婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝 作:大岡 ひじき
「待てい!梯网上の闘いはこれまでだ。」
手にしたドスを抜き放ち、覚悟を決めた表情の富樫が梯网に上がる階段に足をかけた時、王先生がそれを止めた。
「この大威震八連制覇・竜盆梯网闘、両軍一名ずつになった場合は、その様を変える事になっている。」
王先生が手を挙げて合図を出すと、天井から硫硝酸盆に数多の、短い円柱型にカットされた形の石が落ちた。
それは水面に浮かんで、小さく泡を立てている。
「これぞ
投げ落とされた石は
全てが溶けてなくなるまでおよそ15分。
その間に勝負がつかなければ、全ての灰雲岩を溶かした硫硝酸が体積を増して、盆を支えるロープを溶かし、下に落ちる仕掛けだという。
さっきも例に出した驚邏大四凶殺の灼脈硫黄関での闘いに似ているだろう。
Jが苦労した足場の悪さを、今度は富樫が体験するわけだ。
足場の岩がただ浮いてるだけだから、むしろ状況的にはあれよりも更にタチが悪い。
そこまで聞いたところで、救命組が『死亡確認』された飛燕を運搬し始めたので、私は一旦それについていく事にした。
王先生が蘇生はさせたものの出血が酷かったから、直ちに造血の処置をする必要がある。
今回はプロの救命士達が仕事をしているから、止血の方は彼らに任せればいいが、更にもうひとつ、どうしても気になる事があるので。
・・・
「あ、顔の傷本当に消えた!良かったー!」
「ほんとほんと。
すごく綺麗な人なのに、もったいないって思ってたんだよー。
男性だけど。」
一番の懸念、これで解消。
何せ万一傷が残ったら今度こそ伊達とお揃いだ。
その伊達ですらもったいないと思ってるのに。
なんせ硫硝酸盆の上の梯网上を歩くよりも、パリコレのランウェイを歩いてる方が、よっぽど自然ってくらいの美貌なんだから(なんて事を思っていたら何故か、以前ターゲットの男性が連れて行ってくれたウェディングコレクションのファッションショーの場面が頭に浮かび、更にそのランウェイを腕を組んで歩いてきた男女モデルの顔の記憶が伊達と飛燕で上書きされて、慌ててその光景を頭から追い出した。『うわーメッチャお似合いの二人』とか素で思った事は秘密だ。うっかり言ったら殺されそうな気がする)、私がいる限りこの顔に傷なんて残させない。
以前やった時と同じように頭部全体に術を施したから、また10センチくらい髪伸びたけど。
あとは造血の処置をして終了。
邪鬼様からレクチャーを受けての鍛錬の成果がようやく出てきたのか、驚邏大四凶殺では虎丸と月光の二人に施した途端に倒れた造血処置を行なったにもかかわらず、思ったほど氣を消費せずに済んだので、
「…そういえば、独眼鉄はどうしてます?
火傷、酷いようでしたら治しに行きますけど。」
と一応申し出てはみたのだが、
「いいよいいよ。
あんなゲス野郎に、光ちゃんの手を煩わせる事ないって。」
って言われて教えてもらえなかった。
そうじゃないのに。
この人たちも事情を知らないまま、独眼鉄の変態劇場だけ見ちゃってるわけだから仕方ないけど。
命が助かってることは間違いないから、全部終わったら王先生に聞くとするか。
ならばこれ以上、ここで私の出る幕はない。
富樫とセンクウが戦っている闘場に戻ろう。
富樫…大丈夫かな。
☆☆☆
梯网から軽々飛び降りて、足場の浮岩に容易く着地したセンクウを見下ろしながら、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「気をつけろ富樫ーっ!!
