婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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14・憎みきれないろくでなし

大往生流(だいおうじょうりゅう)鶴足回拳(かくそくかいけん)!!」

 先手を取ったのは雷電だった。

 靴の爪先に仕込んだ刃物を使った蹴り技。

 正直鳳鶴拳(ほうかくけん)とどう違うのか私には判らないという事実は内緒だが、切れのある体術により凄まじい回転を伴う変幻自在のその攻撃を、梁皇は最低限の動きだけで躱す。

 なるほど、確かにたいした手練れだ。

 素早さは泊鳳や山艶の方が優れている気がするが、それは恐らく体格差による違いだろうし、恵まれた体格による膂力などを合わせればそれを補って余りある。

 それでも山艶も背丈はあった方だし、今は小さいが泊鳳もいずれ、あれに近いくらいの体格になるのだろうが。

 

「……滅べ。」

「え?」

「いえ、何でも。」

 …そうこうするうち、雷電が次の攻撃に移る僅かな間を見切り、梁皇は持っていた剣の刃を一旦口に咥えると、次に襲いかかってきた雷電の爪先の刃を、あろうことか両手の人差し指で挟んで止めた。

 

「梁山泊秘伝・指錯刃(しさくじん)!!」

 その指先にどれほどの力が加わっているものか、雷電の足は退こうとしているがそこから動かせずにいる。

 

「これが中国拳法最古の歴史を持つという大往生流か…既に絶えて久しいと思っていたが、こんな古ぼけた流儀を、まだ伝える者がおったとはな。」

 言いながら剣を再び梁皇は手にし、それにより片脚が拘束を解かれた雷電が僅かに身体のバランスを崩した。

 その瞬間をついて、梁皇の剣が閃くが、そこはさすがに雷電、寸でのところで跳躍で躱して、一旦間合いを外す。

 

「貴様ひとり相手に、これ以上関わっている時間はない。

 俺は貴様の仲間全員を、血祭りにあげねばならぬのだ。」

 このままでは同じ展開の繰り返しになると判断したか、梁皇は剣を地面に突き立て、それから手を離した。

 そうして空になった両手を身体の前で交差させ、奇妙な構えを取る。

 

「見せねばなるまい!!

 この梁皇、最大の必殺技を!!

 梁山泊秘奥義・枯渇噴血霰(こかつふんけつせん)!!」

 梁皇はその奇妙な構えから両手を広げたようにしか見えなかったが、瞬間何かを感じたのか、雷電はその場から一旦跳躍した。

 にもかかわらず一拍より後、雷電の右腕の上腕が、噴水の如く多量の血液を噴き上げる。

 

「ぬぐぐっ、こ、これは……!?」

「フフッ、無駄だ。

 いくら止血しようとも、その流れ出る血を止めることは出来ん!!

 貴様は体中の血を一滴残らず流し尽くし、ミイラのようになって死んでいくのよ!!」

「な、なに……!!」

 梁皇の言葉通り、手で抑えても止まらない出血が、雷電の顔色を見る間に消していった。

 

 ・・・

 

「暗器…ですかね。投擲型の。

 投げ打つ瞬間目に止まらぬくらい小さいか、細いもの…?」

「…或いは、動いている間は見えなくなる、透明な武器か、だな。」

「ああ、あなたの恟透翼(きょうとうよく)のような。」

「どちらにしろ、雷電君のあの出血は異常です。

 見えない理由はさておき、特殊な暗器であることは間違いないでしょう。」

 私と影慶、男爵ディーノが、それぞれの意見を述べる。

 と、まるでそれを聞いてでもいたようなタイミングで、

 

「…針みてえなモンを投げてやがるな。

 それで、どうしてああなるかまでは判らねえが。」

 という赤石の呟く声を集音マイクが拾い、思わず3人で顔を見合わせた。

 あの人、拳銃の弾道すら見切る男ですから。

 てゆーか、重傷で手当てされてた筈がいつ戻ってきたんだ。

 

 ・・・

 

 同じ構えから更に二撃、見えない攻撃を受けた雷電の左肩と左大腿から、やはり同じように血が噴き出る。

 

「知っておろう、人は全身の1/3の血液を失えば死に至るということを!!

