婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝 作:大岡 ひじき
「光、ちょうどいいところに来た。
体調が悪くなかったらでいいんだが、助けてくれないか?」
豪学連組がちゃんと馴染んでいるかどうか、ちょっと様子を見に一号生の教室の前まで行ってみたら、目ざとく私を見つけた桃に声をかけられた。
助けて…って?
「桃?どうかしたんで…あ、火傷!?しかも両手!?」
なんでこんな事になってるんだろう。
桃の両掌が、まるで焼けた鉄の棒でも握ったみたいに焼け爛れていた。
彼の事だからある程度までは氣でダメージを軽減してるだろうが、それでも限界というものがある。
「ああ。大した事ないかと思ってたが、時間が経ったら思ったより病んできた。」
いやこれを、そもそも大した事ないと思うな。
「火傷って、普通の傷より厄介なんですよ。
しかも掌って、神経が集中してる場所ですから、病むの当たり前でしょう。
次からはすぐに、私のところに来るように。
…いつも通り、チクッとしますけど、我慢ですよ。」
まずは桃の右手を取り、掌に私の指先を当てる。
「フッフフ、光が治してくれると思ったら、そのチクッてやつも却って気持ちいいぜ。」
「相変わらず気色悪い事を言いますね桃は。」
「フフ、相変わらずつれないんだな、光は。」
「…はい、今度は左手ですよ。
いつも言ってる事ですけど、これで完治ではありませんから、無理な使用を避ける事と、睡眠はしっかり取る事。
いいですね?」
「光が一緒に寝てくれるなら、今すぐにだって眠れるんだがな。
いつかみたいに。」
「子供か。」
「ん?」
「いえ何でも。」
軽口の応酬を経て治療を終え、これ以上からかわれたら面倒くさいのでそそくさとその場を去ろうとしたら、なんか驚いた顔してこっち見てる雷電と目が合った。
…さっきこっそり見た限り、意外にも一番最初に、他の一号生と溶け込んでいたのはこの男だった。
年齢は塾生より明らかに上なのだろうが、本質的には相当気さくな人であるようだ。
「むぅ…光殿のその技は、もしや『橘流氣操術』!?」
「おや…知っているんですか、雷電?」
「うむ、日本に生まれた、氣を用いた治療術の中で最も洗練された技であったと聞く。
だが、今の世にそれを伝える者が居たとは…!」
言いたい事はわかるが大往生流がそれ言うな。
「…そして私で最後になります。
私はこの先、自身の子孫に、この技を遺すつもりはありませんので。」
治療術としては類を見ないほど優秀だし、もはや望むべくもない家族との唯一の血の絆、私の本音としては失われるのは惜しい。けれど。
「…それは、暗殺術としての側面を重視しての決断か?」
「…何でも知ってらっしゃるのですね、雷電は。
その通りです。禁忌を知らずしての治療は事故に繋がりますから、『橘流氣操術』だけを残して、表裏一体の『裏橘』のみを封じる事はできません。
そしていつの世も、黒い一面に目を向ける者はいるものです。
一族の同じ過ちを繰り返さぬ為に、すべての因縁を私は、私の代で、断とうと思っています。」
私の代で『橘流氣操術』が暗殺術になってしまったのは、技を全て修めた時の私が、あまりにも幼すぎたからだ。
それこそ、善悪の区別も判らぬほどに。
気がついた時には、私は既に暗殺者だった。
殺すことが私の存在意義だった。
…私だけでいい。こんな思いをするのは。
ましてや自身の子や孫に、そのような事は望まない。
私だけでいいんだ。
「もっとも、伝えるべき子が居なければ勝手に絶える訳で、私がこの先、生涯独身を貫けばいいだけの話ですけどね。」
王先生に、子供が産めなくなる可能性も示唆されたし、それならそれでいいだろう。
こんな血、絶えるなら絶やしてしまえ。
「おい、光…。」
しかし私がそう言うと、何故か桃は、少し焦ったように私に何か言いかけた。が、
「それは、却って難しい話であろう。
光殿ほどの
それとほぼ同時に雷電が、衝撃的な台詞を、周囲に配慮してかかなり小声で吐いた。
「なっ!」
「えっ!?雷電、あなた、何故それを知って…!?」
私と桃が同時に驚いて、やはり周囲を警戒する。
幸い、私たちの会話を聞いていた者は居ないようだ。
「これは失礼した。
うちの月光は気配に敏感でな。
あやつが気付いて我らに伝え申した。」
え、月光?
