婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝 作:大岡 ひじき
桃たちが出立する前日、赤石と会った際に、ふと思いついて訊ねてみた。
「伊達臣人というのは、どのような男だったのですか?」
当時一号生筆頭だった伊達臣人が教官を殺害して出奔したのと、赤石が筆頭不在の一号生を血祭りにあげた事件は、ほぼ同時期に連続して起きている。
関連性が全くないと思う方が不自然だろう。
だが、当の本人に事件についてを問うのはあまりにも無神経な気がして、そのような聞き方をしてみたのだが、私の問いに赤石は、らしくもなく遠くを見るような目をして答えた。
「伊達、か。奴は…全てにおいて秀でていた。
何をやらせても完璧で、苦手なモンなんざなかった。
…だが、秀で過ぎてて、並ぶ奴が居なかった。
だから、筆頭として立てられた後は、他の一号生は、奴におんぶに抱っこで、何にもできねえ腑抜けになっちまった。」
「全てにおいて完璧…なんだか、桃みたいな人ですね。
桃の場合その完璧さが、仲間を駄目にする事はなさそうだけど。」
私が言うと、赤石は少しだけ考え込んでから、またゆっくりと口を開いた。
「…確かにな。その点だけに関して言や、そうだ。
なんなんだろうな。この違いは。
…伊達に、てめえの兄貴を足して2で割ったら比較的、剣に近いのが出来上がりそうだが。」
…ますますわからなくなった。
そもそも私の知ってる兄と、赤石の知ってる兄では、微妙に違う。
私は11歳半までの兄しか知らない上、その記憶すら断片的だし、赤石が兄と交流していたのは17歳で亡くなるまでのせいぜい半年くらいだという。
お互いの時間が重ならない以上、わからないのはしかたないのかもしれない。
まあでも敢えて言うなら桃は、仲間を信じる事を知っている。
そして、桃に信じてもらえる事で、仲間は更なる力を得る、気がする。
その点、ここに居た時の伊達臣人は、孤高の存在だったのだろう。
彼にとって同じ一号生の仲間は守る存在ではあっても、頼る存在ではなかったのだ。
赤石の事は…どうだったのだろう。
どう思っていたのだろうか。
私がなんだかんだで赤石に頼っているから言うわけではないが、同じ一号生に頼れないなら、せめて赤石に頼れば良かったのだ。
赤石は、自分を慕ってくる者は見捨てない。
厳しいけど、本質的には優しい人だから。
桃や邪鬼様を見てもそうだが、そこはやはり筆頭の資質なのだろう。けど、
「…俺は認めてたぜ。奴の事ぁな。
だから、奴が守りたかったものを、残った奴らが自分から、台無しにしようとすんのが、許せなかった。
…結局、伊達が守ろうとしてた奴らを、俺は全員ぶった斬った。
本末転倒だ。笑い話にもならねえ。」
赤石が、自嘲気味に笑って背を向けた。
一瞬、その背中が小さく見えた。
…と思ったら違った。
「え!?