 意識も既に朦朧としてきただろう。

 貴様の運命は早くも決まったのだ!!」

 …それは恐らくは最後の攻撃にするつもりで放ったのであろう、その梁皇の枯渇噴血霰(こかつふんけつせん)という技、しかし受けたのは雷電ではなかった。

 

「なっ!!」

 目には見えない攻撃から、雷電の身体を覆うようにして庇い、代わりにその身に受けたのは3匹の猿たち。

 

「は、馬鹿な…!!

 その気持ちは嬉しいが、い、一度だけの攻撃を躱したところで………っ!?」

 身体のあちこちから血を吹き出して地に落ちる猿たちを悲しげに見下ろした雷電の、震える声が途中で止まる。

 猿たちはただ倒れ伏してはいなかった。

 1匹がどこから持ってきたものかは知らないが短刀を手にしており、それを未だ出血の止まらぬ己の傷に突き刺して、傷を広げているように見える。

 ひょっとして身体に突き刺さっている暗器を取り出そうというのだろうか。

 更に別の1匹がその傷を覗き込んで何かしたようだったが、それ以上の事はこの距離と、雷電の身体の陰になった事で見て取る事は出来なかった。

 

「随分と忠義な子分を持ったものだな。

 これでその猿どもを殺す手間が省けたというものよ。」

 今度こそ邪魔するものもなくとどめを刺そうと、またも梁皇が技の構えを取る。

 

「貴様等の命を賭した行為を無駄にはせん!!」

 どうやら猿たちから受け取っていたらしい短刀を、雷電が梁皇に向けて投げ放ち、それを梁皇が避けた隙をついて、雷電の手刀が襲いかかった。

 だがそれは咄嗟に躱した梁皇の行動により空を切り、バランスを崩した雷電の身体が無様に地面に転がる。

 やはり出血によるダメージが大きいのだろう。

 先ほどの攻撃は、通常時の半分のスピードも出ていなかった。

 

「この期に及んで、まだ悪あがきなどを!!」

 立ち上がることさえままならない雷電に向けて、もう一度梁皇の腕が例の構えを見せる。

 だが、次にはその手が、何かを探すように腰のあたりを彷徨った。

 

「さ、探しているものはこれか……!?」

 未だ膝をついたまま、雷電が掲げた手には、何やら筒のようなものが握られている。

 その筒から、雷電の顔に似合わぬ繊細な指が、何やら取り出したものは最初、私たちの目には見えなかった。

 だが次の瞬間それは陽の光を受けてキラッと輝き、透き通る針のような形状のものと知れる。

 

「これが、枯渇噴血霰(こかつふんけつせん)の秘密よ!!

 中国医療で用いる噴血針(ふんけつしん)………!!

 透き通るガラスで作られたこれを、目にもとまらぬ速さで投げていたというわけよ。」

 

噴血針(ふんけつしん)

 古代中国医術で用いられた医療器具。

 これを体内に打ち込み、血液のもつ浸透圧の差を利用することにより、体内に溜まっている悪い血や膿を、体外に排出させる。

 すなわち現代医学でいうタンジェリン・カテーテルである。

 数千年もの昔にこのような現代最先端の医療原理が存在した事は驚嘆のほかはない。

民明書房刊「中国古代吃驚医学大鑑」より

 

「猿は、人の10倍もの動体視力をもつという。

 なればこそ、貴様の枯渇噴血霰(こかつふんけつせん)の正体を見抜くことが出来たのだ。」

 言った雷電の手から、その噴血針(ふんけつしん)の筒が地面へと落ちる。

 それを奪われた梁皇の手が、傍の地面に突き刺した剣へと伸びた。

 

「クックックッ、小賢しい猿どもよ。

 ならばこの剣で、素っ首落としてくれるまで!!」

 言葉だけは余裕の体を装いながら、表情が伴わない様子で躍りかかる梁皇へ、雷電が何かを投げ打つ動きをとる。

 

「なっ!!」

「捨てたのは筒だけだ……!