「…という事は、光が女だと三面拳全員、それに伊達も知っているという事か?」
桃の問いに、雷電が頷く。まじか。
「うぇ……三面拳はともかく、伊達はなんか面倒そうだな…。」
「え?」
「いえ何でも。
あの…この件は、一部の者しか知らない事ですので、どうか内密に…。」
「御安心召されよ。
婦女子に危険が及ぶ事、我らも伊達殿も決して望み申さぬ。
特に伊達殿は、
私の言葉に、安心させるように優しく雷電が言うが、
「なんかソレ却って嫌だ…。」
「え?」
「いえ何でも。」
…なんて言うか、考えてみれば伊達本人にはなんの落ち度もないし、誰に判ってもらえるとも思ってないんだけど、私的には孤戮闘をくぐり抜けてきた男ってだけで、こいつには絶対に弱味は見せられないという感覚になるのだ。
その相手に一番のウィークポイントを知られている。
決めた。伊達には極力関わらないでおこう。
☆☆☆
とりあえず豪学連組にも女だとバレたらしい事を、久しぶりに執務室を訪ねてきた赤石に言うと、
「塾長はともかく、俺に剣、J、伊達に三面拳と、あと三号生全員か。
もういっそのこと、全員に晒して秘密じゃなくしちまった方が、面倒がなくていいんじゃねえのか?」
という若干脱力するような答えが返ってきた。
「忘れてるかもしれないですけど、私がここにいるのは、命を狙われてるからなんですがね。
忘れてるかもしれないですけど。」
大事な事なので2回言いました。
しかもアタマ掻きながら「ああそうか」とか言いやがりましたよこのバカ兄貴。
本当に忘れてたんですねわかります。
「とは言っても、てめえの実家の周辺とか、最初に襲われたっていう塾長の別宅の周辺を、一応まだ警戒させてるが、はじめの頃こそ怪しいやつが姿見せたって報告が何度かあったが、今じゃそんな話は、それこそ忘れるくらいまったく上がってこねえ。
てめえの元の主人が誰だか知らねえが、いつまでも内輪の事に人員を割いてられるほどの余裕なんぞねえんじゃねえか。」
警戒『させてる』って…いや、何も言うまい。
赤石が塾の外にある程度の規模の情報網を持ってるって事はもう判ってる。
「…あの時会ったてめえの『弟』は、もっと感情的な理由で、てめえを探してそうだがな。」
赤石の言葉に、私の胸がチクリと痛んだ。
『俺と来い、姉さん。必ず守ってやる』
そう言ってくれた豪毅の、差し伸べてきた手を、私は拒んだ。
彼は今、どうしているだろうか。
やはり私の事を怒っているだろうな。
「豪くん……。」
「…もう忘れろ。」
赤石の大きな手が私の両肩を包む。
忘れられる筈がない。
そう言いたかったけど、赤石の手の温もりが優しくて、引き寄せられるままにその胸に顔を寄せ…ようとした瞬間。
コンコン。
ドアからノックの音が聞こえ、ハッと我に帰る。
赤石も慌てたように私から手を離した。
「ど、どうぞ!開いてます!」
ノックして入るのは桃かJだ。
そして桃の場合、ノックした後外から声をかけてくるから、無言でノックしたって事はJだろう…と思ったのだが。
「…伊達!?」
「押忍、失礼…………!?」
入ってきた伊達は、挨拶の途中でいきなり固まった。
見開いた目の、その視線の先は、私ではなく赤石。
「…コイツに用があったんじゃねえのか。」
少し焦れたように赤石が、伊達に話しかける。
「…あった筈だが、アンタの顔見た瞬間に全部ぶっ飛んだぜ。
まだ
「てめえの事件の後に無期停学食らって、この夏に戻らされた。
未だに二号生の筆頭だ。」
言いながら赤石が自嘲気味に笑う。
『伊達が守ろうとしてた奴らを、俺は全員ぶった斬った。
本末転倒だ。笑い話にもならねえ』
そう言った時と同じ表情。
そうだ、その点で、赤石は伊達に負い目を抱いてる。
…その話、赤石の口から伊達に告げさせたくない。
何故だか判らないがそう思った。
そして気がつけば、私は赤石の制服の裾を掴んでいた。
「…光?」