足踏み外しでもしたら骨になっちまうんだぞ──っ!!」
檻の中から、虎の野郎が余計な事を言う。
んな事ぁ、言われなくてもわかってるってんだ。
ビビってると思われんのも癪だから、気合いを入れて飛び降りる。
飛燕ならば、今のセンクウよりもっと軽々と、まるで羽根でも生えてるみてえに飛び降りてふんわり着地すんだろうが、俺にはそんな体術はねえ。
案の定、着地した岩が傾いて俺はバランスを崩し、倒れかける。
危うくブリッジ状に別の岩に手をついたら、今度はその岩まで動き出しやがったから、仕方なく着地した岩から足を離して逆立ちの体勢を取り、手の方の岩に尻餅をつく事で、なんとか硫硝酸の池に落ちんのは免れた。
ふう。こっから生きて戻ったら、少し体術の方も鍛えねえとな。
俺も光の野郎と組手でもしてみるか。
桃とやってた時のあいつは、驚くくらい軽快に動いてた。
少なくともあれについていけるくらいにはならねえと、戻った後またこんな闘いがあった時、あいつに取って代わられちまう。
「光は格闘技の才能があるし、成長力もなかなかのものだぞ。
体格に恵まれていないぶん、どうしてもパワー不足なのは否めないがな。
それ以外は、完璧だ。」
俺と虎丸がタッグ技の案を出し合ってる時に、俺たちの様子を見に来たJがそう言ってた。
Jはアメリカ人の割には物事を大袈裟に言ったりしねえ奴だ。
あいつが言うんなら間違いねえだろう。
腐っても鯛、チビスケでも塾長の息子って事かよ。
へっ…生きて戻ったら、か。
そんな事考えられるなんて、俺も余裕のある事だぜ。
だが負けるわけにゃいかねえ。
そもそもは兄貴の復讐の為の戦いだったが、今は更に、飛燕のオトシマエもつけなきゃならねえんだからな。
・・・
「富樫、傷はもういいのか?」
ここに移動する霊柩車型の趣味の悪いバスの中で、編み物なんぞしながら顔を上げ、俺に話しかけてきた、その表情をふと思い出す。
何のことかと一瞬思ったが、天動宮でのことかとすぐに思い当たった。
「おまえに大四凶殺で受けた傷に比べりゃ屁でもねえぜ。」
俺の答えに、人形みてえに整った顔がフッと笑う。
敵として対峙してた時も、終始余裕って感じで笑ってやがったが、あの時の顔とは全然違う、あったかみのある、優しそうな笑い方。
こいつ、本当はこんな顔で笑いやがんのな。
「それに、俺たちには光がおるからな!」
その優しげな顔に騙された他の奴らが間に入ってきて飛燕に話しかける。
…言っとくけどそいつ、俺に対する第一声が『汚い顔をしている』だった奴だからな?
単なる挑発だと思うから今は気にしてねえがな。
…本当に気になんかしてねえぞ?
「光というのはあの女性………みたいな顔をした人ですね。塾長秘書の。」
間違っちゃいねえが、てめえが言うな。
てゆーか、今の妙な間はなんなんだよ。
「そうそう。
あいつは変わった特技持ってて、あいつが触るとなんでか傷が塞がんだぜ。」
「傷が…塞がる。」
鸚鵡返しに言いながら、何か考え込むように、飛燕が自分の左頬に指を触れた。
…あれ?
そういや俺、そこに結構デカい傷負わせたよな?
見た感じなんも残ってねえようだが、あれだけの傷が、ひと月でこんなに綺麗に治るもんか?