 い、いかがかな。己の技の切れ味は……!!」

 次の瞬間、梁皇の身体から噴水のように血が噴き出る。

 雷電が投げたのは、先ほど梁皇から奪い取った噴血針(ふんけつしん)だった。

 

「き、貴様、味なマネを……!!」

 己の用いた武器をその身に受けて、梁皇が苦痛に顔を歪ませる。

 暗器を用いる技とはいえ、道具さえあれば簡単に模倣ができるというものではない。

 その細くて軽い針を、投擲して相手の身体に打ち込むには、それ相応の高い技量が必要となる。

 とりあえず自陣の後ろの方で、息を呑んだような顔で闘場を見つめている美人さんなんかはそれの専門家な訳だが、もしかすると雷電も鶴嘴は使えるのかもしれない。

 まあそんな事は今はどうでもいいか。

 相手にようやくダメージを与えたとはいえ、雷電も猿たちも重傷である事は間違いない。

 これで勝負は振り出しに戻ったというところか。

 

「だ、だがこの程度のことで、俺を倒すことは出来ん!」

 梁皇が、未だ血を噴き出す受けたばかりの傷口に、手にした剣の切っ先を当てる。

 先ほど猿たちがやっていたように、傷口を敢えて広げてそこから噴血針(ふんけつしん)を摘出するようだ。

 見た感じ胸とか腹とかにも刺さっていてかなり勇気がいる行動だが、まあ背に腹は代えられないのだろう。

 苦痛を表情に浮かべながらそれを行う梁皇が、ふと目をやった雷電に問う。

 

「…どうした?貴様は体内に埋まった噴血針(ふんけつしん)を取らぬのか?

 それとももはや、その気力さえ失せたか!!」

「…それは要らぬ世話というもの。」

 …うん。梁皇が気づいているかどうかわからないが、雷電の身体からは、先ほどまでの吹き出すような出血は収まっているようだ。

 止血しても止められないと、技を放った本人が言っていた筈なのに。

 

「…確か三面拳は全員、己の肉体を不随意筋から血流に至るまで、自在に操る事が可能でしたよね?」

「そうですね…雷電君はあの猿たちの主人と戦った時、あの髭も動かして攻撃手段としていましたし。」

「あ、それこの大武會より前に、塾で見せてくれたことあります。

 変わった特技だなぁと思って見ていました。」

「待て。人体の構造を知り尽くしたおまえが、それを『変わった特技』で片付けたのか!?」

 毒手に言われたくない。

 

 …さて、闘場の上では梁皇が噴血針(ふんけつしん)をすべて取り除いたタイミングで、雷電が再び構えを取る。

 

「さあ、来るがよい!!」

「…ここまでこの俺を熱くさせたのは貴様が初めてよ、雷電……!!」

 まるで愛の告白のような台詞を吐きながら、それには全く似つかわしくない悪人顔で、梁皇は手にした剣に舌を這わせた。

 改めて構え直したそれを振りかざし、雷電へと躍りかかる。

 確かに手負いとは思えぬほど鋭い斬撃ではあるが、この2倍以上の重さと長さのある刀を自在に振り回している赤石の方が、今のこの男よりスピードは優っていると思う。

 案の定、雷電の体術はそんなものを問題にせず、余裕でその攻撃を躱す。

 そういえば以前Jが、敵として相対した時の雷電の体捌きは、まるで舞い散る桜の花弁のようだったと言っていたっけ。

 

「見せてくれよう。

 大往生流殺体術の秘技……!!」

 一瞬動きの止まった雷電の頭上から、逆上する梁皇の刃が振り下ろされ、雷電はそれを両掌で挟んで止めた。

 先ほど鶴足回拳(かくそくかいけん)を受け止められた時と同様、梁皇が引こうとした剣はそのまま固定され、恐らくは梁皇が剣から手を離さぬ限りその距離は離れない。

 

「これが大往生流秘技だと……!!

