婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜魁!!男塾異空伝   作:大岡 ひじき

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ヤヴァイ…改めて原作読み返したら、桃さんかっこよすぎる…!
アタシの文章力では表現しきれない…!!


16・未来は君の夢を試すだろう

 桃の背中を闘場に見送ったあと、私は回収された月光を追いかけ、歩きながら治療した。

 背中から心臓に至る傷も勿論だが、腕と脚の切り傷は、大動脈を切断しているので、それも塞いでおく。

 例の、怒粧墨状態で戦っていれば、ひょっとしたら回避できてたんじゃないかと思うが、恐らくは彼、そもそも怒るって事がほぼないっぽい。

 虎丸と戦ったあの時が特別というか、それだけ虎丸が失礼過ぎたのだろう。

 なんていうか、うん、ごめんなさい。

 なんで私が謝ってんのかよくわからないけど。

 ああでも、あの状態だともしかしたら、繊細な動きとかは逆にできないのかも。

 虎丸の時はあの後からただの乱打攻撃になっていたし、それだったら通常運転で棍を握っていた方が月光は強いのかもしれない。

 何はともあれそれ以上の出血を止める程度に、最低限まで傷を塞いだら少し疲れたので、治療スペースに向かう担架をそこから見送りながら、こっそり覆面の下でキャラメルをひとつ口に含む。

 思ったより使ってしまった氣の残量的に、コレでも少しヤバイかもしれない。

 驚邏大四凶殺の時のように、ほんの数分でも眠る事ができれば、若干の回復は望めようが、現時点ではそんなわけにもいくまいし。

 と、後ろで一号生たちの叫ぶ声が聞こえ、思わずそちらを振り返った。

 その前に一瞬だけ、空気を切り裂く音が聞こえていたから、月光を倒した影慶が、今度は桃に向けて、例の水晶の(よく)を投げ放ったのだろう。

 闘場では影慶と対峙している桃が、左手に刀を鞘ごと腰の位置で構えて、あろう事か、目を閉じている。

 あれ…この体勢ってひょっとして。

 次の瞬間、桃が右手で(つか)を握ったところまでは目視出来た。けど。

 

「無限一刀流・心眼剣!」

 高い衝撃音が、遅れて響く。

 続いて、なにかが割れ落ちる音。

 それは、目にも止まらない居合の技だった。

 それが影慶の投げた恟透翼(きょうとうよく)を、真っ二つに斬り割ったのだ。

 多芸だとは思ってたけど、こんなことまで出来るのかこの男。

『心眼』の方は、Jとの試合の時に会得したやつの、剣技への応用だろうけど。

 居合は、まだ豪毅が修行に出される前に、御前が手づから庭で教えているのを何度も見た事がある。

 あの当時で形がもう出来上がっていると、御前が影で褒めていたものだ。

 

 ……アレ?ひょっとして豪毅、今でも剣技の、基本スタイルは居合だったりとかしない?

 あの時普通に抜けとか言っちゃって、刀抜かせた状態で「桃より落ちるな」とか思ってたけど、居合って抜いた状態ではそもそも終わってるわけで、実際にその攻撃力が最高潮に高まってるのは、確実に抜く前の筈だ。

 豪毅が氣を扱う攻撃ができるかどうかは知らないけど、あの時彼の身体の裡に、充実したそれを確かに感じた。

 あの居合の体勢で練った闘氣を溜めて、抜く際に放出するような技がもし使えたのなら、その攻撃力は比類なきものとなるだろう。

 うわあゴメン豪くん。

 お姉ちゃん多分にあなたの実力見誤ってた。

 

「ざまあみやがれ!

 これであのブーメランは残り一枚じゃ──っ!!」

 ……はっ。

 いかん、桃の剣技に見惚れたせいで、意識が明後日に飛んでいた。

 

「見事な剣さばきだ。

 さすが一号生筆頭と言われる事はあるようだな。

 この(よく)の発する微かな振鳴音で、その動きを察するとは!」

 …影慶が感嘆したように言う。

 けど、物の見方がちょっと浅いな。

「心眼」って耳だけじゃないと思うよ。

 赤石曰く、目に見えないものを心で視ること。

 どんな物体もこの地球上で、空気を動かさずに移動することは不可能。

 その中で、動くものが見えないのならば。

 

 風の鳴る音を聞いて。

 空気の動きに触れて。

 その中の、異質を嗅ぎ分けて。

 動いてきた空気を、味わって。

 

