だった。
・・・
「でもねえ、子供なんてすぐ、そのへんにフラッと遊びに行くもんでしょ。
すぐ帰ってくるって。優花ちゃん心配し過ぎ。」
「それはこの辺の常識がおかしいの!
普通は小さい子供ひとりで遊びになんか行かせないわよ!
大体、隣村のナオトの弟が行方不明になった時だって、最初はみんなそう言って探しもしなかったじゃない!
あの子、未だに見つかってないんでしょう?
まして、桃香はまだ4歳で、女の子なのよ!?」
隣の村に一つだけある中学校から、自転車こいでおれが帰ってきた時、半泣きの優花姉ちゃんがうちにいて、オフクロと話してた。
「あ、龍ちゃん!うちの桃香見なかった!?
洗濯物取り込んでる間の、ちょっと目を離した間に居なくなってて…ここの村の子達と違って、普段、一人で勝手に遊びに行っちゃう子じゃないのに、絶対おかしいのよ!」
…その瞬間、なんでそんな勘が働いたのか、今考えてもわからねえ。
けど、それ聞いた瞬間に脳裏に浮かんだのは、その日の朝、おれが登校する為に姉ちゃんちの前を通りかかった時の事。
不意に何か寒気を感じて、自転車を止めて振り返ったら、そいつが居た。
村長の甥っ子のシンタ、歳は姉ちゃんと同じくらいだと思う。
こいつは、父親が小学校の用務員をやっていて、時々その手伝いに行く以外は基本無職で、見た目も雰囲気もなんか暗かったせいか、村の子供の若い母ちゃん達からは密かに気味悪がられてる奴だった。
そのシンタが、なんて言うかよく判らないが、なんだか嫌な目で、姉ちゃんちをじっと見ていた。
なんだアイツと思いながらも、登校途中だったおれは、そのまま自転車を走らせた。
ほんとにそれだけだ。それだけだったのに。
姉ちゃんから話を聞いた途端、おれは走り出してた。
急がなきゃいけない気がした。
「龍ちゃん!?」
後ろからかけられてる筈の、姉ちゃんの声が遠くに聞こえた。
☆☆☆
驚邏大四凶殺三の凶、
氷のステージの下には、刃物よりも鋭い氷の杭が立ち並んでおり、ここに落ちたら確実に串刺しになる。
更に天井に火が放たれ、氷のリングは時とともに小さくなり、また上から巨大な氷柱も落下してくるだろう。
そもそも、氷が溶けきる前に勝負がつかなければその時点でアウトじゃなかろうか。
この闘場での救助活動は、予測される事態が多岐にわたる為、人員が広範囲に振り分けられている。
広くカバーしてはいるが、一箇所ずつ見ればそれまでより明らかに手薄で、正直不安だ。
もっとも、私は救助には関われないから、その辺は彼らにお任せするしかない。
少なくともこれまでは間違いなくやってきてくれたのだ。
信じるしかない。
豪学連側闘士、月光。
男塾側は…桃が動き出そうとしている。
あれ?
あなたは大将戦まで動いちゃダメじゃないの?
と思っていたら、虎丸が桃に、当身を食らわせてそこに足止めした。
…桃は確かに、今の一号生の中では能力が突出していて、筆頭を張るのにこれ以上の人材はいない。
が、やはり素は16歳の若者だ。
どんなに完璧に見えても、時々の行動がまだ青い。
リーダーとしての責任感よりも、リーダーであるが故に冷静になれず、感情が先に立つ時がやはりあるようだ。
虎丸は、そこを制した。
自分の立場と桃の立場、それらを今の段階では、桃より遥かに冷静に見て、判断している。
かくして。
男塾側闘士、虎丸龍次。
氷のステージでの戦いが、今始まった。
「あの月光は、拳法、刀剣術、他様々な武術を極め、三面拳で最強と言われている。
もっとも得意な武器は棍らしいが、それは今回は使わぬ腹のようだな。」
一番得意な武器を使わないとか、どんだけ舐められてるんだ。
とはいえ、あまり警戒されすぎていても困るわけで、まあいい事にしよう。
私は虎丸の実力をよく知らない。
そもそも桃ですら知らないのだろうし。
その桃だが、月光と虎丸が戦い始める前に、既に目を覚ましていた。
「猛虎流二段旋風脚!!」
先手を打ったのは虎丸。
全身のバネを活かした、鋭い蹴りで猛襲する。
虎丸は拳法を使うのか。初めて知った。
けど、この動きは、ひょっとしたら我流なんじゃないだろうか。
洗練されていないというかなんというか色々荒いし、恐らく師匠について正式に教えを受けた拳士なら、こうは動かないだろうと思う部分がたくさんある。
それがある意味での意外性を生む可能性もなくはないが。
とはいえ人間離れした怪力に筋肉の強さと関節の柔らかさ、身体能力の高さはかなりのものというか、これ以上ないくらい高い素質の持ち主だ。これは恐らく天性のもの。