 笑わせるな、何かと思えばただの真剣白刃取り。

 これがなんだというのだ。」

「大往生流殺体術の妙は、勁の呼吸法により、己の筋肉を意のままにすることにあり!!」

 一瞬、刃を受け止めたままの体勢の雷電の全身に、氣が満ちるのがわかった。

 気合の声を発すると同時に筋肉が一瞬にして膨れ上がるのが、ゆったりとした拳法着の上からでも、はっきりと見て取れる。そして。

 

「大往生流秘奥義・脹隴筋弾(ちょうりょうきんだん)!!」

 その筋肉に弾かれて、今の今まで突き刺さっていた例の噴血針(ふんけつしん)が、すべて雷電の身体から飛び出したと同時に、真正面に立っていた梁皇の身体を貫いた。

 

「ぐわっ!!」

 例によって例の如く、その傷口から血が噴き出す。

 それを押さえて立ち上がろうとする梁皇に、雷電の鋭い蹴りが飛んだ。

 

「観念されい!!

 もはや貴様には大往生あるのみ!!」

「どうやら貴様の力を侮っていたようだ。

 だ、だが俺は、貴様の弱点も見抜いておる!!」

 大量の出血と雷電の攻撃に、どうやらまともに立っている事もままならず、息を乱しながら梁皇が、腰のマントからの分銅鎖?のようなものを取り出す。

 まだ攻撃を続けるつもりなのか、と思った刹那、梁皇がそれを投げ放ったのは雷電ではなく、3匹の猿たちだった。

 それは一瞬にして猿たちを捕らえ、ひとまとめにして拘束する。

 

「キイッ!?」

 よく躾けられた賢い猿たちだった筈だが、この状況で自分たちに攻撃が来るとは思っていなかったのだろう。

 あっさり捕らえられた3匹は、悲鳴をあげながらも抵抗もできず、闘場の外の濁流に放り込まれた。

 

「なっ!!」

 激しい水の流れは猿たちの小さな体を押し流そうとするが、それは辛うじてその身を縛る鎖によって止められており、その端は梁皇の手が握っている。

 

「き、貴様!なにを──っ!!」

「動くなっ!!

 俺がこの手を離せば、この三匹は瞬時に激流にのまれ、あの世へ直行することになる!」

 その梁皇の言葉に、雷電の動きが止まった。

 

「馬鹿か、奴は──っ!!

 そんなエテ公どもがどうなろうと知ったこっちゃねえや!!」

 自陣から囃し立てる虎丸や富樫の声に、一応はそうだろうと納得する。

 普通はそう考えるし、そうでなくてはいけない。

 

『獣の群れのリーダーとなったからには、こ奴らと対等であってはいかんのじゃ。

 時には非情に徹して、数頭の仲間を切り捨てても、己は生き延びにゃあならん。

 それがひいては、群れ全体を生き残らせる結果に繋がるんじゃからのう。

 強いリーダーとはそういうもんじゃ。

 それが頂点に立った者の責任ちゅうやつでな。』

 

 以前、この島へ修業に来ていた時に、私を可愛がってくれていた狼使いの男が、そう言っていたのを思い出す。

 例えば、昨日の伊達が戦ったあのカラス使い。

 あの男は伊達に全滅させられそうになったカラス達の姿に涙すら見せたが、その前に数羽が伊達の槍にかかった時にはそれほどの感情を見せなかった筈だ。

 あの男もきっと、それをわかっていた。

 つまりは、そういう事。

 そうでなくては、いけない。

 

 

 けど。

 

「ち、違う…雷電という男は、そういう男ではない……!!」

 桃が呟く言葉が聞こえて、きっとそうなのだと思ってしまう。

 たとえそれが正しくても、雷電はそれを決断できない。

 その優しさが彼の強さであり、同時に弱さでもある。

 