「……あ、失礼しました。」
慌てて手を離すと、何故か赤石がニヤリと、私に向かって笑いかけた。
「…俺が心配か?」
「え?…ええ、まあ。」
よく判らないが適当に返事をする。
私のその答えに赤石が何を見たかは判らないが、赤石の大きな手は私の頭を掴むと、そのままぐりぐりと揺さぶった。
「やめて脳が揺れる」
「伊達、場所移すぞ。ツラ貸せ。」
「押忍……先輩。」
私が強制的に引き起こされためまいに耐えている間に、二人は執務室を去っていった。
なんなんだよもう。
うん、私が心配するほど赤石は弱くはない。
わかってるけど。
てゆーかそもそも何しに来たんだ、伊達。
☆☆☆
「…フッ。そんな事なら、今更気に病む必要はないでしょう。
アンタらしくもねえ。」
「そう言ってくれんなら、有難てえな。」
「なんか、丸くなったな、アンタ。
……あの女のせいか?」
「…何故そう思う?」
「さっきの様子を見りゃあな。
ひょっとしてアンタの女か、あれは?」
「死んだ
そいつの代わりに守ってやると誓った。
…よもやとは思うが、手は出すな。」
「そいつは約束できませんね。
アンタの女ってんならともかく、ヤツに俺も若干興味がある。
年齢の3倍以上の人数を殺してる女ってやつに。」
「!……何故てめえがそれを知ってるかは聞かねえが、それをあいつの前で言ってみろ。
その瞬間、俺はてめえをぶった斬る!」
「………!?」
「…てめえにも、他人に触れられたくねえ過去のひとつやふたつあんだろうが。
不用意に逆撫でんじゃねえ。」
「…前言撤回だ。アンタは丸くなっちゃいねえ。
単に、キレる方向が変わっただけだな。」
☆☆☆
二号生筆頭と、元一号生筆頭が、そんな会話を交わしていたとは全く知らず、私は桃に、また組手の相手をしてもらっていた。
少し離れてJも様子を見ている。
いつも通りの光景だったが、何やら騒がし気な声がして、Jのそばに富樫と虎丸が寄ってくるのが見えた。
「お、おい。何してんだ、あいつら!?」
虎丸がなにか慌てたようにJに問う。
「光と桃はよくここで組手をしてるぞ。
俺も時々混ぜてもらっているが。」
「てゆーかあのチビスケ、めっちゃ強ぇじゃねえか!」
「聞こえとるわ!チビスケ言うなチョビヒゲ!!」
「ぐはっ!」
…富樫の言葉にムカついて思いっきり靴を投げつけた。
見事に命中した。当てるつもりはなかった。
後悔はしているが反省はしていない。
・・・
「…随分身体が動くようになってきたな。
また何か新しい概念でも入れたろ?」
虎丸が何故かヤカンに水を持ってきてくれて、桃と2人で回し飲みする。
お互い口はつけてない。
ちょっと零したけど、私は上着を脱ぐわけにいかないので、このまま乾くのを待つしかない。
こういう時、本物の男である彼らを羨ましいと思う。
ちなみにヤカンを持ってきた後、虎丸は『おれらも、光に負けんよう特訓じゃ──!』と富樫を引っ張ってどこかに連れて行った。
「今朝塾長に、合氣の手ほどきをしていただきました。
それでまた、少し戦い方が、変わったのだと思います。」
「合氣か、確かに光には合ってるかもな。
相手との身体の大きさとか、体力の差が、弱点にならなくなるわけだし。」
「アイキ…確か、相手の力をも利用しての、受けや返しの技に特化した武術だったな?」
私と桃の会話にJが反応する。
まあ、間違いではないが、Jの言う部分はあくまで結果。
合氣の基本理念は『万物との和合』。
相手の力や氣と争わないからこそ、それを受け流し、また自身のものとできる。
もっとも、私もその辺のことは端的に理解しているに過ぎないが。
というか、精神面での理解が充分に及んだ頃には、私は多分老婆になっているだろう。
そのくらい奥が深い。
「だが、それにしても凄い。
光には格闘技の
Jの言葉に、私は首を横に振る。
「桃は、手加減をしてくれています。
Jだってそうでしょう?
