婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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ようやく書きあがって投稿したら、間違って小石の方に投稿してた。
よ、予約投稿で良かった……!!


13・僕のいくところへついておいでよ

「…この準決勝に勝ったら、本当ならすぐに私たちは次の会場へと移動しなければいけないのですが…私はその前にこっそり簡易休憩所に忍び込んで、負傷者の治療をしようかと思います。

 治癒を早める応急処置の方法を飛燕に託していますし、彼ならば恙無く行なっていてくれるでしょうが、今回は先の闘いと比べても多くの重傷者が出ていますから。」

「確かにねぇ。

 今の羅刹様は言うに及ばず、J君は肋骨全骨折、赤石君は急所は外したものの出血多量で更に膝の腱を斬られており、月光君も胸に一度は矢が突き刺さってますものねぇ。

 ある程度軽傷で済んだのは卍丸様、虎丸ペアと、影慶様扮する『翔霍』だけで。

 極めつけにはこのわたしなど、死んでしまいましたからねぇ。フフッ。」

「茶化さないでください。

 あなただって重傷だったんですよ。

 本当は傷を完璧に治す為にも、眠ってくれなくては困るんですからね。

 あちらに着いたら、問答無用で寝てもらいますから。」

「あなたが言うと、違う意味で眠らされそうですね。」

「…そっちの意味で眠らすくらいなら、最初から助けてはおりませんが。」

「そうですね。

 フフフ、感謝しておりますよ、勿論。」

「…あちらの陣から、闘士が降りてくるぞ。」

 私と男爵ディーノがしょうもないやり取りをしているところに(いや、しょうもなく返してきたのはディーノであって、私はごく真面目な話をしていた筈だ)影慶が声をかけてきて、私たちはそちらに目を向けた。

 影慶の言葉通り、背の高い若い男がひとり、梁山泊側の縄ばしごを渡ってくる。

 先ほど泊鳳が兄と呼んだ2人の残りひとりの、偉丈夫の方だ。

 先ほど集音マイクが拾ったあちら側のやり取りから、どうやら梁皇という名であるらしい。

 彼は先ほど、自陣側に引き上げた山艶の遺体を崖下に蹴り落とし、あまつさえ失言した配下の闘士を一人血祭りにあげている。

 …生きて戻った泊鳳は無事なんだろうか。

 あの様子では、無様に生き恥を晒すくらいなら死ねとか普通に言いそうなんだけどあの男。

 まだ子供だからと大目に見てくれている事を願うばかりだ。あれだけの素質の持ち主だし。

 まあ、そんなことは今はどうでもいい。

 今重要なのはあの男が、三首領と呼ばれる最後の一人という事だ。

 

「ここは、拙者に任せてもらおうか!!

 大往生流の極意、とくと御覧あれ!!」

 そう言って前に進み出たのは、我が男塾きっての博識、三面拳・雷電。

 それが何故か傍に大きな、張りぼてのような球を持ってきており、富樫にこれが何かと問われると、何やら企んだような顔で、それを撫でながらにんまりと笑った。

 

孚孚孚(フフフ)…。」

 その表情に全員が呆気にとられている間に、雷電がその球を縄ばしごの上に置くと、それは横に滑り落ちる事もなく、そのまま闘場へと転がっていった。

 それを確認してから、雷電自身もその後を追うように縄ばしごを降りていく。

『雷電が笑った』と富樫と虎丸は驚いているが、雷電は元々結構気さくで、割とお茶目なところもあるんだけどなぁ。

 見た目は怖いのに性格は可愛い、というギャップが女心を捉えるのか、近隣住民の奥様やおばさま達に、最近密かに評判なのを私は知っている。

 近所のおばあちゃんの荷物持って手を引いて、横断歩道渡ったりしてんの見た事あるし。

 男塾のイメージアップに貢献してくれて、ありがとうございます。

 それはさておき、なので今回のこれは、計算の中にも遊びを入れた何かじゃないかと、勝手に思うんだがどうなんだろう。

 

「どうやらこいつは只事じゃなさそうだぜ。」

「中国拳法最古の歴史を持つ大往生流の奥義を極め、その他あらゆる拳法に精通し、わたし達三面拳を束ねる男、雷電……!!