「いくら貴様がこの窮地から、反撃の隙を見つけようとしても無駄なこと。

 それより早く、俺はこの命綱を離す!!」

 梁皇が自身の身体から摘出した噴血針(ふんけつしん)を拾い集めて構える。

 その指先からそれが放たれても、雷電は身動きひとつ出来ずに、まともに身体で受けるしかない。

 

「フフッ…そうだ。貴様はそういう男だ。

 安心しろ。貴様さえ倒せば、あの三匹の命は保証しよう。」

「その言葉、よもや二言はあるまいな……!!」

「ああ!!」

 もはや首領の器の欠片さえ見えなくなった梁皇が、大嘘と書かれた顔で雷電に頷く。

 気が晴れてきたと言いながらもまだ投げ打たれる噴血針(ふんけつしん)が、残り少ない雷電の血を身体から奪っていく。

 反撃して戦えとかけられる自陣からの声に、雷電は首を横に振った。

 

「お、男と男の信義でござる…!!

 こ、これを違えるわけにはいかぬ……!!」

 

 

 …どうやら敵であった猿の元の主人から、あの3匹を託された、ということだったらしい。

 それにしても、敵を信じ過ぎだ。

 この梁皇という男、絶対に約束を守る気なんかないと断言できる。

 つまり、雷電が死んでしまえば、もう猿たちは助からない。

 それでも雷電にとってはその信義が、己の命よりも重いというのか。

 

「光!治療が連続しているが、氣の量に不安はないか!?」

 …私の両側では男たちが、それぞれに投網の準備をしている。

 

「大威震八連制覇の時、あの1日で何人治療したと思ってるんですか?

 邪鬼様のお陰で、今はあの時よりも総量が増えています。

 この程度、なんて事ありません!」

 今ここで闘い、或いは救わんとしている男達。

 それぞれに命を賭けている、それに比べたら。

 

「おのおのがた…あ、あとをお任せ申す……!

 こ、この畜生鬼、必ずや……!!」

 もはや力も尽きかけて、いくら雷電といえども、己の血流を操る技も使えないのだろう。

 覚悟を決めたような言葉を発したのが聞こえて、私の隣の男達の緊張が高まる。

 

「死ねい──っ!!」

 とどめの一閃がひらめくと同時に、雷電の身体が軽々と、激流の中へ落ちた。

 

「ら、雷電──っ!!」

 

 

「甘い奴よ。

 あれほどの腕を持っていながら……!!」

 濁流に流され飲み込まれていく雷電を一瞥し、フンと鼻で笑いながら梁皇は、掴んでいた鎖から手を離した。

 

 ☆☆☆

 

「まったく…何をしてるんでしょう、この人は。」

 助け上げられた雷電の身体はすっかり血の気を失っていた。

 まずは、全身にあけられた穴という穴をひとつひとつ確認しながら、要所に氣の針を撃ち込む。

 傷口から噴血針(ふんけつしん)がひとりでに抜けて、更に傷がみるみる塞がっていく様子を見て、まだ彼が生きている事に安堵したら、つい愚痴のような言葉が出てしまった。

 

「そう言うな。この男なりの矜持の問題だ。」

 そんな私を宥めるように影慶がかけてくれた言葉も、私を納得させてはくれなかった。

 

「男のプライドとか信義とかクソくらえです!

 私には雷電の命の方が大切ですから!!」

 最後に造血の処置を終えて、身体がこれ以上冷えないように巻きつけた毛布の上から、私は雷電の身体をぎゅっと抱きしめた。

 猿たちを引き上げてきた男爵ディーノが、そんな私と影慶に交互に目を向けたあと、意味ありげににんまり笑っていたのは見なかった事にする。

 

 ☆☆☆

 

「なんて奴だ…!

 雷電が命と引きかえに守った猿どもを!!」

「奴に人の血は通っちゃあいねえ……!!

 俺が、最も相応しい死を与えてやる!!」

 激昂のあまり泣き叫ぶ富樫や虎丸よりも、もっと激しい怒りの感情を全身から氣として漲らせながら、三面拳を率いる男・伊達臣人が一歩前へと踏み出した。

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