それでやっとついていけてるんですから、まだまだです。」
「勘弁してくれ。
光に対して手加減なしでやり合わなきゃならなくなったら、戦場に連れてかなきゃいけなくなる。」
…それは、桃は何気なく言ったのだろうが、私には傷つく言葉だった。
私が強くなろうと思ったのは、桃たちに心配をかけないように、自分の身くらい自分で守れるようになろうと思ったからだ。
そうする事で守られる立場ではなく、彼らと対等になりたかった。
それは、桃が私を『仲間』だと言ってくれたからだ。
けど桃は、戦力として頼りになるレベルにまでは、私を強くする気はなくて。
「ついて行っては、駄目なんですか?」
「…できれば、待っていて欲しいかな。」
今回の戦いには、そりゃ間に合わないし、私には私の仕事があるけれど、私だってあなた方を守りたいのに、そこそこの強さじゃ意味がない。
「そんな顔するなって。
言っておくが、光を信用してないわけじゃない。
光を危険に晒したくない…いや違うな。
俺がたとえ死んでも、光には生きてて欲しい。
あくまでも俺の感情だけだがな。」
…そしてよりによって兄とおんなじ事言うなこの野郎。
てゆーか今この瞬間思い出した。
この台詞を兄から言われた時の状況。
発作時の、氣による私の対処の効果が段々と落ちてきて、いよいよ限界だと言われ。
『わたしの心臓をお兄ちゃんにあげる』
私が、そう言った時だ。
それに対する兄の答えだった。
今考えれば、子供の浅知恵だろう。
健康な双子の妹から、瀕死の兄への心臓の移植。
そんな手術を引き受ける医者がいるはずがない。
だが、兄と離れたくない私が出した答えがそれだった。
そして、今考えると恐ろしいのは、その時は思いつきもしなかったが、自分の身体を脳死状態にする事なら、やろうと思えば当時の私にだってできたって事だ。
「…これは、理屈じゃないんだ。
ある意味、男の本能みたいなものだ。」
言い訳のように桃が続ける。
私だって、私が死んでも兄には生きてて欲しかった。
そんなの男だけの特権じゃない。
…男は、面倒な上に、自分勝手だ。
「…つまり、桃は光を好きだという事だ。」
鼻の奥がツンと痛み始めた時、Jが突然思いもよらない事を言った。
「は?」
「なっ……J!」
普段の余裕がなりを潜め、桃が焦ったように叫ぶ。
心なしか、顔が赤い。
「ある男が言った言葉だ。
守って死ぬ側の感情を突き詰めれば、『
…だがな桃。
守られる側にとっては、それは無責任だ。
守られて自分だけ生き残るくらいなら一緒に死にたい。
これも理屈じゃないんだ。
片方だけの思いを押し付けるのは、
…Jの言うある男って、多分だが兄の事だ。
兄はあの時確かに言った。
私のことが大好きだと。
私の兄は肉体は死んだが、赤石やJ、関わった者たちの中に生きて、未だに私を見守ってくれている…そんな感覚に、不意に襲われた。
「…今日はいつになく饒舌ですね、J。」
少し泣きそうになるのを我慢して言う。
Jは口元に笑みを浮かべて私に問うた。
「フッ、少し喋りすぎたか?」
「いいえ。
私がコイツに言いたくて、見つからなかった言葉を、あなたが代わりに見つけてくれました。
ありがとう、J。」
そして、ありがとうお兄ちゃん。
私は再び桃に向き直ると、腰に手を当てて胸を張って、少し声を張り上げて宣言した。
「いいですか、桃。
もし、あなたが私を守って死ぬような事があれば、私はその場ですぐ、自ら命を断ちますから!
