婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜 作:大岡 ひじき
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御本人の希望により、描いた方のお名前は出せませんが、幕間・雌伏仇讐編4話で羅刹とデートした時のイメージですね。
女の子らしい服を久しぶりに着てはしゃいでる感に、
「そう!アタシがあの話で表現したかったのはまさにこれだよ!」
という気持ちになりました。
ありがとうございます。
あと、メッセージではあとがきに入れると言ってまえがきに入れてゴメン(爆
1・今宵はあなたとワインのシャワーを心ゆくまで裸で浴びよう★
崩壊した闘場から無事、剣どのが脱出してきて、簡単な手当てを終えた後、闘場より手前の簡易休憩所にて、我等は休息を取る事にいたした。
救急薬や包帯、簡易食料などの備えと、全員が休める布団などの備品が置いてあり、明日も早くから次の闘場へと移動せねばならぬ為、食事を取ってすぐ休む仕儀に至ったのだが…どうにも眠れぬ。
我等三面拳と伊達殿、その絆は深く結び付き、決して切れることなどあり得ぬ。
そして伊達殿と我等を結びつけたのは、伊達殿と年齢の近い、飛燕の存在であった。
…奴は己の死を悔いるような男ではない。
だが自身より若い彼奴に、このように置いていかれることなど、心のどこかで、ないと思っていた。
「…拙者も、修行が足りぬ。」
仲間たちを起こさぬよう、こっそりと休憩所を出て、夜のひんやりとした空気に物悲しさを禁じ得ずにいると、近くの茂みががさりと動いた。
気配を隠しもせず、明らかにこちらに近づいてくるそれに向けて構えていると…、
「……なんと!
おぬしら、自分たちの力で、ここまで来たと!?
しかし、先の戦いの傷もまだ癒えて…おるな。
…そうか。拙者と共に戦ってくれるというのだな。
一度は敵として相対した拙者を、そこまで慕ってくれるとは。
この雷電、おぬしらの心、しかと受け取ろう。」
戦いとは、失うばかりではない。
時としてかけがえのない絆を得ることすらある、ということか。
☆☆☆
準決勝が行われる闘場は、凄まじいほどの急流の、河の中心にある矢印のような形の岩だった。
しかもそこからほんの少し河が流れた先に、御丁寧にもその急流を一気に落としてゆく大きな滝が控えており、闘場外に落とされればまず間違いなく助からない…私たちが手を出さなければ、だが。
今、影慶は錘のついた網を広げて、穴などがないか確認する作業を行なっている。
夜のうちに移動してここまでやってきて、周囲の状況等を考慮した結果、もし落下する者がいた場合、滝の手前で投網で救出するのが一番手っ取り早いという結論に至ったのだ。
というか、この網とか一体どこから持ってきたんだろうというのは、聞かない方がいいんだろうか。
本当になんでもできるんだな、この人。
「影慶、少し休んでください。
簡単なものですが、食事ができましたので。」
「ああ、済まない。もう少し点検してから頂こう。」
私には今のところ、こうして彼の身体を気遣うくらいしかできることはない。
邪魔はしたくないが、あまり根を詰めるのもやめて欲しい。
…よし。あまり褒められた事ではないし、今の私はメイクもしていないちんちくりんのチビガキだが、ここはひとつ実践するのは初めてだが暗殺者時代に叩き込まれた、「『今忙しいから後で』と構ってくれない
こちらに向けて座る影慶の大きな背中に、自分の背中をぴとっとくっつけて座り、もたれかかる。
「……ん?」
お、気がついた。当たり前か。
返事をせずに黙って寄っかかっていたら、影慶は暫し固まった後、また作業に戻ったようだ。
ううむ、御前の嘘つき。全然反応ないじゃないか。
『応用としてもう少しレベルが上の、やはり背中に、胸からもたれかかるという方法もあるのだが、今の貴様では…いや、なんでもない。』
今更だが、なんで言葉を濁したジジィ!
当時12歳の少女に、当てる胸なんざ無いのはわかるが、将来的にはわからんだろうにちゃんと教えとけ!
