婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝 作:大岡 ひじき
一応主人公視点とかツッコミとか辻褄合わせを入れる事でなんとか誤魔化してるけど、自分の中ではやはり「うーん…」と思う。
けど以前書いてた別の作品で、主人公のいない原作通りの部分の話をメッチャ端折ってたら、感想欄で『場面が飛んだような印象を受ける』とか言われて、それが未だに引っかかってる。
はてさて、どうするのが正しいやら。
とりあえずレバー串うめえ。
「聞こえなかったか……?
今、Jが俺達に別れの言葉を言った。」
桃が硬い声で不穏な事を言う。
「奴は今、命を賭けた最後の勝負にでた…!!」
・・・
少し間があって、大気が震えた。
「急に雨が降ってきたぞ。」
「…違う、これは雨なんかじゃねえ。
こ、こりゃあ血だ──っ!!」
「う、上で一体何が起こったんじゃ──っ!!」
☆☆☆
右か…左か……前か……!?
俺は構えを取りながら、奴が生む空気の流れを探る。
どこから来るか。と、
「上だーっ!!」
待ち望んだ空気の奔流は、頭上から巻き起こった。
「烈舞硬殺指!!」
「マッハパンチ!!」
…俺たちの渾身の技がぶつかり合う。
その衝撃が大気を震わせた。
次の瞬間、明確に姿を現した卍丸と俺は、互いに互いの胸を貫き合っていた。
相討ち。
互いにあと1センチ拳が入っていたなら、そこで終わっていただろう。
だが卍丸は俺から離れると、跳躍して後方の柱に降り立った。
「どうやらおまえの力を見くびっていたようだ。
ならば俺も死力を尽くして戦わねばなるまい。
この俺を、ここまで本気にさせたのはおまえが初めてよ………。」
言うと卍丸は、再び霧の中に身を隠す。
そして次に姿を現した時には、目の前に卍丸が何人もいた。
1、2、3………全部で十人。これは、一体……!!
「魍魎拳・幻瞑十身剥!!」
十人の卍丸はじりじりと間合いを詰めてくる。
そのうちの一人が繰り出してきた手刀を躱し、反撃のマッハパンチをその身体に撃ち込むが、俺の拳はその身体をすり抜け、パンチが当たった卍丸がかき消えた。
こいつら全て幻か…!!だが、
「フッ、幻ばかりではないぞ。」
「ぐおっ!!」
間髪入れずに放った俺のパンチを躱した卍丸が放った手刀が、俺の腹部の表層を切り裂く。
そうか…!!
奴は素早い動きで残像をつくり、目を錯乱させている。
しかもこの霧がスクリーンとなり効果を倍増しているのだろう。
十人のうち実体はひとり。あとは虚像だ。
その実体をいかにして見切るか……!!
考える間にも、再び十人の卍丸が俺を取り囲む。
不意に、俺と戦った時の桃の事を思い出した。
『俺のパンチは、音速突き破るマッハパンチ。
目で見切ろうっても見切れるもんじゃねえ』
『おまえの言う通りだ。すげえパンチだぜ。
どうせ見えねえなら……』
そう言って桃は、額に巻いている布で目隠しをした。
あの時の俺はそれを、狂気の沙汰だと笑ったが、目隠しだけでは成し得なかったものの、その発想に俺は結局敗れた。
心の目を研ぎ澄ませて、見えないものを見る。
見えているものの中から、本物を見極める。
桃ならば、可能かもしれない。
だが現実に、奴と相対しているのは俺だ。
どうせ、見えないなら…?
そうだ、ひとつだけ。
この時点で心眼を開く事はできなくとも、ひとつだけ手がある。
だがそれは…!
…俺は、右手にはめたナックルを外すと、それを宙に放り投げた。
「どういうつもりだ?唯一の武器であるベアナックルを自ら捨てるとは…。」
奴の言葉に答えず、俺は右腕に力を込め、構えを取った。
武器は必要ない。
必要なのは、俺自身の覚悟だけだ。
☆☆☆
カキィン!
