婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜 作:大岡 ひじき
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1・BLOWIN’ IN THE WIND
…厭な夢から醒めた朝、枕元に用意してあった水やら湯のみやらの置かれた盆の横に、したためられていた手紙を読み終えて、江田島平八はため息をついた。
それから、その表情が不意に引き締まる。
「決して人前に姿をあらわすことのない奴の命を、狙うチャンスはただひとつ……。
それはこの大武會に優勝し、奴自らの手で、表彰が行われる時だけ……。
心して行けい……!!勝負はこれからが正念場。
藤堂兵衛…奴に正義の鉄槌を下せるのは、貴様等だけだ。
決して光に、父殺しをさせるでないぞ。
………まったく、あのじゃじゃ馬めが。」
「また、そんな事を仰って。
最初からこうなると、判ってらっしゃったのでしょう?」
傍からの穏やかな声に、苦笑する。
狭山
「そろそろ、あれの性格も判ってきておるわ。
女ゆえ、戦いからは極力引き離そうとしても、守られるだけの己に決して納得せぬ。
あれを娶る男は、さぞ苦労する事だろうて。
…いや、既に諦めておるやもしれぬな。」
そう言う江田島の脳裏に浮かんだ男は、はたしてどのような姿であったのか。
風に靡く白いハチマキか、全てを斬り裂く剛刀か、それとも…。
「光さんは、旦那様と似ていらっしゃいますわ。
強情で自分を曲げないところも、自分が身内と認めた人は、必ず守ろうとなさるところも。」
その思考に割り込むように言葉がかけられたが、江田島はそれを不快には思わなかった。
「フフフ、そう思うか?」
「ええ。本当の親子ではないと言われても、もう信じられないくらいに。」
「…光は、おぬしの子にしてやるべきだったな。
他の女どもの立場も確かにあろうが、おぬしはそれを飛び越えてもいいくらい、わしと光の為に働いてくれておる。
元はといえば、たまたま光を運び込んだのが、おぬしに任せていた邸であったというだけだったものを、の。
そもそも光が、殺す事しか知らなかった己が力で、誰かを守れると知るきっかけとなったのは、おぬしの存在あっての事だろうて。
おぬしには、感謝してもしきれぬわ。」
世に言う愛とは違う。
だが信頼と絆は、確かに結ばれていると、江田島は感じた。
光と、この女と、そして、自分との間に。
「…わたしは、そのつもりでおります。」
「…ん?」
「光さんは旦那様に授けていただいた、わたしの子であると…そう思うてお世話をしております。
自分の娘の世話を焼いているだけですもの。
感謝される覚えはありませんわ。」
幸の言葉を聞いた江田島は、唐突に彼女を抱き寄せる。
「あれ…」
「肥えたのう。
初めて会うた頃からは想像もつかぬわ。」
「まあ、いやな…。」
「褒めておるのよ。
女は、このくらい肉がついておらねば抱く気も起きぬわ。」
江田島はそう言って笑うと、先ほど身を起こしたばかりで、未だ敷かれたままの布団の上に、幸のふくよかな身体を押し倒した。
☆☆☆
予定していたより半日遅れて、決勝リーグが行われる冥凰島へと向かうヘリに、私は赤石と乗り込んでいる。
「島に着いて、手続きを終えたら、本当に帰るんだろうな?」
どうやら他のチームの補充人員も回収して回っているらしいこのヘリが、目的地に到着するのはどうやら朝方になるらしい。
「何度同じ事を聞くんですか。帰りますよ。
…たく、脳筋のくせにしつこいなコイツ。」
「…なに!?」
「いえ何でも。
というか、メンバー補充の為の現地での雑多な手続きを、あなたが全て引き受けてくださると言うのであれば、私が付き添う必要はないのですけどね。」
私が言うと、赤石は私を睨みつつも黙る。
本来なら筆頭がひと通り目を通す筈の学年単位での事務作業、おまえが江戸川に丸投げしてるのを私が知らないとでも思うか。
まあ、そうでなければこの脅しは効果がなかったわけだけど。ありがとう脳筋。
「何度もお答えしている通り、補充三人分の手続きを済ませたら、私は塾に戻りますから、あなたは着いたらそのまま闘場に向かってください。
その方針に変更の余地はありません。」
実際のところ、言うほど面倒な手続きが必要なわけじゃない。
そう言わなければ、私が同行する理由がつけられないからそう説明しただけだ。
「…三人って、俺の他には誰が行くんだ?」
それでもまだ不服そうに、赤石が問う。
「その質問に答える許可を、私は塾長からいただいておりません。」
以前、懲罰房で虎丸に名を問われた時と同じ言い回しで返答を拒否する。これが一番有効だ。
「ただ、うち一人は既に島に入っており、残る一人は私たちより後から出発します。」
嘘は言っていない。
予定より二人も人員が減ってしまったから、本来裏方に徹して貰うつもりで引っ込めた影慶には、いずれ闘士として出場してもらわねばならないし、彼は既に冥凰島に送られている。
そして決勝戦には駆けつけるだろう塾長は、絶対に黙って観戦などしてはいないから、結局戦うことになる。
ならば予定に組み入れた方が一周回って楽だろうとは、私と
というか、これは後から知った事なんだけど、確かに登録上では、闘士は十六名と決まっており、試合が始まってしまえばその時点での補充はできないが、その次の試合開始時点でなら、欠けた人員分の補充はしてもいいことになっており、その為の補欠人員や、必要ならオブザーバー的な人員も、連れていてもいいルールだったようだ。
私、ついていっても良かったんじゃん!
