婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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ダイジェストするのも難しいです。
どこを残すかって問題にどうしてもぶつかります。
だからってまともに書いたらいつまで経っても予選リーグ終わりません。
仕方ないのよ…ヨヨヨ。


3・Beyond the Win

 独眼鉄の遺体を引き上げて自陣に戻る。

 しばし休息を取った後、また次の試合だそうだ。

 独眼鉄の遺体は係員が「然るべき手続きを踏んで本土に送り返す」と言っていたので、任せることにする。

 というか、説明してくれた覆面の係員の声に、聞き覚えがある気がしたのは気のせいだろうか。

 …いや、まさかな。

 次の俺達の対戦相手は、まだ戦っている最中のようだ。

 勝った方が俺達と戦うこととなる。

 見れば、先程のJや、狼髏館の首天童子と同様、一人対全員で戦っていたようで、一人で戦っている男は一輪車に乗って構えている。

 というかよくよく見れば相手の方も、構えているのは一人だけで、あとの全員が柱のように、頭から地面にめり込んでいた。

 その最後の一人が槍で、一輪車の男に突きかかる。

 だが一輪車の男はそれを難なく躱し、槍の男の周囲を、残像すら見えるほどのスピードで回り出した。

 そのままジャンプしたかと思えば、何やらギザギザした輪を、槍の男の体にはめて持ち上げ、その頭を地面に叩きつける。

 それから、どのようにしたものか一輪車ごと体を真横に倒して、男の体にはめた輪のギザギザと、一輪車の車輪に付いているギザギザを合わせて、歯車のように回転させた。

 槍の男の体が、頭から地面にめり込んでいく。

 この『人柱』は、こうやってできたものらしい。

 

「天挑五輪大武會予選リーグ二回戦、淤凛葡繻(オリンポス)十六闘神チーム、勝利!!

 準決勝進出決定!」

 

 ☆☆☆

 

 淤凛葡繻(オリンポス)十六闘神。

 紀元前、古代ローマの皇帝が、武術に秀でた者を直属の親衛隊としていた。

 彼らの技は凄まじいばかりの威力と特異な戦法で人々に恐れられた。

 その技を継承するのが、今登場に立っている奴等だという。

 一輪車の顎翎洙(アキレス)と名乗るその男と戦ったのはセンクウ先輩。

 その猛攻を躱しながら、大威震八連制覇で飛燕と富樫を苦しめた千条鏤紐拳(せんじょうろうちゅうけん)の鋼線を、顎翎洙(アキレス)の周囲に張り巡らせる。

 

戮家(りくけ)奥義・千条獗界陣(せんじょうけっかいじん)!!」

 センクウはマントの下から十数個の、鋭いトゲのついたようなデザインの独楽(コマ)を出すと、その鋼線の上で回らせる。

 …うむ、マントの下の上半身は素肌の筈だから、収納していたのはマントの方に、だよな?

 いかん、なんだか思考パターンまで光のやつに染まってきている気がする。考えるな。

 センクウの指先で意のままに動くというそれは、顎翎洙(アキレス)に一斉に襲いかかったが、次の瞬間奴の身体は土煙に紛れて消え、次には地中から姿を現した。

 その際にセンクウの足首を掴んで持ち上げ、頭を地面に叩きつけんとする。

 だが勿論それをまともにくらうセンクウではなく、そのまま倒立の姿勢になると、膝下からそこに仕込んでいた刃を出して、得意の足技で反撃した。

 これも大威震八連制覇で富樫が苦しめられた技だ。

 あの時と刃の形が変わっている気がするが。

 その攻撃が顎翎洙(アキレス)に手傷を与えることはなかったが間合いを離す事には成功し、センクウは体勢を整える。

 

