婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜 作:大岡 ひじき
いや、遠回しに邪鬼様ディスるのやめてください羅刹先輩(爆
「どうやらあれが次の対戦相手らしいぜ。」
伊達が言うのを聞いて闘場に目をやると、ゴム鞠のような体型をした男が、こちらに向かって立っていた。
あまつさえ、さっさと来いと言うように指を動かして手招きをする。
「ここは俺にまかせてもらおう。」
そう言って闘場に歩み出たのは羅刹。
同じ死天王として固い絆で結ばれていた、死んだ影慶の分まで戦うと言った彼の、その身体から発散される闘気に皆が圧倒される。
「だが気になるな、あの対戦相手。
あのような体型で一体、いかなる拳法を…!?」
飛燕が闘場を見据えながら呟く。
確かにこの局面で出てくる以上、
見た目で判断するのは危険だ。
「我が名は牛宝。
今こそ我らの真の力を見せてやろう。」
そう名乗りをあげる相手に答えず羅刹先輩は、
この世に貫けぬものはないという
対戦相手の牛宝という男も、耳にしたことはあるようだ。
「それがこのわしに通じるかどうか…。
さあ、来るがよい。
わしはこのまま、一歩も動きはせん。」
舐めているとしか思えない言葉に羅刹は戸惑いながらも、
「
牛宝が気合を入れた瞬間、確実に体を捉えていた筈の羅刹の
「わしの体全体はいわばゴム…。
筋肉は固く鍛えるばかりが能ではない。
ゴムのように柔らかく弾力性をもたせることで、拳の衝撃を吸収できるようにもなる。
今度はわしが見せてやろう。
この体質を生かした秘術を!」
牛宝はそう言ってその図体からは信じられないほど高く跳躍すると、空中で身体を丸めて、そのまま羅刹の方に落下してきた。
羅刹は寸でで躱し、牛宝の身体が叩きつけられた地面が砕けて、奴はスーパーボールのように弾んでまた宙へ戻っていく。
「これぞ
身体を丸めたまま弾んで、体当たりを繰り返す牛宝は、周囲の柱を使って縦横無尽に攻撃してくる。
そして遂にその身体が羅刹に当たり、甚大なダメージを負う。
…ところで、さっきも言ったがあの柱は
あれがなかったらあの男、どう攻撃してくるつもりだったのだろう。
い、いや、それは考えてはいけない事のような気がする。止そう。
どこから来るか読めず、当たればダメージの大きい牛宝の攻撃を避けるべく、一旦羅刹が地に身を伏せる。
だがそれは柱を使った横からの攻撃は防げても、先ほどのように地から弾んで落下してくる攻撃は避けられず、寧ろ的になってしまい、羅刹は牛宝の頭突きをもろに食らってしまった。
肋骨の三本は折れただろうと笑う牛宝を、闘志を瞳に映しながら、羅刹はまだ立ち上がる。
「その闘志に敬意を評して、おもしろいものを見せてやろう。
これは、我が
腰に付けていたポーチのようなものから、何か薬のようなものを取り出した牛宝は、それを口に入れて飲み込む。
そして気合を入れると、ただでさえ丸く膨らんだ牛宝の腹が、更に膨らんでふたまわり以上もでかくなった。
その腹を誇らしげに掌で叩きながら牛宝が笑う。
「見たか、秘薬・膨漢丹の威力。
ただ膨れただけではない。
これによってわしの体の弾力は数倍にもなった。」
仕上げと言って奴がまた地面を蹴り跳躍する。
そして最初と同じように落下して地面で弾むと、一旦跳躍した時より更に高いところまで飛んでいく。
あの高さから同じ攻撃を、まともにくらったら重量と落下速度が合わさって、とんでもない威力になる事は間違いない。
だが羅刹は
寸でで体を躱して撃った兜指愧破は、牛宝の腰の膨漢丹のポーチを外して落としたのみ。
そして再度の落下の一撃は、今度こそまともに羅刹の身体を地面に押しつぶした。
「や、殺られた──っ!!」
闘場にものすごい砂煙が舞う中、一度弾んで遠くに着地した牛宝が、腹を叩きながら羅刹先輩を押しつぶした場所へと歩いて戻る。
その砂煙が晴れたところに、何故か地面に穴が開いている箇所があり、それを覗き込んだ牛宝は、その穴から出てきた指を口に突っ込まれた。