 あの人の奥の深さは、わたし達にもはかり知れません。」

 彼をよく知る伊達や三面拳の飛燕が、その背中を見送りながら言うのが聞こえ…。

 そして、闘いは始まった。

 

 ☆☆☆

 

「まずは、この目障りな玉からぶった斬ってやろう!!」

 雷電と向き合い、その横の玉に不審な目を向けた梁皇が、背に負った曲刀を抜いてそれに斬りつけてきた。

 だが梁皇の剣は、そこに置かれていただけの張りぼての玉にかすりもせず、刃が地面に叩きつけられる。

 否、それは確かに、剣の切っ先を避けて動いた。

 感覚としては桜の花弁に手を伸ばした時に、その手で動いた空気によって、花弁が指を避けていく動きに似ていただろうか。

 

「いかがした?

 貴公の剣は地にあるものさえ斬れぬのかな?

 それでは拙者と闘う以前の問題でござる。」

 彼にしては珍しく、雷電が敵を挑発する。

 梁皇は小さく息を整えると、玉に向けてもう一度剣を構えた。

 先ほどとは違い、今度は真横に剣を払うも、やはり不発。

 もう一度上段、続けて逆袈裟に、流れるように振るった剣の軌跡が、虚しく空を切る。

 そしてさっきはふわりと移動していたように見えた玉は、今度は鋭く回転して、凄まじいスピードで梁皇の周囲を回り始めた。

 先ほどから、雷電は玉に指一本すら触れてはいない。

 それなのに玉はひとりでに動いて、梁皇を翻弄している。

 

「驚くのはまだ早い。

 これからがその玉の真の意味だ!!」

 雷電がそう言うや否や、玉は唐突に梁皇に向かっていく。

 

「ぬうっ!!」

 上段から振り下ろした梁皇の剣は、先ほどまでとは違い、あっさりと玉を両断した。

 割れた玉から、煙が立ちのぼる。

 それが晴れた時、そこに全員が、信じられないものを見た。

 

「わ、割れた玉の中から、雷電がもうひとり出てきた──っ!!」

 そう。煙の晴れた闘場に今、梁皇の前に、ふたりの雷電が立っていたのだ。

 

「これぞ大往生流極奥義、槃旒双體(はんりゅうそうたい)!!

 これにて、貴殿の大往生間違いなし!!

 さあ、来るがよい、梁皇とやら……!!

 まずは拙者の分身、すなわちこの影が、貴様の相手をしてくれようぞ!!」

 喋っているのは後ろの雷電だから、まず間違いなくこっちが本物なのだろう。

 その声に従って、前にいる雷電が黙ったまま構えを取る。

 

「笑わせるな、影だと……!!

 だが、どんな小細工を弄したところで、この俺をたばかれるか──っ!!」

 苛立った表情で振り回してくる梁皇の剣を、『影』が体術であっさりと躱す。

 あまつさえ彼の額に指を立てて、そこを経由した形で地上に降り立った『影』は、そこで表情を全く変えぬまま、二本指を梁皇に向けて立ててみせた。

 所謂、Vサインというやつだ。

 雷電の顔でこれをやられ、これには味方までもが呆気にとられる。

 いつも無駄に引き締まっている桃のポカン顔が見れたのは貴重な気がするが。

 勝利のサインを向けられた梁皇が、再び『影』に向けて、真横に剣を薙ぐ。

 それを跳躍して躱した『影』は、あろうことかその刃の地の上に、まるで体重を感じさせないふうに、ふわりと降り立った。

 その上でおかしなポーズを取ったと思えば、梁皇に向けたお尻を叩いてみせ、更に振り返って舌を出す。

 

「き、貴様…この俺を愚弄するか──っ!!」

 とうとう梁皇がブチ切れて、人ひとり乗った刀をぶん回すと(恐らく大威震八連制覇の月光の大玉の時と同様、刀の上で静止しているように見えて、体重を感じさせないほど細かく跳ねていたのだろうが)、『影』は初めて梁皇から間合いを大きく離した。

 

「その影は、拙者と違って剽軽者(ひょうきんもの)でな。

 人を怒らす悪いクセがある。」

 あくまで落ち着き払って、本物の雷電が言う言葉に、踊らされたと思ったものか梁皇は一瞬口を噤む。

 まあここまでおちょくられたら普通は怒るから別に恥ずかしい事は無いと思うがね。

 

「わかったぞ!あのもう一人の雷電の正体が!