今もそれほど大きくはないがまったくないわけじゃないわ!!
もはや己の中で絶対忠誠の呪縛から完全に離れた御前の姿に心の中で文句をたれつつ、腹いせに影慶の背中にぐりぐりと後頭部を押しつけ、体重をかける。
どうでもいいが固い。
背もたれには非常に不向きな背中だ。
けど、肌寒いので体温が伝わるのが意外と心地いい。
まあでもよく考えたら、影慶にはここで行動を共にするようになってから、なんだかんだでひっつきまくっている。今更というやつか。
仕方ない、御前がちゃんと教えてくれていないのでどういう感じなのかわからないが、応用編の方を実践してみるか。
胸からってことは、もたれかかるというより抱きつく感じになるのかな。
んーでも、制服のままだとボタンが当たって痛そうな気がする…などと思っていたら、
「…煽っているのか?いや、まさか…。
これは俺の理性と忍耐力に対する挑戦か…!
ば、馬鹿な。俺は毒持ちの身体だぞ。それを…」
と、何やらよくわからない事をぶつぶつ呟き始めた影慶が、ちょっと背中を震わせている。
…なんだか少し心配になってきた。
「やっぱり、疲れてません?
少し休憩した方がいいんじゃありませんか?」
「そ、そうだな。そうするか。」
…よくはわからないが、目的は果たしたのでいいことにしておこう。
☆☆☆
…目を覚ました時、自分がどこに居るのかわからなかった。
大きな布で簡単に設置されたテントの中で、半身を起こして自分の身体を確認する。
毛布に包まれた身体は最低限度のものしか身につけておらず、見たところ傷ひとつない。
…?いや、そんな筈がないだろう。
そもそもわたしは
その時に戦っていた敵に身体中を切り裂かれ、また全身の血すら武器として戦って、血も流し尽くした筈。
だが別に目眩がするわけでもなく、体調はほぼ万全な気がする。
強いて言うなら、腹が減っているくらいか。
ほぼ無意識に髪をかきあげて、ふと気がつく。
…心なしか、また髪が伸びているような。
この現象は以前にもあった。
そして、それに関わっていたのは。
「…なるほど。」
確かに、意識を失う直前、男と子供が会話している声を聞いた。
男の方は誰なのかわからないが、子供の声と聞こえたのは、思い返せば確かに彼女の声だった。
そういえばその際に『赤酸湖…』云々と聞こえた気がする。
わたしが落ちたのは溶岩ではなく、それに似た色の酸性の熱湯だったのだろう。
どちらにしろ全身に火傷を負ったのは間違いなく、その治療を施した際に、選別するわけにもいかず全身の傷を治すしかなかったと。
水を溺れるほどかけられたのは、その酸性の液体を洗い流す作業か。
ふと見るとわたしの包まっていた毛布の側に、僅かだが食料や薬などの物資、それから恐らくは洗って干したのだろうわたしの闘着が畳んで置かれていた。
広げてみると、やはり間違いなくあちこちに穴があいている。
物資の中を探ると、ありがたい事に針も糸も入っていた。
男塾の授業の中に、縫製の科目が入っていた事は意外だったが、考えてみれば当然の事だ。
わたしは刺繍を趣味のひとつとして嗜んでいるので、縫製も難なくこなせるが、そういえば一度わたし達と離れて男塾に入塾し、戻ってきた後の伊達も、決して苦手な方ではなかった。
もっとも苦手でないというだけで面倒ではあるようで、大抵はわたしに押し付けて寄越すけれど。
まるで手のかかる弟のような主の不機嫌そうな顔と、主従でありながら子供の頃と同じように互いに言いたいことを言い合うわたし達のやり取りを、一方は微笑ましげに、もう一方は我関せずといったふうに見守る、年長の友であり兄のような存在でもある二人の顔を思い返して、早く戻って安心させてやらねばならないと、わたしは手早く縫い針に糸を通した。
☆☆☆
『ではこれより天挑五輪大武會準決勝、男塾対梁山泊十六傑の勝負を開始する!!』
昼過ぎにようやく闘場に男塾御一行様がたどり着くと、運営本部のヘリが飛んできて、試合開始を告げた。
てゆーか、地形をトーナメント表通りにしているのはわかるが、16人程度なら余裕で乗せられるヘリが数機あるわけだし、闘士たちをわざわざ歩かせず次の闘場まで運んであげる方が効率的だと思うんだけどな。
それはさておき梁山泊といえば、この前三回の大武會を連続優勝しているチームだ。
それと準決勝で当たってしまうとは。
「み、見ろ!