…残ってなくて、良かったけどよ。
自分でした事ながら、ゾッとする。
俺も傷持ちだが、俺とこいつじゃ、その重さが全然違う。
…いつだったか、光の野郎に傷の手当てをされていた時、不意に顔を触られて驚いた事がある。
「勿体無いなぁ。」とか言って、間近から顔を覗き込んできて…不覚にもちょっとドキッとした。
「あ?な、何だよ?」
落ち着け俺。こいつは男だ。
「この傷。
かなり古そうですけど、いつのものですか?」
「これか。
俺は覚えちゃいねえが、4才くらいの頃らしい。
何でか知らねえが屋根から落ちて、そん時そばの樹の枝に引っかけたって兄貴が言ってた。
眼球じゃなくて良かったって。」
「あー…子供の顔は、特に皮膚が薄いからなあ。
でも大人よりも細胞の代謝が活発だから、適切な処置さえすれば残らなかった筈なんですよね。
その際に手当てした人も、眼球じゃなくて安心しちゃったんでしょうね。
あーあ、その時私がそばにいればなぁ。
絶対に顔に傷なんか残さなかったのに。」
「へっ。この面相で傷の一つや二つ、あってもなくてもそう変わらねえよ。」
「そんな事ありません。
私は好きですよ、あなたの顔。味があって。」
うるせえよ。味があるってそれ褒めてねえだろ。
てゆーか傷ましげに傷跡に指なんか触れんのやめろ。
カーチャンかてめえは。
『私がそばにいれば、絶対に顔に傷なんか残さなかったのに』
…俺のこの顔ですら『勿体無い』って言う野郎が、こいつの顔の傷見てほっとけるわけねえ。
気付いちまった。
俺がつけた飛燕の頬の傷、絶対にあいつが治してる。
多分今、飛燕の野郎もおんなじ事考えてんだろう。
………。
「そうなんじゃ。
だからわしらはあいつの事、保健の先生みたいなもんだと思うちょる。」
「そうじゃな。
塾の中で負った怪我なら、あいつがチャチャッと治してくれるからのう。
『ちょっとチクッとしますよ』とか言って。」
「あと『何をどうしたら、こんな怪我をするんです?』とかなんとか小言も言いながらな!」
「違いねえや。」
…どうやらこっちでは、光の話がまだ続いてたらしい。
「そういやあいつ、出発前の見送りに来てくれんかったな。」
「仕方ない、あいつも忙しいんじゃ。
なんか自分から仕事抱え込んでる気もするがな。」
「でも、大四凶殺の前には顔出してくれたのに。」
「あん時は虎丸のメシ持ってきただけだろ?
…ちょっと見ただけでも美味そうだったな、あの唐揚げ。」
秀麻呂が何気無く呟いた言葉に、虎の野郎が反応する。
「光のメシは本当に美味いぞ!
おれは懲罰房で半年、あいつの作ったメシを食っとったから、今の寮のメシが不味くてかなわん!
あー、いっその事、光が男根寮の寮長になってくれんかのう。」
…それは俺も実は、油風呂の時にあいつのメシ食って、その後寮に戻された後に思った。
だが、もしあいつが寮長だったら、俺なんざ毎日小言を言われ続けてる気がする。
まあ、そんなもんであのメシを毎日食えるなら安いもんだが。
「それいいな!
あいつを気に入っとる赤石先輩には悪いが、わしは以前から、光が二号棟にも出入りしとるのが面白うなかったんじゃ!
そうなれば光は完全に、わしら一号生のもんじゃからのう!」
松尾の言葉に何人かがうんうんと頷いてる。
「…光という人は、随分と慕われているようですね。」
そんな俺たち一号生の会話に、飛燕が微笑みを浮かべながら言う。
それに椿山が食い気味に答えた。
「勿論だ!光さんは素晴らしい漢だ!
あの人の為なら俺は死ねる!」
「あー、椿山の事は気にしなくていい。
コイツの光への思い入れは特別だから。」
唾でも飛ばしそうな勢いの椿山に明らかに引いてる飛燕にそう言って、俺はさりげなくその隣に座り直した。
「…そういえば、寮のわたし達の入った部屋に、
「秋桜?わかんねえけど、そうかもな。
あいつ、しばらく男根寮で部屋の掃除とかしてくれてたし。」
寮長の馬之助の野郎が不精してて、使っていない部屋の清掃が面倒だからと、俺たちは入塾からずっと、狭い部屋に数人まとめて押し込まれてた。
それを見かねて、せめて二人一部屋くらいにしてはと提案したのが自分だから…と埃と格闘してた光のマスクと割烹着姿を思い出す。
椿山をはじめ何人かは自主的に手伝いに行ってたな。
俺もやろうかって言ったら、怪我人は大人しくしてなさいって断られて、何故かアタマ撫でられたけど。
だからカーチャンかって。
「もう少し待ってくださいね。
部屋割もさる事ながら、TVもちゃんと見られるようにしてあげますから。
何せあなた方はいずれは、この日本の未来を負って立つ若者たちなんです。
世の中の情報に置いていかれたら話になりません!」
だってよ。
こいつらの部屋の掃除もその作業の一環で、花は歓迎のつもりだったんだろう。
あいつらしいっちゃあいつらしい。
らしくねえと言えばらしくねえが。
「…そうか。
ならば、それも含めて、後でお礼を言わなければ。
最初は敵として現れたわたしたちへの、あの人なりの歓迎のメッセージなのでしょうし。」
「メッセージ?」
「秋桜の花言葉は『調和』です。
上手くやっていけって意味でしょう。」
「へえ…。」
花言葉ねえ。
男塾で生活してるとそうそう聞くこともねえ言葉だ。
てゆーか、そんな事いちいち考えて花なんて飾るもんか?