 うまく言えないけど、つまり五感のうち視覚以外を全部使って感じ取るって事じゃないかと思う。

 …私もだてにこの数ヶ月、赤石の明後日言動を見続けてきてるわけじゃないぞ。

 まあ、この場合無駄に目のいい赤石は、ひょっとしたら普通に恟透翼も目で確認して『俺に斬れぬものなどない』とか言ってるのかもしれないが。

 

「ここまでは月光も、目と耳の違いはあるものの、躱しきった。

 しかし、これを雷の落ちる雷鳴とともに投げたらどうなると思う。

 貴様の心眼剣は通用せん!!」

「まずい!

 カミナリの大音響に、ブーメランの振鳴音がかき消されてしまう!!」

 影慶が言うのを聞き、伊達が焦ったように言うけど、だーかーらー音だけじゃないってば。

 …けど、一度あれだけの精神集中が為された直後は、どうしても若干散漫になるのは確かで。

 同じことは、いくら桃でも2回続けてはできないかもしれない。

 

「くるぞ!!」

 雷雲が近いゆえの大気の震えが場を支配して、雷光が闘場を照らす。

 

「お、落ちた──っ!!」

 続く雷鳴が、爆発のように響く。

 

「死ねい──っ!!」

 影慶が見えない刃を振りかぶる。

 瞬間、桃が着ていた学ランを、影慶に向かって投げた。

 それは透明な(よく)を一瞬包み、次にはその回転によって布地が裂かれる。

 

「う、うまい!

 あれで学ランの穴の位置から、ブーメランの軌道がよめる──っ!!」

 その裂かれた部分に向かって、桃が刀を逆袈裟に斬り上げた。

 高い衝撃音が響き、撃ち返されて勢いを殺された(よく)が、どうやら影慶の顔に向かって飛んだらしい。

 影慶は小さく首を傾けてそれを躱す。

 

「フッ…驚いた……。

 俺の恟透翼が、ことごとくうち破られるとはな。」

 学ランを使うってアイディアは初出じゃなく、伊達と戦った時にも使っていたな。

 それはそれとして関係ないが、男塾の授業には、鍛錬系に比べると時間数は少ないが、実は縫製の授業もある。

 何せ、破れるたびにいちいち新調していたら、何着買わなきゃいけなくなるかわからないから当然だが、最初に聞いた時には意外だった。

 なのでこの間富樫の学ランを手に取る機会があり、せっかくなのでよく見てみたら、確かにあちこちに縫い跡があった。

 のだが、それは女の私が敗北感を覚えるくらい綺麗に縫われていて、ちょっとだけ泣いた。

 ちなみに卒業生の中には、和服ブランドを立ち上げて成功している人もいるらしい。

 そんなわけできっと桃も、塾に戻ったら自分であの穴、ちくちく繕うんだろうと思う。

 ちなみに以前邪鬼様に留め具吹っ飛ばされた私の制服は、天動宮で充てがわれた部屋に入ったら、全部きちんと縫い直された状態で置いてあった。

 閑話休題。

 

「驚くのはまだ早い。

 俺が何故(よく)を割らずに、刃峰ではじきとばしたか、わからんのか?」

「なんだと……!?」

 2人の頭上でまた雷光が閃き、その光を空中で何かがキラリと反射する。

 その輝きは回転しながら、影慶の背後から接近して、影慶の左肩に命中した。

 それは、影慶の投げた水晶の(よく)

 桃は刀で弾き飛ばした時、それが回転して戻ってくるルートも計算して、角度と力を調整したものらしい。

 あの一瞬で。恐ろしい男だ。

 (よく)が突き刺さった影慶の左肩から血が溢れ出す。

 どうやら肩の大動脈を切断したらしい。

 それを目にしてか桃が、抜いた刀をおさめる。

 だが影慶は、傷口から更に血が噴き出すのも構わずそれを引き抜くと、刃物を構えるように握りしめた。

 

「何故、剣をサヤにおさめた…!?

 これしきの傷で、この俺がまいるとでも思ったか!!」

 言うや、今度はそれで斬りつけるように振りかぶるも、その動きはやはり出血のせいか精彩を欠き、攻撃は全て桃の、鞘に収まったままの刀に防がれていた。

 なんか、さっきの月光戦の再現みたいだ。

 そして、ようやく桃の刀が再び抜かれたかと思えば、影慶が手にした最後の武器も、その一閃で粉々に砕かれた。

 驚きに硬直したその一瞬で、桃の刀の切っ先が、影慶の喉に当てられる。

 

「ここまでだ…!!

