婀嗟烬我愛瑠〜assassin girl〜   作:大岡 ひじき

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15・星空に手を伸ばせばカシオペアさえも掴めた

 雷電の身体に造血処置を施して、ようやく安心したところで闘場に目を向けると、縄ばしごを降り切った伊達が、梁皇と向き合っているところだった。

 

「おまえか、次の獲物は!!

 まずは、名を聞いておこうか!!」

「貴様の様な外道に、聞かせる名はもたぬ!!

 貴様は死ぬしかないのだ!」

 …梁皇に向かって槍を構える伊達の、怖いくらいの怒気がこちらにまで伝わってくる。

 対峙している梁皇がそれに気付かぬ筈はないのだが、雷電を倒した事で気が大きくなっているのだろう、全く動じた様子もなく、その伊達に向かって剣を構えた。

 

「俺に大口を叩くと後悔することになる。

 おまえも、雷電とかいう男の二の舞よ!!」

 その瞬間、伊達の裡から滲み出していた闘気が、一気に膨れ上がった。

 

 ☆☆☆

 

 不意に息苦しさを覚えて、私は思わずその場にしゃがみ込んだ。

 

「…光君?どうされました!?」

「だ…大丈夫です。ただ、ちょっと…」

 自身の状態を説明しようとして上げた頭の上に、ぽんと温かい手が乗せられる。

 

「…伊達の『闘氣』にあてられたな。

 邪鬼様を初めて見た時、俺も同じような状態になった。

 抵抗せず氣を合わせろ。できるな?」

「はい…ただ、伊達の氣は若干、私と相性が合わなそうです。

 …少し、分けてください。中和します。」

 返事も聞かないうちに頭の上の影慶の左手を右手で取って、それに掌を合わせて指を絡め、彼の鳩尾に左の掌を当てる。

 その身体の中心に意識を集中させ、影慶の氣を外から操作して、ほんの少しだけ、左手の方向に流し込んだ。

 合わせた掌から、影慶の力強い、それでいて穏やかな氣が、私に流れ込む。

 散々触れていた時に思っていた事だが、影慶の氣は、実は少し桃とタイプが似ている。

 大威震八連制覇最終闘で赤石にこれをやった時、赤石の氣は私に少し抵抗したが、影慶のそれは素直に私の氣と馴染むようだ。

 それと同時に、伊達の突き刺すような闘氣を自身の氣の流れに合わせると、急に身体が楽になった。

 

「…もう大丈夫です。

 ありがとうございます、影慶。」

 お礼を言いながら、影慶の身体から手を離す。

 瞬間、影慶の口から、は、と息が漏れた。

 それほど量を取っていないから身体に影響はない筈だが…。

 

「……光。これは、男にはやらん方がいい。」

 何故か少し言いにくそうに、影慶がそんな言葉を口にした。

 何故だろう、少し視線が泳いでいる。

 そういえば大威震八連制覇の時、赤石に氣を分けてもらった時にも、彼に微妙な顔をされたが。

 しかしそれは困る。

 環境的に私の周囲には男性しかいないのだが、もし氣が足りなくなってすぐに調達しなければならない時はどうしたらいいのだろう。

 

 ・・・

 

「…影慶様?」

「何も聞くな……男として、何か大切なものを失った気がする。」

「はぁ???」

 

 ☆☆☆

 

「あの人が、あんなにも感情を露わにするとは…!!

 まるで全身から、復讐の炎が立ちのぼっているような……!!」

 闘場を見下ろして飛燕が息を呑む。

 伊達は、己が懐に入ってきた者に対しての情は深い。

 まして三面拳は伊達に最も近い存在で、肉親よりもその絆は濃いのだと以前言っていた。

 そもそも雷電って、意外なんだけど気がついたら、話をしている相手の警戒心を解いちゃってるようなところがあるし。

 初見では恐ろしい男のように見えても、その人となりを知れば、誰もが雷電を好きになる。

 ずっと近くにいる伊達など言わずもがな。

 彼を失ったと思っている今、その怒りと悲しみは、私達の想像を絶するものだろう。

 それ故の、私が息を詰まらせたほどの闘氣であろうし、それが証拠に全力で踊りかかってくる梁皇の剣など、まるで子供扱いにして余裕で捌いている。

 その事にすぐに気がついたのだろう、互いの距離が詰まった瞬間、梁皇が不自然な動きを見せる。

 