「海のハイエナといわれる謷葬鳥(ごうそうどり)が、人柱の死臭を嗅ぎつけて集まってきおった。」

 顎翎洙(アキレス)は車輪を回転させて土煙を上げ、恐らくはまた地中に隠れたのだろう、姿を消す。

 ひとまず周囲の人柱を背にし、次の攻撃に備えて構えるセンクウだったが、実はその人柱が奴だった。

 奴は逆さの状態で今度は腕で車輪を回して、脚でセンクウの首を締め上げ、回転する。

 このままでは遠心力で締め落とされると思ったが、センクウは周囲の人柱に鋼線を投げて、それに掴まって脱出した。

 だが肉体のダメージは大きく、奴のスピードに追いつけない。

 遂に奴の手にした刃の一撃を胸に食らって、地面に膝をつく。

 苦し紛れにか、投げた鋼線が奴の身体を掠めて、上空を飛ぶ鳥を捉える。

 そのままとどめに繰り出された顎翎洙(アキレス)の一撃を、なんとか急所を外すも受けてしまい、センクウはもはや抵抗もままならない状態に見えた。

 

「どこを狙ったつもりだ。

 このうえまだこの顎翎洙(アキレス)に、無駄な悪あがきをしようというのか。」

「た、確かに貴様は強い。

 だが古代ギリシャ神話において無敵といわれたアキレスは、唯一、踵が弱点であったため、敗れ去ったという。

 貴様のアキレスの踵…。

 それは自分の力を過信し、思い上がった心が生む油断だ!!」

 再び投げた鋼線の先に付けた(おもり)が、またも上空の鳥に巻きつく。

 それから逃れようと暴れる二羽の謷葬鳥がそれぞれの方向に向かって飛び、その瞬間、いつのまにか顎翎洙(アキレス)の首にも巻き付けられていた鋼線が、鳥に引かれて奴の首を締め血飛沫を散らした。

 

「どうやら謷葬鳥が喰らいたかったのは、貴様の屍だったようだな、顎翎洙(アキレス)。」

 だが顎翎洙(アキレス)の首が千切れる前に糸を切ったらしいセンクウ先輩は、無駄な殺生は好まぬ、と言ってこちらに戻ってきた。

 光に言わせると彼は「デリカシーが足りない」男だそうだが、俺が見る限りそういう風には見えない。

 まあ、女性視点では見えるものが違うのだろう。

 

 ・・・

 

 次に闘場に立ったのは、やはり死天王のひとり、卍丸。

 対する贅魅爾(ジェミニ)と名乗る男は、先の顎翎洙(アキレス)が立てた人柱に凭れ、竪琴など弾きながら登場する。

 その隙だらけの相手に対して、卍丸は何故かまったく動かず、構えたまま驚愕したように立ち尽くしていた。

 やがて贅魅爾(ジェミニ)が立ち上がり、竪琴を弾いたまま、刃物を付けた脚が卍丸を襲う。

 だがその瞬間、卍丸はマスクから針を吹き出し、それは贅魅爾(ジェミニ)の手に突き刺さった。

 些細な攻撃だが、それで贅魅爾(ジェミニ)が竪琴を取り落とした次の瞬間、卍丸はようやく、自慢の鋭い手刀を、贅魅爾(ジェミニ)に向けて放つ。

 

「竪琴の音色を利用した攪音波催眠とは。

 危ないところだったぜ。」

 どうやら卍丸先輩は、竪琴の音色による精神攻撃を受けていたらしい。

 

「どうあがこうと貴方の運命はすでに決まっているのです。

 わたしのブラッディー・クロスによって死ぬことが!!」

 竪琴を拾う事はせず、贅魅爾(ジェミニ)が怪しげな構えを取る。

 それを見て卍丸先輩は何故かマスクを外し、それを地面に投げ捨てた。

 

「運命か…教えてやるぜ!

 運命とは、自分のこの手で切り開いていくものだということを!!」

 

 ☆☆☆

 

 …よし。

 塾長の枕元の水差しの横に、詳細をしたためた手紙を置く。

 念の為、出かける前に教官たちにも言伝ておくことにする。

 あと、今日中に天動宮へ出向いて、一両日中には塾に戻ってくる『死亡者』の身柄の受け取りを、一般三号生にお願いしてこよう。

 この様子だと、予定している一名はともかく、予選リーグでもう一人くらいは戦闘不能者が出る恐れがある。

 私の見立てでは富樫、虎丸、蝙翔鬼のうちの誰か…つか、まさか予選リーグでこいつら全員消えるとかないだろうな。

 予定通りなら、予選リーグのどこかで敗退する一名の代わりに赤石が入って、その一人が裏で闘士達を助け、影から危険を排除したり、状況によっては暗殺に近い事も請け負う手筈になっているのだが、彼以外の敗退者が出たとなると、彼にそこまでの余裕はなくなり、展開次第では正体を隠して闘士としての出場もしなければならない。