半年間200キロの吊り天井を支えていた実績は、下手すればズブくなっていてもおかしくないのに、それはその肉体に頑丈さとスタミナを与えはしても、その俊敏性を奪うことにはならなかった。
それだけに、いい師について修行を重ねていれば、相当のものになっていたかもと考えると、実に惜しい。
…この間私自身が、それと似たような事を言われたけど。
そう言えば以前見た虎丸の経歴の欄に、「村相撲の横綱経験有り」とか書かれていた気がするな。
村相撲って事は間違いなく、祭りの際の神事だろう。
つまりあの身体は、元々は神の依代って事か。
誰の手も入っていない、純粋な、神通力の器。
神に愛され、その加護を受けた、完璧な肉体。
神の宿りしその足は大地を清め、その腕はその地に生まれし生命を抱き、守る。
…この子が誰にも邪魔されず、のびのび育つ事が出来たのは、その神の加護があったからじゃないだろうか。
なにせこれほどの素質、組織の目に留まれば即、誘拐されて私と同じように、孤戮闘に放り込まれていただろうから。
強さだけを考えれば、その方が確実に強くなれた筈だけど、御前が雇っていた師範が纏めていた戦士の中に一人だけいた、左手首に孤戮闘修了の証を刻まれていた私よりひとつ年上の少年が結構嫌なやつだった事を思えば、やはり虎丸は虎丸のままで良かったと思う。
…話が逸れた。
対する月光は最小限の動きのみで虎丸の攻撃を難なく躱すと、体勢を崩し氷上で滑って尻餅をついた虎丸に、無造作に蹴りを入れた。
その衝撃により、摩擦の少ない滑るリングが、虎丸を窮地に陥れる。
剥がれるんじゃないかと心配になるくらい氷に爪を立て、落ちる寸前でなんとか止まるが、月光はそこに更に蹴りを放ち、虎丸は身体のバネでそれを躱した。
それにしても、同じ氷のステージに立っていながら、月光は足を滑らせる事も腰をぐらつかせる事もなく、ごく普通に足技を繰り出してくる。
どうやら三面拳と呼ばれる男達全員、卓越したバランス感覚の持ち主で、それが優れた体術の裏付けをしているようだ。
この月光という男は、他の二人よりひとまわり大きな体格をしているのでもう少し鈍重でもいいんじゃないかと思うが、もちろんそんな都合のいい話はなく、その動きは他の二人に勝るとも劣らない。
三面拳最強の男か。
虎丸も、とんでもない相手と当たってしまったものだ。
そして、その三面拳を束ねる大将、伊達臣人。
はたしてどれほどの強さであることか。
苦し紛れに繰り出した虎丸の拳を、月光がやはり足技で逸らし、虎丸の顔面に連続で蹴りを入れてくる。
それでもバック転で体勢を整え、構え直した虎丸を、冷たい目で月光が見据えた。
「教えてやる。道場拳法と殺人拳の違いをな。」
言うや月光は服の袖に手をおさめ、次に引き出した時には、曲刀のような刃のついた手甲を着けていた。
だから、あんな大きなものをどこに…いやダメだ、つっこんだら負けだ、負けなんだ。
「
そうして綺麗に剃髪してある頭を氷の地面につけて、ブレイクダンスのヘッドスピンのように回転しながら、両手の刃で虎丸を追いつめていく月光のその大技に、私は初めてこのステージもまた、相手の土俵なのだと気がついた。
「三面拳、ズルい───!!」
思わず発した叫びは、隣の三号生の手の中に消えた。
ナイスフォロー。取り乱してごめんなさい。
☆☆☆
「オッチャン、邪魔すんぜ!」
「うおっ!?何の用だ、龍次!靴は脱げ!」
やつの父ちゃんに申し訳程度の挨拶をしつつシンタんちにずかずか踏み込んで、ヤツのいる筈の2階に靴も脱がずに上がり込んだら、案の定小汚い布団の上に、桃香ちゃんが寝せられてた………裸で。
「龍次!?い、いや、これはだな」
なんかカメラ持ったシンタがあたふたしてるけど、この状況にどんな言い訳しやがるつもりだ。
4歳児なんて赤ちゃんみたいなモンだろうが。
それを裸に剥いて写真撮って、その後どうするつもりだった。
考えるだけでおぞましい。
「問答無用───っ!!」
おれはヤツの顔面に拳をぶち込んだ。
一撃で、鼻血と前歯をまき散らしたシンタが気絶する。
それから、なるべく桃香ちゃんを見ないようにして周囲を探した。
服は…見当たらない。
仕方なくおれは着ていた上着を脱いで、それで桃香ちゃんの身体を包んだ。
そのまま、小さな身体を抱き上げる。
おれの後を走ってついてきた優花姉ちゃんが、その光景を見て号泣し、次には倒れたままのシンタの股間を踏みにじった。
女ってこええ。
シンタは子供の頃、優花姉ちゃんの事が好きだったそうで、姉ちゃんそっくりの桃香ちゃんの小さな姿を、永遠にそのまんま留めておきたいという謎理論で連れ去ったという事だった。
つまり、ほっといたら殺されてた可能性が高いって事だ。