「くらえっ!!梁山泊奥義・髪針斃射(はっしんへいしゃ)!」

 それはどうやら髪に仕込んでいた無数の針を、伊達の顔面に向けて発射したものであったらしい。

 だが伊達は表情ひとつ変えず、槍をくるりと回転させただけで、それを全て凌いで見せる。

 

「こんな小細工が俺に通用すると思うのか!!」

 …うん、しょぼい。しょぼすぎる。

 なんというかこの男、さっきの枯渇噴血霰にしてもそうだが、タネがわかってしまえば対策のしようがいくらでもある、小手先の技ばかり先行している気がする。

 雷電と闘っていた時の体捌きは見事だったし、身体能力的にも恵まれているだろうに、何故それを生かす方向に技を極めなかったのか。

 実に勿体無い。

 あと梁山泊奥義、ピンキリ過ぎ。

 

「覇極流奥義・千峰塵(ちほうじん)!!」

 と、今度は伊達が攻撃に移る。

 目にも留まらぬ無数の突きが梁皇に向けて放たれ、梁皇は跳躍でそれを躱した。

 …躱した、つもりだったろう。

 だが一旦の間合いを取った位置に着地した梁皇の胸の防具には、無数の小さな穴が空けられており…その穴は、ある三文字の漢字を形作っていた。

 

 “ 大 往 生 ”

 

「それが雷電の意志だ。ただでは殺さん!!

 貴様にも、雷電の苦しみを味わせてやろう!!」

 胸に描かれるその明晰な文字は、本気であればそのまま、その胸を貫けたという事。

 

「馬鹿な奴よ。

 唯一のチャンスを、小手先の技をひけらかす為に逃すとは……!!」

 小手先の技って、こいつにだけは言われたくないと思うのだが、伊達にしてみればそれこそが、この男に対する皮肉なのだろう。

 

 …でも皮肉って、相手に通じなければ意味ないんだよ!

 多分伊達も、すぐにそれに気付いたのだろう。

 …だからきっと、もっと明確な形で、その底意地の悪さを発揮する事にしたのだろうし。

 

「……ならば、これがおまえに受けられるか!!

 覇極流奥義・無限(むげん)追顕槍(ついけんそう)!!」

 伊達は長い脚を伸ばして上げ上半身を捻った、まるで野球の投球フォームのような体勢から、手にした槍を全力で投げ放った。

 見事にパワーもスピードも乗った槍の勢いは凄まじいが、その直線的な動きを、梁皇は難なく躱す。

 

「なにが無限(むげん)追顕槍(ついけんそう)だ〜〜っ!!

 唯一の武器を放ってしまってどうするつもりだ──っ!!」

 バカ笑いしながら、改めて剣を向ける梁皇に、伊達は表情を変えずに言い放った。

 

「……読んで字の如し。

 その槍は、地獄の果てまで獲物を追いつめる!!」

 恐らくは風を切る音を耳にして、反射的に振り返ったのだろう。

 その梁皇の目にしたものは、完全に躱したと思っていた槍の穂先が、伊達の手から離れてもなお、自身に向かってくる光景だった。

 

「な、なに──っ!!

 こ、これは一体──ーっ!!」

 

 ・・・

 

「…投げた瞬間と違って、あの程度のスピードならば、たとえ身体に当たったところで、防具に阻まれる気がします。」

「それにすら気がつかないほどに、あり得ない事に動揺しているのだろう。

 そもそも伊達と対峙した時から、平静を装ってはいるが、実力の差はひしひしと感じていよう。」

「…それにしても、やり口が実に伊達君らしいといいますか…彼と一度戦ったことがあるわたしとしては、あの梁皇という男につくづく同情します。」

「言いたいこと、わかります…ほんと、底意地悪いですよね、あのひと…!」

 

 ・・・

 

 どの方向に躱しても、槍の穂先が自身の方向に向かってくるその不可思議な現象に、身体能力だけで身を躱し続けながらも、梁皇は半ばパニックに陥っていた。

 槍を放った伊達はそれを、腕組んで眺めているだけだ。

 

「し、信じられねえ!!