 塾長が決勝近くになった頃にあちらに行く事になるが、こちらも状況次第で闘士として出場する事になろう。

 というか、あの性格の人が、最後まで手を出さずに見守っていられるとは思えないんだよね…。

 そして、私。

 達人級の人たちに稽古をつけられていて、正直自分が今、どのレベルにいるのかわからないが、そこそこ戦える程度にはなっている筈だ。

 敵に触れられる位置まで近付けば、暗殺術でもなんとかできるだろう。

 まあ、対戦相手も馬鹿じゃないから、戦えて2戦が限度だろうが。

 とにかく、無理して揃えてこれで四人。

 いやもっと無理すれば二号生の江戸川や丸山…は駄目だな。

 一号生なら松尾や田沢…はもっとないか。

 うん、四人。

 これ以上、少なくとも予選リーグで人数減らされたら対処できない。

 その場合はたとえ勝ち残ったとしても、決勝リーグへの進出は辞退しなければならないだろう。

 耳につけたイヤホンから、大まかな試合結果が流れてくる。

(…ていうか、短波ラジオをイヤホンで聴くって、側から見たら競馬好きのオッサンみたいだと思ってしまうのは偏見だろうか)

 現在まだ試合が残っているのは男塾が戦っている第一会場のみ。

 現在は準決勝、対戦チームは淤凛葡繻(オリンポス)十六闘神というチームだそうだ。

 他の会場では決勝リーグ進出チームは既に決定したとの事。

 三回連続優勝を果たした梁山泊は今回も難なく勝ち残り、優勝候補としてやはり一番に名を挙げられている。

 解説によればこのチーム、割と最近首領が代替わりしたという話もあり、それがどう影響するかというのも見どころのひとつと言われている。

 あと、男塾と同様初出場で決勝リーグ進出した冥凰島十六士というチームがあり、名前からすると間違いなく、主催者である御前の私設チームだろう。

 冥凰島、というのは決勝リーグ戦が行われる島の名前だからだ。

 御前がかねてから希望していた御自分のチームでの出場を、やっと果たせたという事だろう。

 そして塾長の話では、御前は自身の後継者に、まだ正式にではないそうだが豪毅を指名したとの事だから、豪毅は恐らく闘士十六人の中にいる。

 だとするとこの大会の出場そのものが、藤堂財閥次期総帥、藤堂豪毅の正式披露という事になるのだろう。

 

『父上は、いずれ御自分のチームを出場させたいとお考えなのだ。

 俺は、必ずその一人になるつもりだ。』

『頼もしいですね。

 そうなったら、私も必ず応援に参ります。』

『本当に?約束だぞ、姉さん。』

 あの日のやりとりが、昨日の事のように浮かぶ。

 約束、守れなくてごめんなさい。

 あなたが、あなたのお父上の為にそこで戦う間、私は私の『父上』の為に、私の戦いをしなくてはならない。

 ううん、何よりも私の為に。

 私自身の運命を、この手で切り開いていく為に。

 塾長は多分、明日の朝までは目を覚まさない。

 目を覚ました頃には、予選リーグの結果は出ているだろう。

 

「それまでは、どうぞゆっくりお休みください。

…父上。」

 小さく声をかけてから、私はその部屋を出て、音を立てぬように襖を閉じた。

 

 ☆☆☆

 

魍魎拳(もうりょうけん)幻瞑分身剥(げんみょうぶんしんはく)!!」

 五ッ身分身。

 Jの奴と戦った時と違い、ここにはスクリーンになる霧がないからここまでが限界だ。

 それをもって奴を撹乱しながら攻撃するも、奴はギリギリでそれを躱していく。

 放った手刀が一度、奴の頬を掠めて傷を負わせたが、奴は一旦空中に飛び上がって間合いを離すと、なんと俺の上を遥かにいく八ッ身分身で攻撃してきた。

 

淤凛葡繻(オリンポス)スパイラル・エイト!!」

 奴が指先につけた金属の爪が、一斉に俺の体を切り裂く。

 馬鹿な…信じられん。

 体術の頂点を極めたといわれるこの俺でさえ五ッ身分身が限界……!!