向こうの岸にいつの間にか、誰か居やがる──っ!!」
虎丸の叫ぶ声を集音マイクが拾い、対面の岸の方を見ると、左の目に眼帯を着けた騎馬の男が一人、旗を背負い、頭くらいの大きさの酒瓶を傾けている。
瓶に口をつけずに飲むのは、まわし飲みの習慣があるからだろう。
見たところ彼一人で、他の闘士の姿は近くにない。
「わかったぞ!!
残りの奴等は、この準決勝に進んでくるまでに、全員殺られちまったに違いねえ!」
富樫がいかにも納得したように手を打って、虎丸も楽しそうにそれに頷いているが、そんなわけあるか。
今回も優勝の最有力候補だからな。
その梁山泊からただひとり姿を見せた騎馬の男は、酒瓶を持ったままの手で口元を拭うと、闘場へと続く縄ばしごを馬で駆け下りる。
そうして半分くらいの高さまで駆け下りたところで、人馬は宙に飛び、闘場へと着地した。
そうしてから男が再び酒瓶を呷る。
「気ままな奴等だ…俺の仲間達は、いつになったら到着するかわからん。
だが、それはどうでもいいことよ。
貴様等の相手は、俺ひとりで充分だ。」
…もう、最初の一人がこうなのはお約束って気がする。
挑発を受けて富樫と虎丸が、これもまたお約束のように、自分が行くと言い合っているところへ、
「相変わらず、進歩のない人達だ。」
と歩み出たのは、男爵ディーノ。
それはいいんだが、いつも見慣れたものと服装が違い、シルクハットはそのままだが革のベストではなく、首元を蝶ネクタイで留めた長いマントを着用している。
…奇矯なのは変わらないが、前のスタイルより変態度が増した気がするのは気のせいだろうか。
「フォッホッホ、目にもの見せてくれましょう。
そう言って縄ばしごに足をかけようとするディーノに、富樫と虎丸が文句を言って追いすがる。
ディーノは懐から、フリルのついた白いハンカチを取り出すと、無言で2人の前にそれを広げて見せた。
「そ、そのハンカチがどうしたってんだ……!?」
基本的に素直な子である彼らは、普通に彼の手元に目を奪われている。
その目の前でディーノがハンカチを空中へと投げたと思えば、投げられた白いものは翼を広げ、一羽の白い鳩となって、どこへともなく飛び去っていった。
2人だけでなく他の塾生たちがそれに目を奪われている間に、ディーノは音もなくふわりと跳躍して、一気に縄ばしごの中ほどまで降りる。
「男塾鎮守直廊三人衆のひとり男爵ディーノ。
奇妙な男よ…だが奴を甘くみると、命がいくつあっても足りはせん。」
その背中を見送りながら、卍丸が固い口調で呟くのが聞こえた。
「あの人、
初めて知りました。」
「……俺も初耳だ。」
まじか!