まあそれでも、あっちに正体が割れる危険があると、塾長や桃は反対しただろうけど。
けど、影慶を一旦引っ込めるなどという手を使わずとも、赤石だって最初から連れて行けたわけで…ああでも、赤石が『補欠人員』などという立場に甘んじていられるとも思えないから、それも仕方ないか。
ちなみに決勝リーグに入ってしまえば、途中からの補充が、ルールに明記されてはいないが事実上不可能になるので、その点でも補欠人員の同行は有利になるといえる。
…もっとも、
「…そのうちの一人がおまえじゃないと、本当に信用していいんだな?」
おっと、思考が違う方向にずれてきていた。
慌てて軌道修正し、赤石の質問に答えを返す。
「その案は、一応私が自分から出しましたが、塾長に却下されました。
私としてはいささか不本意でしたが、そういうわけでどうぞ御安心を。」
私が答えると、赤石は苦虫を噛み潰したような顔をして私を睨み、今日一番ムカつくコメントを放った。
「…これっぽっちも安心できねえ。」
滅べ。
☆☆☆
赤石を闘場の方へ送り出し、一通りの手続きを済ませたあと、帰りのヘリポートの方に向かう…と見せかけて、監視カメラの死角をうまくすり抜けつつ、事前に連絡をしていたランデブー地点へと移動した。
思った通り、以前来た時と全く変わらない。
その時行なった、この島全体を使ったオリエンテーリング形式の修行の際、ここの地理は頭に叩き込んだ。
もはやここは私の庭のようなものだ。
私が指定したその場所に、既に立っていた人物に声をかける。
「お疲れ様です。影慶。
これからしばらく、よろしくお願いします。」
「光。…おまえがここの地理を把握しているというのは、本当のようだな。
ここまで、一人でやってくるとは…!」
影慶は相変わらずの無表情だったが、声にはどこか呆れたような、それでいて安心したような響きが混じっていた。
「島までの移動は赤石と一緒でした。
彼は、私が彼の参加手続きを終えたら、そこで帰ったと思っている筈です。」
「赤石か。
元々俺の途中離脱は、奴を加える為の計画でもあったからな。
他に2人も欠員が出る事は予想外だったが。
しかも我ら三号生からとは。面目無い。」
「その2人、無事回収して蘇生はできたらしく、あの後天動宮に送り返され、一般三号生が世話をしてくれる手筈になっています。
が、私が塾に戻れない以上、恐らく大会終了より前に、回復させる事は不可能かと。
蝙翔鬼と独眼鉄は、感情に流されやすいタイプです。
こうなる事はある程度予想できました。」
正確には蝙翔鬼は真っ直ぐ過ぎ、独眼鉄は優し過ぎる。
結局二人とも不器用なのだ。
「…手厳しいな。
同じ三号生の仲間としては、その実力のみで判断したいところだが。」
その私のコメントに、少しだけ影慶が、睨むような目を私に向けた。
…けど、赤石の苦虫噛み潰した顔を見慣れている私が、そんなんでビビるとでも思うか。
「確かに実力のみで判断すれば、一号生の富樫や虎丸など、正直足元にも及ばないのですがね。
ムードメーカーとしての能力は抜群ですが。」
正直あの子達に関しては、実力はそろそろ頭打ちだと思っている。
けど、居ると居ないでは恐らく、チームの空気感が全然違う筈だ。
…もっとも、空気感だけで勝てるのならば苦労などないわけだが。
「…私としては彼ら二人か、または独眼鉄と蝙翔鬼を外して、赤石と私をスタメン入りさせて欲しいと、最初に塾長に進言したのですが、聞き入れてはいただけませんでした。
そうしておけば、わざわざ影慶にお辛い思いをさせずに済んだというのに。
申し訳ございません。」
そしてもっと気になるのは影慶自身の心だった。
彼は己のアイデンティティを邪鬼様の傍に置いている男だ。
そこから無理に離してまで、こんな事をさせる必要があったのか、ここだけは塾長の判断に疑問を感じる。
そう思った言葉を素直に発したつもりだったが、何故か影慶は首を横に振った。
「…っ!い、いや。俺の事はいい。
それよりも、奴ら全員闘場に着いたようだぞ。」
周波数を合わせてある小型無線機から、闘士達の到着を告げるアナウンスが確かに聞こえる。
全方向モニターも上の方に設置されており、ここからではやや遠いものの、それで映像も見えなくはない。