 それを八ッ身とは……!

 

「かすり傷とはいえわたしに血を流させたのは貴方が初めてでしたよ、卍丸…!!」

 その言葉でふと気がつく。

 奴の八ッ身分身の中に、俺が負わせた頬の傷がない奴がいる。

 もしや贅魅爾(ジェミニ)というのは……!!

 八ッ身分身が一斉に、トドメとばかりに襲いかかってきた。

 

「伊達や酔狂でこんな頭してるんじゃねえんだ!!」

 髪の中に隠していた刃のブーメラン、龔髪斧(きょうはつふ)を両手の指先で挟んで投げ放つ。

 それは躱されはしたものの『奴ら』の動きが一瞬止まる。

 

「危ない、兄者──っ!!」

 傷のある方が叫び、戻ってくる龔髪斧(きょうはつふ)の軌道からもう一人を庇い、外す。

 動きが止まってみれば、八人いた贅魅爾(ジェミニ)が二人になっていた。

 

「やはり貴様等、双子だったか。」

 ジェミニ=双子座。ひとり四分身で八ッ身ということだ。

 二人対ひとりだったと知り、自陣から後輩が駆け寄ってきそうになるのを制して、俺は櫛で乱れた髪を整える。

 

「こいつらだけは、俺が倒す…。」

「やはり予言は正しかった。

 貴方はわたしたちのブラッディー・クロスで死ぬしかないのです!!」

 なにが予言だ。

 俺は奴らに向けて構えを取るが、やはり先ほどの出血が堪えているのか、体がついてこない。

 奴は肩車状態で輪のついた二本の棒を持ち、それを十字に構える。

 そのまま太陽の方向に跳躍したのをうっかり目で追った俺の目が光で眩む。

 その瞬間棒の先の輪が首と両手首に嵌り、まるで聖者の磔のような格好にさせられて、奴らの爪が、俺の鋼胴防を貫いて、胸が十字に切り裂かれた。

 

「やはり運命を変えることなど、しょせん不可能なのです。」

 そう言って去ろうとする奴らを呼び止める。

 奴らは爪に猛毒を塗って、再び跳躍すると、同じ技をまた仕掛けてきた。

 

「どんな苦境にあろうが、決して希望を捨てず、諦めない…それが運命を切り開くということだーっ!!」

 俺は拘束されていない脚を使って、再び頭から龔髪斧(きょうはつふ)を投げ打つ。

 

『大威震八連制覇でJと戦ってるの見て思ったんですけど、意外と股関節柔らかいですよね、あなた。

 脚上げたら、首の後ろに踵上がるんじゃないですか?』

 天動宮に俺たちの様子を見舞いに来た光のやつが、そんな事を言っていたのを思い出した。

 言われた時はまさかと思ったが、やってみたら意外とできるもんだ。

 それを躱しながら嘲笑う奴らの間を通って、龔髪斧(きょうはつふ)は俺のもとへ帰ってくると、俺の左手首を拘束する輪を破壊する。

 それにより動くようになった手で、俺は毒を塗った爪で胸板を狙ってきた奴らの手首を捉えると、向かい合わせになった奴らの胸を、その勢いのまま互いに貫かせた。

 

「あなたは大した人だ…!」

 自分たちの用いた毒で地面に倒れ、最後に手を取り合おうとしながら力尽きた兄弟の手を、せめてもの情けと繋ぎ合せてやる。

 

「いい勝負だったぜ。」

 

 ☆☆☆

 

 俺達の待つ自陣に戻ってきた卍丸先輩が、怪我の手当てより髪の乱れを優先して直している姿に少し安心した。

 気がつけば陽が落ちてきて、次の戦いは闇夜の中でということになるようだ。




それでも贅魅爾(ジェミニ)戦はどうしても書きたかったんです。
理由は勿論、「伊達や酔狂でしてるんじゃないヘアスタイル」と、ラストシーン。
卍丸先輩紳士説、アタシの中では揺らぎません。
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