同時に、開いた口の中に何かをパラパラと投げ入れられる。
続いて穴から出てきた羅刹の膝蹴りが、まともに牛宝の腹に入る。
そんなものがダメージになるわけもなかったが、牛宝は明らかに驚愕していた。
「貴様が
死んだ影慶の為にも、俺は勝たねばならん!!」
どうやら羅刹は
「だが二度と同じ手は通用せん!」
そう言ってまたも上空からの落下攻撃をしようとする牛宝に対し、羅刹先輩は立ち上がって、それを待ち受ける体勢をとる。
「大男、総身に知恵がまわらずという言葉は本当らしいな…!!」
「ん〜!?どういう意味だ、それは…!!」
「まだわからんのか。
さっきおまえが飲んだのはなんだと思う……?」
羅刹の言葉が終わるか終わらないかのうちに、牛宝の体に変化が起きた。先ほど薬によって膨らんだ腹が、それ以上にみるみる大きく膨れ上がっていく。
「多量の膨漢丹のため筋肉は膨張し、弾力の限界まで薄くなり、今や貴様の体は破裂寸前の風船と同じ……死んでもらおう。」
羅刹の指先が、牛宝の丸い腹を容赦なく貫く。
牛宝の体は穴の空いた風船のように勢いよく、海に向かって飛んでいった。
☆☆☆
「くれぐれも油断するな。
超人拳と名乗るだけあって奇っ怪な奴等よ…!!
次に出てくる奴も只者ではなかろう。」
戦いを終えた羅刹先輩が言葉をかけたのは、三面拳のひとり、雷電。
「相手にとって不足はない…!!
見せてやろう、大往生流拳法の極意を……!」
その雷電に、自分たちの出番がなくなると詰め寄る虎丸の頭の上に指先だけで倒立した雷電は、一言気合声とともに登場へと飛んで行く。
一瞬指が置かれたのみで虎丸の頭部には、恐らく体重など全くかかってはいなかったろう。
今度はこちら側が相手を待つ形になり、相手の陣から飛んできた何かを雷電が体術で躱す。
そこにいたのは、三匹の猿を従えた男。
「我が名は
そしてこれに鎮座するは、我が忠実な
これより貴様に、この現世で体験できる最高の恐怖を味わわせてくれるでごじゃる。」
その姿に富樫と虎丸は笑い転げているが、雷電と同じ三面拳のひとりである月光が、何故か顔色を変えていた。
「…我が拳法の師に、猿を操る、史上無敵と言われた恐るべき殺人拳の話を聞いたことがある。
よもや、あれが……!!」
確かに闘場は異様なまでの殺気に満ち、それを発しているのはあの猿の方。
雷電はそれに気づいているのか、構えたまま攻めあぐねている。
「見せてやるのだ、我が忠実な僕どもよ!
猿宝の指示で、三匹の猿が空中高く飛び出す。
そして空中で手を組んで風車のような形を取ると、雷電めがけて回転しながら突っ込んで来る。
尻尾の先に刺突武器が取り付けられており、どうやらそれで攻撃するつもりのようだ。
その攻撃は猿達の名の通りの部分、目、耳、喉を的確に狙っており、雷電はギリギリで急所を外すも、その付近の皮膚が裂かれて血が
息をつく間も無く、猿達の攻撃が繰り返される。
「たいした猿どもよ。
この雷電に、この技を使わせるとは……!!」
雷電は道着の背中から細い竿を出すと、それを地面に突き立てる。
更に懐から何か、刃のついた円盤を取り出すと、それをその竿の上で回転させた。
「見せようぞ、大往生流秘技・
円盤の回転とともにしなる竿を、両手と片足を用いて打ち、三枚の円盤を猿に向けて飛ばす。
猿達は跳躍してそれを躱し、雷電は次々と同じ攻撃を繰り返す。
だが、雷電ともあろう男が考えるとも思えない単調な攻撃、猿達も見慣れてきたのか、躱す事もせず白刃取りで受け止めて、更にそれを持って踊り出す始末。
とうとう円盤が最後の三枚となったところで、雷電は猿宝を睨みつけて言った。
「貴様も坊主なら、猿の為に念仏を唱えるがよい。
次の一撃が貴様と猿との、今生の別れになる!」
そうして放たれたのは、先ほどまでと全く同じ攻撃。
猿達は同じように白刃取りすべく構えている。
だがそれを後ろで見ていた猿宝は、突然顔色を変えて叫んだ。
「その攻撃を正面から受けてはいけないーっ!!