…すいませんいきなり話変わって申し訳ないんですけど、刀、メッチャ長くなってませんか!?」
いつか一緒に出かけた時は服の下に隠してたけど、塾敷地内では普通に背負ってる赤石の刀が、いつも見慣れてるものに比べると遥かにデカイ。
長さだけなら桃の身長と同じくらいあるだろう。
もう絶対服の下には隠せない。
「…こいつが
本来、
これと同じ重量の鉄棒での、毎日千回の素振りから始まってな。」
あー納得。
この腕と脚の筋肉の太さも、腰骨の大きさも、この刀の為のものだったってわけか。
刀に対してこんな見方をするのは間違っているとは思うが、そう言われると確かに今までのものよりも、赤石には似合っているように思う。
にしても…現実問題として、抜けるんだろうか、この刀。
「…今、ちゃんと抜けるのかと思ったろ?」
「なんでバレたし。」
思わず心の声がだだ漏れたら、ものすごく呆れたような顔してため息つかれた。
それから、何かもの言いたげな目をしてじっと私を見た後、何故か口元がニヤリと笑みの形に歪む。
更に、デカイ手がぽんと頭に乗せられた。
「てめえが富士から帰ってきたら見せてやる。
…だから無茶だけはすんな。」
…あ。こっちもバレてる。
しかも、多分だが止めても無駄だと諦められてるし。
☆☆☆
「あか、し……。」
「ん?気がついたか?」
目を覚ました時、私は三号生の一人に背負われていた。
どうやら移動中であるようだ。
背中に綿入れのようなものを着せかけられているのは、雪が降ってきているからか。
「あっ…申し訳ありません。降りて歩きます…」
「貴様ひとり背負うのに苦労はない。
いいからギリギリまで休んでいるがいい。
この先は大将戦だ。貴様の力が回復せぬ事には、最終的に手詰まりにもなりかねん。」
「ありがとう、ございます……。」
「好きな男の夢でも見ていたのか?」
「えっ?」
「赤石は幸せ者だな。
貴様にそれほど想われているとは。」
「…なんの事ですか?」
「覚えていないのか?
目覚める直前に、赤石の名を呼んでいたぞ?」
「それで、何故好きな男の夢とか…あっ。」
半分寝ぼけながら対応していたのが急に目が覚める。
なんかはてしない誤解があるようだ。
ひょっとして三号生の間では、私は赤石の女だというのが共通認識だったりするのか。
…でも考えてみれば、赤石が過保護すぎるせいで江戸川以下他の二号生からはそろそろおかしいと思われ始めてるぽいし(二号生は赤石を怖がってるから表立っては言わないけど)、一号生の間では例の昼寝事件のせいで一時期、桃と衆道関係結んだと思われてた。
ちなみに以前赤石がその噂を知ったのは、未だに桃に対して含みを持つ江戸川が、それとなく赤石の耳に入れたものだったらしい。
策士か。アイツ意外と策士なのか。
なので私も後でそれとなくシメておいた。
それとなく、物理で。
つか富樫なんか両方疑ってやがったしあの野郎。
更に当事者の桃に至っては、もう面白がっちゃってまったく否定しないし、逆に『葉隠』の一文とか持ち出して、
「若年の時、衆道にて多分一生の恥になる事あり。
心得なくして危ふきなり。
云ひ聞かする人が無きものなり。
大意を申すべし。
貞女両夫にまみえずと心得べし。
情は一生一人のものなり。
さなければ野郎かげまに同じく、へらはり女にひとし。
これは武士の恥なり。
……俺の心は、もう光だけのものだからな。
安心していいぜ。」
とかみんなの前でワケ判らん事言い出す始末。
滅べ。
なんかもう社会的な私の立場、相当アレな気がしてならない。
ソレ考えたら、三号生は私を女だと知ってる(最初、全員に知られててメッチャ驚いたけど、全員に通達した上で緘口令を敷く方が隠すよりも私が安全だという、邪鬼様と死天王の判断だったらしい)分、認識的にはまだマシだし、表立って口にする事もないわけで。
なら訂正するのも面倒だからもうそれでいいや。
今はお言葉に甘えてもう少し寝よう。
……………。
「それにしても、ここまでで全て引き分けとは痛いな。」
「そうだな。
この大将戦で勝てなければ、たとえ全員生き残っても、奴らを引き入れるのが難しくなろう。」
「やはり赤石がメンバーにおれば、せめて一勝くらいはできていたであろうに。」