イヤホンの位置を直しながら、私は影慶に頷いた。
「そのようです。
戦いたくてウズウズしてた赤石が、出番を譲る事はないでしょうけどね。
どうやら
闘場も各陣の音声も正確に拾う高性能なマイクが、聞き違えようもない赤石の、顔に合ってない割と繊細な声を伝えてくる。
「遅かったな…この勝負、
ああ、やっぱり。
ちょっと頭を抱えてる私を、影慶が不思議そうな目で見つめた。
赤石がそう言って迎えた、決勝リーグ初戦の対戦相手は、
東アジア宝竜半島で発祥したとされ、世界全域に勢力を持つプロの暗殺結社である。
…思い出した。
男塾に来る前、幸さんと二人でいる時に襲撃を受け、私が手にかけた
あいつは間違いなくここの一員だった筈だ。
その直後に現れた豪毅の兄の
というか、こいつら全員裏の世界の住人だろうに、この大武會という、知る人ぞ知るレベルとはいえ世界の好事家の注目を集める大会に堂々と出場していて、そのアイデンティティに影響はないのだろうか。
…いや、私が心配する事じゃない。止そう。
・・・
「俺の名は
貴様の首はもらった!!」
闘場へ縄ばしごを使わず、闘場に投げ打ったゴム様のロープを使ってひとっ飛びで降り立った男が名乗りを上げる。
つか、意味あるのかその行動。いや、止そう。
「どうした、抜かんのか?
背中に背負ったその大層な太刀は、ただのハッタリか……!?」
「この太刀を抜く必要が、あるかないかは俺が判断する。来い!」
「俺に大口を叩くと後悔することになる。
思い知るがよい。
この世で最も完成された、黒蓮珠の殺人技の恐ろしさを!!」
「
それは、どこをどのように見ても、テニスのラケットだった。
それで打たれた球は一度真っ直ぐに飛んだ後、ゴムロープで繋がれている為に、打たれた方向に戻ってくる。
それをまた打ち返す事で、速度が倍加するという事のようだ…が。
いやあの、これ暗殺術だよね?
大道芸じゃないよね?
確かにスピードはものすごいものになってるけど、赤石の動体視力は並じゃない。
この程度の攻撃など見切って難なく躱せる。
「なんの真似だ、これは…!?
俺に、お嬢様テニスの相手でもしろと言うのか。」
いや本当に。似合わない事この上ない。
とか思ってたら、隣で影慶がちょっと咳込み出した。
「す、すまん。なんでもない。」
とか言ってるが、絶対笑い堪えてる。
…うむ、この鉄面皮を思わず吹かせた事だけは評価してやろう。
「フッ、多少腕に覚えがあれば、一個の球からは身を躱せよう。
だがこの
奥義・
どこから出したものか、数を増した鋼球が、やはり凄まじいスピードで赤石に迫る。
それでも赤石はそんなものは難なく見切り、躱しているが、それに焦れたのか
「逃げてばかりでは勝負にならんぞ!!
これでもまだその太刀を抜かぬつもりかーっ!!
それともあまりに長すぎて、抜けぬというのではあるまいな!!」
「…余程、この太刀を抜かせたいらしいな。
貴様ごときに使う太刀ではないが、見せてくれよう、冥途の土産に……!!」
赤石の剛刀を、完全にハッタリだと決めてかかっている
だが、
「一文字流奥義・烈風剣!!」
軌跡すら見せず振るわれた太刀から、剣圧と闘氣が迸り、無数の鉄球を圧し返す。
更に、
「けええ──っ!!」
気合い声とともに放たれる一閃。
…
「大した迫力。なんという剛剣よ…。
だがこの俺の体には、かすりもしなかったぜ。」
「…一文字流・斬岩剣。
この世に斬れぬものはなし。」
次の瞬間、星型の闘場の一角が斬れて落ちる。
その上に立つ、
「ま、まさか、おまえが斬ったというのは…!?」
気付いた時にはもう遅い。
「地獄の鬼を相手に、思う存分テニスをするんだな。」
刀を背中の鞘に戻し、赤石がそう言った直後、隣で豪快に咳き込む声が聞こえた。
こちらに向けた影慶の背中が震えている。
どうやら相当ツボに入ったようだ。
塾長と幸さんのシーンは、池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」とか「鬼平犯科帳」みたいのをおぼろげにイメージしました。
あと、赤石の声はアニメ版じゃなく、ゲーム版の方を採用してます。
合ってないと思いつつ緑川ヴォイスは好きって事と、個人的にアニメの黒髪赤石の偽物感が消えなくて…。