そうしてあなたの命懸けの献身を、すべて無駄にして差し上げます!」
私の言葉に桃はまず目を見開いてから、ややあってため息混じりに言葉を発した。
「…とんでもない脅迫をするものだな。
それでは男の面子が丸潰れだ。」
「でしょうね。
ですが、男の面子だのプライドだの、そんなもの私には関係ありません。
犬死にしたくないなら何があっても生き残る事です。以上!」
男は、死に様を重要視する生き物。
そこを全否定する女の為に、命なんか張らないでくれ。
そうして何だか呆気に取られたように私を見ている桃に、Jが言葉をかけた。
「この平行線を交わらせようと思ったら、ともに戦い、勝ち残る道しかないかもしれんぞ。
光を本当に守りたいなら、俺たちが強くなるのも勿論だが、光をとことん強くして、そばに置いておくのもひとつの手だ。
安心しろ。おまえが思っているよりも光は強い。
そして、光が欲しいのは、守る手よりも携え合う手だ。
…光が好きなら、叶えてやれ、桃。」
Jの大きな手が私の頭を撫でる。
見上げた顔が、フッと優しく微笑んだ。
・・・
「…なんか、Jは大人だなぁ。」
いつもならばこの後、続けて私とスパーリングに入るJが、そういう空気ではなくなったと見たか『富樫と虎丸の様子を見てくる』と言って、制服の裾を翻して去っていく、その後ろ姿を見送りながら、私はそう独りごちた。
「それは、俺に対する当てつけか?」
ちょっと不満そうに桃が、私を睨む。
「そう思うのならば、そうなのでしょう。
あなたの中では。」
私が素っ気なく答えを返すと、桃は少し笑って、私の顔を覗き込んできた。
「本当、つれないな。また怒ってるのか?
…あの夜は、あんなに優しかったのに。」
「人が聞いたら誤解するような言い方はやめてください。」
また人をからかおうとしてるんだろうが、そうはいくか。
と思ったところで、桃は急に真顔になって、少し怖いくらい強い視線で、私を真っ直ぐに見つめて、言った。
「光…俺は、本気だぞ?」
「…はい?」
「本気で、光のことが、好きだ。」
いや、いきなり何を言うんだこいつは!
「Jに先に言われちまったから、若干格好はつかないがな。
この際だから、ちゃんと言っておく。」
…話の流れ的にその『好き』は、仲間としての感情だと思っていたのだが。
「…桃、私は」
「わかってる。
今はお互いに、それどころじゃないって事くらいな。
だから、今すぐに答えが欲しいとは言わん。
光がなんの憂いもなく女に戻れた時に、俺を男として見られるかどうか、その時に考えてくれりゃいい。」
そういう事じゃない。
私は、あなたにそんなふうに、思ってもらえるような女じゃない。
「…ならば、まずは生きて帰って来てください。
話はそこからです。」
少なくとも、こんな可愛くない事しか言えない女の、どこがいいというんだろう。
『大威震八連制覇』開始まで、あと二日。
☆☆☆
『大威震八連制覇』出場闘士達が男塾を出発したであろう朝。
私は既に長野八ヶ岳連峰にある
立ちこめる霧で、湿気を帯びた白装束が、少し重く感じた。
そろそろ覆面を着ける事にしよう。
赤石先輩の恫喝の部分さ…
構想の段階ではなかった筈なんだ…
やっぱり勝手に動き出すよこの人…