夢うつつに男たちの会話が耳に入ってくる。
言われて思い出したせいか、なんか無性に赤石に会いたくなった。
けど、瀕死の赤石を治療するなんて私は御免だ。
その場面、絶対に冷静じゃいられない。
☆☆☆
雪の富士山頂。
驚邏大四凶殺四の凶、
富士山頂の火口を利用した
天縄闘とは、蜘蛛の巣状に張られた石綿縄の八方から火をつけ、その上で闘うというもの。
石綿縄の火が全てに燃えわたるまでにおよそ一時間。
それまでに勝負がつかなければ、両者とも火口に落下し、一巻の終わりである。
私たちがそこにたどり着いた時には、桃と伊達臣人の闘いは既に始まっていた。
先発隊が用意した待機場所に降ろしてもらう。
三号生の1人が、今はすることもないのだから少し休んでいろと、例のショートブレッド様のブロック菓子と、イオン系飲料をくれた。
綿入れのような防寒具に包まりながら、それらを摂取して僅かながらでも体力の回復をはかる。
本当はもう少し眠った方がいいのだろうが、ここまで来て眠れるわけもない。
せめて動かずにいることにしよう。
白装束と黒い鎧兜。刀と槍。
男塾一号生筆頭と元筆頭。
桃と伊達臣人、二人の息もつかせぬ攻防が、足場の悪い天縄網の上で繰り広げられる。
「
うぬにこの穂先見切れるか───っ!!」
伊達臣人の槍から連続の突きが繰り出される。
それは桃の目には、一瞬で千本もの槍に襲われるように見えているだろう。
辛うじて急所を躱すのがやっとというところで(私などからみればそれ自体が既に神業だ)、桃は身体全体に一瞬にして無数の傷を受けた。
更に攻撃を躱す際に足場の縄を踏み外し、落下しかけるその身体は、寸でで縄を掴んだ腕一本で、天縄網からぶら下がる格好となる。
足場の悪さ。状況によっては空中戦。炎による時間制限。
どうやらこの闘場、これまでの一、二、三の凶の、いやらしいところばかりを集めたステージのようだ。
誰が考えたこんな事。
「それが男塾一号生筆頭か、『驚邏大四凶殺』第四の凶・頂極大巣火噴関、もはや勝負あったわ──っ!!」
その桃の頭上から歩み寄り、槍を構えながら、伊達臣人が高笑う。
「そいつは俺のセリフだぜ。」
桃はそう言うと、縄をしっかりと掴んで身体を揺らし、その遠心力と身体のバネで、一瞬で天縄網の上に飛び乗った。
それから抜く手も見せずに刀を抜き、伊達臣人の胴を逆袈裟に斬り上げる。
だがその攻撃は桃の刀に、刃こぼれを生じさせるにとどまった。
「フフフ、その太刀なかなかの業物らしいが…しかしこの黒銅鋼でかためた鎧には通じはせん。」
…むー。ズルいよ伊達臣人。
いや、防具の使用はルール違反じゃないから仕方ないけど、なんかちょっとズルい。
今の、まともに入ってたら、勝負決まってたじゃない。
…いや、防具がないならないで、躱す行動取ってるか。
アイツだって馬鹿じゃない。
むしろ切れる方だろう。
ごめんなさいシロウト考えで。
「まだまだ火がまわりつくすには時間がかかる。
一生に一度あるかないか、この大舞台、じっくり楽しませてもらう。」
ひょっとしてこの男、戦闘狂のケがあるんじゃなかろうか。
いや絶対そうだ。
考えてみれば塾長からこの驚邏大四凶殺の提案を受けた際、『男子本懐の極み』とか言ってたよ!
いや男子ひとくくりにすんな。
そんなん思うのおまえだけだよこの変態!!
ごめんなさい言い過ぎました。
再び同じ目線に戻ってきた桃を見据えながら、伊達臣人は槍を振るい、桃がその攻撃の瞬間に斬りつける。
と、桃の鋭い斬撃から飛び上がって身を躱した伊達臣人は、桃の刀の上に飛び乗った。
その勢いで、長い脚で桃の横っ面を蹴り飛ばす。
あんな重そうな防具を身につけていながら、なんという身の軽さか。
「冥土のみやげに見せてやろう…覇極流
そして伊達臣人の次の攻撃は、蛇のようにぐねぐねと曲がりはじめた槍の攻撃だった。
いわば三節棍のもっと長いやつに槍の穂先がついたようなイメージだが、あれを自在に操るのは容易なことではあるまい。
その穂先が予想外のところから桃に向かってくるのは勿論、ガードして逸らせば、そこからまた変化して、再び穂先が襲いかかってくる。
「生きた蛇のように獲物を毒牙にかける蛇轍槍!