…だが幸い、桃香ちゃんの身体には傷も、おぞましい真似をされた痕跡も見つからなかった。
本人は薬を飲まされて眠っていたから、後々まで残るトラウマなんかもなさそうだという事だ。
…むしろ問題はおれの方だった。
村長の甥をぶん殴ったからどうこうという事はない。
状況が状況だけに、その件についておれを責める声なんぞ出るはずもなかった。
だが、この土地を守る神様の力を宿した手で、この土地の者を傷つけ、その拳を血で穢した、それが問題だった。
それによりおれは神聖な存在ではなくなり、横綱の地位を返上せざるを得なくなった。
おれの肉体は、神様の加護を失った。
だが、それと引き換えに、子供の未来を守れたんだ。
子供は土地の宝だ。
村の守り手だったおれに、後悔なんかあるわけがねえ。
「あたしは、ここに戻ってきちゃいけなかったのね。」
優花姉ちゃんが哀しげに俺を見て言う。
「んな事ぁねえさ!
どっちにしろ来年には、高校行くのにこの村を離れなきゃいかんかったしのう。」
「でも、今回の事件で、推薦入学が決まってた話が流れちゃったんでしょう?
龍ちゃんは悪くないのに、あたしたちのせいで…。」
「だーからー、姉ちゃんたちはもっと悪くねえじゃろって!
…東京にの、わしらみたいな、持て余されたモンも受け入れてくれて、男を磨いてくれる、男塾っちゅー私塾があるんだと。
そこに願書出したから、姉ちゃんは心配せんでも大丈夫じゃ!」
力士でいる間は攻撃に使わなかった拳と脚を、仮想の敵に対して存分に伸ばし、振るう。
最初のうちは慣れずに腰がぐらついたが、何度か続けるうちにそれもなくなってきた。
神様の加護を失ったからには、おれは自分の力で強くならなきゃいけねえ。
「…龍ちゃんは強いのね。」
「おお!
男として生まれたからにゃそこ目指さんとな!
にしても、見よう見まねでやってみとるが、拳法ってやつは、おれに結構合ってそうじゃ。
今更師匠探すってのもアレじゃし、こうなったら、最強の流派の始祖になっちゃる!
名前は…『猛虎流』!
どうじゃ?強そうじゃろ?」
「姉ちゃんが言ってるのは、そういう意味じゃないんだけどなぁ…まあ、いいか。
それが龍ちゃんだもんね。」
姉ちゃんは少しだけ呆れたように笑ったが、すぐに真顔に戻って、おれの目を見つめて言った。
「…ねえ、龍ちゃん。
今回、もし桃香に万一の事が起きてたら、あたし絶対に、アイツ殺して自分も死んでた。
龍ちゃんは桃香だけじゃなく、あたしの事も助けてくれたの。
神様の加護は失っても、あたしと桃香にとって龍ちゃんは、誰よりも相応しい横綱だわ。
どこに行っても、それを忘れないで。
桃香とあたしを助けてくれて、ほんとにありがとう。」
言うと、姉ちゃんは、おれの首に抱きついてほっぺにちゅーしてきた。
☆☆☆
「上だ!虎丸──っ!!」
「わかっとるわい!」
おれが助けた少女と同じ果実を名に冠したおれたちの大将の声に、おれは己に迫る大技を、宙に飛んで逃れる。
落下しながら、その脚に蹴りを入れると、月光とかいうハゲ野郎は、氷のリングの端から、回転しながら落下した。
そのマヌケな光景に、思わず笑いがこみ上げる。
「まんまと引っかかりやがって。
おれがわざと追いつめられたフリをしてたのも知らずに。」
だが次の瞬間、こみ上げた笑いが凍りついた。
「フッフフ…わたしをこの程度の事で倒せると思っているのか。」
どうやら氷の崖壁に突き刺して落下を免れていたらしい、奴の覇月とかいう刃がおれの胸を切り裂く。
一瞬遅れて襲ってきた痛みがおれの身体を硬直させるが、おれの身体はそうヤワじゃねえ。
奴の追撃を躱しながら、おれは再びリングの端に追い詰められるが、おれにはとっておきの技がある。
おれの挑発に乗って肉迫してきた奴の顔面に、おれはそのとっておきを放った。
「猛虎流奥義、大放屁!!」
☆☆☆
…何故よりによってここから私視点だ。
めっちゃコメントし辛いわ。
あ、いや、なんでもない。
とりあえず虎丸の「猛虎流」が、完全に我流である事だけは、これではっきりした。
ていうか、どこの土地の神様なのかは知らないが虎丸の身体に降りてた神様、今の彼の姿を見てどう思いますか。
土地を離れたならもう関係ないんですかそうですかそうですよね。
そんな事より、虎丸の「とっておきの技」を顔面にまともに受けた月光はそこから明らかに怯んだ。
というか、あまりの事に呆然としたのだろう。
しばらくの間虎丸の反撃に、なんの反応もできずに身を任せていた。
だが、やがて呼吸を乱しつつもゆらりと立ち上がると、その身から怒りのオーラを発しながら、虎丸を睨みつける。
「お、おのれ…!