秋桜なんて今の時期、そこらへんの庭とか街路樹の下に幾らでも咲いてるぜ?
俺が納得いってねえのが顔に出てたんだろう。
飛燕は薄く微笑んで、肩をすくめて言った。
「ある程度は知っておかないと、女性に嫌われますよ?
こっちが単に綺麗だからと贈った花が、相手からは馬鹿にしてるのかと捉えられる場合もありますからね。
たとえば、極端な例としては
単独では『逆境の中の希望』ですが、これを人に贈る場合には何故か『あなたの死を望む』になるのですよ。
そんなものを贈られたら、どう思われるか想像できるでしょう?」
なんだよそれ。ややこしいな。
人に花を贈るなんて機会、これから先の俺に巡ってくるかどうかは知らねえが、わざわざ贈る時にそんな事まで考えなきゃいけねえのかよ。
見舞いに鉢植えが駄目だって事くらいしか知らねえよ。
「……飛燕。
と、そんな話をしていたら、反対側で桃と一升瓶傾けてた伊達が、唐突に飛燕に話しかけてきた。
つかギボウシって何だ?
「確か…『沈静』ですが、何故?」
「ぶっ……間違いねえ。
絶対、知ってて選んでやがる。」
飛燕の答えを聞いて伊達が吹き出す。
つか、こんな顔して笑いやがんだな。こいつも。
そもそもこいつの顔を初めて見たのが天動宮で再会した時なんだが。
こいつらと闘った驚邏大四凶殺では、あのふざけた鎧カブトと仮面の姿しか見てなかったからな。
桃が名前を呼んだ事と、他の三人と一緒に居たからこの男を『伊達』だと判断できただけで、単独で現れてたら『…誰?』ってなってた筈だ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「赤石が夏に
それが擬宝珠だったらしい。
あの男が花の名前なんぞ知ってる事にまず驚いたから、その時は意味なんざ考えもしなかったが…くくっ。」
赤石先輩に『沈静』か。
騒ぎ起こすなって意味だろうな、間違いなく。
願い虚しく、だったが。光よ、御愁傷様。
「どうやらあの人、性格は見た目よりも相当
面白そうに笑いながら飛燕が言う。
だから!その通りだがてめえが言うな!
敵として相対してる姿を知ってるぶん、俺にしてみればてめえの方がずっと怖ぇよ!
・・・
その顔のイメージを裏切らない、華麗な技を駆使しながら、顔に似合わぬ壮絶な闘いをする奴だった。
でも気を許した相手に対する情には篤い奴だった。
付き合いは短かったが、俺はてめえを忘れねえ。
飛燕…おまえの死は決して無駄にしねえ。
おまえの仇、俺が必ず取ってやる。
たとえこいつと刺し違えてでも、俺は絶対に負けやしねえ…!