 ら、雷電には双子の兄弟がいたんだ、それも性格の明るい──っ!」

 自陣では虎丸がしょうもない事を叫び、それに富樫まで同意している。

 それに対して、

 

「そんな事は聞いたことがないし、どう考えてもあり得ない!!」

 と伊達が否定するが…お前も知らんのかい。

 

「…もし三面拳がふたりずつ居たとしたら、伊達は豪学連時代に、この日本を征服できましたね…。」

 思わず私がそう呟くと、影慶に無言で頭をはたかれた。なんでだ。まあそんな事より。

 

「それにしても、並の体術ではない。

 あの梁皇の凄まじい剣さばきを、まるで問題にしないとは!!」

 闘場を見つめながら、桃が息を呑んだように呟くのが聞こえた。

 そう、動き自体は本物の雷電とは明らかに違うが、体術の冴えとその俊敏さは決して負けていない。だが、

 

「素早さだけで、この俺からいつまでも逃げ切れると思うのか!!」

 梁皇はどこからか分銅のついた鎖を取り出すと、それを『影』に向けて投げた。

 それは『影』の脚に絡まり、間髪入れずに梁皇の手に引かれ、バランスを崩してその身が地に落ちる。

 

「もらった──っ!!」

 次の瞬間、振り下ろされた梁皇の曲刀が雷電の…もとい『影』の胴を真っ二つに斬り分けた。

 

「ら、雷電2号が殺られた──っ!!」

 

 

「これで、影とやらは死んだ。

 さあ、次は貴様がああなる番だ!」

「さて、それはどうかな。影は影……!

 湖面に映った月の影が、決して斬れぬのと同じこと……!!」

 謎めいた雷電の言葉と、恐らく気配を感じたのだろう、梁皇は後ろを振り返った。

 

「馬鹿な……!!」

 梁皇は目の前で起こっていることが信じられないと言った目で、それを見つめていた。

 まあ、私たちだって信じられない。

 先ほど胴から真っ二つにされて落ちていた筈の『影』の下半身が、震えながらも自力で立ち上がろうとする姿とか、更に雷電の足元に、それとそっくりな顔をした上半身まで、腰だけで立ち上がって、またもVサインをしている姿とか。

 見ている全員が驚いている間にも、下半身は上半身に向かって歩いていき、ある程度の距離まで近づいたところで、上半身が飛び上がって、下半身の上に着地した。

 服は、切られたところから真っ赤に染まっているが、後は元どおりにくっついているようだ。

 

「ホッホッホ、あれ、よく見れば血じゃありませんねえ。」

「かなり似せて調合してはいるようだがな。

 恐らくは絵の具か塗料の類だろう。

 …無駄に、芸が細かい。」

 無駄言うな。とりあえずあの雷電2号(命名:富樫源次)が、生身の人間じゃないことだけはよくわかった。

 何となく昨日のP・S(ファラオ・スフィンクス)の奴らを思い出してしまうのは私だけだろうか。

 

「…ほう、影め。

 今度は攻撃にうって出るつもりらしい!!」

 無表情ながらも、どこか楽しそうに雷電が言い、それに答えるように『影』が、踊るような動きで構えを取っている。

 …雷電はこの『影』を『剽軽者(ひょうきんもの)』と評したが、私にはどうにも『お調子者』に見える。というか…、

 

「あの動き、なんだかつい最近、似たような感じのものを目にした気がして仕方ないのですが…?」

 なんか妙にノリノリになってきた『影』の動きに、私は妙な既視感を覚えていた。

 

「……俺もだ。まさか、あの『影』とは…」

 私の言葉に影慶がまさかの同意を示し、何か言いかけて口を閉ざす。

 

「影慶には、心当たりがあるのですか?」

「……あるにはあるが、あまりにも突拍子がないので言いたくない。」

 …そんな嫌そうな顔しなくても。

 それ以上聞くことが憚られ、一瞬ディーノと顔を見合わせ、互いに肩をすくめて、改めて闘場に目を戻す。

 私と影慶がそんなやりとりをしている間に、梁皇は先ほど雷電2号をぶった切った己の剣をじっと見つめていた。そして。

 

「フッ。俺としたことが……!!