上から降ってきた何かが、地面に落ちて金属音を響かせた。
それがJの着けていたナックルである事を確認した虎丸が、驚きと疑問を口にする。
それを見て、何やら顔を青ざめさせた桃が、誰にいうともなく呟いた。
「まさかJの奴、あのパンチを……?」
…それは驚邏大四凶殺が終わって1ヶ月、つまりつい最近の出来事のようだ。
休養期間の間にも、桃とJは早朝に、鍛錬の為に校庭を使っていたそうで、その日はたまたま鉢合せをしたらしい。
その時、Jは同時に5個の卵が落ちる仕掛けを自作して、桃の前で、落下してくる5個の卵を、パンチで一瞬で撃ち抜いたそうだ。
……思い出したよ!
確かにこないだ、校庭の鉄棒の前の地面に何故か卵がいくつか割れてるのを見つけて、結構な臭いを放ってたので気持ち悪いの我慢して片付けたんだよ私が!
おまえだったのかよJ!
トレーニングはいいけど後片付けくらいきちんとしなさい大人なんだから!
…うん、なんていうかこれが富樫や虎丸の仕業だったりしたら、なんかそんなに腹も立たずに『しょうがないなもう』で済ませちゃいそうな気がするんだ。
赤石だったら逆に更に激怒するけど。
…さておきそれはフラッシュ・ピストン・パンチといい、本来は同じ要領で十発のパンチを出せたら成功らしい。
だが過去にそれに挑戦したボクサーは、それにより人間の持つ肉体の限界を超えた結果、一瞬にして腕の筋肉がズタズタになったという。
おまえなら10個でもできるか?との桃の問いにJは『割れても割れなくても、二度と拳が使えなくなる事は間違いない』と答えたとの事だ。
恐らくは、それを使う事をJが決意したに違いない事を、桃が告げる。
そのパンチを撃てば、Jは二度と闘えない。
ボクシングはJの命、魂。
それができなくなれば、それはJ自身の死と同じ。
「しかし誰にも止める事はできない。
奴は必ず使うだろう。
命を捨てても誇りは捨てない……そういう男なんだ!
あいつは……!!」
桃の言葉に、その場の全員が息を呑む。
☆☆☆
「実体を見切るかわりに、虚像もろとも全てを一撃で倒そうというのか!」
俺の意図を読み取ったらしい卍丸が、桃の時の俺と同じように今の俺を嘲笑う。
まあ仕方ない、可能か不可能か、俺自身やってみなければわからない。
どちらにしろ最初から『命』を賭けた勝負だ。
十人の卍丸が一斉に俺に襲いかかってくる。
その刹那、俺の右腕は、すべての幻を打ち砕いていた。
「フラッシュ・ピストン・マッハパンチ──ッ!!」
・・・
卍丸は俺のパンチの衝撃で吹き飛ばされ、その先の柱に激突した。
更にその衝撃はそこに止まらず、奴の身体が柱を貫く。
右腕に引き攣れたような痛みが一瞬走ったが、それでも思ったほどではない。
もしかしたら、神経までズタズタで、感覚がなくなっているだけかもしれないが。
悔いはねえ……。
男が勝負に命を賭ける…それがどういうことか、あんたが身をもって教えてくれたぜ、雷電……。
「行こう。下でみんなが待っている。」
ふらつく身体をどうにか支え、雷電を抱えようとした時、異変に気付いた。
柱にめり込んだ卍丸が、力ずくでそこから抜け出そうとしていた。
☆☆☆
…白装束スタッフ全員の反対を押し切って、私は柱の縄ばしごを登っていた。
あんな話を聞いてしまったらもう、正体がバレる可能性とか考えていられない。
たとえそのパンチを撃ってしまったとしても、私ならば助けられるかもしれない。
それに、雷電の事も気にかかる。
さっきこっそり聞いたところ王先生の感覚では、心停止したばかりの段階では、まだ死亡したとは見做さないらしい。
心停止からの時間が短ければ短いほど、特殊な氣の注入により高い確率で蘇生できるからなんだって。
だがこのケースの場合、倒れてから時間が経ち過ぎてる。
状態を見てみなければ、対処のしようがない。
私が柱を半分くらいまで登ったあたりで、なにかが爆発するような音が響いた。
それはまさしく、音速を超えるJの拳が、それを更に超えた事により巻き起こした
まさか。
☆☆☆
めり込んだ柱を粉々に破壊して、卍丸がまた立ち上がる。