穂先が貴様の胸を貫くのも時間の問題だ!!」
御丁寧に説明ありがとう伊達臣人。
避けても避けても向かってくる変幻自在の槍の穂先の、間隙を縫って、桃が足元の縄を蹴る。
桃の身体が、伊達の頭上より高く飛んだ。
「ほう、たまらず上へ飛んだか。
槍を相手に頭上からの攻撃は、自ら死地に飛び込むのも同然。
それこそ思うつぼよ。」
嘲笑う伊達臣人に向けて、桃が白い学ランを投げつけ、それが一瞬伊達の視界を遮る。
その一瞬に桃が攻撃を仕掛けるも、伊達は瞬時に桃の意図を見抜き、槍の一撃を返してきた。
桃の肩から鮮血が散る。
「そんな小細工が通用すると思うか。
こう実力の差があっては勝負にならん………!!?」
だが次の瞬間、伊達の顔を覆っていた仮面が、バラリと二つに割れて、落ちた。
「何を寝言を言っている。
どうやら御自慢のその鎧も、あてにはならんようだな。」
体勢を立て直して、桃がいつもの余裕の笑みを浮かべて言った。
「フッフフ、そうだ。これでいい。
それでこそ『驚邏大四凶殺』最後を飾るに相応しい勝負になろうというもの。」
やはり怖い笑みを浮かべて言う伊達の、露わになった貌の両頬に、六条の古傷が見えた。
そういや、どこかに書いたつもりで書いてなかった、今更だけど光のスペック他。
↓
江田島光(本名:橘光?)
9月20日生まれ 乙女座 AB型
身長152.5cm体重??kg
全体的に小柄で細っこく子供っぽい印象。
でも胸だけは、サラシ巻いて抑えてる上に周囲に比較対象がいない為自分では貧乳だと思ってるけど意外と小さくない。
(最初の設定では中性的な感じの長身モデル体型だったのだが、制服着せたら飛燕とイメージかぶる上、アタシの脳内イメージではちっちゃくした方が可愛かった。)
割と潔癖症気味で、食事を抜いても掃除と入浴は欠かさない。
本当は動物もあんまり好きじゃない(というか、孤戮闘修了後暫くの間、小動物を『新鮮な肉』としか捉えられなかった時期があり、今でも感覚として可愛いという感情が抱けない)が、何故か高確率で懐かれる。けど藤堂家の猫にはメッチャ嫌われてた。
暗くて狭いところと、一人きりで取り残される状況、逆に数人に取り囲まれる状況とかがちょっと怖い。
甘いもの大好き。黒蜜ときなこの組み合わせは神。お菓子に甘さ控えめというヌルい概念は必要ない。バナナはおやつに入らない。
関係ないがコロッケはおかずじゃなくおやつとかいう馬鹿は遠足の時バナナ以上に困れ。
嫌いな食べ物はないけど、人工甘味料の後味は苦手。
ぱっと見には落ち着いて細やかで女性らしい性格だが、その辺は無意識にだが結構作ってる。色々抑えて生活してるが素は甘えん坊で我儘で泣き虫。そのくせ理屈っぽい、結構めんどくさい女。けど、頭撫でてくれる人には懐く意外とチョロいタイプ。
本人朧げにしか覚えていない幼少期の育てられ方が特殊だった為、根っこのところで不自然に男っぽいところがある。時々変に口が悪いのはそのせい。
特技は本人気づいてないが忘却。覚えていようと思った事の記憶力自体はいい方なのだが(