婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜 作:大岡 ひじき
いい男だしモテるけど、几帳面すぎて一人の人と長続きしないタイプだと思われます。
倒れた蝙翔鬼の身体を、脱いだ自分の学ランで覆って、月光は
それから自身の身体を慣らすと同時に
よく見れば影慶と戦った時に使用した棍とは違うもののようで、中心部分に鉤状の突起がついている。
「貴様、棍を使いおるか。
それもかなりの腕のようだ。」
「外道相手に聞く耳も話す口ももたん!」
その会話を皮切りに、
だが月光はその場から動かず、棍を真っ直ぐに繰り出した。
「
月光の棍の先端は、ユニコーンの角の先端にピタリと合わせられ、その突進を止めている。
加わる力は同じでも、触れている面積が小さければ小さいほど一点への圧力は大きい。
とはいえ、それはユニコーンの側でも同じ筈なのだが、単純な力で勝る筈の馬が、月光の棍を押しあぐねている。
「教えてやろう。
このわたしの
月光は跳躍すると、それまで止められていた力そのままに突進するユニコーンの頭上から、棍を真っ直ぐに突き下ろすと、例の鉤状の突起をユニコーンの角に引っ掛けた。
突進する力が、引っ掛けた鉤とその接触部分に最大限にかかった瞬間、月光は棍を回転させる。
瞬間、梃子の原理で角はあっさりと叩き折られた。
そろそろ俺にもわかってきた。
月光の技は得物が何であろうと、それは全て精密にして正確なのだ。
その計算された攻撃はそこで終わらず、月光は折れた角をその勢いのまま反転させ、
「死ねい、外道馬よ!!」
先ほどの
「次は貴様の番だ、
非業の死を遂げた蝙翔鬼の為に、わたしはこの勝負、鬼神と化す。」
馬を殺された
改めて見ると馬から降り立った
それは普通の人間の胴回りくらいある。
赤石先輩もそれに近いくらいあるが、彼は腕も腰も骨格自体が太い。
光曰く『多分幼少期からの、重い得物に対応する鍛錬の成果でしょう』との事だったが、この
その
逆に月光の方がそれに同情して、馬の額に刺さった角を抜いてやっていた。
そんな事をしている間に、奴の仲間が闘場の縁を囲むように、ぐるりと鉄柱を立てている。
その仲間の一人から放られた棘のついたサッカーボールのような球を、器用にその棘を避けて操る。
凄まじいスピードと回転で蹴られた球はユニコーンの死体の首を切り落とし、外側にぐるりと立てられた鉄柱に跳ね返って、奴のもとに戻る。
それは今度は月光目掛けて蹴られ、月光はそれを棍で撃ち返すも、再び蹴られたそれは鉄柱に何度も跳ね返っては月光のもとに戻ってきて、遂には月光の肩に傷をつけた。
恐ろしい技だ…!!
奴は蹴球が鉄柱に跳ね返る角度だけではなく、月光が棍で防ぎはじき返す角度までも、正確に計算して蹴り出している。
あの蹴球の動きを封じない限り、月光に勝ち目はない…!!