「いくぞ。」
言うや、センクウが無造作に足場の石を蹴り、空中に飛び上がる。
そのまま俺に向けて、さっき飛燕にも見せた、鋭い突起のついた踵の蹴りを放ってきた。
辛うじて避けるも、次の一撃までの間が驚くほど短い。
奴はこの足場を、まったく苦にしちゃいねえようだ。くそ。
☆☆☆
私が闘場に戻ってきた時、二人の闘いはどう見ても富樫に不利な展開となっていた。
いくら飛燕との闘いでのダメージを差し引いても、かたやセンクウは拳法の達人。
かたや富樫の武器はドス一本、しかも小太刀や小具足といった刀剣術を修めているわけでもない、単なるケンカ殺法。
その富樫の気合い声とともに繰り出したドスの一撃を、センクウは当たり前のように難なく受け止める。
「チィッ!!」
「フッ、俺と飛燕との戦いで何を見ていた。
ただガムシャラに芸もなくドスを振り回して、このセンクウに勝てると思うのか。」
言い終わらぬうちにセンクウの手刀が富樫を襲い、それを辛うじて避けたものの、滑らせた富樫の右足が硫硝酸の池に浸った。
「うわちゃ──ーっ!!」
一瞬にして富樫の右足の、脛から下が焼け爛れる。
「と、富樫──っ!!」
檻の中から虎丸が叫び、桃や他の闘士たちも、その痛々しい光景に息を呑んだ。
…が。良かった。みんな忘れててくれて。
先ほど言った通りこの硫硝酸の池、戦闘開始の頃と比べて濃度が半分以下まで下がってる。
もしずっと同じだけの濃度を保っていたとしたら、最初に投げ入れられたウサギ同様、すぐに足を引き上げたところで富樫の足、火傷なんかで収まってる筈もなく今頃骨だけになってるって事を。
双方怖がって最後まで足元に気をつけて闘ってくれるだろうと踏んでいたから、まさか本当に足を踏み外すマヌケがいるとは思わなくてちょっと焦った。
桃とか、あと月光もなんか勘が鋭そうなんで、ひょっとしたら気付くんじゃないかと思ったけど、どうやら大丈夫だったようだ。
「うぐぐ…!」
だが、骨にこそならなかったものの富樫のダメージは一目瞭然、靴もズボンも一瞬で焼け溶けて、焼け爛れた足が痛々しい。
「貴様の相棒は、俺にこれだけの深手を負わせて貴様に勝利を託し、捨て石となって死んでいった。
しかしそれはかなわぬ夢だったようだな。」
呆れたようにセンクウが言い捨て、掌を富樫に向けて翳す。
あの飛燕すら苦戦した技で、一瞬にして富樫の全身が切り刻まれ、傷から血が噴き出す。
「地獄で飛燕に詫びるがよい。」
…なんて言うかセンクウ、ちょっと怒ってるぽい?
あれだけ自分に肉薄した飛燕を認めた分だけ、富樫の未熟さ、不甲斐なさが許せないといったところか。
…勝手だな。
元はといえば、その未熟な奴らと闘う為に、一計を案じたのはおまえらだろうに。
ふと気づくと、檻の中で相変わらず虎丸が騒いでいる。
「も、桃!
てめえはなんでそんなに落ち着いてられるんじゃ──っ!!」
と、何故か桃に絡み始めたが、いやおまえが落ち着きなさすぎだよ虎丸。
というかこの子、驚邏大四凶殺の時には下手すりゃ桃より落ち着いてたのに、なんかキャラ変わってない?
それともこっちが本来の彼だったのだろうか?
だが、絡まれた桃はまったく頓着しないかのように、まっすぐ富樫を見つめていた。
「フッ…なんて野郎だ。この場に及んで。
笑っている…富樫の奴は笑っていやがる。」
は?私は思わず闘場の方を振り返る。
「時間もない。
次の一撃で、この勝負に終止符をうつ。」
私たちより富樫の近くにいるセンクウが、次の攻撃に移る構えを取る。
その動きから目を離さぬように、その場にじっと立った富樫の……
その口元は、確かに、微笑んでいた。
老け顔のくせに、楽しい事を見つけた子供のように。
センクウの身体が跳躍し、突起のついた例の踵がまたも富樫の身体を狙う。
「何をそんなに勝負を急いでる。
溶けて小さくなっていく足場が、そんなに気になるのか……拳法の達人も、勝負より自分の命が惜しいらしいな。」
言いながらニヤリと笑う富樫の狙いは…
「俺の命は
それが男・富樫源次のケンカ殺法だ──っ!!」
その、自分に向かってくるセンクウの左足に、富樫は真っ直ぐにドスを突き立てた。
「奥義・和風総本家!」
「な、なにーっ!し、柴犬の仔犬が駆けてくるぞーーっ!!」
「な、なんて可愛いんじゃーーっ!!」
「むう…あれはまさしく和風総本家…」
「知っているのか、雷電?」
「うむ」
…という夢を、書きながらうたた寝している時に見ました。なんかもう色々廃人レベルかもしれません。