 読めてきたぞ。そのバケモノの正体が!!」

 何かを見極めた様子で、梁皇がニヤリと笑う。

 それに向かって突進してくる雷電2号の攻撃を避けながら、梁皇は背中から竹筒のようなものを出し、背に回した手のまま中身の液体を地面に撒いた。

 

「その素早さも、もはや通用せん!!」

 ギリギリまで引き寄せて躱した雷電2号の足が、液体で湿った地面を踏む。

 そのタイミングで梁皇は、どこからか取り出したマッチを自身の防具で擦って火をつけると、それを地面に向かって放った。

 液体はどうやら可燃性の油のようなものだったと見え、マッチの火がそれに移って燃え上がる。

 その炎に、雷電2号の動きが一瞬止まった。

 

「やはり、火には怯んだな!!

 いくら修練を積んだとはいえ、畜生の本能までは隠せはせん!!

 これが、貴様の正体だ──っ!!」

 動きの止まった雷電2号を、梁皇の剣が唐竹割りした。

 雷電そっくりの顔の面が、ふたつに割れて地に落ちる。

 着ていた拳法着も真っ二つに裂かれて風で飛び、その下から現れたのは……!

 

「さ、猿!?」

 三匹の猿が肩車をした状態で連なっており、手と足の模型が棒の先についたものを手に持ち、また足に着けていた。

 身長やリーチはこれで補っていたわけか。

 

「な、なに──っ!!あのエテ公どもは──っ!」

 驚く虎丸の声が響いて聞こえてくる。

 

「影慶。あの子達、ひょっとして…!」

「昨日、俺が捕獲しておまえが治療した、あの三匹に間違いなかろう。

 俺も、よもやとは思ったが…!」

「しっかり躾がされているとは思いましたが、まさか雷電が飼い主だったなんて…!」

 私と影慶が驚いていると、横から男爵ディーノが冷静に解説してくる。

 

「正確には予選リーグ決勝の対戦相手であった厳娜亜羅(ガンダーラ)というチームとの闘いで、雷電君が倒した敵が使っていた猿たちです。

 たかが猿と侮るなかれ、あの雷電君があわやというところまで苦しめられたほどの手強い敵でした。」

 予選リーグ決勝戦の相手?

 あの辺りはダイジェスト放送で結果しか聞いていない私では、確かに詳細は掴めていないのだが…なんとはなしに影慶の方に目をやると、私と目があった影慶は小さく首を振った。

 

「影慶様が退場なさってからの話ですから、御存知ないのも仕方ありません。

 もっともわたしとて、彼があの猿どもを手当てしたところまでは見ておりましたけれど、主人を亡くしたあやつらを手懐けていたとは思いませんでした。」

 私たちのそんな無言のやりとりにディーノがフォローを入れてくれる。

 そういえば私が治療してやったあの傷には、手当てされた形跡が確かにあった。

 そして、私たちが見つけた時に若干弱っていたところを見ると、雷電がここまで連れてきたわけではなく、どのような手段でかは知る術も無いが、恐らくは勝手に追いかけて来たのだろう。

 だとしたら、合流したのは昨日の夜か。

 よくあれだけ息が合うよう仕込んだものだ。

 雷電は優しいから、普通に受け入れたのだろうが…彼の足を引っ張る事がなければいいのだが。

 

「今のはほんの挨拶がわり!!

 今度は拙者自らお相手いたす!!」

「この身の程知らずどもが…ひとりと三匹、まとめて地獄へ葬送(おく)ってやろう!」

 ようやく闘う構えを見せる雷電の後ろで、応援するように飛び跳ねる猿たちを一瞥して、梁皇がニヤリと厭な笑みを浮かべた。

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