に、逃げるんだ──っ!!」
その忠告も虚しく、円盤は三匹の猿の頭に突き刺さり、猿達は悲鳴をあげて倒れた。
「や、やはり大きさが違う…!!
最後に放たれた三枚の円盤だけ、それまでに飛ばしたものより、ひとまわり小さかったというわけか……!!」
それは錯距効果。
それまで単調な攻撃に慣らされた猿達は、回転数の違うひとまわり小さい円盤とのスピードの変化に気付かず、白刃取りのタイミングを狂わされたのだ。
猿を失った猿宝が怒りに身を震わせた。
「このわしの怒りと哀しみは、貴様の血をもって償ってもらう。」
そう言って自陣に合図を送ると、奴等の陣から二人、長い竿を一本ずつ持って来て、それを闘場の地面に深く埋め込んで立て、固定する。
(雷電の方は先ほど使った細い竿は、邪魔なのか撤去したようだ。どこにしまったのかは見ていなかったのでわからなかった)
「本来ならば山林竹林にあってこそ、その妙、真価を発揮する技なれど…この平地ではこれで充分でごじゃる!!」
言うや猿宝は、ロープの先についた爪状の武器を、雷電に向けて投げ放つ。
「これぞ
雷電ほどの達人が躱せない筈もなかったが、それはどうやら雷電を狙ったものではなかったようで、ロープは先ほど立てられた竿の一本に巻きついて、猿宝はそれにぶら下がった状態から、遠心力による攻撃をしてきた。
「心配はない。
雷電は三面拳随一、超一流の体術の持ち主……!!」
その三面拳を束ねる伊達が太鼓判を押す通り、猿宝の息をつかせぬ連続攻撃に全く動じる事なく、沈着冷静に対処する。
だが、猿宝の立てた竿のうち一本が、まだ使われていないのが俺には気になった。
あの技にはまだ先があるのでは…そして、その答えはすぐに出た。
雷電が二本の竿の中央に立った時、猿宝は一度雷電の方に跳躍して、その首に持っていたロープを回す。
それから反対側の、使っていなかった竿の上に飛んで、自身が掴んでいたロープの橋を、その先端に固定する。
猿宝がその上から飛び降り着地すると同時に二本の竿はしなり、ロープの両端が引かれて、雷電は首を絞められた状態で宙吊りとなった。
「首に巻きついたロープを支える腕の力を弱めたり、片手でも離そうものなら、しなった竿の反撥力でロープが締まり、貴様は一瞬のうちに、絞死を遂げることになる。
ただでは殺さん。
この技を使ったのも、貴様をじわじわとなぶり殺しにし、猿どもを殺られたこのわしの怒りと悲しみを晴らすため。」
猿宝は手にした爪状の武器を、動けない雷電に向けて振るう。
雷電も一応は自由な脚で反撃を試みるも、さすがにこの体勢からでは無理があり、充分に勢いを乗せるとロープの力を強めてしまう。
案の定容易く躱され、次の攻撃がまたも雷電を襲う。
更に目玉をくり抜いてやると宣言する猿宝。
しかし、そこを狙ってきた手の動きが何故か止まる。
「大往生流奥義・
我が大往生流の極意は、髪から足の爪まで、身体髪膚すべてを鍛え上げ、おのれの意のままに武器とすることにあり!!」
それは、髭。
驚くべきことに雷電は、己の髭を動かして、その先に予め仕込んでいた針で猿宝の指を攻撃したのだ。
「なぜひと思いにとどめをささぬ!!