 ありゃあどうなってんじゃ──っ!」

「伊達の投げた槍が、まるで意志をもっているかのように、どこまでも梁皇の野郎を追い回している〜〜っ!!」

 実況、解説は虎丸さんと富樫さん。その横で、

 

「…追いつめられた獲物は恐怖が恐怖を呼び、冷静な判断力を欠く!!」

 と桃が呟いたところを見ると、彼にはもうこの状況が判っているらしい。

 もう少し楽しむのかと思っていたが、伊達は徐ろに足元から石を拾うと、梁皇に向かって投げつける。

 それは容易く梁皇の足に当たり、それによりバランスを崩した梁皇は、無様に背中から地面へ倒れ込んだ。

 無防備になった真正面に、飛んでくる槍の穂先が迫る。

 それに対して梁皇は、明らかな恐怖の叫び声をあげた。

 

「ヒイイ──ッ!!」

 だが、槍はその目前で動きを止め、重力をようやく思い出したように地に落ちる。

 なにが起きたか判らず呆然と、地面にへたり込んでいる梁皇に伊達は歩み寄ると、その足元に落ちた槍を拾いながら言葉をかけた。

 

「まだ判らぬか!?よく見ろ!!

 この穂先には、細い鋼線がついている。」

 こちらからでははっきり見えないが、伊達の手がなにかを引く動きをする。

 その動きに伴って、梁皇の襟元から、大きめの釣り針のようなものが、伊達の手元に引き寄せられるのが辛うじて見えた。

 

「そしてこの鋼線は、貴様の体に結ばれていた。

 貴様はそれに気づかず、槍がひとりでに追いかけてくるものと思い込み、逃げ回っていただけのことよ!!」

 …止まっていると判らないが、梁皇ががむしゃらに動き回っている時には、時々キラッと光を反射していたので、注意して見ていればすぐに気がついただろう。

 タネがわかってしまえばなんて事のない、小手先の技。

 散々自身が弄してきたのと変わらないそれに翻弄された梁皇は、状況が判った途端ブチ切れた。

 真正面から伊達に向かって斬りかかっていくも、冷静さを失っている事に関しては槍から逃げ回っていた時と変わらず、私が見ても隙だらけだ。

 そこに伊達が無造作に突き出した槍の穂先が、梁皇のお団子に纏めた髪に突き刺さる。

 

「…少しは感じてきたか、死への恐怖!!」

 伊達という男の元々の底意地の悪さもあろうが、こうしてじわじわ追いつめるのは、雷電が受けた苦痛を思ってのことなのか。

 

「そろそろ覚悟を決めるがよい!!」

「待ってくれ!!

 ま、負けを認めよう!!だが、その前に……!!」

 だが、こうして結果が明らかな勝負を引き延ばした事は、この男に対して得策とは言えなかった。

 命乞いをしながら梁皇が背中に右手を回した直後、轟音と共に伊達の左肩から血が飛沫(しぶ)く。

 

「!!」

 その衝撃と苦痛に、伊達の身体が揺らいだ。

 例の噴血針がまだ残っていたのかと思ったが、今の伊達の出血の仕方はそれとは違う。

 

「フッ。雷電との勝負でなにを見ていた。

 この梁皇、勝つためには手段は選ばぬ。

 これが俺の、最後の切り札よ。」

 そう言って梁皇が右手で差し上げたのは、大ぶりの拳銃のような武器。

 

「無論、この大武會において銃器の使用は禁じられているが、そんな事は関係ない。」

 いや関係あるわ!

 禁則事項が破られたと同時に無効試合か反則負けだから!!