そのまま一回転して空中で球を蹴る。
いわゆるオーバーヘッドキックだ。
月光はそこから向かってくる蹴球を、鉄柱を背に迎え撃つ。
それは先ほどユニコーンの角を受け止めた見切り技、
蹴球の衝撃は鉄柱を支えにして受け止め、棍の先で球を貫く。
だが貫かれた球は破裂し、その中に仕込まれていた粉のようなものが月光の目に入ってその視界を塞いだ。
勝利を確信した
だが月光は焦ることなく、やはり
「ま、まさか貴様……!?」
「やっと気づいたようだな。
この月光、生来目が見えん。
そのわたしに、目つぶしなどとは笑止千万!!」
どうやら蝙翔鬼がいまわの際に月光を指名した理由がこれだったようだ。
「この目は見えずともわたしには、研ぎ澄まされた心の目がある。
見せてやろう。
完全に精神的優位に立った月光が、指先で弾いた碁石を、棍で宙に打ち上げる。
重力に従って普通に落ちてきたそれは、
こんなものが当たっても何でもないと嗤う
もう一度碁石を打ち上げる月光に、
もう一度試しても同じ。
「これぞ
それは人間が一定条件下で心理的圧迫を受けた際、誰であろうと同じ行動を起こすという法則の元、それを読むという奥義らしい。
「恐怖は恐怖を呼び、今や貴様は迷路に迷い込んだネズミも同然。
そして碁石を、この穂先をつけた棍にかえた時、どうなるか。
いくら逃げても無駄なことはわかったはず。」
そう言って宙に振りかぶった棍を投げ放つ。
「貴様の
「
言われてよく見てみれば、馬の首に刺さっていたのは月光の棍ではなく、先ほど折られたユニコーンの角。
では、棍の方は…?
「
最初に投げた角に気をとられるあまり、あとから投げた棍に気がつかなかったな。」
次の瞬間、
「外道!!貴様にふさわしい死に様だ!
これで安らかに眠られい、蝙翔鬼殿……!!」
☆☆☆
「全員、気をつけい──っ!!」
戦いを終えた月光をヘリの救護室に連れて行き、虎丸と富樫が次の出番を争っていたら、突然羅刹先輩が声を張り上げた。
見るとその側に、邪鬼先輩が立っている。
富樫や虎丸が「今まで一体どこに?」とか言っているが、ここは海上の人工島で、他に行くところなどある筈がない。
ヘリの中で休んでいたのは間違いないだろうに、あいつらは一体何を言っているんだ。
その邪鬼先輩も、「戦況を報告せい。」とか言い出したところを見ると、ひょっとしたら今まで寝ていたのかもしれない。
呑気な人だ。
もっとも、光に言わせると『邪鬼様はこの世のありとあらゆる常識が通用しない人ですから、何をしていても驚きません』との事だから、そんなもんなのかもしれない。
というか、何故あの高飛車女が、あの人の事だけは『様』呼びなんだろう。
まあいい。報告を求められているのだ。
素直に従うとしよう。
「現在予選リーグ準決勝まで勝ち進み、
しかし我が男塾もこれまで、独眼鉄と蝙翔鬼、二名を失いました…いずれも、見事な最期でした。」
俺の報告に邪鬼先輩が頷く。
「……そうか。惜しい奴等をなくした。
ということは、大将は
ならば、この邪鬼みずから行かねばなるまい。」
気負い込んで出てきたけど、ほんとに寝てたな、この人。
だが、あの身体中から発散する迫力と威圧感は、さすがに帝王と呼ばれる男の貫目。
「知っているのか…邪鬼は
伊達の呟きが、吹き荒れてきた嵐の中に散った。
「そうか。貴様が男塾を率いておったとはな。
フッ…久しぶりだ、邪鬼。」
「貴様、まだ生きているとは思わなかったぞ…
☆☆☆
赤石とイヤホンを片方ずつ使いながら、予選注目カードの中継を聞く。
「…顔が近え。もう少し離れろ。」
「仕方ないでしょう。これ以上無理です。」
「…ちったあ意識しろ、馬鹿女。」
なんでここで罵倒されなきゃいけないんだろう。
この男のスイッチは未だによくわからない。
「ん…雑音でよく聞き取れなかった。」
「どうやらあっちは天候が荒れているようですね。