邪鬼様の側近で死天王の将である影慶は、事実上三号生のNo.2の筈なんだが、その影慶が知らないとなると…。
「自称かよ!!」
「…ん?」
「……いえ、なんでも。」
まあ、とりあえずこの闘いを見守ろうか。
「わたしの名は男爵ディーノ。
どうぞお見知り置きを。」
「梁山泊の酔傑だ。どうだ、貴様も一杯飲らんか?」
酔傑と名乗ったその男は、手に持った酒瓶をディーノの方に向ける。
「いえ、それには及びません。
わたしが飲むのはワイン、それもシャンピニオン・スペチアーレの白15年物と決めているのでね。」
ディーノはそう答えながらマントの内側から、一枚のカードを取り出して、間を置かずにそれを酔傑に向けて投げ放った。
放たれたスペードのエースは酒瓶を持った手の脇を通り抜け、次の瞬間その酒瓶は酔傑の手から落ちた。
否、正確には酔傑が持った酒瓶の口から下が、切れて落ちた。
「なるほどな、おもしろい。
どうやらカードのへりが、研ぎ澄まされた刃物に加工されているようだな。」
「これぞ本場ヨーロピアン
貴様の首も、その酒瓶のようになる。」
どうやら男爵ディーノは、これまでの猛獣使いスタイルから、マジシャンへとシフトしたらしい。
その物騒なトランプを空中でシャッフルするように舞わせ、次にはそれを一気に、酔傑に向かって飛ばす。
「残念だが貴様のトランプ遊びに、これ以上つきあってるヒマはない。」
だが酔傑は、ずっと馬の背の横にくくりつけてあった旗を手に取るとそれを無造作に振って、ディーノのトランプを全て振り払った。
…その動きの邪魔にならないよう、さりげなく馬が首を下げているあたり、よく躾けられている。
そこから間髪を入れず、酔傑が馬の背から跳躍したかと思うと、何を思ったか馬の尻を蹴るような動きで、脚を突き出して降りてきた。
馬はそれに向けて後ろ蹴りを放ち、その蹄に酔傑が足裏を合わせた。
それを足場に、馬の蹴りの力も加わって、先程より高く跳躍する。
ディーノがそれを目で追ったのは、戦う者の本能として当然のことだ。
だが、酔傑は適当な方向に飛んだわけではなかった。
「死ねい──っ!!」
太陽を背にして降ってきた酔傑が突き出した例の旗の下に付いていた三日月型の刃は、一瞬目を眩ませたディーノの首を、一撃のもとに斬り落としていた。
仲間達の悲鳴が響き渡った。
だが。
「フフッ、他愛もない。
俺に、太陽を背にした逆光の位置を、ああもたやすく取らせれば当然の結果…!!」
笑って言いながらどこからか取り出した、先程よりも小さめの酒瓶を、煽ろうとした手が止まる。
驚愕に見開かれたその目が見つめる先に、
「く、首〜〜っ!!わ、わたしの首はどこだ──っ!!」
そこには、何か掴むものを探しているように手を彷徨わせる首なしの身体が、ヨロヨロと歩いている。
「おおっ、あったあった!!ここにあった!
わ、わたしの愛しい首よ〜〜っ!!」
首なしディーノはそう言って落ちた首に駆け寄ると、首ではなくシルクハットを手に取って頭上というか、恐らくはそれが元あった位置まで掲げる。
次の瞬間、マントの下から迫り上がるようにして首がニュッと飛び出てきて、元通りの男爵ディーノが完成した。
・・・
「…ふざけてますね。」
一瞬マジで泣きそうになったのに。
身体の方が喋ったのを見て、大体の状況は理解できたが、同時にちょっと不愉快になる。
「…うむ、すまん。」
なんで影慶が謝るんだろう。
あれか、三号生を統括する立場というやつか。
一応トップは邪鬼様だけど、あのひと赤石と同様、事務作業とか苦手そうだし。
そう考えると、補佐としての副筆頭を置かずに、学号単位の事務仕事を、必要な事は全部自分でこなしてる桃の存在って、実はすごく尊いのかもしれない。拝んどこう。
・・・
「わたしの名前は
貴様はこの
「フフッ、面白えとっつぁんだぜ。
末期の酒は、俺のおごりだ。」
自失の状態から脱し、薄く笑いながら酔傑は、手の中の酒瓶を再び大きく呷った。
…関係ないけど酔傑さんて、無駄に声とかセクシーだったりしそうなイメージ。
ちょい悪系の意外とモテるタイプじゃないかと勝手に思ってる。