 その出血で今の貴様では、この俺を倒す事はできん。

 死んだ月光も、貴様の死を望んではいまい。」

 そう言った瞳が、やけに哀しげに見えたのは私の気のせいか。

 

「この勝負桃の勝ちじゃ──っ!!」

 一号生たちの盛り上がりをよそに、影慶は間合いをとり、まだ構えを取ろうとする。

 そこに、彼らの頭の上から、突如声がかかった。

 

「奴の言う通りだ、影慶。

 あとは、この邪鬼にまかせるが良い。」

 抑揚のない、冷たい口調。

 彼を知らない者にはそう聞こえるだろう。

 けど、邪鬼様の普段の姿をある程度見ている私には、それはひどく優しいものに聞こえた。

 そこには、自分が信頼する側近に対する、疑いのない信頼と、いたわりが確かに顕れている。だが、

 

「これは、邪鬼様のお言葉とも思えませぬ。

 男塾死天王を束ねるこの影慶が、死を恐れてこのまま引き下がる男でない事は、あなた様が一番御存知のはず。

 …お忘れですか、愾慄流(きりつりゅう)、死の奥義を!」

 影慶のその言葉に、邪鬼様の表情が微かに曇る。

 桃の勝利を確信していた一号生たちが、ブーイング気味に騒ぎだす。

 

「影慶、貴様…!!」

 それを気にも留めず、邪鬼様は相変わらず抑揚のないながら何やら悲痛なものを含んだ声で、闘場に立つ腹心の名を呼んだ。

 雷鳴が、また轟いた。

 

 

「見るがいい、剣!!」

 言うや影慶は、どこからか取り出した竹筒を取り出して、そこから右手に何かの液をかける。

 影慶の手が、黒く変色していく。

 あ、なんかいやな予感しかしない。

 

「愾慄流死奥義、穿凶毒手(せんきょうどくしゅ)!!

 この影慶のこの世で見せる、命を賭した最後の拳を受けるがいい!!」

 いやちょっと待って。

 

 

「穿凶毒手とは、恐るべき男よ、影慶。」

「し、知ってるのか王大人!穿凶毒手とかを!!」

「奴が手にふりかけたのは、巨象をも数秒で倒すであろう劇薬だ。」

 ああ、やっぱり。

 

「中国拳法秘伝中の秘伝…あの毒手で、かすり傷でも負わせれば、そこから血液に毒が入り、たちどころに相手は絶命する。

 しかし仕掛ける側も、毒が直接体内に入ることとの時間差さえあれど、徐々に毒が皮膚に浸透していき、己の命を絶つことになる。

 そして何よりも恐るべきは、死を覚悟した者が、そこから生み出す闘いの気迫!!

 まさに死の奥義よ。」

 …ただ一言言わせて貰えば、影慶は肩に負傷してるから、間違ってその右手で左肩に触れたら即アウトなんですがそれは。

 

 

「もう、この邪鬼何も言わぬ!

 最後まで貴様の戦い、この目で見届けようぞ。」

 邪鬼様が一言、影慶に声をかけ、影慶が振り返ってそれに頷く。

 その影慶の目を見て、気付きたくなかったが気付いてしまった。

 影慶は、その命も力も、その存在は邪鬼様の為だけにある。

 その命を、邪鬼様の為に使って死ねることを、喜びとすら思ってしまっている。

 

 

『オレは、オレが死んでも、おまえには生きてて欲しい…オレは、光が大好きだから、さ。』

 唐突に兄の言葉が、脳裏に浮かんだ。

 愛に溢れていながらそのくせ自分勝手な言葉が。

 邪鬼様は、そんな影慶をどう見ているんだろう。

 

 そんな悲しい愛情なんて、誰も欲しくはない筈なのに。

 与える側に、なぜそれがわからないのだろう?

 邪鬼様は、愛する人を亡くす悲しみを、もう既に知っている。

 その悲しみをもう一度与えてまで、捧げるべき想いなのか、それは。

 

 私は嫌だ、そんなの。だから必ず助けてみせる。




「居合の体勢で練った闘氣を溜めて、抜く際に放出するような技」
…光さん。それアバンストラッシュって言いませんか(爆

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