三日三晩戦い続けて四日目の朝、互いの急所を狙ったままどちらも拳が届かぬまま気絶したと。」
このカードを密かに楽しみにしていたと、解説者が熱く語っている。
それにしても、またしても三年前か。
それにその
それも確か三年前の話だった筈だ。
…今度影慶に詳しい話を聞いてみよう。
ひょっとしたら触れちゃいけない事かもしれないけど、私は既に影慶には嫌われている。今更だ。
「三年前…そうか、あの時期、邪鬼が入院してたってのはそういう理由だったか。
そんな二人がこの大会でまたぶつかるとはな。
まさに、宿命の対決ってわけか。」
とか言ってるところを見ると、赤石もよく知らないぽいし。
「また、壮絶な戦いになりそうですね。
三年の時間を、お互い無駄にしていなければの話ですが。」
「俺は邪鬼と戦った事はねえが、あの男に関してその心配は杞憂だろうぜ。」
まあ私もそう思うけど。
邪鬼様はあれだけの強さを誇っているにもかかわらず、強さを求める事に貪欲だと思うし。
ちなみに大威震八連制覇で桃に使った、髪の毛に氣を伝わせた不動金縛り、やはり私の技をイメージして使ったものだと、後になって白状した。
もっとも私が居なくてもあの人なら、あの場面で咄嗟に思いついてもおかしくないけど。
それはさておき、大将の
だから、数の有利などあてにはならないというのだ。
同じレベルの相手ならばともかく、邪鬼様相手に有象無象が何百人集まろうが、相手になるはずがない。
てゆーか解説者も『そーいうのいいから早く』みたいな態度で実況すんのやめろ。
いくらなんでもかわいそうだろ。
有象無象とか自分で言っといて何だけど。
「…っくしゅん!」
と、唐突にくしゃみが出てしまい、慌てて口を両手で覆う。
勢いで外れそうになったイヤホンの位置を直していたら、赤石の太い腕に肩を抱かれ、胸元まで引き寄せられた。
…肩に赤石の体温が伝わってきて、自分の身体が冷え切っていた事に、今初めて気がついた。
「…あったかい。ありがとうございます、赤石。
…てゆーかあなた自身が寒くないんですか!?」
赤石の制服は相変わらず袖なしだし、下にはシャツすら着ておらず、前ボタンは全て開けられたままだ。
確かに筋肉は熱を作るというし、この体型はそれに事欠かないだろうけど、それにしたってこの格好で、どうしてこれだけ体温を維持できるんだ。
「鍛え方が違う。」
私の問いに、赤石は一言だけそう言ってのけた。
ちょっと心配したのに、そうですか脳筋め。
☆☆☆
どうやら伊達の言う通り、邪鬼先輩と
最初からお互い真正面から全力でぶつかり合い、その拳は数合交じり合った後、互いに寸分違わぬ箇所の、お互いの身体にダメージを与える。
互角…二人の力はまったくの互角だ。
「どうやらこの三年という歳月を、無駄には過ごしていなかったようだな、邪鬼。」
「貴様もな。」
「このまま続けても、三年前のあの時と同じように、未来永劫勝負はつくまい。」
「受けられるか、
掴み出したのは、一匹の蛇。
グリーク・ティナコンダという名の毒蛇で、咬まれるとどんなに強靱な体力の持ち主であっても、20分で全身に毒がまわり、死に至るという。
助かるにはその20分の間にその蛇の生き血を飲む事。
ただし解毒作用のあるその血は、一匹の蛇から一人分しか採れないのだとか。
そう説明すると
そうしてから邪鬼先輩にも促すと、邪鬼先輩もまた、その牙の前に腕を伸ばした。
その腕に毒牙が食い込んだのを確認すると、
「この血を
血を絞り出した蛇の身体を投げ捨てながら、
この場にいない光さんのかわりにつっこんでみようシリーズ。
月光「外道相手に聞く耳も話す口ももたん!」
ひじき「なにその三重苦」
ケンタロウ「五年ぶりの地だ」
ひじき「あんたんちの風呂やトイレどんだけ広いんだよ!」
…ヤヴァイ、改めて原作読んでたらこの辺の展開全てが笑えて仕方ない……やめてくださいしんでしまいます。
笑いすぎて執筆が進まないなんて初めてだったよ!