「貴様がよもや、あの
死天王のひとりとして負けるわけにはいかないと俺を睨みつける奴に、俺は再び構えを取った。
だが、
「今やおまえは羽根をもぎ取られた鳥も同然…俺の最後の死力を、次の一撃にかける…。」
そう言って、最後の力を全てその手刀に込めて、襲いかかってくる卍丸。
その、さっきより確実にスピードの落ちた身体に、俺は…
反射的に、
「フラッシュ・ピストン・マッハパンチ──ッ!!」
☆☆☆
更に、二度目の
どういう事だろうか。
例の
とにもかくにも、ようやく柱のてっぺんが見えてきて、私は慎重に縄ばしごの最後の一段に手をかけた。
ここに来て脚を踏み外しでもしたら一巻の終わりだ。
私が死んだらみんなを助けられない。
柱のてっぺんに手をかけて、身体を持ち上げようとして、こちらを見下ろして怪訝な顔をしているJと目が合った。
そして次の瞬間、いきなり手を掴まれて引き上げられた。
一瞬焦るも、自分が覆面をつけている事を思い出して、なんとか平静を装う。
Jはどうやら雷電を背負おうと屈んだ瞬間に、登ってくる私を見つけたものだったらしい。
私は懐から予備の遮鉛板を取り出すと、それをJに示してから雷電を指差した。
喋ったら私だとバレるので、その程度のボディランゲージが精一杯だ。
しかしJは私の言いたい事をすぐに理解してくれたと見え、私の差し出した遮鉛板を受け取った。
それを雷電の磁靴の踵に差し込む。
そうしてからようやく雷電を背中に背負ったJが、私に薄く微笑んだ。
…どちらの腕も普通に使えてるようだし、それで大人の男ひとり持ち上げたって事は、懸念した事態は起きていないようだ。
でも、それならあの
まあいい。
ひとまずはサムズアップを返して、登ってきた縄ばしごを再び降りる。
Jの腕が無事だというのならば、今私にできるのはここまでだ。
雷電はこのまま、Jに連れてきてもらおう。
「Thank you very much.For your advice.
Be careful about a step.」
(感謝する。足元に気をつけて行けよ。)
…言われて、初めてとんでもない高さまで登って来てしまった事に気付いた。
余計な事思い出させんな馬鹿。
・・・
「死亡確認。」
慎重にゆっくり降りていき、なんとか地上にたどり着いたあたりで、王先生の声が聞こえた。
どういう経緯なのかわからないが、卍丸が先に地上に降りていたらしい。
救命組の何人かがそのまま彼を連れて行く。
そこに、人ひとり抱えている関係上、私よりもっとゆっくり、慎重に降りて来たJの姿を見つけた虎丸が、泣きべそ顔で指差して皆にそれを告げた。
「J──ッ!!」
「俺だけが勝ったんじゃねえ…ふたりで勝ったんだ……。
先に、雷電のために祈ってくれ。」
歓喜して飛びつかんばかりに駆け寄ってきた虎丸と富樫を制して、Jは腕に抱いた雷電の身体を下に降ろした。
すかさず王先生がその心臓の上に指を置き、氣を注入する。
「死亡確認。」
そしてまた、雷電の身柄は救命組に預けられる。
やはり心停止していたようだが、今ので蘇生はできたものらしい。
…今、私、本気でこの人に弟子入りしようかと考えている。
…Jはやはり
それも二度。
それは人間の能力の限界を超えるパンチを、Jが完全に己のものにした事を意味する。
「どんな苦境に陥ろうとも諦めない…それを雷電が教えてくれたからこそ、
磁冠百柱林闘、男塾一号生側、勝利。
☆☆☆
次の闘場へと歩き出す途中で、Jが突然倒れた。
桃がJの上着を捲ると、胸の傷からひどく出血している。
先ほどまではそうでもなかったのに、歩いているうちに傷が開いてきたらしい。
「置いていくがいい。然るべき手当はしよう。
そのままでは死ぬ。」
そう言いながら、王先生がチラと私の方を見る。
実は救命組のスタッフはほぼ他の三人の方に割り振られていて、現時点ではこの場に私しか居ない。
彼らは救命処置が終わり次第、次の闘場へ向かう手筈になっている。
「ふざけるな……俺はいくぜ。
おまえ達と一緒に……。」
「当たり前じゃ!