 もはや彼にとっての最重要事項はこの大会での勝利ではなく、この死闘を制する事に目的がすり替わっている。

 それだけ追いつめられているという事だろう。

 恐らくは…ここで生き残ったとしても梁皇は、この先己の率いる梁山泊での、その立場が危うくなる事となろう。

 現時点で、末弟の泊鳳が生きているのだから余計に。

 何せ、梁山泊というその名に誇りを持つ彼らは、それを汚す行いを許さない。

 それは卍丸の師の仇と言っていた、頭傑という男の最期を考えてもわかる事だ。

 あちら側から矢が飛んでこないのは、ひとえに彼がまだ現時点では首領であるから、というだけの理由でしかない。

 梁皇がこれまで通り首領としてあり続ける為には、まずこの場を生きて切り抜けるのは勿論のこと、自身に刃向かうことへの恐怖を、この戦いで下の者に見せつける事が唯一の道なのだろう。

 それさえ薄い線なのだが、なりふり構ってはいられないという事に違いない。

 

「どうやら貴様の根性は、ゴミよりも腐っているようだな。」

「なんとでも言うがいい。」

 伊達の言葉に梁皇は眉ひとつ動かさず、構えた拳銃の引金を引く。

 弾丸は今度は脇腹を掠め、伊達の身体が地に落ちた。

 

「言い残すことがあれば聞いておいてやろう。

 今までのはカスリ傷で済ませたが、次は貴様の額をぶち抜いて、この勝負に幕を引く!!」

 だが伊達は槍を支えに立ち上がり、まだ戦う意志を見せる。

 

「無理だ。貴様に俺を倒すことは出来ん!!」

 言うや、下から上へ斬り上げるように振り上げた槍は、やはりダメージが大きいのかいつもの速度が見られずに、梁皇は余裕で跳躍して躱した。

 

「フッ、まだそんな悪あがきを。」

 間合いを離して着地する梁皇が嗤う、が。

 

「…なんだ、いきなり背を見せて!!」

 そう、伊達は先ほどの攻撃を最後に槍を引いて、梁皇に背を向けて歩き出していた。

 

「…勝負はついた。

 貴様のような奴の死に様など見たくはない!!」

 その伊達の背に躊躇うことなく拳銃を向けた梁皇が、ふと伊達の槍に目をやる。

 そこに当然あるはずのものがない事に、彼はようやく気付いたようだ。

 

「貴様…その槍の穂先は!?」

 そう、今、伊達が握っているのは柄のみ、この状態ではただの棒だ。

 

「言ったはずだ。

 俺の槍は、貴様を地獄へ追いつめるとな!」

 伊達が無造作に左手で上を指差す。

 その方向を多分反射的に見上げた梁皇が、落下してくる穂先に気付いた時には、その切っ先が彼の額を貫いていた。

 …先ほど彼自身が、伊達に宣言した終わりの通りに。

 

「外道には、そんな死がふさわしい!!」

 その光景を振り返って確認すらせず、伊達は自陣へと歩を進めた。

 あ、穂先回収しないんだ…。

 

 ・・・

 

「た、たいした奴等ですわい…。」

 梁山泊の陣では件の老人が、どこか呆れたような声でそう呟いていた。

 その横に立つ若き首領は、相当なダメージを受けていた筈だが、ちゃんと適切な手当をされたようで、その立ち姿に危なげがない。

 

「ああ。完膚なきまでの敗北だ。

 だが奴等に負けたのなら悔いはねえずら。」

 その小さな首領の言葉に、その背を守るように立つ弓を持った大男も、微かに頷いたように見えた。

 

「…おーい!

 貴様達の勝利を祈っておるぞ──っ!!

 必ず決勝戦に勝って、この大武會の覇者となるずら──っ!!」

 この先、たった1人で梁山泊を立て直す事になるであろう若き将は、今だけは少年の顔で、先ほどまで戦っていた相手のいる向かい側の陣に向かって声を張り上げた。

 

 ☆☆☆

 

 未だ目を覚まさない雷電を連れていくわけにもいかないので、昨日の飛燕と同様に、簡易テントを組んでそこに彼を寝かせておく事にした。

 ディーノに雷電をみていてもらい、骨組の材料として手頃な木を伐採する影慶を手伝っていたら、ちょっと嫌なものを見つけてしまった。

 思わず影慶に駆け寄ってしがみつく。

 