男の名誉と命を懸けた勝負を汚す愚か者よ。
貴様には、大往生の死あるのみ!!」
自身の首が絞まる危険も顧みず雷電が蹴りを放ち、それは猿宝の顔面にもろに決まって、その身体を地面に打ちつけた。
それは単に、猿宝の怒りに火をつけただけ。
未だ身動きの取れない体勢から脱出のかなわぬ雷電は、その後の猿宝の攻撃の前に、避ける事も叶わず身をさらし続けるのみ。
だがそろそろとどめを刺しにかかる猿宝が、雷電の腹を狙ってきた時、その変化は起こった。
手にした爪を、雷電の腹筋に弾かれたかのように、猿宝が取り落としたのだ。
その瞬間、雷電の足が猿宝の首にかかり、自身の体勢と同じようにそれを締め上げる。
「やっと大往生流奥義・
針にはトリカブトの毒が塗られていた…!!
もはや貴様の右手は麻痺し、箸を持つ事も出来はせん!」
…その、髭に針を仕込んでいたところまでは百歩譲るとして、それに毒まで仕込むのは、若干自分自身にも危険があるんじゃ…い、いや止そう。
今はそんな事を言っている場合じゃない。
俺が脳内でそんな葛藤をしている間に、雷電はその体勢のまま、ものすごい勢いで回転し始める。
「なるほど。
猿宝の重みで遠心力を倍加し、柱に結んであるロープをねじ切るつもりだ。」
と伊達が状況を解説するが、いや待て。
現時点ではその重さも遠心力も、全て雷電の首にかかっているわけだがそれは。
俺がハラハラしながら見守っていると、
「大往生──っ!!」
回転とともに、恐らくロープを引く腕にも力を込めたのだろう、雷電が気合声を発すると同時にロープは切れ、空に投げ出された自由な身体を反転させた雷電は、拘束していた猿宝を、一番近くの鉄柱に蹴り飛ばした。
「さすが、雷電ならではの体術を生かした大技!!
猿宝の全身の骨は粉ごなに砕けた…勝負あったな。」
伊達の言葉通り、もはや猿宝に戦う力などなかった。
ない、筈だった。
だが三匹の猿の無念を晴らすと言って、最後の気力を振り絞って立ち上がり、先ほど取り落とした武器を拾って構える。
だが何故か雷電はそれに背を向け、腹のサラシをほどき始めた。
その足元には…!
猿宝が背中から襲いかかり、雷電の背中に武器を突き立てるが、雷電は振り返ろうともせずに、作業を続ける。
即ち、足元に倒れふす三匹の猿の止血。
「
見た目には出血は酷いが、生命は助かる!!」
何故、生きていると言わなかったのかと猿宝が問う。
言えば
それに当然のように答えた言葉は。
「男の勝負に言葉はいらん。
ただ、それだけのこと………!!」
雷電の背中を見つめ、猿宝は満足げに涙を浮かべて息絶えた。
その身体を、気を失った猿たちの横に並べて寝かせ、雷電は俺たちのところに戻ってくる。
「ああいう男よ。三面拳・雷電…!!
俺たちはいつも奴に、多くのことを教えられるぜ!!」
ここにいる誰もがそう感じている事だろう。
☆☆☆
あまりにひとつの会場での試合が長引いた為、短波ラジオの放送が一旦終わってしまったので、塾長の部屋の無線機で試合の詳細を聞いた。
このペースで試合を消化するのなら、結果が出るのは朝になるだろう。
そこからあちらに向けて手配をして、本部からの迎えがくるのは恐らく昼過ぎ。
現時点で欠員は、最初から決まっていた影慶を含めて三人。
とりあえず、これで全員一通り戦っ……てない子が二人ばかりいるが、それは気づかなかった事にしとこう。
てゆーか、聞けば飛燕が今日二戦してるらしいんだけど、大丈夫なのかな、あの人。
また顔に傷なんかつけてなきゃいいけど。
まあとりあえずは、これ以上の戦闘不能者が出ない事を、今は祈るしかない。
これまで初出場の男塾を舐めてかかった相手が一人ずつ登場してきて、それに男塾側がやはり一人で戦っていたパターンであるならば、予想に反して連敗を喫した相手側が、そろそろ危機感を感じ始める頃かと思う。
パターン的には、この辺りで首領以外の全員が出てくる頃か。
そうなると、
無駄にプライド高いからな、あいつら。
対猿宝戦での雷電が妙にイケメンなのは何故なんだろう…?
なんとなくだけど、原作読んでる時にアンディ・フグの全盛期を思い出して少し泣いた。
関係ないけどあのひとが生きてたら、あの後のK-1の凋落はなかったんじゃないかと思ってる。