Jをひとりこんな所に置いて行けるか!」
だが、ここでJに治療を受けさせる事に、本人と富樫虎丸コンビがゴネた。
「何を言ってやがる。
こんなケガ人抱えては足手まといもいいとこだ。
俺たちの身まで危なくなる。」
と、伊達がさっきと同じような厳しい表情で相当キツイ事を言う。
それに虎丸が食ってかかるのを桃が制した。
こうでも言わなければJは聞き入れないと。
…さっきから見てると、伊達はフォローしてくれる人がいないと、かなり誤解されやすいタイプかもしれないな。
この男もまた、一人で生きるには相当危うい。
もっとも本人がそもそもそれを望まないだろうが。
だが、やはり適材適所というか、伊達には桃にない厳しさがある。
時として非情な判断を下さねばならない場合、桃だと思い切れない事を、伊達ならば必要に応じて行なえるだろう。
これは、いい相性と言えるのではなかろうか。
「Jは任せよう。
だがな…奴の身にもしもの事があったら、あんたにも死んでもらう事になるぜ。」
厳しい表情で、伊達が王先生を睨みつけながら言う。
それに対して、
「最善は尽くす。」
と、王先生は全く動じていない声と表情で伊達に答えた。
救助組のスタッフが急遽2人私に貸し出され、担架でJを運んで、治療スペースへ連れていく。
その横に付き従って、私は一緒に移動した。
てゆーか。
この第一戦めに関して言えば、なんだかんだで私が一番仕事してない?
気のせい?
・・・
とりあえず最低限、Jの胸の傷から出血を抑える処置が完了したタイミングで、眠っていると思ったJに何故か手を掴まれ、胸の上まで引き寄せられた。
「光…だな?」
「…!?」
名前を呼ばれて、答えることもできずに固まっていると、Jが目を開けてこちらに微笑みつつ、私の覆面を空いた方の手ではねあげた。
「やはりな。
覆面をしていたところで、背の高さと手で判るさ。
男塾に来てから何度この拳を、掌に受けてきたと思ってる?
…大分楽になった。
さっきの柱での事も含めて、感謝する。」
と言うことは、柱の上で会った時には、既に私だと判ってたって事か。
まあでも、楽になったならよかった。
「どういたしまして。あの…J。
私とここで会った事は、他のみんなには」
「ああ。…だが、何故隠れる必要が?」
「私はここに中立の立場で参加しています。
けれど、一号生は私がいたら、無意識に安心してしまうだろうと、王先生が。
私もそう思いますし。」
立場的に中立だが、気持ちはどうしても一号生側に傾いてるのは認める。
どうしたって、なんだかんだで長く時間を過ごしてる分、それなりに情もわくものだ。
御前のもとにいた時には知らなかった感情だが。
ここの男たちの熱い魂は、否応なく私に、人間の感情を呼び起こさずにはいない。
それらは時に、苦しみももたらすけれど、それも悪くない。
「そうだな…確かにその通りだ。」
言いながらJが、手を伸ばして指先を私の頬に触れた。
なんか最近、ほっぺ触られる事多いな。
つかぷにぷにすんなこの野郎。
「J、眠ってください。
私の治療は、睡眠時間がなければ完了しません。」
小さい傷ならいいが、Jの胸の傷は見た目よりも深かった。
それを少しの間、手当てもせずに放置して開かせてしまったから、死ぬ事はないまでも状態はあまりよろしくない。
私の氣の量に不安がなければ、完全に消してやりたかったくらいだ。
どちらにしろ睡眠は不可欠だが。
「フッ、それは残念だな。
思いもかけず、俺が光を独占できた、数少ない
「…あなたもそういう冗談を言うんですね。
まあ、それが言えるならもう大丈夫でしょう。
私が言うと、Jは名残惜しげに私の手を離した。
…正直、桃みたいな我儘言われたらどうしようかと思っていたが、そこはやはりJは大人だ。
深く息を吐きながら、目を閉じて呟く。
「…Goodnight, sweetie.」
…
こういう冗談がいやらしくないところが、さすがはレディーファーストの国の軍人だ。
さあ、次の闘場へ。
私も闘士達を追いかけなくては。
というわけで、卍丸先輩がこの時十分身できたのは霧のお陰ですw
本来は五分身が精一杯らしいですwww