「…ん?どうした?」

 口で説明したくなくて、そちらの方向を指差すと、ああ、と影慶が頷いて、そしてどこか痛いような表情を浮かべた。

 

「…あれは、羅刹と闘った、確か山艶とかいう三首領のひとりだったな。」

 どうやら梁山泊側の陣に随分と近づいていたようで、確か兄弟である梁皇に蹴り落とされていた山艶の死体が、密集した木々の枝に引っかかっている。

 

「…このような場所に落とされ、その死を穢されるとは、敵だったとはいえ哀れなことだ。

 見つけてしまったのも何かの巡り合わせだ。

 せめてもの情け、手厚く葬ってやろう。」

 放っておいても誰も咎めはしないだろうに、影慶はやはり優しい。

 先日、宝竜黒蓮珠(ぽーろんこくれんじゅ)の副頭のひとりを手にかけて以来、私はどうも人間の死の感触が気持ち悪い。

 これまで数限りない死体の山を築いて生きてきたくせにと思うけど。

 だから、影慶がその死体を木の枝から下ろすのを、少し離れたところから見守る。と、

 

「むっ?」

「……どうかしました?」

 山艶の死体を地面に下ろした影慶は、少しの間それをじっと見つめていた。

 その顔が、ゆっくりと上がって、私を見る。

 

「…光。この男、まだ生きている。」

「ええっ!?」

 影慶の言葉に驚き、あまり考える事なく側に駆け寄る。

 その傍に跪き、全身の状態を確認してから、五指に氣の針を溜めた。

 

「…どうするつもりだ?」

「私ひとりなら見捨てていくところですが、そうするとあなたが気に病むのでしょう?」

 羅刹の腕に貫かれた腹部の傷を治療するのみにして、全身の擦過傷は無視しよう。

 何せ私はこの後、その羅刹を含めた仲間達の治療をしなければならない。

 氣の針を、対応するツボに撃ち込んでやると、血まみれの破れた衣の下で、抉られた傷を補うようにもこもこと肉が盛り上がって、傷を塞いだ。

 もう大丈夫だ。

 

「…これでよし、と。」

 ふう、と息を吐いて山艶から手を離すと、その手を何故か、影慶が取った。

 

「…ありがとう、光。」

 その言葉と行動の意味がわからず、問いかける。

「…何故、礼など?」

「おまえは今、俺の心を慮ってくれた。

 その事に対する礼だ。」

 こつん、と影慶の額が、私のそれに当てられた。

 いや、熱はありませんが…そういうことではないか。

 

 ・・・

 

「…ま、待て……!」

「…っ!?」

 ここから先の責任までは取れないと、治療を終えた山艶を置いて立ち去ろうとしたら、背中に声がかけられる。

 振り返ると、まだ傷のあった場所が動くと少し痛むのだろう、眉間に皺を寄せた山艶が、こちらを睨むように見据えていた。

 その視線から私を守るように、影慶が私と山艶の間に、さりげなく移動する。

 

「何故…俺を助ける……!?」

 …うん、やっぱりこの男、こっちの口調が素のようだ。

 それはともかく、返事をする義務などないが、気付けば口から言葉が出ていた。

 

「助けた理由というのならば、特にありません。

 けど、助けない理由もありません。

 命を拾った事に、なんらかの理由が欲しいのだとしたら、それはあなた自身が見つけるものであって、私が教えてやれる事ではないと思います。」

 言って、そのまま立ち去ろうとし…少し考えて、立ち止まる。

 そして振り返らずに、心に浮かんだ言葉を口にした。

 

「…強いて言うなら、あなた達梁山泊は、これから、嵐の時代に入るでしょう。

 元通りに立て直すには、時間がかかる。

 あなたの弟は、いずれはそれを成し遂げるでしょうが、今のあの子はやはりまだ幼い。

 支えてあげられる存在が必要です。

 …何より、あなたが生きて戻れば、彼は素直に喜ぶと思いますよ。」

 

 …こんな事を言ってしまったのは、やはり泊鳳の立ち位置が豪毅と重なったからだろう。

 …憎まれているだろう事はわかっている、けど。

 

 

 

 

 今、なんだか無性に、豪くんに会いたい。

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