よくも男子の面体に屁などこきおって……!!」
その怒りの形相と共に、月光の額に龍が現れる。
胸と腕の筋肉が膨れ上がり、もともと大きな身体が更にひとまわり大きくなって、着ていた拳法着が弾け飛ぶ。
そうして露わになった肌に、渦巻きのような文様と「一見必殺」の文字が浮かぶ。
「フフフ、久しぶりに見た…月光の
奴め、やっと本気になりおったか。」
伊達臣人が、よく聞くと無駄に色気のある声で解説とも独り言ともつかない言葉を呟く。
怒粧墨…流れからすると、感情の昂りによる急激な体温とかアドレナリン量の上昇とか、そういったものに反応する刺青という事だろう。
だとすると、ただ相手を威圧する為だけに浮かぶものだとは思えないのだけれど。
と、虎丸が放った渾身の拳を、月光は避けもせずまともに腹で受け止め…潰れたのは、虎丸の拳。
「怒粧墨…怒りは肉体をも鋼と化す。
そんな拳ではもはや、わたしに通用せぬ。」
ならばというわけでもなかろうが、今度は蹴りを虎丸が放ち、それが確実に折れる綺麗な音がした。
やはりあの刺青の効果で、皮膚を硬質化したものらしい。
どういう原理でかはわからないけど、怒りが引き金になってるのは間違いないようだ。
月光が激昂したって事か。
……………うん、ゴメン。私が悪かった。
私がそんなバカな事考えてる間に月光が、例の覇月という武器を手から外す。
「ここまでわたしを怒らせたおまえを、こんなものであっさりとは殺さん。
…この鋼の拳で、粉ごなにしてやる!」
言うや、鈍器と化した拳のラッシュが虎丸を襲う。
虎丸は抵抗もままならずサンドバッグ状態。
いいだけ殴ったところで伊達臣人が「早く勝負をつけろ」と声をかけ、月光は気を失っているらしい虎丸を持ち上げた。
このままリングの下に待つ氷杭に叩き落とすつもりらしい。
落下に備え、三号生達が動く。
この場合、落下した闘士を秘密裏に回収する手段はどうするのだろう。
わからないが任せるしかない。
私の方もスタンバイしておこう。
だが、虎丸は気を失ってはいなかった。
どこから取り出したものかライターを取り出して火をつけると、…例の、先ほどの必殺技を繰り出して、それに火をつけた。
「大放屁火炎放射!!」
顔面に炎をまともに受けた月光が顔を押さえて悶絶する。
…正直、私も悶絶したい。
「てめえがいくら鋼だろうと、こいつは効いたようだな。」
「一度ならず二度までも!!こんなマネをして、貴様に勝ち目があると思っておるのかーっ!!」
「この勝負、おれの勝ちだ。
次の策もちゃんと用意してあるぜ。」
言うと虎丸は氷の地面に爪を立て、そこに一筋の線を引いた。
それから、先ほど月光の鋼の肉体を殴って潰れた右の拳を、ためらう事なく地面に叩きつける。
「これが男塾一号生、虎丸龍次の実力じゃ───っ!!」
その衝撃で、虎丸が傷付けた部分から氷が割れて、月光の足場が一瞬にして崩れる。
驚愕の声をあげながら落下した月光の身体が、下の屹立氷柱に貫かれるのが見えた。
「負けたぜ、虎丸。おまえには……。」
「へっへへ。屁はイタチでも力は虎だぜ。」
ちょっと待って───!!
三号生の仕事どうなってるの───!?
無駄に冗長なエピソード入れたせいで、虎丸×月光…もとい虎丸vs月光の話が全然終わらないw
早く桃×伊達…もとい桃vs伊達の話に移りたいww